I.実施計画に基づく事後評価
1. 地域・分野
13-3 文化の分野における国際協力
文化交流課長 片山和之
国際文化協力室長 齊藤純
平成18年5月
施策の目標
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文化、スポーツ、教育の振興のための国際協力、文化の分野に於ける国際規範の整備促進等の文化の分野における国際貢献を通じ、各国の国民が経済社会開発を進める上で必要な活力を与え自尊心を支えることにより、親日感の醸成を図ること。 |
施策の位置付け
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平成17年度重点外交政策に言及あり。
平成18年度重点外交政策に言及あり。
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施策の概要
(10行以内)
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文化の分野での国際貢献を行うことによって、人類の新たな文化の発展に貢献するとともに、親日感を醸成するため、(1)ユネスコを通じた協力、(2)文化無償資金協力、(3)文明間対話を実施する。
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【施策の必要性】
(1) グローバル化や情報通信技術の発展とともに、(イ)各国の市民がインターネット等を通じて国際的なネットワークを組み、外交上影響力のあるイニシアティブをとる(例えば、NGO等による国際規範作りへの関与)ことや、(ロ)各種メディアを通して世論を形成し、所属政府の行動に影響を与えるといった形で、非国家主体の外交に与える影響力が増している。
(2) このような国際環境の下、日本に有利な外交上の環境を作り出していくために、各国の国民の対日感情をより良好なものとしていくことが重要である。このため、文化財やスポーツ等を含む文化の分野において国際的な貢献を行うことによって、親日感の醸成を図る必要がある。すなわち、文化協力を通じて、開発途上国の文化の保全及び発展を支援し、同国の国民が自国の文化に対して持つ「誇りと自尊心」を刺激することを通じて、親しみやすく精神的な豊かさも重視する日本としての「ソフト」なイメージを普及させることが重要である。
(3) また、文化遺産に代表される各国の文化は人類共通の財産ともなりうるものであり一度失われれば、回復することは難しいものである。よって、人類の貴重な遺産たる各国の文化を世代を超えて引き継ぐ責任を果たし、さらには新たな文化の発展に寄与するため、文化遺産の保存のための措置や、文化関係の規範の整備を促進し、文明間の知的対話を推進することが必要である。
【施策の有効性】(目標達成のための考え方)
文化の分野での国際貢献を行うことによって、人類の新たな文化の発展に貢献するとともに、各国の国民が経済社会開発を進める上で必要な活力を与え自尊心を支えることとなり、親日感の醸成を図る上で有効である。
(1)ユネスコを通じた協力
文化、教育、科学等の分野を担当し、この分野で世界各国について知見を有する国連機関であるユネスコは、文化遺産の保存、開発途上国における教育現状の改善など様々な活動を通じて国際社会に大きな貢献を行っている。このユネスコを積極的に活用し、日本の意見をユネスコの政策に反映させることによって、日本として国際的な文化・教育などにおける環境の向上に向け主要な責任を果たすとともに、この分野における日本の知見を活かしつつ、世界各国における親日感の醸成を図る。
また、日本の名前を冠し、日本が案件の形成及び選定に関わるユネスコ日本信託基金の下、有形・無形の文化遺産の保全を通じた途上国の文化振興や教育・科学・文化分野における人材育成を通じた途上国の持続的開発の為の事業を実施することによって、これらの分野での日本の重要なコミットメントを示し、開発途上国における親日感の醸成を図る。
(2)文化無償資金協力
文化無償資金協力は、開発途上国の文化・高等教育振興に関連する機材の供与や施設の修復・建設等のための無償資金協力スキームであり、その実施によって、開発途上国の文化・高等教育を振興するとともに、日本との文化交流や対日理解の促進を図ることによって、開発途上国における親日感を醸成する。
(3)文明間対話
世界の現存する様々な対立の原因の1つには、現在の世界のシステムの下では正義や公正が十分果たされていないという途上国市民の不満と、近い将来にこうした事態が改善する見通しがないという絶望感があり、日本として、途上国が各々の国に相応しい方法で持続的な発展を遂げることを支援する枠組みの構築のための知的対話を推進することによって、途上国市民、特に若者に希望と充実感を持たせ多様な文明の尊重、受容の世紀へと世界を導くことを目指す。また、日本は、知的対話を通じ、一定の伝統的価値観を維持しつつ近代化を達成したという経験を、グローバル化への対応と文化的アイデンティティーの維持の相克に悩む開発途上国と共有することを通じて、日本のソフト・パワーの効果的活用を図る。
