ODAとは? ODA改革

「国際協力に関する有識者会議」第2回会合・議事要旨

1. 日時

 平成19年5月9日(水曜日)9時30分―12時

2.場所

 外務省 共用国際会議室(南庁舎893)

3.出席者

 「国際協力に関する有識者会議」委員。
 外務省より、別所国際協力局長、深田国際協力局審議官他が出席。
 関係府省庁、国際協力銀行(JBIC)及び国際協力機構(JICA)がオブザーバーとして参加。

4.議題

 経済界から見た国際協力政策の基本的な考え方

5. 議事次第

  • 開会
  • 議長からの説明(NGOの委員の紹介、今後の進め方)
  • 経済界から見た国際協力政策の基本的な考え方(米倉委員、辻委員、岡委員からのプレゼンテーション)
  • 意見交換
  • 次回会合の日程
  • 閉会

6. 議事の概要

(1) 開会の挨拶(渡辺議長)

  • 議論の時間を増やすため、9時30分開始にさせていただいた。
  • 本日の主要なテーマは、「経済界から見た国際協力政策の基本的な考え方」である。米倉、辻、岡各委員にプレゼンテーションをして頂き、その後、自由に意見を交換したい。

(2) 議長からの説明

 渡辺議長より、NGOの委員の紹介と今後の進め方について説明があった。

(イ)新しい委員について

  • NGOの委員は、前回の会合の時点ではまだ調整中であったが、NGO間の公募プロセスを通じて、2名の委員が決まり、本日からご出席頂いている。
  • お一方は、熊岡路矢委員で、国際協力NGOセンター(JANIC)の副理事長を務められている。もうお一方は、神田浩史委員で、関西NGO協議会の提言専門委員であり、またAMネットの理事を務められている。(熊岡委員、神田委員から自己紹介があった。)

(ロ)今後の進め方について

  • 前回の会合で、今後の進め方について、自分(渡辺議長)から一案を示そうと申し上げた。そのため、まず委員全員に「国際協力政策の基本的な考え方」について簡潔な文書でご提出頂いた。
  • 頂いた幅広いご意見と、大臣からの諮問事項や、来年のサミット、アフリカ開発会議(TICAD)も念頭に置き、次のように進めていこうと考えている。
  • 本日は、経済界の三人の委員の方々にお話をお願いしたい。日本の経済発展を担ってきた企業の能力をODAに活用していくことは重要。企業がODAに何を期待し、何を改善すべきと考えているか、議論したい。
  • 7月の会合は、アフリカを取り上げたい。大野委員にアフリカの専門家の意見を聴取して頂いており、そのヒアリングをベースに大野委員の考え方をお話し頂くこととしたい。
  • 9月の会合は、大臣からの諮問事項のうち、ODA案件の形成と実施上の課題を扱いたい。
  • 9月以降の進め方は、今申し上げた3つのテーマを終える過程で改めて検討し、委員のご意見を伺うこととしたい。
  • 何人かの委員からは、この有識者会議の下に専門部会や小委員会を設けるとのご意見があった。可能であればそれに越したことはないが、時間や、人的資源の余裕がなく難しい。アフリカについては専門家のヒアリングを行うが、それ以外は小委員会は設けないこととしたい。ご異論があれば仰って頂きたい。

