I.実施計画に基づく事後評価
1. 地域・分野
5-2 イラクの平和と安定のための支援
中東第二課長 岩井文男
平成18年5月
施策の目標
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イラクの平和と安定への貢献 |
施策の位置付け
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平成17年度重点外交政策に言及あり。
平成18年度重点外交政策に言及あり。
第159回/第162回/第164回施政方針演説に言及あり。
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施策の概要
(10行以内)
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(1) イラクの安定と復興を実現するために、日本は、国際社会の責任ある一員として日本にふさわしい支援を行う必要があるとの認識の下、人道復興支援のために自衛隊をイラクに派遣するとともに政府開発援助(ODA)を提供し、これらを「車の両輪」として支援を実施してきた。
(イ) 自衛隊はイラク特措法に基づき、サマーワを中心とするムサンナー県において、道路、学校等の公共施設の補修事業及び医療分野における技術指導等の人道復興支援活動を行っている。
(ロ) ODAによる支援では、最大50億ドルの支援等を表明している。そのうち15億ドルについては、「当面の支援」として無償資金による支援を行うこととしており、電力、教育、水・衛生、保健、雇用創出などイラク国民の生活基盤の再建及び治安の改善に重点を置き、既に全額を決定した。
(ハ) 35億ドルの円借款については、2006年3月末に3件計約765億円の実施を表明した。
(2) また、日本は、国際会議の開催、各国・機関への働きかけ等外交手段を通じて、イラク復興支援に関し国際社会において主導的な役割を担うとともに、国連及び諸外国に対してより積極的な支援の実施を促す等の取組を行った。具体的には、例えば、日本は2004年2月から一年間イラク復興信託基金ドナー委員会の議長国となり、アブダビ会合(2月)、ドーハ会合(5月)の議長を務めるとともに、10月には東京で同基金会合を開催した。2005年6月には、ブリュッセルにおいて、イラク国際会議が開催され、我が国は、EUと共に、経済・復興セッションの共同議長を務めた。さらに、2005年1月、12月に行われた国民議会選挙のようなイラクの国家再建において重要な課題については、イラクの選挙関係者を訪日招請しての研修等の支援を行った。
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【施策の必要性】
日本は原油輸入の9割弱を中東地域に依存しているところ、石油埋蔵量世界第3位のイラクの平和と安定は、中東地域の平和と安定に資する。このためには、イラク自身による国家再建の努力を国際社会が一致して支援していくことが不可欠である。
【施策の有効性】(目標達成のための考え方)
イラクの平和と安定の状況については、経済・復興面では道半ばであり、治安情勢についてはいまだ予断を許さない状態が続いているものの、政治プロセスは着実に進展し、民主化に向けた国家再建が進みつつある。かかる進展は、イラク一国のみの力では不可能であり、国際社会の支援が不可欠である。我が国としては、安保理決議等に示される国際社会の支援の枠組みの中で、我が国に相応しい方法で効果の高い支援を行う必要がある。この観点から、上記概要のとおり自衛隊による人的貢献及びODAによる支援をはじめとする支援は、他の国際社会の支援と相俟って確実に効果を上げていると考えられる。
【施策の効率性】(3行以内)
イラクのニーズに応じており、イラクの政治プロセス、治安の回復、復興を他の支援国や国際機関と協調しつつ、同時に進捗させ、人的貢献を伴う日本の支援は、イラクの平和と安定への貢献の方策として効率的である。
【投入資源】
予算 |
平成17年度 |
平成18年度 |
33,945 |
27,416 |
単位:千円
(注)本省分予算
人的投入資源 |
平成17年度 |
平成18年度 |
3.3 |
3.3 |
(注)本省分職員数(定員ベース)
単位:人
【外部要因】
(1)武装勢力による反政府テロ活動は、イラク政府の活動を阻害し、各国からのイラクに対する支援の効果を減じさせている。例えば、政府関係者に対するテロは政府の人材の喪失となるとともにその活動を萎縮させることとなり、また、治安悪化によって事業現場へのアクセスが制約され復興事業の実施を妨げることとなる。
