平成19年8月
平成19年度外務省インターン生、小野愛子(大阪大学大学院国際公共政策研究科)、志築左和子(上智大学比較文化学部)、西村晃代(京都大学公共政策大学院)、森真衣(同志社大学法学部政治学科)の4名が集まり座談会を開きました。実習内容から外務省のしくみまで、インターン期間中に感じた思いを自由に語り合った記録です。
西村: 私は外務省への入省を目指しています。今回インターンに応募した理由は、外務省での仕事を体験したいというよりも、外務省で働く人たちを見てみたいという気持ちからでした。
小野: 私も将来の一つの選択肢として、外務省入省を考えているので参加しました。
志築: 私の場合は民間企業や外務省などに関係なく、働いている人たちの中に身を置き、「職場」というものを体験してみたかったのです。だから外務省の特定の業務に関心があったわけではありません。インターンを募集している課室の仕事内容を見て、その中で興味がわくものを選びました。民間企業でもインターンをするので外務省との職場の違いも自分なりに見つけたいと思います。
森: インターンの募集を聞いた時に、自分は将来外務省で働くことはないだろうと思ったので、逆にそんな経験ができるのは学生の今しかないと思い応募しました。将来は、民間企業で報道や広報を専門に就職をしたいと思っているので、その前に外務省は「日本」という国をどう発信しているのか知りたかったのです。
森: 私は、国内広報課で実習をしました。日本の外交政策や外務省のことを国内に向けて広報している部署です。パンフレットの作成や大学・高校での省員による講座、フォーラムなどを企画し、実施しています。インターン期間中には、「キッズ外務省スペシャル2007」(夏休み子ども見学デー)という子供向けのイベントが開かれ、そのお手伝いをしました。実習中に力を入れたことは、外務省のホームページにある「キッズ外務省」の「みんなの質問」というコンテンツの改訂です。広報という仕事の一部を任せてもらいました。実際に子どもたちから寄せられた疑問を参考に、質問項目の見直しや回答の原案を作成しました。そういった作業に当たり、課の方との話し合いを重ねました。また「インターンが見た外務省」というページを作成しました。その企画の一環がこの座談会です。
小野: 私が実習をしたのは、国際協力局政策課です。国際協力局の事務に関する総合的な調整をしている部署です。私がしている仕事は、ODAを国民に理解してもらうためにODAの状況を分析し、日本の取り組みに対する改善案を考えること、外務省ホームページの英語版に対する改善案を作ることです。私の作った改善案は、課として改善案を取りまとめる際の参考にしてもらいます。それから今、取りかかり始めたのが、最近10年間くらいのサミットやG8でODAがどう扱かわれているかをピックアップして、来年の洞爺湖サミットに生かすということです。
西村: 私は、総合外交政策局の政策企画室にいます。課の仕事内容は、地域や国単位の個別の政策ではなく、中長期的な視点に立って、日本の外交が今後どういった方向に向かうべきか、というような広範囲な政策立案をしています。「自由と繁栄の弧」という日本の外交の新基軸を中心に外交政策を立案し、「外交青書」の取りまとめもしています。また、政策を政策企画室が立案するに当たっては、各部局と調整を行っています。私は実習中ずっと政策の基礎データとなるリサーチペーパーの作成をしていました。
森: 省員の方たちは、日常的に政策提言やリサーチペーパーの作成をしているのですか?