(3) 経済界から見た国際協力政策の基本的な考え方

 米倉、辻、岡各委員から、次のようなプレゼンテーションがなされた。

(イ)米倉委員のプレゼンテーション

  • 我が国が繁栄を続けていくためには、貿易・投資等の対外経済活動の自由度と安定性を確保することが必須。軍事的な手段の行使に制約のある我が国にとって、ODAは安全と繁栄(=国益)を確保するための重要なツールであり、戦略性を持った取組が必要。
  • ODAの実施に当たっては、施しではなく、自立的な経済発展が可能となるよう、日本の技術・ノウハウを活用しつつ、インフラ整備、人づくり、制度整備等を行うべき。こうした援助は、我が国の戦後復興の歴史や東アジアにおける開発経験に裏打ちされており、他国に誇れる「日本らしい」援助。
  • 住友化学では、防虫剤を練り込んだ長期残効型蚊帳(「オリセットネット」)を開発・生産し、WHOやUNICEF、世界銀行等と連携し、ミレニアム開発目標達成に協力している。コロンビア大学ジェフリー・サックス教授が中心となっているミレニアム・ビレッジへの支援にも協力し、昨年、約33万張りの蚊帳を供与した。対象となった村の一つでは、マラリア病原虫の保有者が住民の43%から11%に減り、死亡率も半減。今月初め、安倍総理の中東訪問に随行した際、ドーハでの慰労会で総理から、4月末の総理訪米の際にブッシュ大統領にもこの蚊帳のすばらしさを説明したとの話を伺った。
  • 長期残効型蚊帳の単価は数ドルで利益も少しだが、その利益を還元すべく、アフリカ諸国に小中学校を建設している。住友グループ全体で、既に6校を完成した。建設に当たっては、NPOワールド・ビジョンと連携し、現地の生徒の親たちの労働奉仕も受けている。機動性にすぐれたNPO、NGOとの連携は重要な課題。NPO、NGOの育成に我が国は本腰を入れる必要がある。
  • 我が国経済界にとってアフリカは遠い存在であり、旧宗主国が面倒を見ればよいと言う声もある。しかし、国際社会の不安定要因から目をそらしたままでは国際社会の尊敬と信頼を得られず、国益にとってもマイナス。アフリカに強い国際機関と連携しつつ、我が国の技術・ノウハウを活かした援助を展開すべき。
  • 昨今、民間でも企業の社会的責任(CSR)の観点から、アフリカに関心を持つ企業が増えている。しかしながら、魚をくれる人より魚釣りの方法を教えてくれる人の方が有難いという趣旨のアフリカの諺があるように、アフリカとの貿易・投資を増やし、自立の道を探ることの方がアフリカの人々にとって有意義であり、また、経済界のなし得る本来の姿でもあると思う。長期残効型蚊帳もアフリカで数千人の雇用を生み出しており、タンザニアでは製造技術を無償で供与したり、現地企業と合弁企業を設立したりした。
  • 2008年10月に日本政策金融公庫が発足するが、現在のJBICの国際金融部門の優秀な人材が散逸することのないよう、専門性を生かせるキャリア・プランを用意することが重要。
  • 国際援助機関で活躍できる人材を育成するため、高等教育の充実とキャリア・パスの総合的な検討が必要。国際機関で通用する人材は、企業にも多く存在。国際機関と人事制度の整合性がとれれば、人材派遣は増やせる。

