2023年度外務省ODA評価のまとめ
2024年度は、地域別評価(「『日ASEAN連結性イニシアティブ』を中心としたASEAN連結性支援の地域別評価」)、国別評価(「ネパール国別評価」)、課題別評価(「新型コロナウイルス感染症対策支援の評価」)、外務省が実施する無償資金協力個別案件の評価(「平成30年度対ジブチ無償資金協力(経済社会開発計画)」の評価)をそれぞれ1件、計4件の第三者評価を実施しました。
開発の視点からの評価
政策レベルの評価(地域別評価1件、国別評価1件、課題別評価1件)の評価結果
- 政策の妥当性については、評価対象となった国・地域及び分野に対する我が国の開発協力政策は、いずれも我が国の上位政策や相手国の開発政策・ニーズ及び国際的な優先課題に整合しており、また、我が国の比較優位性をいかした支援が実施されていることが確認されました。
ASEAN連結性支援の地域別評価では、上記に加えて日本の外交政策である「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」及び開発協力大綱の重点政策とも整合的であり、ハードとソフトを効果的に組み合わせた包括的な支援等の日本の比較優位性が確認され、「極めて高い」と評価されました。ネパール国別評価及び新型コロナウイルス感染症対策支援の評価(課題別評価)では冒頭の理由から「高い」と評価されました。 - 結果の有効性については、地域別評価では、ケーススタディ国において計画された事業が着実に実施中あるいは実施済であることや、域内GDPの増加や国際的生産ネットワークの深化、長期的な人材育成への貢献、日本の民間企業への裨益等も確認されたことから「極めて高い」と評価されました。ネパール国別評価では、国別開発協力方針と事業展開計画に沿って重点分野の各事業に適切に投入され、期待されたアウトプットをもたらしたことが確認され、課題別評価では、ワクチン供与、コールド・チェーン整備、検査・防疫体制強化、医療機材供与、緊急支援借款、国際機関への拠出金など多岐にわたり全世界的に展開された協力が、新型コロナのパンデミック下で開発途上国が直面する多面的な困難に対応したことから、それぞれ「高い」と評価されました。
- プロセスの適切性については、地域別評価では、日ASEAN連結性イニシアティブの政策策定・実施・モニタリングを始めとしたプロセスは、ASEAN連結性を重視するASEAN加盟国に寄り添いながら、ハード・ソフトの両面から「質の高いインフラ投資」に継続して貢献してきているため「高い」と評価されました。
国別評価及び課題別評価では「一部課題がある」という結果となりました。
国別評価では、情報公開・広報の各種取組が確認でき、様々な事業できめ細かなジェンダー配慮や包摂性への配慮がなされた結果、女性や社会的弱者の参加促進や便益をもたらした一方、援助政策の実施プロセスやネパール側の援助実施体制の適切性には、複合的な要素が絡み一部課題があると指摘されました。
課題別評価では、地域・国ごとに適切な予算を配分し、特にアジア地域では経済・外交上の重要性や協力実績を踏まえ、手厚い支援が行われ感染抑制に貢献できたことや、現地政府や他ドナーとの緊密な情報交換を通じて変化するニーズを拾い上げ、既存の保健医療体制や現場の課題に合わせた柔軟な対応がとられたことが評価された一方、無償事業の機材供与における調達の遅れや、事業の計画変更時の手続の簡易化や広報面での課題が指摘されるなど、日本側関係者間の情報共有や国際機関との連携事業における手続の改善を進める必要性が指摘されました。
無償資金協力個別案件1件(経済社会開発計画)の評価結果
- 計画の妥当性については、ジブチ-アディスアベバ間を結ぶ国際回廊である国道一号線のうち、特に損傷の進む区間の改修を行う本事業が、ジブチにとって極めて緊急性の高い最重要課題であったこと、改質アスファルトの採用等は、アフリカで「質の高いインフラ」を整備するという日本の方針と合致していたこと、JICA無償資金協力から外務省の無償資金協力(経済社会開発計画)への変更は、迅速な事業実施を求めるジブチ側の強い要望に配慮した適切な対応であったことなどから、「高い」と評価されました。
