I.実施計画に基づく事後評価
1. 地域・分野
7-2 国際平和協力の拡充、体制の整備
国際平和協力室長 中前隆博
平成18年4月
施策の目標
|
平和の定着(和平プロセスの促進、国内安定・治安の確保、人道復旧支援) |
施策の位置付け
|
平成17年度の重点外交政策に言及あり。
平成18年度の重点外交政策に言及あり。
第159回国会における内閣総理大臣施政方針演説に言及あり。
|
施策の概要
(10行以内)
|
紛争や問題の原因・影響は、それぞれの地域で異なることから、各地域・紛争・問題に応じて、官民、人的・経済的支援等のバランスを考慮した支援を行う。和平プロセスの促進(調停・仲介を通じた和平プロセスの促進、選挙支援など)、国内の安定・治安の確保(国連PKOなどによる国内の安定・治安の確保、国内治安制度の構築、対人地雷・不発弾処理、DDR(元兵士の武装解除、動員解除、社会復帰))、人道・復興支援(難民・国内避難民の帰還・再定住支援、ライフラインの復旧)等のために、国連PKOをはじめとする国際社会の取組、ODA、NGOなどを多角的に組み合わせた支援を行う。
同時に、我が国の有する政策手段や国際社会の潮流を包括的にフォローし、国内体制の整備、人的基盤の強化を図る。
|
【施策の必要性】
(1)冷戦終結後、宗教や民族対立、経済的要因や天然資源の争奪等に基づく地域紛争が世界各地で勃発し、地域及び国際の平和と安全を脅かし、難民・国内避難民の発生等の人道上の問題を生み出している。特にアフリカ地域に顕著に見られるように、紛争により国家の基本的枠組みが破壊され統治能力を失ったいわゆる「破綻国家」への対応が、国際社会の大きな課題となっている。また、テロや大量破壊兵器の拡散といった新たな脅威の台頭は、一地域の平和と安定が国際社会全体の平和と安定に密接に関わっている現状を示しており、その対処には各国が協調して国際社会の諸問題に取り組む必要があるとの認識が高まっている。こうした中、現在国際社会ではこうした脅威に対処するための多様な取組が行われている。
(2)近年において我が国は「平和の定着」構想に基づき、東ティモール、スリランカ、アフガニスタンへの支援を行うなど、国際社会の平和と安全のための取組に積極的に協力してきた。国際社会からは、日本がその国柄に見合うかたちで積極的な役割を相応に果たすことが期待されている。中でも自衛隊や文民警察、文民専門家等の派遣を通じた人的貢献を積極的に行っていくことは、紛争後の国家再建における多様な専門的人材への高いニーズに応えるものであり、同時に我が国の貢献を目に見える形で内外に示すと言う点で必要不可欠な施策である。
【施策の有効性】(目標達成のための考え方)
「平和の定着」は紛争で荒廃した地域をあらゆる側面から支援し国家を再建するという非常に包括的で複雑多様な取組であり、その対処にあたっては、広範な視点から様々な政策をその整合性や優先度に配慮しつつ適切に組み合わせて実施していくことが有効である。
またそのためには我が国の有する政策手段を包括的にフォローし、平和の定着に関わる各国、国際機関、NGO、国内外有識者・専門家等と日頃から緊密な関係を構築するとともに、国際社会の潮流を踏まえ、それに即した政策手段、人的基盤の強化を図る必要がある。そうすることで「平和の定着」政策の具体的実施において現地情勢やニーズの的確な把握、関係機関との円滑な連絡調整、適切な政策手段の選択、的確な人的資源の活用が可能となる。
【施策の効率性】(3行以内)
予算規模が極めて限られた中、人材育成、我が国政策の分析や国際社会における取組に関する情報収集、有識者・NGOなど政府内外のネットワーク構築など、主としてソフト面を重視し、低コストで高い成果を目指している。
【投入資源】
予算 |
平成17年度 |
平成18年度 |
21,042 |
21,336 |
単位:千円
(注)本省分予算
人的投入資源 |
平成17年度 |
平成18年度 |
9 |
10 |
単位:人
(注)本省分職員数(定員ベース)
【外部要因】
(1)もとより「平和の定着」に向けた取組は日本が単独で行い得るものではなく、ほとんどすべての場合国際社会による平和と安定のための取組への参画という形で支援が実行されるため、我が国が適切に支援できる具体案件がどれだけ存在するかはその時点での国際情勢に依存するところが極めて大きい。
