ODAとは? 国際協力とNGO(非政府組織)

第1回ProSAVANA事業に関するNGO・外務省意見交換会
議事要旨

※NGO:非政府組織(Non-Governmental Organization

【日時】2013年1月25日(金曜日)10時00分~11時30分
【場所】外務省 南893国際会議室
【参加者】外務省2名,JICA5名,NGO15名

【配布資料】
外務省/JICA配布資料(今後に向けての問題提議):
(1)モザンビーク,プロサバンナ事業・セラード開発についての概要説明(PDF:4.4MB
(2)NGOからの質問書へのJICAからの回答(PDF:0.1MB
NGOからの配布資料:
(3)議題説明文(AJF吉田昌夫)(PDF:0.3MB
(4)Justiça Ambiental & Friends of the Earth Mozambiqueからのポジションペーパー(PDF:0.3MB
(5)モザンビーク共和国憲法抜粋(PDF:0.1MB
(6)参加者リスト(PDF:0.1MB

1. はじめに

前回の12月14日に行われたNGO・外務省ODA定期協議会の議論で本事業の課題が複雑で多岐にわたるため,別途,個別に中心的に話し合う場を設けることとなった。初回である本日は,事業の内容確認及び,NGO側の問題意識の共有を行うことが確認された。

2. NGOによる問題提起

NGO側から,【資料(2)】に基づき準備された【資料(3)】に沿って,以下の問題提起がなされた。

主な議題として設定された 1)農民主権,2)土地問題,3)食料安全保障については,1)は「本事業によって最大の影響を被る人びとの主権をどう守るのか」,2)は「農民の懸念である土地収奪に関して農民の声をどう聞くのか」,3)「現地の農民の人びと,モザンビーク人の食料をどう守るのか」が問題提起された。また,1)~3)は,相互に関連づけて考えるべきとも提起された。

その上で,以下の点についての情報の提示と問いが示された。

【情報の提示】2012年10月11日の「モザンビーク全国農民組織(UNAC)」のプロサバンナ事業への非難声明(不透明性,農民組織の排除等),同声明に対し他のモザンビーク市民社会の賛同があること。また,モザンビークが世界的な土地取引のターゲットになっていること。ブラジルのセラード開発によって土地争議が生じたこと。

【問いの提示】大まかに以下の12点の問いが提示された。

  1. 世界,アフリカ内,モザンビーク内での土地収用の問題(投資問題含む)への理解があったのか,またその理解の本事業立案への反映状況
  2. モザンビークにおいて,土地問題で中心的な役割を果たしてきた市民・農民組織(UNAC含む)の活動をどう把握し,どのような対話を行ってきたのか
  3. 1996年の日本政府発表「民主的発展のためのパートナーシップ」への意識
  4. 同事業における今後の意志決定プロセスへの市民社会の参加についての考え
  5. モザンビーク土地法についての理解
  6. 同事業における日伯モザンビーク・官民合同ミッションに,入植や土地を希望するブラジル・アグリビジネス関係者が参加している理由
  7. 「住民移転」「環境影響評価」が予定されていることを踏まえたその詳細
  8. JICA説明「特定農民組織と連携している」について,どのような団体とのどのような連携を,どのような基準で選定し,実施しているのか
  9. 有限である農業資源(土地・水・労働力)を「アグリビジネスと共存」することの矛盾についての考え
  10. 事業で目的として謳われる「世界の食料安全保障」であるが,3割が栄養不良のモザンビークでこの理解のまま進めて良いのか
  11. アグリビジネスを主体とすることによる負の遺産(遺伝子組み換えの導入等)についての考え
  12. 土地問題に関与し,当事者である農民組織より先にアグリビジネスが事業に関与しているのは何故か?

