宮外和輝(京都大学経営管理大学院1年・経済安全保障課インターン),田村聡美(創価大学法学部3年・軍備管理軍縮課インターン),頼隆行(東京大学法学部3年・北米第二課インターン),三浦紘平(東京大学法学部3年・南西アジア課インターン)の4名をはじめとする平成24年度外務省インターン生が,外務省で過ごすなかで感じた印象や疑問点について,国際法課の篠原亮子さん(入省9年目),国連企画調整課の中西勇介さん(入省9年目),北米第二課の宮本莊岳さん(入省7年目)の3名にお話を伺いました。
多様な人材の集まるチャレンジングな職場環境,在外公館でのユニークな経験など,外務省で働くことの魅力を,熱く語っていただくことができました。その座談会の模様を紹介したいと思います。
宮外: はじめまして。本日はお忙しい中ありがとうございます。はじめに自己紹介をお願いしてよろしいでしょうか。
篠原: 国際法課の篠原です。国際法課,経済社会条約官室(当時),アメリカ研修,在オーストラリア大使館での在外勤務の後,外交記録・情報公開室勤務を経て現在入省9年目になります。
宮本: 北米第二課の宮本と申します。入省7年目です。私は日米安全保障条約課での勤務,アメリカ研修,在ヨルダン大使館での在外公館勤務を経て,北米第二課に着任しました。
中西: 国連企画調整課の中西です。入省9年目で,入省した時は経済局の国際経済第一課(後の経済統合体課)及び経済連携課にて1年ずつ勤務しました。イギリスでの研修後は,在南アフリカ大使館で勤務し,2010年のサッカー・ワールドカップを見届けてから帰国し,現在は国連企画調整課で勤務しています。9月からは国連代表部に異動になります。
宮外: よろしくお願いします。早速ですが,インターンの皆さんはどのような業務をしているのかを聞きたいと思います。
頼: 僕はTPP関係の資料調査や,大統領候補の政策に関する資料作成をさせてもらっています。
三浦: 僕も省員の皆さんに頼まれて,所管している国々の情報収集や資料作成を行っています。一方,皆さんの様子を見ていると,資料作成のほかに,電話応対も多いように感じます。ヒンディー語やウルドウ語が突然聞こえてきたりもします。全体的に,自分の専門分野を幅広く活動されているのだなあという印象を受けます。
宮外: (省員の方へ)実際の分担はどうされているのですか?
宮本: 北米第二課は日本と米国・カナダとの経済関係を担当する課ですが,個人的には,大臣や副大臣などの幹部がアメリカやカナダの経済関係の政府高官や経済界の要人などと会う際の発言ポイント作成作業を取りまとめたり,上司と在京大使館関係者との会議などに同席して上司の補佐や記録をとる作業などをしています。また,頼さんにお願いしているような資料作成をすることもあります。
中西: 国連企画調整課は,簡単に言うと国連との関係を取りまとめる課です。具体的には,国連総会の場で発出するメッセージや国連事務総長などの要人が来訪した際の対応などを行っています。また,日本が国連に拠出している分担金の管理も重要な業務の一つです。ご承知のとおり,国連における様々な活動にはお金がかかります。かかるお金が本当に必要なのかという観点で精査を行い,必要に応じて国連の場で日本の立場を主張しています。更には,国際機関選挙の調整も担っています。その中で,国連代表部と緊密に連携を取りながら,省内関係者と調整し,本省としての政策を決めるというプロセスの一翼を担っています。
宮外: 在外公館勤務ではどのようなお仕事をされるのでしょうか?本省とは変わってくるかと思うのですが。
篠原: 在外公館に求められる役割は大きく2つあります。1つは「情報収集」,もう1つはその国に対する我が国の「発信」ですね。たとえば,問題が起きた時に本省が日本としての対応を判断するにあたって必要な情報をインプットし,その判断結果をもっとも効果的な方法で当該国・関係国に発信する役目を担っているのが各国大使館だと思っています。
宮外: 情報収集は具体的にどのようにされるのですか?
篠原: 公の情報を追いかけるだけでなく人に会って情報を得ることをしていました。
宮外: ヨルダンのように先進国でなくなってくると仕事の仕方も変わってくるのですか?
宮本: ああ,鋭い(笑)。 僕のいたヨルダンは実際の体制としては国王が実権を握っています。そうすると成熟した民主主義国家とは若干違う側面もあるのかなあというところはあります。また,アラブ社会だからか人情味に溢れる付き合いが根本にあって。そういった付き合いを深めていくと,有益な情報が得られる場合もあります。
宮外: 違いが明白で面白いですね。中西さんは在南アフリカ大使館に勤務されていたという事ですが,ワールドカップに関連するお仕事はあったのですか?
中西: 大使館の業務としては,本省で政策決定をするにあたって必要な情報収集を行うことに加えて,邦人の保護も重要な仕事の一つです。まさにワールドカップの時には,多くの日本人観光客や在留邦人が安心してサッカーを観戦できるよう,現地政府やサッカー連盟などと連携して環境を整えるべく奔走しました。その結果,大きな事故・事件もなく,南アフリカに来られた方々には貴重な体験をして頂けたのではないかと思っています。
宮外: 本当に外務省の仕事は幅広いですね。
宮外:外務省にはどんな人が働いているか気になっていたのですが,インターン生のみなさんは実際に働いてみて,どんなイメージを持ちましたか?