(2)我が国が「平和の定着」政策を遂行するにあたって対象となる地域は当然ながら紛争状態にあった不安定な地域であり、適切な支援を行い得るか否かは、刻々と変化する現地情勢、及びそれに対応する各国・各国際機関等の動向に大きく依存する。
(3)国際社会の平和活動は国連等の国際機関、支援国、被支援国、NGOなど極めて多数の主体が関わる活動であり、我が国政策に絞った施策と成果との因果関係を明らかにし評価することは容易ではない。
(4)我が国の「平和の定着」に向けた政策に関わる関係行政機関は多数存在し、各機関の施策と成果との因果関係を個別に明らかにし評価することは容易ではない。
(5)国際平和協力のための国内体制整備については官民問わず様々な主体が同様の取組を実施しており、施策と成果との因果関係を個別に明らかにし評価することは容易ではない。
施策の評価
【平成17年度に実施した施策に係る評価の考え方】
具体的な「平和の定着」支援について、本年度は国連スーダンミッション(UNMIS)に関する一連の支援政策が一段落し、この点については評価を行うにあたり適切である。
「平和の定着」支援のための体制整備、基盤強化については必ずしも短期間で成果が反映されるわけではなく、評価にあたっては中長期的な視野が必要である。
【評価の切り口】
国際平和協力に係る我が国の具体的取組
【目標の達成状況(評価)】
国際平和協力に係る我が国の具体的取組
以下の取組が行われ、平和の定着に貢献した。
(イ)スーダンにおける平和構築のための国際社会の取組に協力するため、2005年10月、国連スーダンミッション(UNMIS)に四輪駆動車27台、地雷探知装置60機、大型テント20張を無償で供与した。また同年10月には外務省職員(1名)がUNMISに採用され現地で情報分析業務に従事している。これらはスーダンにおける「平和の定着」に対する我が国の多角的取組の一環であり、施策目標の具体例そのものである。
(ロ)ゴラン高原において停戦監視業務を行うPKO(UNDOF)に対し1996年以来継続的に要員45名を派遣し輸送業務等を実施している。2005年7月及び2006年1月には派遣期間を各6か月間延長した。これは我が国の中東和平への貢献の一環であり、この地域の和平プロセスの促進に資するものであって、施策目標の具体例そのものである。
(ハ)「国際平和協力分野における人材育成検討会」の行動計画(平成16年4月に作成)のフォローアップを行った。この施策は、人材の育成を通じて、政府として国際平和協力に主体的・積極的に取り組んで行くための人的基盤を整備するとの観点からは、「国際の平和及び安定にとり重要な課題に対する貢献」を行うという政策目的の実現に必要な施策と言える。具体的には、インターンの受入(1名)、国際平和協力調査員制度(2名)の創設など、国際平和協力に関心を有する人材に国際平和協力業務の実務を経験する機会を提供している。国際平和協力のための人的基盤の強化は施策目標に対して必要かつ有効である。
(ニ)2006年2月に元国連事務総長特別顧問ラクダール・ブラヒミ氏等を招聘して「国際平和協力に関するセミナー~平和の定着における様々な支援主体の役割、日本型支援の将来像~」を開催し、平和構築を巡る国際社会の最先端の議論を行うとともに、この分野における国内外の有識者・実務家・政府関係者の交流を図った。本セミナーは人的基盤強化の一環であり、施策目標に対して必要かつ有効である。
【評価の結果(目標の達成状況)】(類型化した表現で自己評価する)
「目標の達成に向けて相当な進展があった。」
(理由)「平和の定着」支援は対象国・地域における変化する現地情勢や各国・機関等の動向をにらみつつ、我が国として行いうる支援を検討する多角的取組。今年度実施したスーダンPKO(UNMIS)への物資協力は、UNMISに参加する地域諸国の平和に向けた取組(オーナーシップ)と組み合わせた協力として初めての試みであり、高い政策的意義が認められる。また、当省よりUNMISに省員を1名派遣したほか、ODAによる1億ドルにのぼるスーダン支援も8割近くが実施中であり、スーダン和平に対し、我が国として包括的な取組を実施することができた。
また「平和の定着」のための国内体制・人的基盤整備については、今年度から開始した国際平和協力調査員を活用しつつ、例えば国際平和協力セミナー(上記(ニ))を契機として有識者やNGO関係者とのネットワークの整備・拡充を実施。平和活動の現場における課題(例:軍民協力のあり方)の最新状況について認識を共有し、政策的議論への反映を試みている。かかる取組について、内外有識者・実務者を問わず好意的な評価を得ている。