- 結果の有効性は、本事業はコロナ禍にもかかわらず18か月で完工したこと、施工品質への信頼は高く、日本工区の改質アスファルトはジブチ-アディスアベバ回廊のジブチ側全工区の統一品質基準となったことなどから、「高い」という結果となりました。
レーティング基準
極めて高い: 全ての検証項目で極めて高い評価結果であった。
高い: ほぼ全ての検証項目で高い評価結果であった。
一部課題がある: 複数の検証項目で高い評価結果であった一方、一部改善すべき課題が確認された。
低い: 複数の検証項目で低い評価結果であった。
(注1)政策レベルの評価の場合
(注2)プロジェクトレベルの評価(無償資金協力案件の評価)の場合。なお、令和2年度に実施した「外務省が実施する二国間無償資金協力個別案件の評価についての分析・評価手法の分析」の結果を踏まえ、令和3年度から、開発の視点と外交の視点とを統合し、「外交的な重要性」にかかる検証項目は「計画の妥当性」に、「外交的な波及効果」にかかる検証項目は「結果の有効性」に含めている。
外交の視点からの評価
外交的な重要性に関しては、地域別評価では、日本のASEAN連結性支援の日本の国益にとっての重要性と「政策連携の呼び水」効果に言及があり、ネパール国別評価では、日本の対ネパール援助の地政学的な重要性や、南西アジア地域の安定確保や二国間の良好な関係を維持・発展させる観点からの重要性が認められました。
課題別評価では、日本は低中所得国全体に幅広く新型コロナ対策支援を行い、国際協調や二国間関係の維持に寄与したところ、衡平性を重視した多国間協力と、戦略性をいかした二国間協力の組み合わせや、特にアジア各国へのワクチン供与や日本企業進出国への支援が、経済活動の回復や日本国民の安全保障に貢献したことが評価されました。
外交的な波及効果については、地域別評価では産業の裾野産業の広がりなどの「経済的な呼び水」効果や、政府レベルや民間・市民レベルの交流の拡大、ネパール国別評価では、ネパール政府から一般の国民まで幅広い親日感情の醸成、両国の友好や交流、人の移動への影響、同国の平和・安定・繁栄への大きな貢献等が認められました。
課題別評価では、日本の新型コロナ対策支援が、日本の国際的プレゼンスや信頼感の向上、世界各国における二国間関係の強化に寄与し、日本国民の安全確保や経済復興の促進など多面的な外交的効果をもたらしたと評価されました。
提言・教訓
2024年度に実施した4件のODA評価の結果を踏まえた提言が出されました。それらのうち、複数の評価に共通する提言、また、他案件へも適用が可能な提言・教訓は以下のとおりです。
複数の評価に共通する提言(評価対象への提言)
● 広域的な協力の推進
複数の評価において広域的な協力を推進していくことが提案され、複数国にまたがるインフラ整備の支援及び知的支援(専門家派遣や研修等)に重点を置くことや、地域機関(アフリカ疾病予防管理センター(CDC)やASEAN感染症対策センター)との協力を推進し能力強化を図ることが提言されたほか、案件形成にあたっての広域的な視点の重要性が指摘されました。
● 人材育成の重要性
人材育成の重要性についても共通した提言が見られ、ハード(インフラ整備)とソフト(人材育成)を組み合わせた支援の継続、戦略的な人材育成・能力強化、優先課題として緊急時にも対応できる開発途上国側の保健医療人材の育成が提言されました。
他への適用が見込まれる提言・教訓
● 日本の比較優位性が高い分野でのハード面とソフト面との連携
特に日本の比較優位性が高い分野でのインフラ設備整備・修復(ハード面)と、運用や維持管理の能力強化や制度強化に取り組む技術協力(ソフト面)との連携が相乗効果を創出し、また、ハード面とソフト面の支援を組み合わせて支援する点も日本の比較優位性であることが確認されました。
● より効果的な広報
国際機関との連携においては活動と成果をモニタリングし、日本の支援であることが明確となるよう広報を行うこと、日本によるODA事業の相手国への裨益効果について動画などを使い、現地語でわかりやすくアピールする努力を強化すること、日本のASEAN支援やコンセプトをASEANの戦略文書に合わせた形で説明すべきことなど、より効果的な広報に向けた具体的な提言がなされました。