(ロ)辻委員のプレゼンテーション

  • 開発途上国に対する国際協力は、国際社会から支援を受けて経済発展を遂げ、G8の一角を占めるに至った日本が当然行うべきこと。巡り巡って、結果的に我が国国民の利益につながる。
  • 我が国はODAによりアジアのインフラ整備、人材育成を進め、民間の貿易・投資の呼び水となった。その実績は胸を張って良いことであり、今後、南西アジア、中央アジアに拡大させることが重要。アフリカについても、貧困削減、ミレニアム開発目標の達成がよく語られるが、経済成長のメカニズムを途上国に移植することが必要であり、民間投資をいかに呼び込むかが鍵。
  • 国際協力には、オールジャパン体制で取り組んでいくことが重要であるが、企業はODAに消極的になりつつある。円借款の事業を形成し実施するまでに3,4年から7年かかることもあり、その間の相手国の政策の変更や資機材価格の高騰や、厳しい国際競争入札など、企業への高いハードルが存在。ODA予算がこの10年で約40%削減された結果、大幅なコスト削減が行われているが、限界に近づいており、多くの業界から疑問や不満、悲鳴、諦めの声が聞こえる。実際に、コンサルティング案件、無償案件等で入札の不調が散見される。
  • 企業は営利追求を目的とする以上、採算を度外視した赤字受注は株主への説明責任の観点から不可能。ODA案件で大儲けしたいと言うつもりは毛頭ないが、国際協力の担い手として、企業が持続的にODAに関与できるようにすることが重要。CSRの高まりはあるが、ODAを本業の中で位置づけることが重要。
  • 民間に存在する途上国に関する知見、経験、人材の蓄積を、国際協力の場で十全に活用すべき。民間の知見、経験、技術はハードとソフトの両面にわたる。例えば、ソフト面では民間の現職や退職者を有効活用して、経営ノウハウを伝える制度をつくるのも一案。JICAの日本センターとの連携や、シニア・ボランティアの中に経営を教える専門家の枠を設けることも考えられる。日本の顔が見え、途上国からも歓迎されると思うので、ご検討頂きたい。
  • 来年10月に新JICAが発足する機会に、国際協力の制度や運用に関して、官民で忌憚のない意見交換を行いたい。例えば、一般プロジェクト無償の契約は片務的だという声がある。案件実施の中で設計変更が難しいこと、単年度予算に縛られて納期が厳しいこと、資機材の価格高騰分を受注企業が負担すること等である。また、官民パートナーシップ(PPP)を進めるためには、新JICA、新JBIC、日本貿易保険(NEXI)の連携を制度的に確保することが必要。
  • さらに、案件形成の初期段階から民間の知見を取り入れるため、ODAタスクフォースに民間の代表を正式メンバーとして入れて頂くことも一案。そのためには、官民の間で適切な距離を保ちつつ、協力できるルールを作り、制度化することが必要。国内では、民間とODA所管官庁、実施機関との間にオープンな意見交換の場を設けることを提案。
  • 顔の見える援助を進めるため、二国間援助と多国間援助の仕分けや案件の選別等の工夫が必要。多国間援助は透明性が低く、日本企業への情報提供が少ないとの批判もある。
  • 日本経団連では、国際協力に関する意見書を作成中。ドル建て、現地通貨建て借款など、円借款のメニューの多様化を提案している。公表次第、委員の皆様にもお届けしたい。
  • 丸紅のイラクにおけるODA案件をご紹介したい。1980年代に建てられた13の病院のリハビリを進めている。イラクに日本人が入国できない中、ヨルダンのアンマンに医療技術者など10数名が駐在。イラク保健省等の方々に頻繁に来て頂いて打ち合わせをし、現場からは電子メールや電話、一日数十枚の写真を送るなどして連絡を取っている。また、イラクの医療機器従事者など120名以上が日本で研修を受けた。1980年代の医療機器も、日本のメーカーはきちんと保存しており、懇切な指導をしている。病院のうち6件は完工。イラクの保健省、病院関係者の方々は、「日本が帰ってきてくれた」と心から喜んでいる。現場の担当者は厳しい状況の中、熱情を持って取り組んでいる。現場の人間の熱情も、日本のODAが評価される一つの大きな要因となっている。

(ハ)岡委員のプレゼンテーション

  • 国際協力には様々な側面があるが、国家戦略的な観点から見ると、経済連携のスピードアップや資源・エネルギー獲得のための交渉力強化のため、ODAや政策金融、貿易保険、民間資金などの交渉ツールを総合的・戦略的に活用していくことが重要。日本貿易会は昨年11月、顔の見える援助の推進、援助ツールの有機的連携、民間資金や政策金融との連携等を提言したが、これもそのような認識が背景となっている。
  • 本日は、二つの点についてお話ししたい。第一点は、国際協力において官民連携をいかに深めていくか。大手企業のODAへの取り組みは総じて減少しつつある。大手6商社の無償資金協力の受注は、2000年度の929億円から、2004年度の377億円へ、60%減少。この理由は、(a)案件形成にかかる時間と手間、及びその対価である利益が、企業自身が期待する、また他のステークホルダーが求める時間軸に合致しないケースや、説明責任に耐えられない案件が少なくないこと、(b)実務レベルでは要請主義的な発想・手順が残っており、案件形成プロセスの透明性が担保されにくいことである。
  • この点に関し、次のことを提案したい。
    (i)現地タスクフォースに民間代表を参加できるようにし、案件形成と遂行を促進すること
    (ii)民間企業の案件発掘推進に対するモチベーションを高める仕組み・制度を創設すること。すなわち、民間企業が案件を提案する機会を設け、相手国政府も含めた中立的な評価機関が提案された案件を評価し、この評価機関が実施すべきと判断した案件については、提案者の企業に発注できる仕組みを作ることが必要。
     なお、我々はこうした仕組みで受注を増やしODAビジネスを拡大したいと言っているのではない。健全な事業活動を通じて地域社会に貢献することは、大切な企業使命の一つである。国家戦略として行う国際協力の中で、企業がその機能を活かし一定の役割を果たすためにどういう仕組みがあり得るかという観点からご提案している。
  • 第二点は、国際協力に対する国民的コンセンサスをいかに形成していくか。国際協力は国益に適うとのコンセンサスが国民レベルで成立しているとは言い難い。背景には、ODAから日本国民が直接的な利益を享受できないため国民の関心が低いこと、問題含みの案件がメディアで一面的に取り上げられ、国民がODAに負のイメージを持っていることがある。これは、企業が風評リスクのためODA案件を進めることに逡巡する要因となっている。
  • この点に関し、次のことを提案したい。
    (i)民間企業から一定期間、政府機関や国際機関、在外公館等に出向させることにより、国際協力の人材の一層の増強を図ること
    (ii)学校教育(義務教育や高等教育)の中でODAに関する事項を従来以上に盛り込むこと
    (iii)民間人の「国際協力親善大使」を創設し、内外広報活動の一層の強化を図ること。外務省等の関係機関から広報物はかなり発信されているが、国民がしっかり受け止めたメッセージはどれだけあるかという観点から見ると、課題が多い。地域・分野毎に、複数の著名な民間人の方々に民間モニターとともにODAの現場に足を運んで頂き、内外にアピールして頂くことにより、国際協力が多くの国の経済成長に貢献し感謝されている事実を国民が知り、誇りに感じるようにする。