【今後の課題】(評価の結果、判明した新しく取り組むべき課題等)(2行以内)
本年度の実績も踏まえ、引き続きPKOミッション等に対する人的貢献を検討するとともに中長期的な国際平和協力のための拡充・整備により重点を置くことが重要である。
政策への反映
【一般的な方針】(2行以内)
国際社会における平和活動への関心の高まりに対応するため、我が国の「平和の定着」政策の実施とその体制整備の更なる強化促進を図る。
【事務事業の扱い】
- 国際平和協力の拡充、体制の整備(含国際平和協力懇談会のフォローアップ)→拡充強化
【平成19年度予算・機構・定員要求への反映方針】
|
予算要求
|
機構要求
|
定員要求
|
反映方針
|
○
|
―
|
○
|
【第三者の所見】(施策に通じた有識者による当該評価に関する所見とする。)
星野俊也 大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
平成14年(2002年)5月の小泉総理シドニー演説で「平和の定着」支援の構想が打ち出されて以来、本施策は実績を積み上げており、また、諸外国からも主要な「日本アイテム」の一つとして注目されている。その観点からも、本施策が引き続き平成17年度及び平成18年度の重点外交政策に位置づけられ、総理の施政方針演説でも言及されていることは適切かつ有益である。そして、「国際平和協力の拡充、体制の整備」を担当する国際平和協力室の役割はきわめて大きい。
具体的な本評価期間中の活動として、スーダン及びゴラン高原での国連PKOへの積極貢献と国際平和協力分野における人材育成・人的基盤強化(国際平和協力調査員制度の創設や「国際平和協力セミナー」を通じた知見の共有とネットワーク化。後者は重要な広報・啓発的要素も持つ)の両面においては実質的で効率的な成果が見られることから、施策目標達成に向けた進展を指摘する自己評価は妥当である。
日本としての国際平和協力においては自衛隊や文民警察、文民専門家の派遣を通じた人的貢献の更なる拡充による国際的な存在感の発揮が重要であり、今般、スーダンPKOへの外務省職員の採用・派遣がその先鞭をつけた意義は特に高く評価すべきである。また、同じくスーダンPKOへの物資協力では、同PKOに参加するアフリカ諸国のニーズを的確に把握し、かつ、オーナーシップを尊重する新しい発想が見られたことも評価に値する。ハイレベルでの国際平和協力セミナーや人材育成努力の今後の継続・発展についても期待したい。
総じて、国際的に「日本アイテム」として認知度が高まっている「平和の定着」支援の実践の一翼を担う本室事業の拡充強化は日本外交の有効なアセットになるものと考える。
【評価総括組織の所見】(評価に関する技術的な所見とする。)
スーダンにおける和平合意成立を受け、その履行のために我が国が物的、人的支援を行ったことに関する記述は、目標の達成状況に関する説明として簡潔である。「第三者の所見」も評価シートの説明ぶりを補完しており、全体としてわかりやすい評価書となっている。
【事務事業の評価】
事務事業名:国際平和協力の拡充、体制の整備(含国際平和協力懇談会のフォローアップ)
事務事業の概要
|
(1)平成17年1月、20年以上にわたり内戦が続いていたスーダンにおいて和平合意が成立し、同年3月にその履行を目的とする国連スーダンミッション(UNMIS)が成立した。我が国はスーダンにおける平和構築のための国際社会の取組に協力するため、様々な形での支援を行って来た。その一環として、同年10月、UNMISの活動に参加するアフリカ諸国部隊のため、UNMISに四輪駆動車27台、地雷探知装置60機、大型テント20張を無償で供与するとともに、それらの輸送に必要な役務を無償で提供した。また同年10月には外務省職員がUNMISに採用され、現地で情報分析業務に従事している。
(2)我が国はゴラン高原においてシリア・イスラエル軍の停戦監視業務を行うPKO(UNDOF)に対し、1996年以来継続して要員45名を派遣し輸送業務等を行ってきた。2005年7月及び2006年1月には派遣期間を各6か月延長した。