(2)イラク政府部内における支援受入れ体制の不備は、イラクに対する支援の効果を減じる要因となっている。例えば、国連開発グループ・イラク信託基金事業進捗報告等においても、関係省庁間の調整の遅滞、担当者の頻繁な変更等の問題が指摘されているが、これらの問題は、日本の支援についても該当する。現在、このような問題に対応するため、イラク計画省を中心として、政府部内及び支援国との調整過程を明確化する取組が進みつつある。
(3)イラク国内の民族・宗派間調整は、これまでにも新政府成立の遅延を招いており、このような内政上の問題がイラク政府の活動を非効率化する側面は否定できない。
施策の評価
【平成17年度に実施した施策に係る評価の考え方】
平成17年度は、12月に新政権発足のための国民議会選挙が成功裡に実施されるなど、政治プロセスへの支援の評価として区切りのよい年である。治安、復興への支援については、中、長期的なタームで評価する必要があり、暫定的な性格のものである。
【評価の切り口】
(1)政治プロセス、治安、復興における我が国の貢献
(2)二国間関係の強化の状況
【目標の達成状況(評価)】
(1)政治プロセス・治安・復興における我が国の貢献
我が国は、以下の通りイラクの政治プロセス、経済・復興、治安の分野において支援を行いイラクの平和と安定への貢献に寄与した。
(イ)政治面に関し、日本は具体的に次の取組を行った。これらの日本の取組は、他の国際社会の支援と相まってイラクにおける政治プロセス進展に奏功したと考えられる。
- 2005年6月、憲法制定セミナーを東京で開催し、ハサニー国民議会議長をヘッドとする国民議会議員等14名を招聘。
- 2005年6月には、ブリュッセルにおいて、イラク国際会議が開催され、我が国は、EUと共に、経済・復興セッションの共同議長を務めた。我が国は、この会議においてイラクの政治プロセス、治安、復興が同時に進捗することが重要である旨国際社会にアピールした。
- 憲法制定、国民議会選挙、新政府発足等の政治プロセスがイラクの国民融和の下で進められることが重要である旨、小泉総理をはじめとする様々なレベルで累次の機会で働きかけを行った。
- イラクの選挙関係者を訪日招請して研修。
(ロ)経済・復興面については以下のとおり、人道復興支援のために自衛隊をイラクに派遣するとともに政府開発援助(ODA)をイラクに提供した。
- 自衛隊はイラク特措法に基づき、サマーワを中心とするムサンナー県において、道路、学校等の公共施設の補修事業及び医療分野における技術指導等の人道復興支援活動を行っている。
- ODAによる支援では、最大50億ドルの支援を表明している。そのうち15億ドルについては、「当面の支援」として無償資金による支援を行うこととしており、電力、教育、水・衛生、保健、雇用創出などイラク国民の生活基盤の再建及び治安の改善に重点を置き、平成17年度末までに約15億ドルの支援を実施・決定してきた。(これらの支援の概要につき、別添参照。)
- これらの日本の支援は、イラクより非常に高く評価され、ジャアファリー移行政府首相をはじめ大統領、外相、計画省等から日本の支援に対する評価及び支援継続について要請があった。
- また、世論調査では、自衛隊が駐留するムサンナー県においては8割の住民が自衛隊の活動を肯定的に見ている(2004年11月朝日新聞・ウルク新聞(現地紙)、2005年1月アッサマーワ(現地紙))。このような高い評価は、自衛隊等による人的貢献があってはじめて得られたものであり、イラクにおいて日本の民間人が活動できない状況下において、ODAによる支援だけではこれほど評価されることはなかったものと推測される。
- また、そのような高い評価をイラク側から得た背景には、イラクの経済復興は前述のとおり道半ばであり、必ずしも軌道に乗っていない中で、日本の支援は、イラクのニーズに応えイラク側と調整した上で実施され、また、治安状況が十分ではない中で、現地関係者を活用する等の工夫によりできるだけ多くの支援を実施に移してきたこともあると考えられる。
(ハ)経済・復興の分野について、以下の通り支援の裾野を拡大し、主要な国際会議の議長をつとめる等、国際協調を強化し、リードした。また、国際会議の開催、各国・機関への働きかけ等外交手段を通じて次の取組を行った。これらの日本の経済・復興に関するイニシアティブは、外相会談その他の外交活動の中で、多くの国・国際機関から高い評価を得ている。
- 日本は、2004年2月から一年間イラク復興信託基金ドナー委員会の議長国として、アブダビ会合(2月)、ドーハ会合(5月)の議長を務めるとともに、10月には東京で同基金会合を開催し、次のとおり国際社会におけるイラク支援に対する関心を高めるとともに、イラクに支援ニーズを国際社会に伝える機会を設けた。
