I.実施計画に基づく事後評価
1. 地域・分野
10-5 海外の日本企業支援と対日投資の促進
経済局政策課長 越川和彦
知的財産権侵害対策室長 相馬弘尚
平成18年4月
施策の目標
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日本企業の利益の増進に対する側面的支援及び対日投資の促進等を通じた日本経済の構造調整と活性化 |
施策の位置付け
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(1)知的財産権
- 経済財政運営と構造改革に関する基本方針(「骨太方針」)2004、2005に言及あり。
(知的財産戦略本部が策定した「知的財産推進計画2005」にも言及あり。)
(2)日本企業支援全般
- 第163回国会の外交演説の中で言及あり。
(平成17年度大使会議において、企業支援は国連改革と並んで主要テーマの1つに位置づけられた。)
(3)対日投資
- 第159回、第162回、第164回国会の総理施政方針演説の中で言及あり。
- 経済財政運営と構造改革に関する基本方針(「骨太方針」)2003、2004、2005に言及あり。
(平成18年3月9日、対日投資会議(議長:総理)において、2010年までに対日直接投資残高をGDP比で倍増させる新しい目標を策定。(これまでの目標は、2001年末対日直接投資残高(6.6兆円)を2006年末までに倍増させるというもの。))
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施策の概要
(10行以内)
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日本経済の足腰と競争力強化のために、海外で活動する日本企業に対し、その知的財産権保護のための協力を含め、事業活動一般についても支援を行う一方、対日投資の促進を通じ、その牽引力である民間の活力を最大限に引き出すための取組。
(1)知的財産権
模倣品・海賊版拡散防止のための法的国際枠組の提唱、各在外公館に任命する知財担当官の対応力の強化等、海外における知的財産権保護強化に向けた取組。
(2)日本企業支援
現地政府・当局への働きかけ、在外公館施設の活用、事業相手方とのトラブル解決のための支援等、個別案件への支援も実施。また、経済団体・メディアとの頻繁な意見交換。
(3)対日投資
(イ)内外への情報発信、(ロ)企業事業環境の整備、(ハ)行政手続きの見直し、(ニ)雇用・生活環境の整備、(ホ)地方と国の体制・制度の整備の5つの重点分野を柱にした「対日投資促進プログラム」(2003年3月策定)に基づき、種々の取組や施策を実施。当省は、在外公館のネットワークの活用、種々の外交の場をとらえた我が国の取組の紹介、租税条約や社会保障協定の締結や交渉等を通じて、対日投資の更なる促進に努めている。
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【施策の必要性】
グローバル化が進展する中、「ヒト、モノ、カネ」の移動は世界規模で一層活発になっており、これに伴い、企業も様々な形で国境を越えた活動を一層活発化させてきている。政府として、日本企業の経済的利益を増進し、我が国経済の足腰と競争力を強化していくために、日本企業にとっての海外におけるビジネス環境を一層整備するとともに、個別企業の活動を支援していくことが求められている。
近年、模倣品・海賊版がアジア地域を中心に広く流通し、その被害は拡大している。日本製品についてもその例外ではなく、日本企業は、海外市場における潜在的な利益の喪失も含め、深刻な悪影響を受けている。このため、我が国は、外交の場などを通じて、知的財産権の保護強化及び模倣品・海賊版対策のための協力について、各国への働きかけを行う必要がある。
対日直接投資は、雇用の拡大や、新しい商品、サービス、ビジネスモデルを日本にもたらす等、日本経済の活力増進につながる有効な手段であるが、現在、諸外国と比較して著しく低い水準にとどまっている。このため、対日直接投資の拡大を正面からの目標とし、政府一体となって種々の推進策を鋭意実施・実行していく必要がある。
【施策の有効性】(目標達成のための考え方)
国内外の各種関係機関や経済団体等との意見交換や協議を通じ、日本企業が海外で円滑に活動するため、その知的財産権保護を含めた民間のニーズの把握に努めた上で、以下のとおり、投資環境の充実やビジネス環境の整備を推進することは、日本企業の利益の増進や日本経済の足腰・競争力の強化のため有効である。
(1)海外における知的財産権保護強化のための施策
模倣品・海賊版拡散防止のための国際的な法的枠組み構想につき、各国に対し継続的に働きかけることにより、模倣品・海賊版対策に向けて各国との協力関係を築くことが期待できる。また、日中、日米、日EU間の二か国間の対話を継続することにより、海外の模倣品・海賊版対策を促進し得る。また在外公館に任命する知的財産担当官の対応力を強化することにより、海外における日本企業支援及び各国との連携を促進することが期待できる。