【施策の効率性】(3行以内)
文化無償資金協力を実施した文化施設に対して在外公館文化事業等を積極的に展開することにより、日本文化の魅力や文化無償の意義を印象づけることによって、より効果的に開発途上国の文化振興における日本の支援の重要性に対する理解を深めさせる。
【投入資源】
予算 |
平成17年度 |
平成18年度 |
10,485,238 |
10,204,964 |
(注)本省分予算
(在外分予算 5,758 3,959 )
単位:千円
人的投入資源 |
平成17年度 |
平成18年度 |
13.6 |
13.3 |
単位:人
(注)本省分職員数(定員ベース)
【外部要因】
文化協力の施策目標の一つは、開発途上国の対日好感度の向上であるが、これらの要素は、国際情勢の変化や相手国政府の対日政策の展開等の外的要因によって大きな影響を受けるものである。
施策の評価
【平成17年度に実施した施策に係る評価の考え方】
通常の評価を行うが、以下の事情により、本年度は周辺的な指標を用いた暫定的な性格の評価となる。
文化協力の施策目標の1つは、開発途上国の対日好感度の向上であるが、その成果を定量的に示すことは困難である。対日好感度等については、1つの定量的指標として世論調査等があるが、国際情勢の変化や相手国政府の対日施策等の外的要因によって大きな影響を受けるものであり、施策の効果のみを抽出することは出来ない(文化協力の効果を測るためには、国際情勢の変化を所与として、文化事業を実施した結果としての現実の対日世論と、文化事業を実施しなかった場合という現実になかった状況における対日世論を比較する必要がある)。
また、(1)親日感の醸成、及び(2)国際的な文化環境の向上や開発途上国における文化の保全・振興という施策目標の達成状況については、いずれも、中長期的に現れるものであり、ある年度の終了時点において年度事業の効果を直ちに測ることはできない。
【評価の切り口】
(1)各種事業に対する裨益者等の反応
(2)文化協力事業のより効果的な実施に向けた取組の状況等
【目標の達成状況(評価)】
(1)各種事業に対する裨益者等の反応
具体的には、以下の「事務事業」の評価にて記述されているとおり、各種事業は、裨益者等からは高い評価を受けていると思料されるほか、各種メディアにおいても肯定的に取り上げられているところ、施策の目標である人類の新たな文化の発展及び親日感の醸成に寄与したということができる。
(2)文化協力事業のより効果的な実施に向けた取組の状況
より効果的に施策の目標の達成を図るため、以下の取組を行った。
平成17年度より、日本文化の魅力や文化無償の意義を印象づけることによって、より効果的に親日感の醸成に係る成果を得られることを目指し、在外公館文化事業について「文化無償関連型」事業のスキームを設けた。
「世界文明フォーラム2005」について、総合研究開発機構(NIRA)や国際連合大学、民間企業、メディア等と協力することを通じて、より効率的に事業を実施すると共に、事業の成果についてより広汎なアウトリーチを行うことができた。
また、ユネスコ日本信託基金事業については、毎年、外務省とユネスコ事務局との間で年次レビュー会合を実施しているが、平成15年度より、ユネスコ側において「中期戦略」を作成、レビュー会合において議論を行うことで、中期的な観点からの効果的かつ戦略的な事業実施を図っている。
【評価の結果(目標の達成状況)】
「目標の達成に向けて進展があった」
(理由)先述の通り、文化協力の施策目標は、人類の文化の更なる発展及び親日感の醸成等であるが、文化協力事業の成果は中長期的に現れるものであり、ある年度の終了時点においてその年度の事業の効果を把握できないのみならず、国際情勢の変化や相手国政府の対日施策等によって大きな影響を受ける。よって、文化協力事業の効果については、周辺的なデータにより判断せざるを得ないが、実施された事業の裨益者の満足度も高く、文化協力事業のより効果的な実施を確保するための様々な取組が行われている。
よって、目標の達成に向けて進展があったと評価することが出来る。
【今後の課題】(評価の結果、判明した新しく取り組むべき課題等)
新たに発生したニーズに応じて、文化協力事業を強化すると同時に、事業の「選択と集中」、他団体や他スキームとの連携の強化、「日本の顔」が見える支援の強化、既存の案件に係るフォローアップの実施等によって、より効果的な事業の実施に努めていく。個別具体的には、各「事務事業」の事業の総合的評価の「今後の方針について」等において記載されているとおり。
政策への反映
【一般的な方針】(2行以内)
外交的ニーズの変化に応じ、文化協力事業を実施していく。
【事務事業の扱い】
- ユネスコを通じた協力→拡充強化
- 文化無償資金協力→拡充強化
- 文明間対話→内容の見直し
【平成19年度予算・機構・定員要求への反映方針】
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予算要求
