
省員と語る
~省員×インターン生座談会~
平成23年10月
日頃抱く外交についての疑問や外務省員として働くことの意義を,インターン生が直接省員の皆さんにインタビューしました。井上隼一さん(北米二課),松本千亜紀さん(官房総務課),水谷俊彦さん(地球環境課)の3名の省員に対応していただきました。
インタビューは,青木哲也(大阪大学大学院国際公共政策研究科1年,事業管理室インターン),水村紗英(京都大学法学部3年,南東アジア第一課インターン),山内優馬(京都外国語大学外国語学部3年,南米課インターン),山中潤(大阪大学法学部国際公共政策学科3年,地球環境課インターン)の4名で行いました。
- 水村
- :
今回はお忙しいところありがとうございます。早速ですが,省員の皆さんの自己紹介をお願いします。
- 井上
- :
北米二課の井上です。今年で入省10年目になります。英国で研修し,ロンドンの大使館での勤務を経て,現在は日米・日カナダ経済関係を担当する課で働いています。
- 松本
- :
官房総務課の法令班で働いている松本です。井上さんと同じくイギリスで研修した後,イスラエルに2年強,旧ユーゴスラビアの小国スロベニアに2年程勤務し,現在に至ります。官房総務課というのは馴染みがないかもしれませんが,外務省本省と在外公館を合わせた機構のあり方等を見ている課で,国際環境の変化に応じて本省をどう改変したらいいかとか,どこに在外公館を設置するかといった総合調整を行っています。
- 水谷
- :
地球環境課で働いている水谷と申します。私は入省2年目で,来年からフランスに留学する予定です。私が所属している地球環境課は,気候変動枠組条約と京都議定書を除く全ての環境条約を担当しています。
1.東日本大震災時の外交対応
- 山内
- :
今,2011年を振り返ってみると,一番大きな出来事はやはり3月の東日本大震災だと思います。ニュース等を見ていると,皆さん対応に追われ忙しそうだなと思うと同時に,政府の対応に疑問を持ったりする場面もあったのですが,外務省で皆さんがどのように震災の対応を行っていたのかという具体的な仕事内容や,震災直後の省内の雰囲気等を教えていただけますか。
- 井上
- :
省内の雰囲気ですが,未曾有の状況,しかも国内の危機への対応ということで省全体に緊張感が漲っていた印象です。新たに対応すべき沢山の仕事に対してリソースを集めて対応しながら,通常業務も着実にこなすということで懸命でした。
自分が関与した業務としては,震災発生直後から各国のレスキューチームが被災地入りして生存者確認等を手伝ってくれたのですが,私は岩手県大船渡市等で活動する米国のレスキューチームのリエゾンとして現地に派遣されました。リエゾンとは,例えば米国のチームが次の日どこを捜索するかを日本側の消防団と調整する等,様々な局面で日本側と米側との仲介役を務めるものです。
- 松本
- :
私のいる官房総務課は外務省のあらゆる総合調整を行う部署なのですが,今回も,官房総務課で震災のあらゆる総合調整を行うこととなりました。通常業務とは全く違った仕事がたくさん舞い込んできたり,人命救助に関わるため迅速な対応を求められる作業も多く,初動体制が確立するまでは皆手探り状態で必死に働きました。24時間体制で,震災対応メインで仕事をしていました。具体的には,日本が今どのような対応をしているかとか,外国からどんな支援を受けているかといった最新の情報をアップデートして官邸と外務省内の緊急対策本部にインプットするために,全省から情報を集め,整理して情報を提供するということをしていました。その情報量は今まで扱ったものとは比べ物にならないほどだったので最初は戸惑いました。あと,外国支援チームを被災地に派遣するにあたって,外務省からのリエゾン派遣も担当しました。
- 水村
- :
24時間体制で睡眠時間を削っての対応というのは本当に大変そうです。震災直後はずっと外務省にいるという生活だったのですか?
- 松本
- :
そうですね,緊急対策本部の会議が一日に数回行われるので,それに合わせて情報を処理しなければならず,時間と戦いながらひたすら情報収集と整理を行いました。
- 水谷
- :
リエゾンが被災地に派遣されている時,本省では,救援隊を送ってくれた外国政府や大使館と,現地にいる救援隊との間の調整業務を行っていました。私は,オーストラリアやニュージーランド等を担当している課に応援に行きました。いつでも即時に対応ができるように,24時間体制のローテーションを組まれていたのですが,事が事だけに,常に緊張して業務に打ち込んでいた記憶があります。
- 山中
- :
環境の観点からですが,原発事故に対する他国からの質問や反応に対しては,どの省庁が対応していたのですか?