- 2005年6月には、ブリュッセルにおいて、イラク国際会議が開催され、我が国は、EUと共に、経済・復興セッションの共同議長を務めた。我が国は、この会議においてイラクの政治プロセス、治安、復興が同時に進捗することが重要である旨国際社会にアピールした。日本は、イラクにおける国連のプレゼンス拡大の必要性を重視し、2004年12月、小泉総理発アナン事務総長宛親書によってかかる必要性を指摘するとともに、2005年2月、イラクにおいて活動する国連職員を警護する部隊を派遣するための信託基金に750万ドル拠出した。この拠出に関しては、関係者より高く評価している旨伝えられている。
(ニ)治安面に関し、日本は、日本に相応しい方法による支援として、ODAを通じて、イラクの治安組織の能力向上のために具体的に次の支援を行った。これらの支援は米、NATO等が行う訓練、施設整備等の支援と相俟って、イラク政府の治安能力向上に貢献した。
- 防弾車両供与計画(イラク全土対象)(緊急無償)
(1)決定時期:2004年6月
(2)供与先:イラク内務省
(3)供与金額:約5億9000万円
(4)概要:要人警護を目的としてイラク内務省に対して20台の防弾車両を供与(ムサンナー県には2台)。2005年10月に完了。
- 警察用バス及びオートバイ整備計画(イラク全土対象)(緊急無償)
(1)決定時期:2004年12月
(2)供与先:イラク内務省
(3)供与金額:約26億2000万円
(4)概要:イラク内務省に対し警察用バス(150台)及びオートバイ(500台)を供与(ムサンナー県にはバス3台、オートバイ12台を想定)。2006年6月に完了予定。
- ムサンナー県警察ポストに対する機材供与計画(草の根・人間の安全保障無償)
(1)決定時期:2005年1月
(2)供与先:ムサンナー県警本部
(3)供与金額:約2700万円
(4)概要:サマーワ市の警察ポスト(6カ所)に対し、夜間警備用機材(発電機付き照明器具、検問鏡、蛍光ベスト)等を供与。2005年3月に完了。なお、各ポストには10~12人の警察官が24時間体制で警備に当たっている。
- ムサンナー県警察署に対する機材供与計画(草の根・人間の安全保障無償)
(1)決定時期:2005年6月
(2)供与先:ムサンナー県警本部
(3)供与金額:約1700万円
(4)概要:ムサンナー県内の警察署(6カ所)に対し、機器(無線レシーバー等の通信 機器など)及び事務所用備品等を供与。2005年7月に完了。
- ムサンナー県国境警察に対する機材供与(草の根・人間の安全保障無償)
(1)決定時期:2005年8月
(2)供与先:ムサンナー県国境警察
(3)供与金額:約1億円
(4)概要:ムサンナー県国境警察(14カ所)に対し、四輪駆動ピックアップ車両(計14台)、給水車(計1台)、給油車(計2台)、発電機(4機)、無線機等を供与。近く完了(一部機材未到着)。
- ムサンナー県警察訓練プログラム(紛争予防・平和構築無償)
(1)決定時期:2005年7月(イラク政府と書簡交換後、対外発表)
(2)実施機関:イラク内務省
(3)供与金額:約3億7800万円
(4)概要:ムサンナー県において、最長25週にわたり、計6200人の警察官及び計1340人の幹部候補者に対して各種分野での指導を行う事業経費(人件費、指導員用機材費、事務所機材費、車両関連機材費)に対する資金を手当て。2006年1月14日より訓練開始。
- イラク警察研修(鑑識及び組織整備支援)
(1)期間:平成16年9月27日~10月5日
(対象者:イラク内務省職員及びイラク警察官計10名)
平成17年5月12日~5月20日
(対象者:ムサンナー県警察幹部計10名対象)
平成18年3月27日~4月5日
(対象者:ムサンナー県警察幹部3名を含む計10名)
(2)研修内容:日本の警察組織、制度、教育システム等の概要、鑑識を中心とした科学的捜査方法。
(2)二国間関係の強化の状況
以下のとおり二国間関係強化のための取組を行い、上記の取組を補完し、イラクの平和と安定に貢献した。
(イ)要人間の会談
- 平成17年6月17日 小泉総理とハサニー国民議会議長が会談
- 平成17年11月24日 日・イラク外相会談
- 平成17年11月25日 ズィーバーリー外相が小泉総理を表敬
- 平成17年12月5日 日・イラク首脳会談
(ロ)二国間関係の進展
平成16年6月28日、イラク暫定政府に統治権限が委譲され、日本は同政府を承認した。同9月13日、鈴木敏郎特命全権大使を任命し、10月5日には、ジュマイリー駐日イラク特命全権大使が着任した。平成18年3月には山口大使が新たに着任した。
(ハ)文化・スポーツ・人物交流等
- 草の根文化無償スキームを用いて、イラクサッカー協会に対するサッカー器材の輸送費支援、イラク柔道協会に対する柔道器材供与及び中古柔道器材の輸送費支援、イラク・オリンピック委員会に対するスポーツ器材供与を行った。また、ムサンナー県においては、オリンピックスタジアムの修復(外観部分及び陸上トラック)、同県イラク青年スポーツ局に対するサッカー器材の供与、同県教育局に対するスポーツ器材(サッカー、バレーボール、バスケットボール、陸上)の供与を行った。