西村: 普段は、学者や研究者の方との意見交換のための勉強会をコーディネートすることや民間のシンクタンクから政策提言として提出されたものをまとめて各課に情報提供すること、大臣のスピーチに関することなどをしています。何かの政策を立案するにあたっては、チームを組んで長い時間をかけてやっていきます。
森: 国内広報課は、チームというよりは一人一人に担当があって、例えば同じ講演会でもこの人は省員の方が行う高校生向け講演会、この人は大臣が行う一般向けの講演会担当と分かれています。在外公館と連絡を取り合うというよりも、担当する仕事によって民間の人たちや学校と話し合って仕事をされていると聞きました。だから、ひとつのチームとしてより、担当ごとに動いているという感じがします。同じ部屋にいても忙しい時期が、人それぞれで違うみたいです。
志築: 私がいる文化交流課は、特に「ポップカルチャー」を通じて海外に日本のファンを増やそうと取り組んでいる部署です。日本のポップカルチャーは、世界で人気があって海外でイベントを開くとすごく集客力があります。ポップカルチャーのいい点は、次世代を担う子ども達がまずファンになってくれ、さらに大人にもファンになってもらえるかもしれないという点です。また、日本に好意を持ってもらうことで、外交で何か起こっても争いは起こりにくいというメリットもあります。でもまだ自分の好きなアニメが日本で作られたことを知らない人たちも多く、文化交流課ではこれまで以上に日本のポップカルチャーを広めていこうと取り組んでいます。
森: そこで志築さんは、どんな実習をしていたのですか?
志築: 在外公館から送られてくる現地でのファンのイベント情報やファン組織、日本のポップカルチャーを学位として学べる所があるかどうか、その国がポップカルチャーを使って広報をしているかという調査をまとめました。日本なら名探偵コナンを使ったパンフレットを作っています。また、ホームページの「ポップカルチャー」という新しいコンテンツ項目の案を考えました。
森: そのパンフレットは私のいる国内広報課が、子供向けに外務省のことを知ってもらうために作っていたりします。課の紹介や実習内容を聞いていると、みんな自分のインターン先の仕事に興味を持って熱心に実習に取り組んでいるのですね。
西村: 外務省の方たちは、夜を徹して働いているというイメージを持っていたのですが、毎日がそういった勤務ばかりではないことが分かりました。外務省の仕事は、国会の動きと連動する部分が多くて、8月は国会が休会中だからという影響もあるそうです。
志築: 私が実習をしている文化交流課は、ポップカルチャーの活用をどのようにしていくかに力を入れているので今とても忙しいです。中米課も大臣が、中南米に訪問をしているのですごく忙しいみたいです。
小野: 私は省員の方に、今は予算関連作業の時期、政策の基本的な部分を作らなければいけない時期だから、政策立案の担当者は忙しいと聞きました。
森: 省内には、泊まる部屋やシャワー室があったり、終電での帰宅が当たり前の時期もあるみたいですね。
西村: 私は、外務省はスーパーエリートの人たちばかりが働いている近寄りがたい場所だというイメージを持っていました。でも実際働いてみると、さまざまなバックグラウンドをもった職員で協力しあっていることがわかり、とても親しみの持てる職場だと感じました。
小野: 「お役所」という堅い感じはないかもしれませんね。
志築: 民間企業ならOB訪問などで社内に入れる機会もあるけれど、外務省には普段なかなか入る機会がなく、イメージがしにくい職場ではないですか?今回、省員の方たちと机を並べて働くことができ、外務省がどんな所かが分かったということが一番得られて良かったことだと思います。実際はテレビで写っているほど怖い印象はなく、和やかなところだと思いました。働いてみて外務省に対して親近感がわきました。
小野: 外務省見学デーなどで入れるけれど、会議室に入って話を聞くだけだから、普段の働く様子を見られるわけではないですよね。
志築: 私は、実習を通して大臣の役割について考えさせられました。今まで、大臣というのは短期間で代わるし、省庁に対してそんなに影響を与える存在ではないのかなと思っていました。でも、本当は外務省という組織に大きくコミットしていてその重要性を感じました。
西村: 特に私のいる政策企画室は、総合的な政策立案をしているので、大臣の意向が大きく反映されるようです。
