2018年度 ODA評価結果フォローアップ
外務省では、第三者評価から得られた提言について、対応策を策定し、その実施状況の確認を行っています。2018年度の第三者評価から得られた主な提言に対する対応策の実施状況(2020年8月時点)を紹介します。
アンゴラ国別評価
提言
2017年のロウレンソ新政権発足後、アンゴラでは新しい国家開発計画などが策定されるなど、国内状況に大きな変化が起こっている。このため、以下の3提言を日本の対アンゴラ国別開発協力方針や事業展開計画へ反映するべきである。
- 新国家開発計画の重点項目の一つとして「地域間の調和のとれた開発」が掲げられており、日本はアンゴラの地方部における協力をより積極的に実施する。
- アンゴラの開発ニーズに合致した多額の資金提供が可能である円借款を有効に活用した支援を行う。
- ロウレンソ新政権が取り組む重要課題の一つである投資環境整備分野への日本の支援の可能性を探求する。
また、今後、日本の対アンゴラ支援が増える可能性を見据え、日本の対アンゴラ支援の現地実施体制を強化する。さらに、日本の対アンゴラ支援の認知度をアンゴラ国内で高めることが重要であり、日本のODA広報を強化する。
対応策の実施状況
アンゴラの新国家開発計画については、今般の新型コロナウイルス感染症対策として取られた貧困者救済政策などの経済社会政策に関する情報の収集を行った上で、次回の国別開発協力方針(2022年以降を予定)や事業展開計画に反映する。
地方部における協力については、地方自治体への国家の権限委譲のための制度が整備されつつあり、各地方自治体が抱える個別事情に応じた開発計画に沿った協力が望ましい。特に、農業分野において、地方部における協力の可能性を追求する。円借款の有効活用については、アンゴラの経済情勢や対外債務の状況を注視しつつ、ニーズにあった案件の形成を目指し、情報収集を行う。原油価格の下落や新型コロナウイルス感染症の影響による経済悪化が懸念されるが、長期的観点から引き続き投資環境整備分野での支援を検討する。
現地実施体制強化については、2018年7月にJICAアンゴラフィールドオフィスを事務所に格上げした。現在、新型コロナウイルス感染症の影響により業務が制限されているが、現地事務所の活動分野の拡大及び専門性の強化が期待されており、引き続き現地実施体制の強化を検討する。
日本のODA広報については、日本企業の活動支援や文化交流活動とともに大使館ホームページやfacebookに掲載しており、引き続き積極的に行っていく。

農業試験場で耕作する農民(地域社会機能強化プロジェクト)
写真提供:長倉 洋海/JICA
インドネシア国別評価
提言
インドネシアに対する開発協力は今後民間セクターが主体となり実施されていくと見られることから、ODA関係諸機関との連携強化をさらに推進することを開発協力方針に明記する。
新規ODA案件が、成果目標・指標が設定されているインドネシアの開発プログラムに明確に位置付けられる場合は、そのODA案件がインドネシアの開発プログラムが目指す目標の達成にいかに貢献しているかを試行的に検証する。
現地ODAタスクフォースを中心に、包括的に日本のODAを通じた協力について協議する定期会合を開催するなど、現地ODAタスクフォースの機能を強化する。
援助政策を立案、検討するためには、相手国側の認識や理解を共有するための協議が必要である。政策対話や各セクターの関係者との協議の結果を俯瞰した、包括的な政策協議を再開する。
対応策の実施状況
民間セクターなど関係機関との連携強化については、インドネシア国別開発協力方針の次回の改定のタイミング(2022年以降の予定)に記載する。
日本のODA案件とインドネシアの国家開発計画との整合性については、案件実施前に確認している。しかしながら、評価時からこれまでに実施された案件について、インドネシア側のプログラムに明確な成果目標や指標が設定されているものは確認できなかった。
現地タスクフォースについては、大使館及びJICA事務所の間で緊密に連携をとりつつ対応している。国際協力銀行(JBIC)や日本貿易振興機構(JETRO)も参加した現地ODAタスクフォース会合については、その開催時期や議論の在り方などについて調整中である。
包括的な政策協議については、2020年3月に実施予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響で実施できなかった。今後、適切なタイミングで実施するよう調整する予定である。