- 柔道関係者3名を他の中東諸国の関係者と共に招聘し、一行は嘉納治五郎杯国際柔道大会に出場したほか、講道会館で集中トレーニングを実施した。
- 平成18年3月、国際交流基金を通じて、日本のサッカーアニメTV番組「キャプテン翼」のアラビア語吹き替え版をイラク・メディア・ネットワークに対し無償提供した(平成18年7月以降、放映予定)。
【評価の結果(目標の達成状況)】(類型化した表現で自己評価する)
「目標の達成に向けて相当な進展があった」
(理由)治安、内政等のイラク国内事情による制約はあったものの、我が国をはじめとする支援国の協調の下、平成17年度において新政権発足に向けた3回の選挙(1月の国民議会選挙、10月の憲法草案に対する国民投票、12月の国民議会選挙)が成功裏に終了したことは、目標に向けて相当な進展があったものと評価できる。人道支援の分野、ODA、二国間関係の分野においても国際的に高い評価を得ており、相当な進展があったと評価できる。
【今後の課題】(評価の結果、判明した新しく取り組むべき課題等)(2行以内)
イラクに対する支援を効果的に行うためには、イラクにおけるニーズに対応すること及び国際社会と協調することが重要であるが、このため、今後ともイラク新政府、他の国際社会と緊密に連携しつつ、状況の変化を絶えず見極める必要がある。
ODAによる支援については、既に「当面の支援」である無償資金援助15億ドル分について実施・決定されていることから、今後「中長期的支援」として円借款を中心とする最大35億ドルの支援を効果的に実施していく必要がある。
政策への反映
【一般的な方針】(2行以内)
イラクにおけるニーズを絶えず把握し、状況の変化を見極めて効果的な支援を実施していく。その際に、治安情勢の変化や政治プロセス完了後の情勢に留意する。
【事務事業の扱い】
- 人道・復興支援の実施(国民の生活水準の向上、復興の進展)→今のまま継続
- 政治プロセス及び治安分野での協力(イラクにおける挙国一致の維持・拡大、治安の改善)→今のまま継続
- 二国間関係の強化(二国間の相互理解の増進)→今のまま継続
【平成19年度予算・機構・定員要求への反映方針】
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予算要求
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機構要求
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定員要求
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反映方針
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○
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―
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―
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【第三者の所見】(施策に通じた有識者による当該評価に関する所見とする。)
大野元祐 中東調査会上席研究員
(1)日本のイラク支援は米国を別とすれば最大の支援で、政治プロセスの中で実を結んできている。
(2)日本の支援について、3つのことが言える。1)他のドナーに比べ、断然早い時期から支援に取組始めた、2)自衛隊とODAの複合、新しい形の軍民協力、3)上からのアプローチでなく、地に足のついた形での国づくり支援である。
(3)他方、リード・ドナーとして国際社会の支援を十分には拡大できなかった点が惜しまれる。さらに言えば、イラク支援では、日本の行うこと自体が変数たりうることを十分には生かし切れていないということも指摘できる。
(4)今後のイラク支援は、イラク人の自立へのステップとなるような支援に力を入れてはどうか。
【評価総括組織の所見】(評価に関する技術的な所見とする。)
政治プロセス、経済・復興、治安の各分野に分類して評価を行っており、特に経済・復興、治安の分野については暫定的な評価であるも、定量的見地を取り入れた評価を行っている。
【事務事業の評価】
事務事業名:人道・復興支援の実施(国民の生活水準の向上、復興の進展)
事務事業の概要
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イラクの再建は、イラク国民にとって重要なことは言うまでもなく、中東地域及び国際社会の平和と安定にとって極めて重要であり、我が国にとっては、中東地域に石油資源の9割近くを依存しているという意味においても、国益に直結する課題である。イラクの復興は、まずはそこで生活する人々の生活水準を改善し希望を持って国の再建に当たることができるようにすることが、人道的観点からも第一に必要である。このような認識に基づき、我が国は、ODAによる支援と自衛隊による人的貢献を「車の両輪」として進めている。