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機構要求
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定員要求
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反映方針
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○
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―
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○
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【第三者の所見】(施策に通じた有識者による当該評価に関する所見とする。)
阿川尚之 慶應大学総合政策学部教授
(注:下記の所見は、施策13-1~13-3まで共通。)
(1)政策評価は、政策の目標・手段・成果のそれぞれについて、また相互の関係について行なうべきものと考える。この観点に立って本自己評価を読むと、目標が正しく、成果が認められるとしても、用いられた手段によって当該成果がもたらされたものかどうか、時にあいまいである。たとえば「海外広報」について「目標の達成に向けて進展があった」とし、その理由として、「海外における世論調査では一般的に我が国に対する好意・高い評価が見られる」ことを挙げる。しかし「国際文化交流の促進」に関しては、「(世論調査は)国際情勢の変化や相手国政府の対日施策等によって大きな影響を受けるものであり、施策の効果のみを抽出することは出来ない」と記しており、同じ自己評価のなかで見解の相違が見られる。
(2)理想的には、特定の政策手段と目標の実現度のあいだに、明確な因果関係があるかどうかにつき、より詳細な検討が必要であろう。ただ本自己評価が指摘するとおり、対外広報文化事業においては目に見える成果が直ちに得られることは少ないので、むしろ中長期的な成果を求めるべきであろう。外部要因の影響が大きいため、特定手段による目標実現度の計測が困難であることも、指摘のとおりである。
(3)だとすれば、「評価の結果(目標の達成状況)」に関して、「類型化した表現で自己評価する」との指示にしたがい、「目標の達成に向けて進展があった」と記述することに、どれほどの意味があるのだろうか。むしろ、さらに一歩踏み込んで、対外広報文化事業の性格に内在する評価の難しさを、丁寧に説明していることを、評価したい。この点については、さらなる分析が期待される。
(4)ただ、「国際文化交流の促進」に関する当該回答で、国際交流基金の行なう個別事業について、独立行政法人評価で別途評価すると記すのは、いかにもお役所仕事であり、不親切である。国民の目から見れば、外務省と国際交流基金がそれぞれ行なう文化事業は車の両輪であり、総合的に評価すべきものである。別々に評価するのは、本自己評価の意義を低下させよう。
(5)以上、気づいた点を批判的に述べたが、外務省の広報文化事業は、その効果についての包括的・総合的な評価が難しくても、今後もやり続けねばならない重要な仕事である。数年前まで在外公館という現場で広報文化の仕事にたずさわったものとして、人的資金的資源の制約のなかで個々の担当官が地道に仕事をしている姿を見た。対外広報文化事業の成果は、こうした個々の担当官の努力の総和であり、この観点からも外務省の広報文化事業を今後とも見守りたい。
(6)結論として、本自己評価は、そうした現場の、また個々の事業についての実情をふくめ、外務省全体としてこの分野でどのような目標を立て、どのような手段を用い、どのような成果を上げてきたかについて、まとまった情報を提供するものであり、積極的に評価したい。ただその際、ただ単に広報文化交流部、あるいは外務省だけの視点からではなく、オールジャパンとして他省庁、民間にあるリソースを手段として結集し、いかなる目標を立て、いかなる成果を上げるべきか、それだけの戦略性を有して仕事をしているかどうかも、今後は自己評価の対象にすべきだと考える。
(7)限られた予算のなかで、本分野で政府ができることには限界がある。だとすれば、外務省広報文化交流部がなしうる最大の貢献は、日本の広報文化外交の枠組みを構築するため、これまで集積した知見をもとに、アイディアを提供すること。また対外広報文化の仕事にたずさわる我が国の他のプレイヤーと、知的戦略的対話を継続的に実施し、日本全体としての広報文化外交の力を強化すること。その二つだと考える。
(8)最後に付け加えれば、本自己評価を行なうこと自体に、外務省の対外広報文化事業を国民に紹介し、理解を求める広報活動の一部だという視点が欠けていると感じた。記述は専門的で、不親切である。文章が硬い。典型的な役所の表現が散見される。もっと広報マインドをもった、わかりやすく、読みやすい自己評価を、今後期待する。
【評価総括組織の所見】(評価に関する技術的な所見とする。)