(4) 意見交換

 以上のプレゼンテーションをもとに、意見交換が行われた。概要は以下の通り。

(イ)JBIC・JICA等(ODAとOOF)の連携

 初めに、「企業の方々は、企業活動の投資の側面と国としての協力の側面をどう調和するかで苦労されている。JBICのように投資を中心としたところと、協力を中心としたJICAのようなところとの間には利害相反があり、きちんとこれを議論しないとどっちつかずになってしまう可能性がある」との意見が出された。
 これに関連して、投資と国際協力の関係、JBIC・JICA等の連携について、以下の意見が出された。

  • 企業は、投資も含めた企業活動を通じて地域社会等に貢献している。その中でODAとの接点を持つ部分があり、そこでJICA、JBIC、NEXIとの間で連携し、共通戦略をもって行うべきという点には同感。
  • ベトナムのホーチミン市郊外の発電所は、1号基はODAで建設され、2-5号基は卸電力事業(IPP)で、JBICの融資も得て企業が建設した。これはJBIC、JICA、NEXIの連携を考える上で、良い例。また、カントリー・リスクが高いボリビアで資源開発を行う際も、同国が日本からODAを多く受けており、二国間関係が安定していることを考慮要因とした。ODAと投資は総合的につながっている。
  • 日本らしいODAは、相手国の経済発展に貢献するもの。PPPが最も効果的ではないかと考えるが、その中でJICAやJBICがどう相関関係を持ちながらやっていくかということだろう。
  • アジアの経験の特徴は、日本の援助が貿易・投資と相乗効果をもって機能し、またアジア諸国が自立的な成長を遂げて援助から「卒業」した後も、日本が企業の投資等を通じてパートナーとして関わってきていること。PPPの重要性に同感。ODAをどう位置づけていくか、他の公的資金・関係者との関係をどうするかが重要。新JICAでどういう仕組みができればやりやすくなるか、知見を伺えれば参考になる。
  • ODAとOOFの間で、海外経済協力会議等の司令塔・政府レベル及び現場レベルの双方で、それぞれ共通戦略をもつことが必要。そのためには司令塔と現場の実施レベルの両方で官民連携が重要になる。例えば、現場の実施レベルについては、インドネシアやベトナムの現地ODAタスクフォースで、投資環境整備等に民間の方々と一緒に取り組んだ例があるので、それを他国への普及を含めてどう強化していくかが重要。
  • 企業が途上国で活動して現地の企業・経済によい影響を与えるのも、広い意味での国際協力。国際協力・ODAは、より社会開発、人間開発を目指すもの、非営利(ノン・プロフィット)の傾向が強まっている。また、ODAにおいて、人権・民主化・良好なガバナンスが前提とされていなければ、かえって極端な貧困、極端な貧富の差が生まれてしまう現実がある。そこを正す意味でも、上記の人権・民主化促進などの課題をふくめ、社会開発・人間開発が強調されるべき段階に入っている。