ODAを活用した支援は、主に電力、教育、水、衛生、保健、雇用等、イラク国民の生活基盤の再建及び治安の改善に重点を置いて行っている。このような支援は、経済・社会面での復興に向けたイラクの主体的な取組を支援するとともに、イラクでの政治プロセスを後押しする役割も担っている。我が国は、2003年10月にマドリッドで開催されたイラク復興支援国際会議で最大50億ドルの支援を表明し(「当面の支援」として15億ドルの無償資金、中期的な支援として基本的に円借款で最大35億ドル)、このうち無償資金による支援が本格化し、2006年3月時点で全額を決定した。
自衛隊は2004年1月に先遣隊がムサンナー県に入って以来、現在もサマーワを中心として医療、給水、学校などの公共施設の復旧・整備等を行っているが、自衛隊による支援は、ODAによる支援とも有機的な連携が図られている。例えば、自衛隊が浄水した水を配給するための給水車をODAで供与したり、ODAにより供与された医療器材の使用方法を自衛隊医官が指導したり、自衛隊が砂利舗装した道路をODAによりアスファルト舗装するなどの例が挙げられる。
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有効性
(具体的成果)
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(1)我が国の支援の結果として、主に生活基盤の改善に直結する分野においてこれまでに以下のような成果が想定されている。
(イ)電力:サマーワ大型発電所の建設、発電所の復旧、変電整備などの供与の結果、約520MW(イラクの供給電力量の約10%に相当)が復旧する。
(ロ)医療・保健:全国11病院の整備を支援することによって年間延べ400万人程度の利用体制が整備される。
(ハ)水・衛生:バグダッドの浄水設備及びムサンナー県の給水能力向上を支援することによって、延べ約600万人程度の人々が裨益する。
(ニ)教育・文化:校舎の再建・学用品の供与等の支援を行った結果、延べ約610万人程度の生徒・学生が裨益する。
(ホ)雇用:延べ300万人以上の雇用を創出した。
(2)2004年10月のイラク復興信託基金(IRFFI)ドナー委員会拡大会合(東京会合)では、サーレハ・イラク暫定政府副首相から、今後3年間(2005年~2007年)の戦略及び具体的施策を記述した、復興に向けた包括的な国家開発戦略が示された。2005年6月には、ブリュッセルにおいて、イラク国際会議が開催され、我が国は、EUと共に、経済・復興セッションの共同議長を務めた。
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事業の総合的評価
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○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
(理由と今後の方針)
現状においては、復興は道半ばであり、イラク政府等からも強く支援を求められている。さらに、国際社会においても復興調整メカニズムを構築し、支援を強化しようとしている現状において、今後、我が国としては、状況変化を見極めつつ支援を継続していく必要がある。
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事務事業名:政治プロセス及び治安分野での協力
事務事業の概要
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(内容・必要性)
政治プロセスの推進と治安の改善は、イラクの国家再建の一部であり、不可欠である。これらと経済復興は互いに密接不可分であり、イラクの政治体制が安定し、治安が改善しなければ、復興に対するイラク国民の努力や我が国をはじめとする各国の支援も十分な効果を発揮することができない。
我が国は、このような認識に基づき、イラクでの政治プロセスの推進や国際社会の十分な関与の確保に向けて働きかけを行っている。具体的には要人間での対話において治安改善や政治プロセスについての意見交換や選挙に対する支援、無償資金協力による警察車両の供与等を行っている。
具体的には、以下のとおり。
(1)政治面に関し、日本は具体的に次の取組を行った。これらの日本の取組は、他の国際社会の支援と相まってイラクにおける政治プロセス進展に奏功したと考えられる。
- 2005年6月、憲法制定セミナーを東京で開催し、ハサニー国民議会議長をヘッドとする国民議会議員等14名を招聘。