2つの「評価の切り口」である「裨益者等の反応」及び「効果的に実施に向けた取組」に関し、各事業シートに数値も交え、具体的な成果に関する記述がなされており、全体として適切な評価となっている。
【事務事業の評価】
事務事業名:ユネスコを通じた協力
事務事業の概要
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事業
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取組の内容
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ユネスコを通じた協力全般
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教育、科学、文化を通じて諸国民間の協力を促進することにより、世界の平和及び安全に貢献することを目的とするユネスコでは、それらの分野において新しい時代のニーズに合わせた国際協力の体制を推進するための様々な決議及び多数国間条約が交渉・採択されている。日本として、右決議及び条約において確立される国際支援及び協力体制において一定の役割を果たし国際社会に貢献していくため、決議及び条約に係る交渉の段階から積極的に参加し、交渉の場で日本の意見が可能な限り決議案及び条約草案に反映されるよう真摯に対応する。
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ユネスコ日本信託基金事業
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我が国は、ユネスコとの密接な協力を通じて3つのユネスコ日本信託基金(文化遺産保存信託基金、無形文化財保存・振興信託基金、及び人的資源開発信託基金)を設置している。文化遺産保存信託基金は途上国の重要な価値を有する歴史的建造物や考古学遺跡といった有形文化遺産の保存や修復を目的としており、また、無形文化財保存・振興信託基金は社会構造の変化や貧困などが原因で消滅の危機に瀕している途上国の無形文化財の保護・保存・振興に努めている。国際社会は、これら有形・無形の文化遺産を人類共通の遺産として、ユネスコ等を通じた国際的取組により保存・修復・振興すべく協力を進めており、我が国は右信託基金を通じて、この取組の極めて重要な一翼を担っている。人的資源開発信託基金を通じては、ユネスコの所掌である教育・科学を中心に、一部は文化分野においても人的育成を行い、途上国の持続的開発に寄与することで、これらの国々の文化環境の向上にもつなげている。
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有効性
(具体的成果)
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事業
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具体的成果
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ユネスコを通じた協力全般
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- 積極的な参加・貢献
第33回ユネスコ総会、第171回及び第172回執行委員会、世界遺産委員会締約国会議、文化多様性条約交渉会合等のユネスコ国際会議に積極的に参加し、とりわけ第33回ユネスコ総会においては97の決議(予算、生命倫理と人権に関する世界宣言等を含む。)、2の条約(アンチ・ドーピング条約及び文化多様性条約)の採択に貢献した。また、我が国のユネスコに対するこれまでの貢献・協力が高く評価され、加盟各国の大多数から支持を得てユネスコ執行委員国に再選した。
- アンチ・ドーピング条約
世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の理事国である我が国は、アンチ・ドーピング条約の交渉において、スポーツにおけるドーピングの撲滅という本条約の趣旨にも賛同する立場から、本条約の起草段階から第33回総会における採択まで、積極的かつ建設的に取り組み、本条約の採択に大きく貢献した。
- 文化多様性条約
文化多様性条約交渉においては、より多くの国に受け入れられる条約とするために積極的に交渉に参加、第33回総会では本条約に係る決議を提案すること等により、本条約の採択に大きく貢献した。
- 生命倫理と人権に関する世界宣言
生命倫理全般の基本原則を打ち出した初めての国際的宣言で、我が国も同宣言の起草グループに積極的に参加、その採択に大きく貢献した。また、平成17年12月に第12回国際生命倫理委員会をアジアでは初めて我が国で開催し、同宣言の効果的履行方策につき活発な議論が交わされるなど重要な役割を担った。
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ユネスコ日本信託基金事業
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- 実施案件