(3)平成17年度は、「国際平和協力分野における人材育成検討会」の行動計画(平成16年4月に作成)のフォローアップを着実に行った。この施策は、人材の育成を通じて、政府として国際平和協力に主体的・積極的に取り組んでいくための人的基盤を整備するとの観点からは、「国際の平和及び安定にとり重要な課題に対する貢献」を行うという政策目的の実現に必要な施策と言える。具体例としては、国際平和協力調査員制度を創設し、国際平和協力に関心を有する人材に国際平和協力業務の実務を経験する機会を提供している。
(4)平成18年2月には本国連事務総長特別顧問ラクダール・ブラヒミ氏等を招聘して「国際平和協力に関するセミナー~平和の定着における様々な支援主体の役割、日本型支援の将来像~」を開催し、平和構築を巡る国際社会の最先端の議論を行うとともに、この分野における国内外の有識者・実務家・政府関係者の交流を図った。また本セミナーは広報活動の一環でもある。
|
有効性
(具体的成果)
|
(1)平成18年1月の和平合意達成以降、UNMISの活動と今後のスーダン情勢の行く末は世界的に大きな関心を集めている。それに対する物資協力、文民派遣は、資金援助等他の支援政策と合わせて、スーダンにおける「平和の定着」に対する我が国の多角的取組の一環であり、施策目標の具体例そのものである。またUNDOFへの要員派遣の延長は我が国の中東和平への貢献の一環であり、この地域の和平プロセスの促進に資するものであって、施策目標の具体例そのものである。
(2)「平和の定着」の具体的実施にあたり、我が国の適切な政策選択を可能にし、的確な支援を可能にするためには、当該分野における官民を問わない人的基盤の強化が重要である。「国際平和協力分野における人材育成検討会」の行動計画(平成16年4月に作成)のフォローアップは人的基盤のための取組の一環であり、施策目標に対して必要かつ有効であった。
(3)「平和の定着」の具体的実施にあたり、我が国が国際社会と協調しつつ多様な政策手段を組み合わせて適切な支援を実施するためには、平和の定着に関わる各国、国際機関、NGO等と日頃から緊密な関係を構築することで国際社会の潮流を把握し、国内外における人的ネットワークを拡大し国際平和協力のための人的基盤を強化する必要がある。上記セミナーはこうした意図に基づき開催されたものであり、施策目標に対して必要かつ有効であった。
|
事業の総合的評価
|
○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
当該事務事業は小規模な予算ながら具体的な成果を着実に積み重ねており、施策目標「平和の定着」の実現にあたり、一定の成果を挙げて来たと評価できる。
現在国際社会においては紛争予防・平和構築に対する関心が高まっており、それに向けた様々な新しい取組が実施されている。このような国際情勢の中、我が国が適切な形で施策目標を実施して行くためには更なる努力と体制強化が求められる。
当該事務事業は施策目標の達成の中核をなす事業であり、今後も一層の拡充強化が必要である。
|
【評価をするにあたり使用した資料】
- 外務省ホームページ(「分野別外交政策」→「国際平和協力」)
- 外交青書
- 官邸ホームページ
- 「国際平和協力懇談会報告書」(平成14年12月18日)
- 「国際平和協力分野における人材育成検討会の『行動計画』及びアドバイザリー・グループからの『提言』」
- 「国際平和協力分野における人材育成セミナー」報告書
- 「国際協力に関するセミナー:平和構築における様々な主体の役割、日本型支援の将来像」報告書、及び参加者アンケート結果(上記外務省ホームページ上に掲載)
- 外務省各種プレスリリース
Adobe Systemsのウェブサイトより、Acrobatで作成されたPDFファイルを読むための Acrobat Readerを無料でダウンロードすることができます。左記ボタンをクリックして、Adobe Systemsのウェブサイトからご使用のコンピュータのOS用のソフトウェアを入手してください。
資料をご覧になる場合は、外務省ホームページ(
http://www.mofa.go.jp/mofaj)のフリーワード検索に資料名を入力し検索をしていただくか、各国・地域情勢をクリックし、当該地域→当該国と移動して資料を探してください。また、国・地域政策以外の分野・政府開発援助につきましては当該外交政策を選び、資料を探してください。