- 2005年6月には、ブリュッセルにおいて、イラク国際会議が開催され、我が国は、EUと共に、経済・復興セッションの共同議長を務めた。我が国は、この会議においてイラクの政治プロセス、治安、復興が同時に進捗することが重要である旨国際社会にアピールした。
- 憲法制定、国民議会選挙、新政府発足等の政治プロセスがイラクの国民融和の下で進められることが重要である旨、小泉総理をはじめとする様々なレベルで累次の機会で働きかけを行った。
- イラクの選挙関係者を訪日招請して研修。
(2)治安面に関し、日本は、日本に相応しい方法による支援として、ODAを通じて、イラクの治安組織の能力向上のために具体的に次の支援を行った。これらの支援は米、NATO等が行う訓練、施設整備等の支援と相俟って、イラク政府の治安能力向上に貢献した。
(イ)防弾車両供与計画(イラク全土対象)(緊急無償)
- 決定時期:2004年6月
- 供与先:イラク内務省
- 供与金額:約5億9000万円
- 概要:要人警護を目的としてイラク内務省に対して20台の防弾車両を供与(ムサンナー県には2台)。2005年10月に完了。
(ロ)警察用バス及びオートバイ整備計画(イラク全土対象)(緊急無償)
- 決定時期:2004年12月
- 供与先:イラク内務省
- 供与金額:約26億2000万円
- 概要:イラク内務省に対し警察用バス(150台)及びオートバイ(500台)を供与(ムサンナー県にはバス3台、オートバイ12台を想定)。2006年6月に完了予定。
(ハ)ムサンナー県警察ポストに対する機材供与計画(草の根・人間の安全保障無償)
- 決定時期:2005年1月
- 供与先:ムサンナー県警本部
- 供与金額:約2700万円
- 概要:サマーワ市の警察ポスト(6カ所)に対し、夜間警備用機材(発電機付き照明器具、検問鏡、蛍光ベスト)等を供与。2005年3月に完了。なお、各ポストには10~12人の警察官が24時間体制で警備に当たっている。
(ニ)ムサンナー県警察署に対する機材供与計画(草の根・人間の安全保障無償)
- 決定時期:2005年6月
- 供与先:ムサンナー県警本部
- 供与金額:約1700万円
- 概要:ムサンナー県内の警察署(6カ所)に対し、機器(無線レシーバー等の通信 機器など)及び事務所用備品等を供与。2005年7月に完了。
(ホ)ムサンナー県国境警察に対する機材供与(草の根・人間の安全保障無償)
- 決定時期:2005年8月
- 供与先:ムサンナー県国境警察
- 供与金額:約1億円
- 概要:ムサンナー県国境警察(14カ所)に対し、四輪駆動ピックアップ車両(計14台)、給水車(計1台)、給油車(計2台)、発電機(4機)、無線機等を供与。近く完了(一部機材未到着)。
(ヘ)ムサンナー県警察訓練プログラム(紛争予防・平和構築無償)
- 決定時期:2005年7月(イラク政府と書簡交換後、対外発表)
- 実施機関:イラク内務省
- 供与金額:約3億7800万円
- 概要:ムサンナー県において、最長25週にわたり、計6200人の警察官及び計1340人の幹部候補者に対して各種分野での指導を行う事業経費(人件費、指導員用機材費、事務所機材費、車両関連機材費)に対する資金を手当て。 2006年1月14日より訓練開始。
(ト)イラク警察研修(鑑識及び組織整備支援)
- 期間:平成16年9月27日~10月5日
(対象者:イラク内務省職員及びイラク警察官計10名)
平成17年5月12日~5月20日
(対象者:ムサンナー県警察幹部計10名対象)
平成18年3月27日~4月5日
(対象者:ムサンナー県警察幹部3名を含む計10名)
- 研修内容:日本の警察組織、制度、教育システム等の概要、鑑識を中心とした科学的捜査方法。
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有効性
(具体的成果)
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(1)政治面に関しては、「基本法」及び安保理決議1546に定められた政治プロセスのスケジュールにしたがい概ね順調に進捗してきたといえる。2005年1月30日のイラク国民議会選挙実施、4月28日の移行政府発足、8月22日の憲法草案の国民議会提出、10月15日の国民投票、12月15日の新政府発足のための国民議会選挙実施はその証である。2006年2月10日には同選挙の最終結果が発表され、4月22日には、国民議会において新政府の首相、大統領、国民議会議長等が選出された。5月20日には新政府が発足し、これをもって政治プロセスが完了することとなる。これらの進展の背後には、イラク政府が政治プロセスを進展させることについて強い意思を有していただけではなく、国際社会からの高い関心と大きな支援があった。2005年6月には、ブリュッセルにおいて、イラク国際会議が開催され、我が国は、EUと共に、経済・復興セッションの共同議長を務めた。我が国は、この会議においてイラクの政治プロセス、治安、復興が同時に進捗することが重要である旨国際社会にアピールした。