(2)日本企業支援の現状
日本企業支援をより効果的に行うため、平成11年に策定した「日本企業の海外における活動支援のためのガイドライン」を平成17年12月に全面的に改訂し、これまで以上に積極的な対応をできるようした。また、在外公館施設を可能な限り積極的に活用するために、官民それぞれが適切な形で経費負担することが可能となる。
(3)経済外交を通じた二国間の経済関係強化による対日投資の促進
2005年末の対日直接投資残高は前年比4,000億円増の10.5兆円(一次推計値)まで伸びた。(2003年に策定した「残高5年倍増計画」の起点となる2001年末時点からは約4兆円伸びており、順調な増加基調を描き続けている。)
【施策の効率性】(3行以内)
関係省庁や機関と一体となって取り組んできた結果目標達成に向けて進展があったことは、手段が適切であったことを示している。
【投入資源】
予算 |
平成17年度 |
平成18年度 |
― |
15,460 |
単位:千円
(注)本省分予算
人的投入資源 |
平成17年度 |
平成18年度 |
14 |
14 |
*日本企業支援に関しては、省内各地域局と緊密に連携して業務を行っている。
単位:人
(注)本省分職員数(定員ベース)
【外部要因】
我が国の経済動向など外部的要因に左右される面を有している。
施策の評価
【平成17年度に実施した施策に係る評価の考え方】
通常の評価を行う。
【評価の切り口】
(1)外交関係を通じた我が国民間企業の知的財産権の保護の態様
(2)日本企業支援の現状
(3)経済外交を通じた二国間の経済関係強化による対日投資の促進
【目標の達成状況(評価)】
(1)外交関係を通じた我が国民間企業の知的財産権の保護の態様
模倣品・海賊版対策のためのネットワークづくり:「知的財産推進計画2005」に沿って、外交ルートを通じて、模倣品・海賊版拡散防止のための法的国際枠組みの提唱、在外公館における知的財産担当官任命等を通じた対応の強化、日中、日米、日EU間での対話の継続、G8サミット、APEC、OECD等における複数国間での模倣品・海賊版対策へ向けた積極的働きかけ、WTO・TRIPS協定に基づく中国に対する情報提供要請を行ってきた結果、世界各国・各地域より模倣品による被害状況の報告が集まる他、模造品・海賊版対策のための他国との協力が深まり、模倣品・海賊版拡散防止のための法的国際枠組みにつき、各国に対して一定の理解が浸透しつつあること等の効果があり、目標に向けて進展があった。
(2)日本企業支援の現状
我が国の各国大使館・総領事館からの報告などから明らかなように、ビジネス環境の整備、現地政府による不公正な待遇の是正、人脈形成や情報提供などの観点から大きな成果をあげてきている。また、国内においても、経済団体等との意見交換など各種機会において、当省の取組をアピールするとともにニーズ把握にも努めた結果、個別企業への一層の対応や官民共催での在外公館施設の活用等が可能となり、外務省の取組を高く評価する実績報告が多くあった。
このような活動は、以下のような租税条約、社会保障協定の締結及び交渉と相まって、海外で活躍する日本企業の活動を支援することとなっている。
- 租税条約については、英国、インドと署名済。オランダ、フランスと交渉中。
- 社会保障協定については、ベルギー、フランスとの協定は(我が国国会承認済で)先方側の議会承認待ち。カナダと署名済。豪州、オランダと交渉中。その結果、相互投資促進の効果があり、目標に向けて進展があった。
(3)経済外交を通じた二国間の経済関係強化による対日投資の促進
(イ)在外公館のネットワークの活用: 在外公館を通じ、現地の政府要人や経済界に対する積極的な広報を実施。また、ジェトロ等と連携し、対日投資に関するセミナーやシンポジウムを開いている。(例:在外公館やジェトロ等が関係したセミナーやシンポジウムは平成16年度は20か国120回、平成17年度は16か国84回開催された。)また、主要在外公館長には「我が国経済の一層の活性化・強化のため、対日投資に関する広報及び有望案件の発掘等に努める」よう訓達している。海外において「インベスト・ジャパン」イニシアティブの認知度を向上させる効果があり、目標に向けて進展があった。
(ロ)種々の外交の場をとらえた我が国の取組の紹介: 「日米投資イニシアティブ」や「日・EU双方向投資促進のための協力の枠組み」、またその他国際会議等での議論の場をとらえて我が国の取組を鋭意アピールした結果、諸外国政府が我が国の投資環境整備に関する取組に対する理解を深める効果を生んでおり、目標に向けて進展があった。
【評価の結果(目標の達成状況)】(類型化した表現で自己評価する)
「目標の達成に向けて相当な進展があった。」
(理由)
(1)模倣品・海賊版拡散防止のための法的国際枠組み構想の議論を中長期的に継続していくことについてG8の専門家レベルの理解を得た。
(2)在外公館より、企業支援の実績報告が多くあった。
(3)2005年末対日直接投資残高が10.5兆円(一次推計値)まで伸びた。
【今後の課題】(評価の結果、判明した新しく取り組むべき課題等)(2行以内)