- 井上
- :
本国同士あるいは各国大使館,総領事館との刻々の連絡の中で,外務省にまず大量の質問がきたということだと思います。日本在留の自国民の安全のために各地の放射線量や避難地域などの情報を求める各国政府に対し,外務省が中心となって各省庁が持つ情報等を整理して日々伝えていました。初期はほぼ毎日,外務省において各国大使館等に対するブリーフィングを行っていましたね。これは最近でも必要に応じて行っているのではないかと思います。
- 山内
- :
ニュースで多くの外国人が地震後に母国に帰ったと聞きましたが,大使館の方で母国に帰ってしまう方はいらっしゃいましたか?
- 井上
- :
いましたね…勿論,東京に残ってくれた多くの大使館の方もいらっしゃいました。いずれにせよ,震災によって傷ついた日本の対外イメージは日本人全てが背負っていかなければならないものであり,正確な情報を世界に発信しつつ,日本ブランドを着実に復活させていくことが,これからの外務省の極めて大きな課題だと思います。
2.震災業務を通して感じたこと
- 山中
- :
省内では皆さん本当に多岐にわたる仕事をこなされていたのですね。震災時の仕事を通して皆さんが感じたことを教えていただけませんか。
- 井上
- :
震災業務を通してまず感じたのは,世界各国がこちらの胸が熱くなるほどの支援を提供してくれたことに対する深い感謝の気持ちです。震災を我が事と捉え全面的に支援してくれた米国に対しては日米同盟60年の絆の深さを感じましたし,カナダも世界に先駆けて日本産食品の輸入規制をなくしたりしてくれ,本当にありがたいなと思いました。個人的なレベルで感じたことは,外務省の仕事って多様でやっぱり面白いなということでした。震災業務では,デスクワーク中心の普段とは違って現地に足を運び,大変な仕事もありましたが,一方で外国人アーティストの訪日を手伝うといった珍しい仕事もあり,本当に幅広い仕事に携わって貴重な経験ができました。自分自身,外務省でもっと頑張ろうという気持ちが強まりましたし,好奇心旺盛な人には面白い職場だと再認識しました。
- 松本
- :
震災対応を通して,本当に世界各国が支援を表明して下さったことに感謝の気持ちでいっぱいでした。また,リエゾン派遣にあたっては在外公館で働く外務省員に一度帰国してもらって派遣したりもしていたのですが,そういったことに機敏に対応できる外務省員の柔軟性にも頭の下がる思いでした。
- 水谷
- :
2点ありまして,1点目は皆さんと同じなのですが,世界各国からの支援に正直目頭が熱くなりました。全世界といっていいほどの多くの国や国際機関等から支援をいただいたんです。今でも,「ああ,これだけ世界中が日本のことを心配し,助けてくれたんだな」と胸がいっぱいになります。2点目は,自分には大したことはできませんが,政府というチームの一員として,この国難に立ち向かうために働けたということですね。テレビで映し出される被害を見るたびに,少しでも何かしたい,役に立ちたい,と思ったのを覚えています。
3.外務省を目指したきっかけ
- 水村
- :
では,次に外務省で働くことについて,お話をお聞きしたいと思います。皆さんが外務省で働きたいと思ったきっかけは何だったのですか?
- 水谷
- :
直接的なきっかけとしては,ゼミの先輩です。大学のゼミの先輩で,外務省に入った方がいるんですね。その人に誘われて,何気なく説明会に行ってみたら,職員の方の雰囲気や問題意識が,「水が合う」というんでしょうか,自分に合っていて,こういう人たちと一緒に働きたいな,と思いました。
私の志望動機でもありますが,外務省の一番の魅力だと思うのは,やはり日本を背負って立てるというところだと思います。世界に対して,日本の声を伝える,日本をアピールしていく。こんなにダイナミックなことはないと思います。
- 松本
- :
私は,大学3年生のときに,外務省に入りたいと思いました。それまでは,漠然と外国と係る仕事をしたいと思っていました。外務省は遠い存在だったのですが,たまたま,知り合いに外務省で働いていらっしゃる方を紹介していただいて,私でもなれるんだ!と思って,外務専門職の試験を受けました。あとは,日本を世界にアピールしていきたい!東アジア共同体のようなアジアとの繋がりを強化したい!と漠然と考えていて,そういうことができるのは外務省かなと思い,志望しました。
- 水村
- :
外務専門職で入られたのは,何か理由があったのですか?
- 松本
- :
おそらく外務専門職を受けて外務省に入るのがストレートな道だとその時に考えたからだと思います。あとは,東アジアとの関係や他国との経済関係に興味があったので,そういう分野に携われたらいいなと考えていました。
- 山中
- :
入省後,志望理由の一つであるアジア関係の仕事を行うことはできましたか?
- 松本
- :
まだできていません(笑)なぜか中東だったり欧州だったり(笑)。ただ,それぞれの地域で学ぶことは非常に多くて,常に勉強になっているので満足しています。
- 水村
- :
井上さんはいかがですか?