(イ)ユネスコ文化遺産保存日本信託基金:約310万ドルを実施(アンコール、バーミヤン、プノンペン王立芸術大学等)
(ロ)ユネスコ無形文化財保存・振興信託基金:約54万ドルを実施(メラネシア少数言語保存、サヌアの歌(イエメン)等)
(ハ)ユネスコ人的資源開発日本信託基金:約367万ドルを実施(アフリカ、中南米諸国における教師訓練への支援やエイズ予防教育への支援等)
- 実施にあたっての留意点
(イ)文化財保護の分野で高い知見を有している日本の存在感を最も直接的に示す有効な手段であり、受益国はじめ国際的にも高い評価を得て、重要性はますます高まっている。各プロジェクトに可能な限り日本人専門家の参加を得る等、日本のヴィジビリティを高め、親日感をより一層醸成するよう工夫をしている。
(ロ) ユネスコが行う途上国における教育分野等での人材育成事業を積極的に支援することで、被援助国はじめ国際的にも高い評価を得ており、重要性はますます高まっている。プロジェクトの開始・署名式を行い、プレスに公開するなど、可能な限り日本のヴィジビリティを高める工夫をしている。
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事業の総合的評価
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○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
1.理由
(1)ユネスコを通じた協力全般
ユネスコにおける決議及び条約等の策定については、交渉段階から積極的に参加し、決議及び条約の採択後の国際協力体制に積極的に貢献していくことが必要であると考える。平成18年4月には衰退・消滅の危機に直面している伝統芸能・口承伝承等の無形文化遺産を国際的水準で保護する体制の確立を目的とする無形文化遺産条約が発効し、第1回締約国会合が開催されるが、平成18年度はこのほかユネスコ執行委員会、世界遺産委員会締約国会合等が開催される予定である。これらの国際会議に積極的に参加することにより、ユネスコを通じた国際協力をこれまで以上に実施する必要がある。
(2)ユネスコ日本信託基金事業
1989年に開始された途上国の文化遺産保存修復協力は、知名度も高く受益国よりも高い評価を得ている。また、1993年に開始された無形文化財保存振興協力についても、無形文化遺産条約(2003年採択)が2006年4月に発効し、国際的に無形文化遺産保護への気運が高まる中、その意義はますます重要性を増している。ユネスコを通じた文化分野での国際協力を実現し国際社会に貢献することは、長期的・継続的な取組を必要としていることから、国際社会の要請に応えるためにも、支援を強化拡大する必要がある。また、教育についてもミレニアム開発目標やEFA(万人のための教育)目標の達成のために、引き続きユネスコの取組を支援していく必要がある。
2.今後の方針
(1) 文化遺産の保護、教育支援等の分野において、ユネスコを通じた協力を積極的に推進する。特に、無形遺産条約の発効を踏まえ、無形遺産保護に関する協力を拡充する。また、EFAについても、サンクトペテルブルグ・サミットでの議論を踏まえ、支援を強化する。
(2) 国連大学新学長の就任を踏まえて、国連大学との連携を強化する。
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事務事業名:文化無償資金協力
事務事業の概要
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文化無償資金協力は、開発途上国の文化・高等教育振興、文化遺産保全支援を目的とする無償資金協力スキームであり、「一般文化無償資金協力」、「草の根文化無償資金協力」からなる。
「一般文化無償資金協力」(注)は、開発途上国の国家機関に対して文化・高等教育、遺産保全に資する機材供与・施設整備支援を行うものである(供与限度額:3億円)。「草の根文化無償資金協力」(原則1000万以下)は、同じ趣旨の下、現地で活動中のNGOや地方自治体等の草の根レベルの機関(原則、非国家機関)を対象として機材供与・施設整備・輸送支援(日本側民間団体より寄付される中古柔道着等を日本から現地まで輸送する支援)を行うことにより、草の根レベルの一般住民に対してよりきめ細やかな支援を行うことを目的としたスキームである。
(注)「一般文化無償資金協力」は、従来の機材供与のみの「文化無償」と文化遺産保全にかかる機材供与・施設整備を行う「文化遺産無償」が統合される形で平成17年度に発足
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有効性
(具体的成果)
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平成17年度において、文化無償資金協力案件は、合計68件を実施した(「一般文化無償資金協力」33件、「草の根文化無償資金協力」35件)。