建設中の駅舎と車両(ジャカルタ都市高速鉄道事業)
写真提供:JICA

自治体の農業事情を聴取(官民協力による農産物流通システム改善プロジェクト)
写真提供:JICA
コスタリカ・ニカラグア国別評価
(注)ニカラグアについては、情勢が悪化したため現地調査は実施せず、日本国内で文献調査や書面での聞き取り調査によって評価を実施。提言については評価の結果に基づく「教訓」とし、二か国共通のものを導き出している。
提言 | コスタリカ
気候変動対策緩和に資する協力の中でも、特に必要性が高まっている都市交通分野における温室効果ガス削減への協力を継続するべきである。特に、温室効果ガス削減効果が高く、日本の技術力や他国における協力経験が生かせる鉄道などの公共交通機関の拡大・整備に資する協力の可能性を検討することが有益である。
地域格差是正が喫緊の課題であるコスタリカにおいて、これまで一部の地域に限られていた活動を、今後は全国的に成果が波及するように支援を強化するべきである。具体的には、農村地域における生活改善支援制度(生活改善アプローチ)構築や首都圏で実施してきた中小零細企業振興支援を全国的に普及させることが有効である。
コスタリカの事例を基に、中所得国特有の課題を整理し、開発協力がどのように貢献できるかを分析し、コスタリカ以外の中所得国への協力政策策定への示唆を得ることは有益である。
コスタリカは三角協力を積極的に進める方針を有している。コスタリカ政府の援助実施能力の強化に資するため、日本はコスタリカをパートナーとした三角協力を推進することが望ましい。
日本のODAについて、事業関係者以外の間でも認知度を高めるような広報戦略が必要である。例えば、日本の広報戦略をコスタリカ側と共有し、事業実施者や受益者の協力を得て、具体的な広報活動を協働で進めることが肝要であり、また若年層を含めた幅広い年齢層に届くようにソーシャルメディアを使うなど、よりインパクトのある広報を実施すべきである。
対応策の実施状況 | コスタリカ
都市交通分野における協力については、2019年3月、コスタリカでJICAがその協力に関する経験を紹介するセミナーを実施した。また、コスタリカ側関係機関が都市交通分野における今後の事業展開を検討している。
「生活改善アプローチ」については、コスタリカ農牧省による普及活動を後押しするために、引き続き課題別研修を通じて人材育成を進める。すでに「生活改善アプローチ」を活用した活動が実施された地域において、住民が実施した活動を類型化した。中小零細企業振興については、コスタリカで育成された人材を活用しつつ、引き続き中米地域での活動の普及を進めている。
中所得国特有の問題への対応については、2021年以降に予定しているコスタリカ国別開発協力方針の改定時に検討する。
コスタリカをパートナーとする三角協力の推進については、環境保全や地熱開発など日本が技術的優位性を有する課題に関し、中南米域内での活用を念頭にコスタリカ側との協議を継続している。特に、環境保全分野について、実施中の「中米統合機構(SICA)地域における持続的な生物多様性の利用と保全に関する戦略的能力強化プロジェクト」を通じ、過去の協力によりコスタリカに蓄積された知見が中米8か国で活用されることが期待される。

受入槽でバイオガスプラントを作り出す様子
(生物多様性保全推進プロジェクト)
(コスタリカ)
写真提供:今村 健志朗 / JICA
日本のODAに関する幅広い国民層への広報については、現地報道各社へのプレスリリース配布、大使館ホームページ、facebookを通じた幅広い広報を継続している。
教訓 | コスタリカ・ニカラグア
先方政府の国家政策における優先順位が高く、強いイニシアティブを発揮している分野に対する協力は、高い成果につながり成果の持続や拡大にも期待できる。
中南米地域においては、日本が単独で実施するよりも、米州開発銀行(IDB)との協調によって、より規模の大きな協力の実施、事業形成・実施の円滑化、経済的負担や作業負担の軽減などが可能となり、協調の有効性が高いことが確認された。
多様なODA援助形態を戦略的に組み合わせて協力を行うことは、協力成果を一層拡大・定着させるとともに、効率性も高いことが確認された。
複数国・地域に対する協力を行う場合、テーマに応じ、協力形態を選定するべきである。例えば、特定のテーマに関する協力の場合、一国で得られた知見や教訓、成果などを第三国に横展開する「広域協力」の形の方が効率的に成果の発現につなげやすい。他方、一カ国では解決できない地域共通の課題の解決のためには地域調整機関を窓口として地域全体で取り組む「地域協力」の形の方が、域内の基準などの統一化の推進が図りやすいといった利点がある。
ODAによる政策レベルの成果を適切に評価するためには、政策目標をより明確化するとともに、個別の協力プログラムの目標に対し、具体的な指標を設定すると有益である。