JICAから,【資料(1)】を利用して,アフリカ部と農村開発部よりプロサバンナ事業自体の理解共有が図られた。

3. 意見交換

冒頭NGOから,【資料(4)】に基づき,以下の補足説明がなされた。

  • モザンビークの環境NGO(Justiça Ambiental及びFriends of the Earth Mozambique)から届いたプロサバンナ事業に関する共同声明で,ブラジルでのセラード開発に関してJICAの「成功」と異なり,再評価が必要と指摘されている点の紹介。
  • セラード開発で使用される「ファミリー・アグリカルチャー」の「ファミリー(家族)」とプロサバンナ事業での「ファミリア(家族)」は相当異なっており,前者は「入植者」,後者は「自給自足をベースとする農家」とすべきとの指摘を提示。
  • プロサバンナ事業の手法が,憲法第11条「国と国民の合意」に抵触し,憲法違反となる可能性があることがUNACの声明に書かれていることについて,【資料(5)】とともに紹介。

また,NGOから補足で以下の点が課題として指摘された。

  • ブラジル・セラードとモザンビーク北部のJICAのいう「農家」の耕作面積の大きな違いが言及されず,議論の前提になっていない点。
  • JICA説明や資料に,地域を生きる農民や住民の暮らしや農業形態,課題や希望が見えない点について。農民の土地の権利について,具体的にどう担保するのかも見えない点。
  • モザンビークの農家の99%が小規模農家で現状を低投入低生産がマイナスかのように説明されているが,NGO側は食料安全保障の基本は自給自足であり,その余剰販売で収入向上に結び付けるべきだと認識している。現地農民の現状の分析が異なる点。
  • JICAは声明を「UNACの誤解」と述べたが,どう解決するのか,そのような団体こそ意思決定に含めることが肝要である点。「関係者間と協議」の「関係者」は具体的に誰かの確認。

以上の日本・モザンビークNGO/農民組織による問題提起,JICAの説明を踏まえ,主に3点について議論がなされ,以下のような回答がJICA及び外務省からなされた。

(1)プロサバンナ事業の目的とNGOの指摘する問題点についてのJICA回答

  • 「農業のポテンシャルの高いナカラ回廊地域の開発を進めることで,地域の小農の貧困削減と食料安全保障への貢献を見込む」ことが目的。マスタープランはそのためのもの。
  • また,ブラジルセラード型の開発はそもそも難しいことはProSAVANAの構想段階から認識しつつ取り組んでいる。
  • 土地に関する農民の懸念について汲む必要認識。「責任ある農業投資」を念頭に,ガイドラインを作ろうとしている。モザンビークで土地法が十分に機能していない点も理解しており,住民の権利や環境への影響の最小化を配慮した開発が必要。
  • 食料安全保障上で低投入低生産が問題ではなく,自身が食べていけるようになることが基本ということに賛同。一方,この地域には,自給自足だけでなく商業的に,マーケットに持っていけるよう民間企業と連携していく可能性がある。モザンビークの農業開発戦略に掲げられている「競争力のある農業」を支援する必要がある。
  • また,確かに(アグリビジネス企業から)土地の所有権を得たいという申し出がモザンビーク政府に来ているようだが,JICAがマスタープランを作っているので待ってくれといっており,ProSAVANA事業に関連する投資事業は実施されていない。

(2)セラード開発の評価に関するJICA側の回答

  • セラード開発の「成功」「失敗」については,「ブラジルの不毛の大地「セラード」開発の奇跡」(ダイヤモンド社)を読んで頂き,批判する際には本の記述やデータのどこが違っているか検証的に提案すべき。
  • モザンビーク環境団体の新たな声明については間違った前提(日系ブラジル人の農業開発,外国人に対する土地所有)が書かれている。
  • 同声明で,失敗したセラードモデルをモザンビークに取り入れるのは困るという主張されるが,ブラジルのセラード開発モデルをそのままモザンビークに適用しようと表現したことはない。ブラジル・モデルとモザンビーク開発モデルは当然異なるが,例えばモザンビークとブラジルでは日長のパターンが同じであることから農作物に与える影響が類似するなど,ブラジルで培われた熱帯サバンナ農業の各種ノウハウを使用しようという発想。

(3)目的が小農の人間の安全保障の確保/支援であれば,セラードの話は不要で,また大型・商業,三角協力である必要がないとのNGOからの指摘についての外務省回答

  • ODAのため,日本政府やJICAがビジネスをしたいわけではない。外務省は,相手国(モザンビーク)の発展を助けたい。相手国の国民を豊かにしたい。豊かとは人間の安全保障のこと。ブラジルと異なり,モザンビークナカラ回廊地域には既に生活を営んでいる小農がいるのは厳然たる事実。それらの小農の生活向上に貢献したい。低投入低生産は事実で,農協も十分な能力があるわけではない,現金収入もない,だから貧しい。この土地は小農だけでなく,30年ぐらい頑張れば豊かになる。小農が豊かになる方法を考えてあげたい。そのためどうするかがこの事業。
  • なぜ三角協力かは,自然環境が日本と異なる中において,セラード農業開発の経験の使えるところを使うため。
  • 基本的に日本政府のカウンターパートはモザンビーク政府であるが,実際の事業をやっていくうえで多くの農民組織の声を公平にどう吸い上げるか考えなければならない。今後どう組織化して沢山の農民団体とどのように意見交換を行うか検討が必要。

