2018年版開発協力白書 日本の国際協力

開発協力トピックス1

自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて

2016年8月に安倍総理大臣が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」という考え方は、この2年半の間に広く国際社会に理解され、その実現に向けた具体的な取組が進展しました。アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至る広大なインド太平洋地域において、いかなる国にも分け隔てなく安定と繁栄がもたらされるためには、質の高いインフラの整備によって膨大なインフラ需要に応えて地域の連結性を高めるとともに、海賊やテロといった繁栄を阻害する要因を取り除く努力が必要です。日本は、ODAも効果的に活用して、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて様々な国と協力しています。

円借款の支援を通じて建設されたケニアのモンバサ港の新コンテナターミナル(写真:東洋建設)

円借款の支援を通じて建設されたケニアのモンバサ港の新コンテナターミナル(写真:東洋建設)

港湾、鉄道、道路等の整備による地域の連結性の向上は、モノやヒトの流れを活発にして経済圏を拡大することで地域全体の経済発展に寄与します。しかし、インフラの質が低かったり、財務状況を圧迫するようなプロジェクトはかえって地域の成長を妨げることになり得ます。そのため、質の高いインフラの整備を進めることが重要です。東南アジアにおける日本の協力の中核が、ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムをつなぐ東西経済回廊と南部経済回廊の整備です。日本は、インド洋と太平洋を結ぶ2つの回廊の整備を長年にわたって進めており、現在も、通行量を倍増するカンボジアの国道5号線の改修やミャンマー中央部の橋梁改修等、数多くの案件の施工を進めています。南西アジアでは、インドで日本の新幹線の技術を活用した高速鉄道の整備に取り組んでいます。これまで在来特急線で約7時間かかっていた移動時間が、高速鉄道を利用すると約2時間に短縮される見込みで、人材育成による技術移転を進めながら、駅周辺の整備等も通じてインドのさらなる経済発展と雇用創出、それに伴う貧困削減が期待されます。また、アフリカ内陸国とインド洋をつなぐケニアのモンバサ港の開発では、2,000人に及ぶケニア人を雇用して技術移転を進めつつ、環境配慮技術や維持管理コストの削減にも最大限考慮して、港開発のみならず周辺道路開発等を進めています。

フィリピン沿岸警備隊職員等への技術指導(写真:JICA)

フィリピン沿岸警備隊職員等への技術指導(写真:JICA)

2つの大洋を地域全体に安定と繁栄をもたらす海洋とするためには、地域の連結性を高めるだけではなく、経済発展の妨げとなる海賊、テロ、大量破壊兵器の拡散、自然災害、違法操業等への対策も必要です。例えば、インド太平洋地域の沿岸国の海上法執行機関の能力を強化して海上交通の安全を確保するために、各国の海上保安機関に巡視船艇や沿岸監視レーダー機材の供与を行うとともに、各機関の職員を日本へ受け入れ研修を実施したり、日本の専門家の各国への派遣を行っています。2017年6月にフィリピンのミンダナオ島付近で日本の海上保安庁とフィリピンによる海賊対策の合同演習を行った際には、日本が供与した巡視船も使われ、その翌日に起こった海賊事案で早速成果を上げました。

「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、パートナーと共に様々なプロジェクトや協力を実施しており、2018年には様々な国との連携が進展しました。米国との間では日米がどのように協力して域内の主要国を支援できるか協議を重ね、2018年9月の首脳会談の機会に日米連携のリストを公表しました。また、インドとの間でも、以前から地域の連結性の強化を始めとする具体的な協力を深化させていくことで一致しており、同年10月のモディ首相訪日の際に、日印協力に係るファクトシートを発表しました。同ファクトシートには、質の高いインフラ整備による連結性強化やエネルギー分野等の様々な協力が含まれています。さらに、同年11月の日メコン首脳会議では、メコン地域における多くの協力案件を自由で開かれたインド太平洋を実現するための協力と位置付けました。すでに、豪州、英国、フランス、EU等の様々なパートナーとも連携を強化していくことで一致しており、今後も緊密に連携しながら重層的な協力関係を築いて、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を加速させていきます。

このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る