9月19日(水曜日),外務省インターンシップ実習生9名による省員インタビューを行わせて頂きました。
今回のインタビューのお相手は,国際貿易課の三角さんと経済連携課の齋藤さんです。
お二人はWTOやFTA・EPAなど,昨今話題になっている業務に関わっておられるため,是非そのような日本の重要な外交政策について実務の方からお話をお聞きしたいと思い,インタビューさせて頂くに至りました。
またそれだけでなく,外務省以外の組織での勤務経験もお持ちのため,内だけでなく外から見た外務省,という客観的な観点からの意見もお聞きしました。
三角さん:大学卒業後,放送局に約5年間勤務した後,国際広報を学ぶために米国の大学院に留学し,修了後は米国系企業で広報業務を担当しました。その後,在ニューヨーク総領事館の専門調査員を経て,2010年4月に外務省に入省しました。最初の配属先はアフリカ第二課で,主にTICAD(アフリカ開発会議)関連業務に携わりました。2011年末からは国際貿易課にてWTO関連の業務に携わっています。
齋藤さん:2003年に外務省に入省しました。本省での研修,米国での在外研修の後,米国の日本大使館にて在外勤務を経験しました。帰国後,経済連携課に配属となり,インドやペルー等との経済連携交渉を担当しました。その後,日米外交官交流というプログラムを通じて米国の国務省にて勤務し,APEC関連業務を担当しました。約1年間の国務省勤務の後帰国し,本省の経済連携課に戻り,再び経済連携に関連する業務に携わっています。
齋藤さん:簡単な例を挙げれば,国務省では,省員の多くに個室や仕事用のブラックベリーが支給され,仕事をする環境が外務省とは大きく異なっています。また,政治任用の方々を含め,職員の経歴が多様であり,その多様性からくるダイナミズムも感じました。
三角さん:私は経験者採用で外務省に入省したため,日本の外交に自分がどのように貢献できるかということを特に意識しています。外務省には,入省前に想像していた以上に人材の多様性があり,民間企業や他省庁からの出向者も多く働いています。日本のジョブマーケットが変化するのに伴い,今後さらに多様性が増すといいですね。
齋藤さん:経済連携課は,EPAやFTAなどを締結するための交渉に当たって,関係省庁との調整や協議を行い,交渉における日本の立場を作成し実際に交渉を行う中心的な役割を担っています。交渉相手国がそれぞれの交渉で異なるため,交渉で争点となる論点も異なるのですが,自分の担当する分野が非常に大きな争点となり,関係者との綿密な協議を経て作成した案で問題の解決がなされる際には,とてもやりがいを感じます。
三角さん:私が勤務する国際貿易課は,主にWTO関連の政策を扱っているので,EPAやFTAに直接関わることは多くありません。ただ,先ほど齋藤さんが関係省庁等との調整について話していましたが,EPAやFTAの締結に当たっては,WTO協定から逸脱していないかといった点を確認することも必要です。WTOといえば,最近は中国のレアアース輸出規制に見られるように紛争解決機関としての機能は果たしているものの,ドーハ・ラウンド交渉はなかなか進展していません。こうした中,二国間協定や地域協定を推進する動きが活発化しており,WTO体制が危機に瀕しているという意見があることも確かです。157(2012年9月時点)もの加盟国が共通したルールを作っていくのは各国様々な事情を抱えていますので簡単ではありませんが,時間をかけても合意を目指すことには大きな意義があるという加盟国の一致した認識のもと頑張っています。
三角さん:民間,官庁と一口に言っても実際には多様ですから,一概に比較することはできません。霞ヶ関にも競争はありますし,他の国々との競争だってないわけではありません。むしろ競争の結果生じるリスクをどう捉えるか,どのような意識で競争するかが重要なのだと思います。「競争のための競争」では意味がありませんから。
齋藤さん:日本に外交力がないとは思いません。経済連携の分野も含め,日本は多くの外交的成果を挙げていると思います。これらが全てメディアで「日本外交の成果」として評価されるわけではないと思いますが,外交的行事が報道される際には,その背景には外務省職員や日本政府関係者の努力があったのかな,と思いを馳せてもらえると嬉しいですね。
三角さん:メディアに取り上げられるのは,外交が関心を集めている証しですね。そもそも外交全般を過不足なく報じるのは至難の業だと思いますし,望ましくない結果が出た事案ほど大きく報道される傾向がありますので,「外交力がない」という評価につながるのかもしれません。成功はニュースになりにくく,報道の受け手の印象に残りにくいことも関係しているのではないかと思います。従来メディアに加え,最近はソーシャルメディアの普及等により情報が氾濫しています。「外交力がない」と言うのは簡単ですが,特に学生の皆さんには,膨大な情報の中から真実を見分けて自ら判断する能力,メディアリテラシーを養ってほしいと思います。
齋藤さん:私が所属した米国の日本大使館では,学者の方が広報文化担当公使をされたことがありましたし,経済連携交渉にも民間からの出向の方々が携わっています。米国の国務省でも民間からの出向者が多く在籍していました。官民交流の価値は,外務省の外からの視点を取り入れることができ,組織を客観的に見る機会になるところではないでしょうか。
三角さん:私は中途採用で入省しましたので,外務省を良くも悪くも客観的に見ることができています(笑)。皆さんは私の経歴を見て,「外務省にはこういう人もいるんだ。」と思われたかもしれませんが,官か民かを意識しているうちは,まだまだ本当の官民交流とは言えない気がします。先ほど齋藤さんが紹介したように,米国では私のようなキャリアの積み方は珍しくありませんし,周囲も特に気にしていません。日本にはまだ官民の垣根があるように思いますので,「官民交流」を通じてこうした意識が薄まってほしいですね。
齋藤さん:新しい文化や習慣等に出会うことに対する好奇心や,それに対応できる柔軟性を持つことが大切だと思います。私はインドやペルーとの経済連携交渉に携わりましたが,両国の交渉スタイルは全く異なります。様々な国々と交渉を行うことは大変なのですが,そういった文化や習慣等の違いに対する好奇心を持っているか,また柔軟に対応できるかどうかは,仕事にも大きく影響してくると思います。自分としても,様々な出会いを通じて学習していければと考えています。
三角さん:外交官に限りませんが,人の話を聞けるという資質が求められます。ただ話を聞くだけではなく,興味を持って聞くことが重要です。そのためには,普段から自分の知識や情報,関心の引き出しをたくさん持っておくことが必要で,これらは一朝一夕に得られるものではありませんが,自分の意見を持つことにもつながると思います。日本では,「学ぶ=覚える」という風潮もありますが,若い皆さんには,多様な人の話を聞く中で考える時間を持ってほしいと思っています。
三角さん:なかなか難しい質問ですが,外務省が扱う業務は非常に幅広く,カバーする地域も多様です。そうした組織で働く上で,日本を客観的に見ることがとても大切だと思います。国益を守ろうとしている自分の国について正しく理解していなければ,外交に携わるのは難しいのではないでしょうか。その意味で,海外留学はとても貴重な経験だと思いますが,必須条件という訳ではありません。
齋藤さん:そうですね。私も学生時代に留学したことはなかったので,絶対必要という訳ではありません。皆さん留学に行かれた際に感じたのではないかと思いますが,日本の文化や歴史って案外うまく説明出来ないことがありますよね。日本人である以上,海外に出たときには日本のことを説明することも多いですし,日本を一番理解している必要があると思います。だからこそ,日本のことを知り,その上で説明するトレーニングをする,それが直接的にすぐ役に立つかどうかは分かりませんが,やっておくと良いと思います。
ありがとうございました。