ブータン、スワジランド等に対して、日本事情・教育等を内容とする番組ソフトを各国テレビ局に供与することで、各国国民の対日理解・親日感の向上を図った。またカザフスタン、ラトビア、ケニア、ウズベキスタン、中国各国の高等教育機関に対して日本語教育機材を供与することで、日本語の普及のみならず、今後の日本との関係発展を担う人材育成に貢献した。更に、イエメン、タジキスタン、アゼルバイジャン等に対して柔道器材や空手器材、また、琴欧州が所属するブルガリアの相撲連盟に対して相撲器材の供与を行うなど、被供与国における日本の国技を含む日本伝統武道の振興に留まらず、対日理解・親日感の更なる向上につながりうる、まさに「日本の顔」を前面に出す支援を実施した。これらの案件はいずれも被供与国側より高い評価を受けたところであり、特にブルガリア相撲連盟に対しては、名誉会員である琴欧州関に麻生外務大臣自らが目録を進呈することで我が国のみならずブルガリアにおいても幅広く報道され、今後の同国における相撲振興とともに、対日関心の向上に大きく貢献したと思われる。
以上の他、アジア、中近東、アフリカ、中南米、CIS、東欧バルト諸国に対して文化施設や教育機関における文化・教育活動に使用される視聴覚機材等を供与し、今後日本と各国との文化交流を更に深化させていく上での拠点を拡充した。
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事業の総合的評価
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○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
1.理由
文化無償資金協力は、開発途上国の民主的国造りや経済・社会的安定の過程を歩む上で精神的な拠り所となる独自の文化や教育の振興に留まらず、日本と被供与国との間の文化交流や日本に関する広報・情報発信の拠点を拡充し、国際場裏における我が国立場に対する各国からの支持を確保する上でも不可欠の外交手段となっており、拡充・強化が必要である。
2.今後の方針
(1) 日本番組ソフト、日本語教育、日本武道といった分野での機材供与や日本に関する情報発信の拠点となりうる施設の整備等、「日本の顔」のアピールに直結する案件を優先的に実施していくことにより、同国における教育振興等における日本の存在の重要性を強調しつつ、開発途上国の対日理解と親日感情の更なる向上に努めていく。
(2) 娯楽の少ない開発途上国にあって、同国国民の精神文化の源とも位置づけられる劇場等文化施設に対してその効果的演出等に必要な機材の供与を行っていくことにより、日本側への協力姿勢を引き出し、これら文化施設を日本との文化交流・情報発信の拠点として引き込んでいくと共に、これら文化施設において在外公館文化事業等を積極的に展開することにより、日本文化の魅力や文化無償の意義を印象づけ、もって、開発途上国の文化振興における日本の重要性に対する理解を深めさせていく。
(3) 過去案件の中で、長期にわたり有効利用され、供与目的を十分に達成したと思われる案件のうち、補修等を行うことにより更に長期にわたる有効利用が見込まれる案件については積極的に対応する。
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事務事業名:文明間対話
事務事業の概要
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世界には現在も様々な対立が根強く存在している。その主たる原因の底にあるものは、現在の世界のシステムの下では正義や公正が十分果たされていないという途上国市民の不満と近い将来にこうした事態が改善する見通しがないという絶望感である。一部の過激な非国家組織は、本来は人に安らぎを与え精神の救いを追求するものである文化や宗教を、自らの「標的」への憎しみを植え付けるために利用し、これら途上国市民の絶望感に訴えつつ、現在の体制に挑戦するためのネットワークの拡大を図ろうとしている。
こうした中で国際社会は、真の平和を達成するには、途上国が各々の国に相応しい方法で持続的な発展を遂げることを支援する枠組みの構築によって、途上国市民、特に若者に希望と充実感を持たせ、一部の狂信的テロリストを世界の若者から分断し、多様な文明の尊重、受容の世紀へと世界を導くことが必要である。
また、日本は、明治以降急速に流入した西欧文化を吸収し近代化を達成しつつも、一定程度、伝統的価値観を維持することに成功している。日本はこうした自国文化の特性と発展の経験を基にして、グローバル化の下で経済社会開発を急速に進めなければならないという要請と文化的アイデンティティーを守ることとの間のジレンマに悩む開発途上国に対し、日本の特性を活かした協力を行うことができる。
このため、我が国は、各国で行われている文明間対話の取組に積極的に参加しつつ、知的対話の場を設定することによって、国際社会の平和と安定のための幅広いイニシアチブを積極的にとる日本外交の奥行きの深さを示すとともに、近代化と融合してきた日本の経験を、世界に発信することを目的として、平成17年度は、「世界文明フォーラム2005」の実施や第三回中東文化交流・対話ミッションの派遣を行った。