(ロ)中国による投資・援助

 中国に関して、「中国は、積み上がった外貨準備を用いて、我が国のODA予算を遙かに上回る30兆円くらいの金額で、投資会社のようなものか、あるいは援助を含めた機関を作ろうとしているとの情報がある。国としてJBICとJICAの間でどのようにシナジー効果を持たすか議論することが必要」との意見が出された。これを受けて、

  • 中国は既に資源の確保という観点から、アンゴラで議事堂や石油省のビルを作るなど先行している。日本がそれに対抗してどうするかという問題は、ODAとは切り離して考えるべき。
  • ODAは相手国の経済発展を通じた貧困削減が目的であり、資源確保と結びつけるのは無理がある。

との意見が出された。
 さらに、「中国の援助は、雇用を創出しない、人権配慮・環境配慮がないなど、相手国の中では必ずしも好感をもたれていない」との指摘が複数の委員からあり、

  • 日本もかつて黒字還流のために援助を大規模に行ったこともあり、感情的に議論するべきではない。
  • 環境配慮、人権配慮の課題をふくめ、中国をどのように国際的援助協調の中に入れていくかが課題。

との指摘がなされた。

(ハ)官と民との連携、CSRのあり方

 「商社は空前絶後の利益を上げている。CSRの側面もあり、ODAは利益が上がらなくてもよいとも考えられないか。また、企業内でODA部門担当者とそれ以外の部門の人事交流がなされていないのではないか」との問題提起がなされたのに対し、次のような応答があった。

  • それぞれの部門で赤字を出すことは株主の付託に背くことになり、企業経営として無理がある。ODA担当者だから給料が低いと言うことはなく、担当者は熱情をもって取り組んでいる。
  • 空前の利益とのご指摘だが、一方で2000年頃には「商社不要」という論調もあった。それを各社が懸命の工夫と努力をして、ここまで業績を回復させてきた。各社の取り組みに共通しているのは選択と集中。ODAビジネスについても、リスクとコストに対する収益を考え、各社それぞれに選択と集中を行ない、現在の状態に至っている。
  • CSRとは、ビジネスとは別に何か特別な活動をやるということではない。ビジネス、即ち本来の企業活動を通して社会的な責任を果たしていくのが本道。適正な利潤という企業活動のベースがなければどんな仕事も持続可能な形にならない。災害などの突発的な事態に対しては、付加的に寄付行為等を行うが、それは企業活動のほんの一部に過ぎない。ODAビジネスも、各企業が持続可能な形で取り組むことができる枠組みが必要。

 また、「CSR活動の協力相手に、国際NGOだけでなく日本のNGOも加えてほしい。コミュニティ支援無償を活用することも可能ではないか。ODAとCSRを企業の中で別の部門がやっていることが問題ではないか」との意見が出されたのに対し、

  • すべての社員が企業の事業を通じてCSRを達成するという考え方がベース。
  • CSRとコンプライアンスの精神は、全社の全営業部門に徹底している。特にODAを通じた貢献は、そのような視点から社内での評価も行われている。

 との応答がなされた。

 ODAと民間との連携については、次のような意見が出された。

  • ODA事業に民間のノウハウ、能力、資金を活用していくことが重要。ODAの資金が枯渇し、ミレニアム開発目標実現には資金が絶対的に足りない中、欧米では産業界と同盟(アライアンス)を結ぶ事が議論されている。民間活力をODAに導入する制度作り、官と民のルールを作っていくことが必要。
  • ODAと民間のアライアンスの方向性に賛成。ODAでインフラ整備がなされれば、企業は事業を海外に展開していく。ODAでどの国でどのようなプロジェクトを実施していこうとしているかという情報があれば、企業の役に立つ。
  • 自分もマダガスカルを訪れた際、大統領が人材育成に注力していることに感銘を受け、社内の了解も得ずに10万ドルの奨学金を提供してきた。そのようなCSR活動は多くの企業が行っている。企業が10万ドル寄付したら、JICAがあと10万ドル足して20万ドルにするというマッチングができれば面白い。