(1)模倣品・海賊版拡散防止のための国際的な法的枠組みの議論を深化させる。
(2)知財担当官会議の開催等を通じ知財担当官の対応力を強化する。
(3)在外公館と本省との情報共有と双方向の意志疎通を一層強化するため、日本企業支援ホームページを刷新し、ベスト・プラクティスの策定、関連情報のデータベース化を図る。
(4)2010年までに対日直接投資残高をGDP比で倍増させる新しい目標の達成に向けて、対日投資の一層の促進に取り組む必要がある。具体的には、対日投資会議専門部会が6月までに策定する予定の新しい対日投資促進プログラムの実施に協力していく。
政策への反映
【一般的な方針】(2行以内)
(1)更なる企業支援体制充実のため、日本企業支援ホームページの刷新による情報ネットワークの強化や、日本企業支援センター(仮称)の設置等、より相談しやすい体制の構築を目指す。
(2)6月までに対日投資会議専門部会で新しい対日投資促進プログラムを策定し、新しい目標の達成(2010年までに対日投資をGDP比で倍増させる)に向けて、鋭意取り組む。
【事務事業の扱い】
- 海外における知的財産権保護強化に向けた取組→拡充強化
- 日本企業による海外展開の積極的なバックアップ→拡充強化
- 2001年の対日投資残高を2006年までに倍増するための取組→拡充強化
【平成19年度予算・機構・定員要求への反映方針】
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予算要求
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機構要求
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定員要求
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反映方針
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○
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―
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○
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【第三者の所見】(施策に通じた有識者による当該評価に関する所見とする。)
石戸光 千葉大学法経学部助教授(国際経済論)
外務省の本分野における取り組みについて、国際経済の視点からコメントを行う。国境を意識しないグローバルな企業活動がますます展開する中で外務省の行っている施策「海外の日本企業支援と対日投資の促進」およびこれに関する3つの取り組みは、総じて妥当かつ時宜を得たものと考えられる。以下項目ごとにコメントを行う。
(1)海外における知的財産権保護強化のための施策
知的財産権の保護は、金融危機や感染症への対応等と共に一国のみの取り組みで解消される問題ではないため、G8の専門家レベルでの法的な国際枠組の構想に関する意見交換の開始は適切なステップであろう。今後はそのような会合でさらに議論を深め、知的財産権の保護を求める企業の本国と模倣生産を行う企業の出身国との双方が合意できる最低限の枠組みであるWTO・TRIPS協定を徹底しつつも、さらにハイレベルのルール作りが求められよう。また中長期的には、単に模倣活動を行う企業の罰則による国際的な取締りの強化のみならず、模倣活動に代替する独自の生産活動を支援していくようなプラスの経済的インセンティブの付与も併せて検討することは、現在被害を受けている企業および加害者としての模倣企業双方に積極的なメリットがあろう。
(2)日本企業支援の現状
在外公館のネットワークを官民共同で活用することのメリットは非常に大きく、現在の外務省の本分野における取り組みは適切なものであろう。ただ外務省の有する限られた予算および人的資源を鑑みると、今後の課題として挙げられている日本企業支援ホームページの作成にあたっては、刻一刻と変化する海外の企業活動環境を遅滞なくフォローすることにはおのずと限界があろう。しかし外務省の強みは公的な対外プレゼンスを示せる点にあるため、情報の取りまとめと一元管理を外務省が行いつつ、ジェトロや商工会議所、さらには個々の企業の有するベスト・プラクティスの経験や海外企業活動環境に関する情報発信の権限をある程度全ステークホルダーに分散させて行っていくと良いように考えられる。(例えばインターネット上の分散型データベース”Wikipedia”のようなものが望ましいのではないか。)
(3)経済外交を通じた二国間の経済関係強化による対日投資の促進
外国企業の対日投資にあたって障害となっているのは、設立コストなどの直接経済的な要因以上に、フォーマルな法制度やインフォーマルな商習慣の国際的なスタンダードとの相違であろう。そして国際的なデファクト・スタンダードが日本独自のスタンダードと異なる場合には、前者に後者を収斂させていくことが日本の国益となろう。施策の概要に掲げられている「対日投資促進プログラム」の5つの重点分野はそれぞれ適切な切り口であり、このことを反映したものといえよう。外務省においては、対外的な租税条約や社会保障協定の締結などの取り組みに関する情報発信と同時に、経済産業省等と連携しつつ、国内日本企業に対しても外国企業の対日投資の積極的な意義を周知させていく必要があろう。