ムルクク橋(橋梁・国道整備事業)(ニカラグア)
写真提供:JICA
対応策の実施状況 | コスタリカ・ニカラグア
先方政府のイニシアティブを後押しする協力については、2021年以降予定の次回国別開発協力方針改定時に検討する。
米州開発銀行(IDB)との協調融資案件については、ニカラグアの省エネ電化促進案件は2019年に事業終了した。また、コスタリカの首都圏下水道整備案件については引き続きJICA・IDB間で協調して事業を実施中である。日本はIDBと定期的に協議を行い、新規協調融資候補案件や協調融資の可能性について引き続き検討している。
戦略的なODA援助形態間の連携に関し、ニカラグアの運輸交通分野で、過去に実施した無償資金協力や技術協力と連携する形で有償資金協力(橋梁案件)を実施中である。また、中米地域において、教育分野や保健医療分野を中心に、技術協力やボランティア事業の連携により、技術や方法の導入を促進させている。
域内の事例から得られた知見・教訓の活用では、所得格差課題に対する取組みの一つとして、エルサルバドルで実施した一村一品運動が好評であった。これを受け、現在、グアテマラやホンジュラスでもその適用を進めている。また、警察分野では、ブラジルの成功事例をもとに、ブラジル政府の協力を得ながらグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルで活動を実施している。保健や防災、教育分野でも、同様に成功事例の構築とその展開を念頭に事業の形成を行っている。
中米各国の共通課題に取り組む際には、中米統合機構(SICA)の枠組を活用しており、現在、環境保全分野、運輸交通分野、気候変動対策分野において協力事業を実施中である。また、農業・農村開発やジェンダー主流化における協力を準備中である。
対コスタリカ・ニカラグアの個別の協力プログラム目標に対する具体的な指標を設定することについては、2021年以降予定の国別開発協力方針の改定時にその是非やメリット、デメリットについて検討する。

住民間で防災情報を共有(中米広域防災能力向上プロジェクト)
(グアテマラ)
写真提供:JICA

地域産品をもつ住民(一村一品運動)(エルサルバドル)
写真提供:JICA
無償資金協力個別事業の評価
2013年度トーゴに対するノンプロジェクト無償資金協力
提言
経済社会開発計画(旧ノンプロジェクト無償資金協力)の準備において、外務省は支援対象分野、調達品の種類の選定理由と期待される成果、過去の類似案件からの教訓など案件形成時の検討内容について、財務実行協議資料などに記載するなど、改善することが望ましい。
また、調達品の納品から販売・活用までのモニタリングと記録の改善を検討するべきである。さらに、外務省は、見返り資金の使用や申請方法に関し、先方政府への事前の情報共有を強化することが望ましい。また、日本の大使館員が常駐していない国に対する日本の支援に関する協議・広報を強化すべきである。
対応策の実施状況
経済社会開発計画の案件形成段階においては、実施の是非を関係者間で議論するとともに、財務実行協議資料においても実施決定にいたる経緯を記載している。また、調達品目の検討にあたっては、被援助国の実施能力や地域・国別の調達実績を踏まえるとともに、調達品の供与後の維持管理体制などに関しても協議し、被援助国内での適切な活用を確保するよう努めている。
想定される調達品目、見返り資金の発生の有無やその使途に関し、案件形成段階から被援助国の意向を可能な限り聴取している。案件実施段階においても、政府間協議会を含め様々な機会にフォローアップを行い、関係者間で結果を共有している。
見返り資金の使用・申請方法、広報の考え方については、国ごと案件ごとの状況を踏まえ、政府間協議会を含め様々な機会をとらえ先方政府に説明し、適時にフォローアップするよう努めている。

テープカットの様子(対トーゴ無償資金協力「カラ橋及びクモング橋建設計画」引渡し式)(2019年11月28日)
写真提供:在トーゴ日本大使館HP