(ニ)人材の育成

 「企業の若手、中堅が海外で活躍したい場合、外に出る仕組みがあるのか。また、帰ってきたときに肩身の狭い思いをせずに、企業の中で活躍できるのか。青年海外協力隊員は帰国後、就職先を探すのが大変であるが、国際協力を研究した学生、海外でインターンを行ってきた人たちがきちんと評価される仕組みが必要ではないか」との意見が出されたのに対し、以下の応答があった。

  • 当社では海外経済協力隊員の卒業生を多く採用しており、米国や東アジアで活躍している。国際協力に携わった人は実力を持った人が多い。企業から世銀等に出向している人材もおり、帰任後は海外関係で活躍している。
  • 日本貿易会では、商社のOB、OGの人材を登録した国際社会貢献センター(ABIC)を設けている。この人材をODAでも活用できないかと思う。また、現役の社員が国際協力に出ていくケースも、限定的ではあるが存在し、それが後の出世に不利になることはない。国際協力に携わった経験がある学生は、就職活動でも有利である。

 また、援助機関の人材について、次の意見も出された。

  • 政策決定の中で、地域と時代の特殊性を見分ける資質を誰が持っているかが重要。JICAの専門家として出向した経験から言うと、JICAの駐在員や大使館のODA担当官は、開発や地域のプロではなく、専門家の行動を妨げているのが現実。
  • 日本と被援助国、ステークホルダーの三者の間でODAの理解が一致するように努力することが必要。人材面では、オランダ等欧州のODA関係者は、文化的多様性の理解など人類学的な訓練を受けてから現地に赴く。文化的効率を高めるために、インタンジブルな側面の重要性を考えるべき。

(ホ)プレゼンテーション中の具体的な提案について

 経済界の3委員のプレゼンテーション中の提案について、次のような意見が出された。

  • 青年海外協力隊には現職教員の枠があるが、同様に経営協力についてもシニア・ボランティアの中に特定の枠を設けるべきではないか。
  • ODA案件を決定するプロセスがもっときちんと説明されないと、現地ODAタスクフォースに民間代表が入っても、案件決定に意見が反映されるかは疑問。また、受益国に使い勝手の良いODAのパターンも、今後議論していきたい。

 また、「無償資金協力で設計変更、為替リスクが企業の負担になってきたという点については、新JICA移行にあわせて予備費が制度化されると聞いているが、これを経済界側はどう評価するか」との質問が出された。これに関連して、「ODAの迅速化は、種々の機会に外務省に要請している。時間がかかるのは途上国側であることが多いが、先方とスケジュールに合意し、現在の期間を半減させるくらいの形で検討してほしい」との発言があった。

(ヘ)国際機関との関係

 「日本企業は、もっと国際開発機関の事業の受注にも参加したらどうか」との問いが出されたのに対し、

  • 国際機関から日本企業は情報がとりにくい。また、日本の出した資金がどう使われているか分からず、顔の見える援助という点で不十分。しかし、マルチの場でも存在感を示せるようにしていきたい。

との応答があった。
 これについて、「海外や受益国にとっては、国際機関の方が二国間援助機関より透明性が高いという評価もある。どのようなご経験から国際機関の透明性が低いと考えているか」との質問が出され、

  • 資金の用途について、日本への報告があまり来ない、また、日本企業に対する情報の提供が少ないと聞いている。

との応答があった。また、

  • 世銀等の機関に日本が多くの金額を出資していても、受注は競争入札であり、日本企業に資金を循環させることはできない。
  • 最貧国を誰が支援するのか考えると、政府はすべて「選択と集中」できるものではない。企業の参加が容易な国とそうでない国を分けて考えるべき。また、最貧国で危険度の高い国では国際機関を使った外交が生きてくる。