4. NGO側のコメント

意義のある意見交換会であった。理解が深まった部分と相当ギャップがあることも分かったので,今後も続けていく必要がある。共通の土台が出てきた。例えば,JICAと外務省から,事業の目的として「地域の小農を支援したい」という明確な意思が表明されたことは有意義であった小農支援が目的であれば,この地域の小農がどう暮らし,何を食べ,何を生産し,どういう課題に向き合っているのか,それに基づいて応援することが共通の前提と考える。

以上の目的と手法を踏まえると,何故ブラジル・セラード開発の話が持ってくるのか不明。これは,日本のNGOに留まらず,モザンビークの農民組織,市民社会,研究者,ドナーなどにも疑問を持っている人がいるようだ。最初に「セラード開発だから三角協力」と打ち上げたことが現在までの誤解を招いているのではないか。

これ以降,NGOが指摘したように,ブラジルの「入植農家」とモザンビーク北部の「小農」を同じ用語(「農家」)を使って説明すべきではないだろう。

セラード開発の「評価」については,我々の「評価」を論じる以前に,現地でこう理解されていることについてまずは受け止めるべきではないかという提起と理解。補足として,声明の「外国人」はより正確には「外国系入植者」のことで,これは本郷専門員(JICA)自身がセラード開発の入植者を「ヨーロッパ系/日系の農家」と述べている。セラード開発により,先にいた住民はどのような暮らしを余儀なくされたのか把握されているか問いが残る。【資料(3)】にあるように,セラード開発によって土地争議が頻発した。

「セラード開発」をモザンビーク小農のために参照するのであれば,セラード地域の小農がセラード開発によりどうなったのか,同じ事を繰り返さないための予防が語られるべきではないか。それがあれば,モザンビークの小農の権利を守ろうとする人びとに,「日本は分かっている」と理解される。「ブラジルの不毛の大地「セラード」開発の奇跡」に「書かれていること」を検証すべきなのではなく,「書かれていないこと」について考える必要があるのではないかについて検討されたい。

当事者主権や尊厳を,日本人同士で議論しても限界があるため,モザンビークから市民社会が何団体か招へいする。彼らの政府と対話の要望への対応を依頼。

またG8によるNew Alliance for Food Security and Nutritionで,モザンビークについて米国と日本が共同議長国として対応,プロサバンナ事業がこれに含まれるというが,世界的なグローバル市民社会はNew Alliance for Food Security and Nutritionに注目している。その広がりで考える必要あり。

5. 次回に向けて(コーディネーター高橋氏)

本意見交換会の一番の成果は,プロサバンナ事業の目的が,主として地域の小農の生活改善であり,その食料安全保障であると確認されたこと。プラスアルファで地域全体で考えていくということと理解。手段をどうするかが今議論されていると確認。未だ議論が不十分な点としては,このプロセスに農民がどう関わっていけるかについて。また,セラード開発の経験がどう役立つのかについて,技術開発と調整と資金の三本立てだとの説明があった。国際的にもかなり注目されている事業であり,継続的に議論される必要がある。

セラード開発について議論を開始すると,ProSAVANA事業への議論から逸れてしまうことから,本協議会ではセラード開発についての議論は行わないことと整理した。

次回(第二回)については,1)農民主権,2)土地の権利,3)食料安全保障は相互に関連づけられるため,この三点を関係づけながらも,1)について(特に,農民の議論への参加)を集中的に議論する。

第二回までに,農民主権の話が出来るモザンビーク農民組織らが来日するため,それとの外務省・JICAとの対話や討論がNGOから提案され,事前準備会合から議論がされてきたが,NGO側の設定の内容次第で参加の可否を検討すると結論。



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