小野: 予算に関しても、他省庁や外国政府と協議をしながら、ODAの予算をどう増やすかを模索していて大変そうでした。
森: 私は、今までニュースなどで「交渉決裂」や「NGO」「ODA」と聞いても、自分とは直接関係のない話だと思っていました。でも外務省で働いてみて、身近に外交政策を扱っている人がいるので、ニュースを見ていても興味のわき方が以前とは全く違います。
志築: 今回インターンをするまで、社会人の方たちが普段どんなふうに働いているかというイメージがありませんでした。実際に自分が、社会人として働いてみて、働き方やワークスタイルというものが分かった気がします。
西村: 社会人として仕事をする事は、想像していたより自由な気がしましたが、大学に通いながらアルバイトで働くこととは、やはり大きく違うと思いました。
森: 実習が進むにつれて、仕事の仕方が分かってきて自分なりに工夫をするようになり、今は仕事がとても楽しいです。きっとどこで働いても、その仕事にやりがいを見出せるかは、自分次第だと思うようになりました。
小野: インターンが始まる前は、実習生に任される仕事は雑務が多いのかと思っていました。でも自分の作った資料や提案を省員の方たちに見てもらい、意見交換会の場での一案にしてもらえることにとてもやりがいを感じました。
志築: 私も自分の作った資料に、「大臣」というハンコが押された時には驚きました。私が作ったものをそのまま大臣に見てもらえる事に感動しました。
森: 私も自分の作ったコンテンツが、外務省のホームページに掲載されて残ることがとても嬉しいです。
西村: 実習中、私はリサーチペーパーを作成していたのですが、インターン生は情報セキュリティーの関係で省員の方と同じデータファイルが見られなくて少し困りました。
志築: 私もパソコンは、専用に使わせてもらえましたが、最初プリンタと繋がっていなくて印刷ができず困りました。省員の方が忙しく仕事をしている姿を見て、迷惑をかけてはいけないと思い、プリンタの接続のことをなかなか切り出すことができませんでした。
西村: リサーチペーパーの作成にあたって、意見交換会を開いてもらえたり、外務省ではどう考えているかという話を聞かせてもらえたりしたので書き上げられた気がします。ただ、一人の作業も多かったのでその点は少しつらかったです。
森: 私は広報としてすべき事が決まっていて、決裁期限を見越してある程度、細かい作業の締め切りが分かっていたのでやりやすく感じました。
小野: リサーチペーパーやレポートの作成でも、細かい作業の段取りが分かっていると、自分で時間を調整し、他の部局に意見を聞きに行ったり、新しい試みをすることもできるかもしれないですね。
志築: (部屋に積まれたダンボール箱を指差しながら)「メキシコ、APEC、ASEAN」って、あのダンボールに書いてあるけれど、普段はあんな言葉をニュース以外で見ることはあまりないですよね。
小野: この前、課長が大使館の方とグローバルフェスタ(国際協力に関する参加型イベント:07年は10月6,7日に日比谷公園で開催)について連絡を取り合っていて、私はその話を聞いていて外務省は世界の国々と日本をつなぐ窓口だと再認識しました。
森: 最初は、外務省の仕事は意外に地味だと思ったのですが、そういったコツコツとした業務の積み重ねが、日本や世界を動かすことにつながっていると思うと、すごくやりがいのある仕事だと感じました。
志築: 今までは、例えば外務大臣が「どこかの国を訪問しました」というニュースを見ても、「へぇ、外国訪問か、いいな。」くらいにしか思っていませんでした。でも外務省の中でいろんな人たちが関わって外遊の準備をして、外遊の期間中には本省で待機し随時連絡を取り合い、本当に大変なんだということに想像がつくようになりました。これからは、そういったニュースにも絶対に注目するようになると思います。
森: 外務省でインターンをしていなかったら、こんな話題を熱く語ることはなかっただろうね。
志築: 本当に確かなことが見えているかどうかは分からないけれど、インターンをする前とした後では、明らかに自分の変化を感じます。世界の国々に対する知識も身につき、外務省の役割というものが分かったような気がします。
森: 私も実際に外務省で働いて、仕事の責任を任され、いろんな新しい事に触れたことで自分の成長を感じます。短い期間でしたが、それぞれが何かを得たインターンになったと思います。