田村:インターンシップを始める前まで,外務省員は忙しいイメージがあったので,仕事にひたすら取り組んでいらっしゃる方ばっかりなのかなと思っていました。実際は,もちろん仕事がある時には真剣でも,休憩時や仕事後には,人づきあいを大切にされる方がすごく多いなと感じました。
三浦:いろんなバックグラウンドを持った方がいることも特徴の1つですよね。いわゆる国家公務員試験を受かった人がずらっといるのかなと思っていたのですが,課内には言語に強い専門職の方,銀行や県庁からの出向の方,様々な方がいてとても驚きました。
宮外:なるほど。省員の方はどう思われますか?
篠原:人のことが好きじゃないとやらない仕事なのかなあと思います。あと,人から信頼を得られるような方,そのように努力されている方が多い印象があります。その際,信頼を得る方法はひとつではなく,明るさを持ち味として人を惹きつける方もいれば,口数は多くなくとも一言一言に重みがある話し方をする,言ったことは守るなど,堅実さを持ち味とする方もいます。「いろんな人がいる」っていう話がありましたけども,みなさんそれぞれに,人から信頼を得られるよう自分の個性を最大化している魅力的な人の集団が,外務省なのかなと思います。
宮外:外務省では異動が多い気がするのですが,実際どのような仕組みになっているのでしょうか。またその中で仕事にプロとして働くためには,どのような力が必要だと思われますか。
中西:部署は2,3年のスパンで変わります。幅広く様々な業務を経験することによって応用力が身に付き,この応用力が外務省で働く上で重要です。まったく別の業務で経験したことが違う部署で役に立ち,業務に更なる付加価値をつけることができる場合もあります。また,柔軟性も必要な能力だと思います。特に国外で働くにあたって,その環境に適応し,相手の信頼を勝ち得ることが非常に重要です。相手の文化を尊重しつつも自らの主張を行うといったその時々において柔軟に対応する素地というものが求められるのだと思います。
宮外:ありがとうございます。また,異動がそれだけ多いと目的観を定めるのが難しい気がするのですが,実際はいかがでしょうか?
宮本:私は,外務省に入ってからずっと,日本のために働いているという意識をもって仕事をしています。まだそれほど多くの異動を経験してはいませんが,今後も,どの部署,どの在外公館に行っても,日本のために働くことに変わりはないので,その意識は持ち続けていると思います。
宮外:実際に仕事をしていて,この仕事が国益に繋がるというのが実感できるということでしょうか?
宮本:そうですね。仕事をしていていろいろ大変な時もありますが,困難なプロセスを経た上で,仕事が前進したりしたときに,そういう実感をより強く持つことができるように思います。
宮外: インターンをしていて驚いたのですが,外務省って女性職員の方が多いですよね。各省庁の中でも一番多い部類だとお聞きして。ハードなお仕事だと思うのですが,女性にとって働きやすいシステムがあるのでしょうか。
篠原: 外務省の仕事の中には,自分で時間をコントロールできない業務があるのは事実です。地域課では,突発的な事故への対処などで夜遅くまで残らなければならないこともあります。他方で,外務省は,職員の個別の事情に応じて可能な限りの配慮をしてくれる組織だと思います。たとえば,子供が小さいうちは早く帰宅したいという職員で,時短勤務制度(勤務時間が短縮される)や早出遅出勤務制度(総勤務時間は同じだが出勤・退勤時間がシフトしている)を利用している人は多いです。私の同期で育児休暇を取得した男性職員もいます。
宮外: それぞれで工夫をされているのですね。外務省のシステムとは別の部分で伺いたいのですが,普段の生活では,仕事とプライベートのバランスというのはどういう風にされていますか?
中西: 私はプライベートの時間を大切にしています。家族との時間もなるべく作るようにしています。時間というのは自分で意識的に作っていかないと,ずるずると仕事に追われてしまうことになるので,メリハリをきちっとつけて,自分のワークライフバランスをきちんと保てるように意識的にやっていかないといけないと心がけています。
田村: 最後に,それぞれの省員の方が,ハードな中でも仕事を続けられるモチベーションを伺いたいと思います。
宮本: 日本の国益のために働きたいという気持ちがモチベーションの根底にあります。また,この仕事を通じて,異なる文化や歴史に触れられること,自分と違うバックグラウンドを持つ人と出会えることも,モチベーションに繋がるのかなと思います。
中西: 外務省は,すごく「チャレンジング」な職場だと思います。いろいろな国の人と意思疎通しないといけない,それだけでも結構チャレンジングな環境だと思いますが,それに加えて,実現しないといけない国益を達成するために交渉し,国内での理解を得るために仕掛けを考えるなど,多くの課題を乗り越えないといけない。厳しい環境の中に自分を置くことによって,新しい発見もできる。このような環境が私個人にとって魅力的でかつ面白いので,モチベーションを保って仕事をしていけるのだと思います。
篠原: 「外交」という活動への興味でしょうか。人間がこれまでどういう風に歴史を積み重ねてきて,その上にどういう社会を作っていくのか。いろんな関わり方があると思いますが,人がそれぞれやりたいこと・やりたくないことを持っていて,決して同じじゃない中でぶつかり合って,でも少しずつ何か新しい状況が生まれて世の中が動いていく。その営みとしての「外交」は非常に面白いという気がします。日々モチベーションになっているのは,大きな仕事にダイレクトに関わっているという実感と,チャレンジングな環境,立派な人達の中で一緒に働けることだと思います。
宮外: もっとひとつひとつ深くお話したかったのですけれども,お時間が来てしまいました。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。