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有効性
(具体的成果)
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(1)世界文明フォーラム2005
日本の近代化に関する経験は、グローバル化の進展の中で自らの文化的アイデンティティの維持に悩む途上国市民にとっても参考になると思われるので、全世界的な知的対話の場を通じて、日本及び各国の近代化を巡る経験を相互にシェアし、途上国が各々の国に相応しい方法で持続的な発展を遂げることを支援する枠組みの構築への貢献を行うことが重要である。また、日本が各国の文化を受容してきた経験は、多様な文明の尊重、受容の世紀へと世界を導くための一助になると思われるので、国際社会に存在する「対立の構図」を長期的視野に立って和らげるための知的議論への貢献を行うべきである。
これらの政策的考慮を背景にして、21世紀の開発途上国の若者に将来への希望を持ってもらうかについて世界の各地域を代表する有識者に議論してもらうため、独立行政法人国際交流基金、総合研究開発機構(NIRA)、国際連合大学共催で、2005年7月21日から22日にかけて「世界文明フォーラム2005」を開催した。同会合には、セン・ハーバード大学教授(全体議長)、カウンダ・初代ザンビア大統領、ゴサイビ・サウジアラビア経済企画大臣、アブタヒ・イラン宗教間対話センター総裁(ハタミ大統領、韓・韓国元外交通商部長官、フクヤマ米国ジョンズ・ホプキンス大学教授(肩書きはいずれも当時)他世界の全主要地域(13か国)から様々な分野を代表する有識者14名、日本からの有識者7名、若手国会議員3名、計24名が出席した。
出席者は、2日間にわたり、「グローバル化する世界における正義・公正・平等のためのパートナーシップ」、「潜在能力の拡大としての開発:正義・自由・福祉へのさまざまな道」、「グローバル化時代の芸術」の3つのテーマについて意見交換を行った。本フォーラムにおいては、参加者間で終始積極的な意見交換が行われ、各参加者からは我が国のリーダーシップに対して強い期待が示された。
本フォーラムは、特定の宗教や民族を対象とせず、内容も政治、経済、文化と多岐にわたり議論が行われたこと、更に20~30歳代の青年(外務省の招へいプログラムで滞在中のグループ)からの発表を行ったこと等、他の文明間対話の取組には見られない特徴を有し、21世紀の新たな文明形成に向けての我が国の強いリーダーシップを内外に示すことが出来た。
(2)第三回中東文化交流・対話ミッション
平成17年9月に、トルコ(アンカラ、イスタンブル)、サウジ(リヤド)、チュニジア(チュニス)に6名のミッションを派遣し、公開シンポジウムや政府要人、学事識者、文化人等との意見交換を通じて、伝統的価値と近代化の相克に係る日本の経験を紹介、その中東にとっての有用性や中東諸国が現在直面する問題の克服、地域の平和と繁栄への寄与のあり方等について議論を行った。事業内容は、トルコでは、「ラディカル」紙、サウジでは「ジャジーラ」紙、チュニジアでは「アッシュルーク」紙を含む各国主要紙で数多く報道された。3回目を数える本ミッションは、過去2回の成果と経験を踏まえ、日本の近代化の経験を一方的に伝えるのではなく、双方向の対話・意見交換により、深いレベルの議論を交わすことができた。そうした意見交換や議論の過程や成果を踏まえ、対中東文化政策指針が「報告と提言」としてまとめられた。なお、「報告と提言」は11月初旬に小泉総理に対し提出され、総理より日本にとっての中東が持つ重要性や、文化交流を通じた中東との関係強化の必要性について言及された。
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事業の総合的評価
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○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
(理由及び今後の方針)
「世界文明フォーラム2005」、「中東文化交流対話ミッション」等既存の取組の成果及び、これらの文明間対話の取組については継続的に実施することによりその効果が発露することを考慮しつつ、今後の取組のあり方について検討する。
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【評価をするにあたり使用した資料】
資料をご覧になる場合は、外務省ホームページ(
http://www.mofa.go.jp/mofaj)のフリーワード検索に資料名を入力し検索をしていただくか、各国・地域情勢をクリックし、当該地域→当該国と移動して資料を探してください。また、国・地域政策以外の分野・政府開発援助につきましては当該外交政策を選び、資料を探してください。