(2)イラク政府は各国の協力を得て治安能力を強化している。
治安部隊は、2005年1月には約13万人であったのが2006年3月末には約25万人まで増加した。
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事業の総合的評価
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○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
(理由と今後の方針)
政治プロセスは完了したが、挙国一致体制を維持・拡大し、治安の改善に取り組む必要がある。このため、イラクは国際社会の支援を必要としており、我が国としても支援を行っていく必要がある。
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事務事業名:二国間関係の強化の状況
事務事業の概要
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(内容)
我が国は、イラクとの二国間関係の強化、相互理解の増進の観点から、平成15年より、イラク支援に関する広報(日本国内向け、イラク国民・アラブ諸国向け)、人物交流、国際交流基金を通じたTV番組の提供(「おしん」及び「キャプテン翼」等)、サッカーをはじめとするスポーツ分野での支援を積極的に行ってきている。
(必要性)
我が国が行っている支援が十分にその効果を発するためには、イラク国民に我が国の人道復興支援の内容や目的を理解してもらい、協力を得ることが必要である。イラク文化・教育・スポーツ面での支援を行うことは、イラク国民が希望を持って再建に取り組むことができるよう、精神面での支えとして重要な意味を持つのみならず、そのような支援を行っている我が国に対する「友人」としての親近感をイメージを醸成することにもつながり、二国間の相互理解に資する有効な手段である。
また、中東地域全体、ひいては国際社会の安定に今後とも大きな影響を与えるイラクとの二国間関係の強化は、エネルギー安全保障の観点も含め、国際社会のみならず、我が国自身の安定と繁栄に関わる重要な施策である。
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有効性
(具体的成果)
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(1)要人間の会談
- 平成17年6月17日 小泉総理とハサニー国民議会GC法が会談
- 平成17年11月24日 日・イラク外相会談
- 平成17年11月25日 ズィーバーリー外相が小泉総理を表敬
- 平成17年12月5日 日・イラク首脳会談
(2)二国間関係の進展
平成16年6月28日、イラク暫定政府に統治権限が委譲され、日本は同政府を承認した。同9月13日、鈴木敏郎特命全権大使を任命し、10月5日には、ジュマイリー駐日イラク特命全権大使が着任した。平成18年4月には山口大使が新たに着任した。
(3)文化・スポーツ・人物交流等
- 草の根文化無償スキームを用いて、イラクサッカー協会に対するサッカー器材の輸送費支援、イラク柔道協会に対する柔道器材供与及び中古柔道器材の輸送費支援、イラク・オリンピック委員会に対するスポーツ器材供与を行った。また、ムサンナー県においては、オリンピックスタジアムの修復(外観部分及び陸上トラック)、同県イラク青年スポーツ局に対するサッカー器材の供与、同県教育局に対するスポーツ器材(サッカー、バレーボール、バスケットボール、陸上)の供与を行った。
- 平成18年3月、国際交流基金を通じて、日本のサッカーアニメTV番組「キャプテン翼」のアラビア語吹き替え版をイラク・メディア・ネットワークに対し無償提供した(今後、放映予定)。
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事業の総合的評価
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○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
(理由と今後の方針)
イラクに新政府が発足したことに伴い、今後とも要人間の関係を緊密に保っていく必要がある。また、今後イラクの国家再建が進むとともに、文化交流等を通じ国民レベルの長期的な相互理解増進が一層重要になる。
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