との指摘がなされた。

(ト)教育、広報

 以下のように、開発協力や広報の重要性を強調する意見が多く出された。

  • 学校教育でODAを扱うことや、著名な民間人を動員した広報に賛成。「ほっとけない世界のまずしさ」のホワイトバンドのキャンペーンも著名人を動員した広報の成果があった。新しい発信ツールを考えていくことが重要。
  • 外務省は立派なODA白書やパンフレットを多く作っており、出前講座などもやっているが、それでも国民的コンセンサスができていない。先週、逓信総合博物館にODAで感謝された国々の切手の展覧会(「ODA切手展」)を見に行ったが、30分の間、見ていたのはずっと自分一人だった。例えば、日曜日のNHKの夜8時、9時の1時間を1年間おさえて、喜んでもらっているODA案件を、実名を出してどんどん紹介することも考えてはどうか。
  • 中学、高校の時期に、日本が国際協力を非常に積極的に行って、諸外国に感謝されていることを周知し、参加を促していくことが大事。
  • 政府の司令塔、外務省、実施機関という三層構造だけでなく、それを実施する四層目の人々がいる。実施に携わっているNGO、企業、地方公共団体などの人々をもっと表に出して、国民が実際に参加していることを示していくことが必要。
  • 市民やNGOには、ODAや企業に負のイメージを持っている人もいる。ODAで利益を上げることのみ考えているわけではないとの3委員のお話は、心強い。企業の方から、本日のような話を公開の場でして頂ければ相互理解に役立ち、ODAの支持層を増やしていくことに寄与する。

(チ)ODA実施の手続き

 ODA実施の手続きについて、次のような発言があった。

  • 自分もコンサルティング業界から悲鳴を聞いている。ハード重視からソフト重視へというコンサルティング業界の地殻変動や、ODA案件に時間がかかるようになったのは、開発の趨勢としてNGOが求めてきた環境・社会配慮、ジェンダー配慮、住民参加の徹底などが要因として考えられる。こういったことは、新しいビジネス参入モデルを作ってきたという側面もある。一方で、経済から見ると、こういった流れは足を引っ張られてきていると捉えられているのか、どう評価されているのか教えていただきたい。

 これに対し、以下の応答があった。

  • フィリピンのサンロケ・ダムは、受注してから完成まで10年かかった。最初の3-4年は、住民移転の補償についての指摘をNGOから受けたために時間がかかったが、フィリピン政府の全面的な協力を得て、時間をかけて住民と話し合いを行い、納得して移転して頂いた。完成したダムは、発電、灌漑、洪水防止、水質改善などの目的を完全に果たしており、フィリピンの歴代大統領からも高い評価を得ている。環境の問題をきちんとクリアすべきとの指摘を頂いたことは、大変よかった。

(リ)議長の総括

 以上の議論を受けて、議長から「年内に作成する報告書では、できるだけ本日の議論を取り入れるように努力し、またコメントを頂くこととしたい」と述べた上で、「差しあたり、本日の議論は次のように整理できるのではないか」と述べた。

  • 東アジアでは、日本の円借款が密度の濃い、効率性の高いインフラ整備につながり、投資効率が高まった。そのため、日本企業のみならず、アジアの他国の企業も進出し、各地に産業集積地ができて経済発展を引っ張った。結果として、官によるODAと民間企業の活力が組み合わさり、東アジアの成長をもたらしたことは疑いない。企業は、技術及び資本を効率的に組成する能力それ自身の移転をもたらした。アジアにおけるODAの効果を明晰なメッセージとして出すべき。
  • 印、中の膨張により、エネルギーの争奪戦が始まるのは間違いなく、日本は応分のシェアを取る必要がある。これは民間企業だけでは対応できず、ODA、JBIC、貿易保険等の資金の協調より更に幅広い協調の取組を考えるべき。
  • CSRは、これからアフリカを議論する上で不可欠のコンセプト。欧米の各企業がAIDS対策等のCSRに熱心に取り組んでいるとの研究もある。CSRとODAの関係について考える必要がある。
  • 「日本らしい援助」という場合の重要なポイントは、アジアを活性化させた経験をアフリカでどう活かすかである。これを魅力的な具体例を取り入れて報告書に盛り込めないかと思う。
  • 本日以降の会合で議論する3つのテーマは、相互に連関するので、折に触れて委員の皆様からコメントを頂ければと思う。

(5)次回会合の日程

  • 次回は、アフリカの専門家からの意見聴取を行った上で、7月20日(金曜日)9時30分-12時00分を予定。
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