巻頭言
2020年は、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大がもたらす危機に立ち向かう一年となりました。外務省としても、感染症危険情報のきめ細やかな発出や水際対策の強化、海外からの出国や帰国が困難となっていた在外邦人への支援に全力で取り組んできました。私自身、2020年、一年で22か国を訪問し、電話・テレビ会議形式の会談を112回行うなど、関係各国とも緊密に連携しつつ、国内外での対応に全力であたる日々が続きました。
新型コロナの感染拡大はグローバルな危機であり、これに対応するためには、国際的な連携や協力、特に、医療体制が脆弱な開発途上国への支援が不可欠です。日本は、保健・医療システムの脆弱な国に対し、1,700億円を超える保健・医療分野での支援を実施するとともに、アジア太平洋地域を中心とする途上国の経済活動を支えるため、2年間で最大5,000億円の新型コロナ危機対応緊急支援円借款を創設するなど、二国間及び国際機関を通じた医療機材の供与や能力構築支援を、かつてないスピードで実施しています。
また、日本は、「誰の健康も取り残さない」との考えの下、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を目指しています。途上国を含めたワクチン・治療薬等への公平なアクセスの確保を全面的に支援するため、COVAXファシリティへのいち早い拠出や、特許プールを通じた治療薬の供給の促進などに取り組んでいます。こうした日本の支援は、世界各国から高く評価され、感謝の言葉を頂いています。
今回の白書の副題は「未来へ向かう、コロナ時代の国際協力」としました。各国と連携してコロナ危機を克服し、保健・医療システムの強化や感染症に強い環境整備を通じて、これまで以上に強靱な社会、そして、よりよい未来を共に創っていこう、という思いを込めています。
我々がそのためにすべきことは、感染症対策にとどまりません。2020年は、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた取組を加速化するための「行動の10年」の最初の年でした。日本は「人間の安全保障」の理念に立脚し、積極的かつ戦略的なODAの活用を通じて、SDGs達成をはじめとする地球規模課題への取組を加速していきます。また、日本は、パリ協定が目指す脱炭素社会を実現するため、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の実現に向け、本年のCOP26を含め、各国と連携しつつ、国際社会の取組をリードしていきます。
日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、世界の活力の中核であるインド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を構築するため、日本は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を推進してきました。この考え方は、今や多くの国が共有、そして支持しています。ODAは「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組における重要なツールです。戦略的に活用しつつ、米国、豪州、インド、ASEAN、欧州、さらには中東・アフリカ等と、インド洋と太平洋にまたがる連結性強化の実現に向けた質の高いインフラ整備や海上法執行能力支援等を推進します。こうした取組を通じ、各国との連携や協力を進めていきます。
2020年版開発協力白書「日本の国際協力」は、日本の開発協力の一年間にわたる取組を記録しています。出来るだけ実感を持って頂ける白書となるよう、日本が実施したコロナ対策支援、ワクチンの開発・普及を巡る国際的な取組に加え、世界各地で活躍する国際機関日本人職員からの寄稿や、日本の支援が途上国で活かされている事例などを第Ⅰ部の「特集」で取り上げています。コラムにおいても、ガーナの野口記念医学研究所においてJICA帰国研修員が活躍しているエピソードなど、保健・医療分野での日本の貢献を中心に紹介しています。さらに、「参加型白書」を実現するために、SNSを活用して広くコラムテーマを公募しました。
この開発協力白書が、日本の開発協力の様々な政策や取組について、国民の皆さまの御理解を深めるための一助となることを心から期待しています。
2021年3月