- 井上
- :
振り返れば,きっかけとしては三つあったと思います。一つ目は,高校時代に一年間アメリカに留学して,自分が日本人だということを強く意識したこと。二つ目は,大学時代にバックパッカーとして世界を旅したときに,旅行でただ見てまわるのではなく仕事で世界に貢献したいと思ったこと。三つ目は,『沈黙の艦隊』など僕が好きな漫画等に格好良い外交官が出てきたこと(笑)。あと,官庁訪問のときの省員の方の雰囲気がすごく良かったことが決め手となって,外務省に入ることにしました。
- 山内
- :
面接時に,何か特別な経験をしておく方が有利だったり,ということはありますか?
- 井上
- :
そういうことはないです。ただ,面接ではその人の人生が出ると思うので,色々な経験をして,自分の頭で考える機会を多くつくることは重要だと思います。また,周りを見渡してみると,外国人に対抗できるような積極性を持っている人が多いと思いますね。
4.外務省で働く上でのやりがいと困難
- 山中
- :
次に,外務省で働く上で楽しいことややりがいを感じること,逆に大変なことはありますか?
- 松本
- :
一長一短が,仕事上,あらゆる国に行き色々な分野の仕事に携わることが多いので,常に新しいことにチャレンジできて楽しいと思う時もあれば,誰も知り合いがいない国に飛ばされて帰りたくてしょうがない(笑)と思うこともありますね。やりがいとしては,特に大使館勤務の時など,日本では会うことが出来ないような閣僚や政治家,学術関係者などの著名な方々にお会いして直接お話することができるので,その方々の考えや醸しだすものに触れることができ,非常に興味深いです。
- 水谷
- :
自分が考えた方針が認められて,日本の方針になった時。これは思わず「よしっ」とガッツポーズをとりたくなる瞬間ですね。今年の8月に国際会議に出席したのですが,苦労して作った方針に基づき,日本代表として世界の国々の前で発言した時は,正直,胸が震えました。大変だと思うのは,一見華やかな外交の裏には地味で細かい作業がたくさんあって…大事だとは思いつつ,大変な部分ですね。
- 井上
- :
良い所として一番に思いつくことは,若い時から日本を背負って大きな仕事ができるということですね。私も二年目の時に緒方貞子さんのアイデアに基づくアフガニスタン支援の担当になり,緒方さんの出張に同行し,スピーチの草稿を書くなど,入省早々憧れの人と仕事ができ大きな刺激になりました。また,世界の第一級の人々とやりあうことになるので,自分自身も切磋琢磨しながら知識や能力を高めようと思えます。大変な部分としては,公務員を十把一絡げにした,言われの無い中傷を受けるときですね。
- 山内
- :
そうですか…皆さん遅くまで働いていらっしゃるイメージがあるのですが,それは苦になりませんか?
- 井上
- :
そんなに大変ではないですね。それだけ重要な仕事をやっていると考えています。
5.外務省員として実現したい夢
- 水村
- :
最後の質問になりますが,外務省で今後実現したい夢や目標を一言でいうと何でしょうか?
- 井上
- :
日本を更に尊敬される国にしたいですね。好意を寄せられるだけでなく,リーダーシップを持ち,他国にリスペクトされる国にしたいと思います。
- 松本
- :
私も,日本を世界にもっとアピールしていきたいと思っています。
- 水谷
- :
一言で言うと,“格好良い”と思われたいですね(笑)。国際会議や外国との交渉の場では,代表団員個人の力量や立ち居振る舞いといった“格好よさ”が,その国の評価に繋がっている気がします。まず自分自身が格好良くなり,「日本って,さすがだな」と思ってもらえたらいいな,と思っています。
- 水村
- :
なるほど。大変貴重なお話,本当にありがとうございました。震災後の外交,そして外務省で働く上での様々な思いや体験を聞かせて頂き,非常に興味深かったです。皆さん一人一人が日本の代表として誇りを持ち,更に日本をパワーアップさせようという目的意識を共有されていることを,知ることができ,インターン生一同,大変勉強になりました。本当にありがとうございました。

~インターン生の座談会感想~
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震災時は省内業務から現地出張まで幅広い仕事を夜を徹してこなされていたことを知り,省員の方々に頭の下がる思いでした。また,お話から省員として自分自身が「日本」を表現し発信することのやりがいを強く見出し,外務省という職場により魅力を感じました。
(京都大学法学部3年 水村紗英)
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インターン中に抱いた外務省に対する疑問や外務省で働く上での心がまえ等を省員に直接聞くことができ,とても良い経験となりました。また,国家一種の方だけではなく外務専門職の方からもお話を聞くことができ,将来を考える上でもとても参考になりました。
(京都外国語大学外国語学部3年 山内優馬)
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外務省では,業務を通して自分自身を常に成長させることができ,かつそれが日本のレベルアップにも繋がるということを知ることが出来ました。また,震災後の厳しい状況においても,日本を更に発展させて行こうという前向きな姿が非常に印象的でした。
(大阪大学法学部国際公共政策学科3年 山中潤)