【評価総括組織の所見】(評価に関する技術的な所見とする。)
知的財産権の保護、日本企業支援全般、対日投資の促進について、二国間、多数国間双方の枠組みでの協力の関係の進展や、租税条約・社会保障協定締結等に見られる我が国企業の活動環境の整備の進展、我が国投資環境の海外での認知度の向上等、多角的な観点からの成果について適切に評価が行われている。
【事務事業の評価】
事務事業名:海外における知的財産権保護強化に向けた取組
事務事業の概要
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模倣品・海賊版拡散防止のための法的国際枠組みの提唱、在外公館における知財担当官の任命・対応力強化等、海外における知的財産権保護強化に向けた取組。 |
有効性
(具体的成果)
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- 模倣品・海賊版拡散防止のための法的国際枠組み構想の議論を中長期的に継続していくことについてG8の専門家レベルの理解を得た。
- 在外公館より、企業支援の実績報告が多くあった。
- 2005年末対日直接投資残高が10.5兆円(一次推計値)まで伸びた。
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事業の総合的評価
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○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
(理由と今後の方針)
近年、模倣品・海賊版による被害は深刻化・拡大している。海外における日本企業の模倣品被害額推計値(売り上げベース)として、中国における被害は約9兆円、台湾及び韓国でそれぞれ3兆円、タイで約2兆円が報告されている。したがって、引き続き関係各国と協力しつつ、その対策を強化していきたい。
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事務事業名:日本企業による海外展開の積極的なバックアップ
事務事業の概要
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日本企業支援窓口を通じた相談・支援など日本企業の海外展開への積極的なバックアップ。
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有効性
(具体的成果)
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在外公館からの四半期毎の定期報告などにおいて、現地での情報入手、人脈形成への協力、現地政府に対する是正の申し入れ等のケースについて、多くの具体的な報告があり、企業支援が有効に行われていることが確認された。
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事業の総合的評価
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○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
(理由と今後の方針)
一定の成果は出ているものの、我が国のEPA推進などにより、今後一層日本企業の進出が見込まれており、これまで以上に細かい対応を期待されている。
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事務事業名:2001年の対日投資残高を2006年までに倍増するための取組
事務事業の概要
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2001年の対日投資残高を2006年までに倍増するための取組。 |
有効性
(具体的成果)
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2004年末の対日投資残高(一次推計値)が10.5兆円となり、目標に向かって着実に進展していることが確認された。
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事業の総合的評価
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○内容の見直し ○拡充強化 ○今のまま継続 ○縮小 ○中止・廃止
(理由と今後の方針)
新しい目標として、2010年までに対日投資残高をGDP比で倍増させることを目指すこととなった。
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