巻頭言
近年、国際情勢は大きく変化しています。ロシアによるウクライナ侵略や現下の中東情勢、また、気候変動や感染症を始めとする地球規模課題など、国際社会は複合的な危機に直面しています。
こうした中、日本は法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に取り組む決意を力強く示すとともに、国際社会における重要性を増しているグローバル・サウスとも協力しながら、価値観や利害の相違を乗り越え、国際社会を「分断と対立」から「対話と協調」へと導いていかなければなりません。
日本の国際協力は2024年に70周年を迎えました。かつて日本が支援してきた開発途上国は、現在、生活習慣病の増加、急速な都市化に伴う交通渋滞や大気汚染等の諸問題、グリーン・トランスフォーメーション(GX)、デジタル・トランスフォーメーション(DX)など、日本と共通の社会課題に直面しています。現代の国際社会では、それらの解決に向けて共に知恵を出し合い、対話と協働を通じた「共創」によって新たな社会的価値を生み出していく、新しい時代の国際協力が求められています。
こうした考えに基づき、日本は2023年に改定した開発協力大綱の下、相手国の課題に対する解決策を共に創り出すため、「オファー型協力」を推進しながら多様な主体との連携を強化してきました。既に複数の国との間で同協力を進めていくことに合意しています。加えて、ODA制度の見直しを行い、ODAを触媒として、民間資金の動員につなげるための取組を推進していきます。
また、新しい時代の国際協力の可能性として「三角協力」の拡大が挙げられます。日本が長年地雷対策を支援してきたカンボジアは、今やその知見を、他国に共有しています。平和のための取組を面で広げていく、いわば「平和の連結性」の構築は、国を越えた連携と、社会や地域の強靭で持続可能な成長の基盤をもたらすものです。
ロシアによる侵略が今なお続くウクライナの未来にとっては、復旧・復興も重要です。前年2月の日・ウクライナ経済復興推進会議では、日本の民間企業の先端技術や投資を通じた、復興への道筋も示すことができました。ウクライナの人々に、引き続き明日への希望を示していく考えです。
また、ガザを始めとする中東情勢に関し、日本は国際社会の責任ある一員として、ODA等を通じて中東地域の平和と安定に向けた支援を実施してきました。引き続き日本にとってエネルギー安全保障上も重要である中東地域の安定化に向けた協力を進めていく考えです。特にガザ情勢に関しては積極的に人道支援を継続するとともに、ガザの将来を見据え、今後訪れる復旧・復興段階においても、役割を果たす決意です。
地球規模課題についても、開発途上国と対等なパートナーシップの下での共創と連帯が求められています。日本はこれまで「人間の安全保障」の理念を重視し、SDGsの達成に取り組んできました。今後も民間の知見や資金を最大限動員し、日本が主導してきた防災分野を始め、SDGsの包括的な達成に向けた国際協力を進めていきます。また、SDGsの達成期限年である2030年以降も見据え、国際的なルール形成に関する議論を主導していきます。
こうした新しい国際協力を推進し、国際社会を対立から協調へ導く上で基礎となるのが、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のビジョンです。FOIPは、インド太平洋地域の連結性を高め、力や威圧とは無縁で、自由や法の支配が尊重される、豊かな地域にすることを目指すものです。日本は、ASEANによる連結性強化の取組をハードとソフトの両面で支援し、南西アジア地域でも道路、港湾などのインフラ整備を進めてきました。南西アジアからインド洋を越えた先には、人口の過半数が若者であり、大きな潜在力を持つアフリカが存在します。
2025年8月には、横浜で第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)を開催します。アフリカの課題に取り組むにあたっては、民間の活力を動員し、若者や女性の人材育成を進めることが鍵となります。そして、日本とアフリカとの共創により、国際社会の共通課題への革新的な解決策を生み出していきたいと思います。
また、2025年に発足60周年を迎えるJICA海外協力隊は、これまで100か国近くの国に約5万7,000人が派遣され、開発途上国の人々に寄り添い、人と人とを信頼でつないできました。開発途上国の経済・社会の発展や国際社会における日本への信頼醸成に貢献してきたのみならず、帰国後の隊員がその経験をいかし、日本国内において地方創生や多文化共生等の課題にも取り組み、共創の原動力となっています。
変化する国際社会にあっても、相互理解と信頼の重要性は変わりません。国際社会を「分断と対立」から「対話と協調」へと導くため、新たな時代の国際協力を実施していきます。
2024年版開発協力白書は、日本の開発協力の1年間の概要を国民の皆様にご報告するものです。開発協力の実施には、国民の理解と支持が不可欠です。今後も皆様からの声に耳を傾け、開発協力の一層の戦略的・効果的な活用に努めていきます。本書が一人でも多くの方々に読まれ、日本の開発協力の取組や意義に対するご理解の一助となることを願っています。
2025年3月

