外務省が文化外交に力を入れる背景には、近年「パブリック・ディプロマシー」や「ソフト・パワー」の重要性が指摘されていることがあります。
「パブリック・ディプロマシー」とは、伝統的な政府対政府の外交とは異なり、広報や文化交流を通じて、民間とも連携しながら、外国の国民や世論に直接働きかける外交活動のことで、日本語では「対市民外交」や「広報外交」と訳されることが多い言葉です。
グローバル化の進展により、政府以外の多くの組織や個人が様々な形で外交に関与するようになり、政府として日本の外交政策やその背景にある考え方を自国民のみならず、各国の国民に説明し、理解を得る必要性が増してきています。こうしたことから、「パブリック・ディプロマシー」の考え方が注目されています。
また「ソフト・パワー」という概念は、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授によって最初に定義づけられました。同教授は、軍事力や経済力によって他国をその意に反して動かす力が「ハードパワー」であるのに対し、その国が持つ価値観や文化の魅力で相手を敬服させ、魅了することによって自分の望む方向に動かす力が「ソフト・パワー」であると説明しています。近年、日本には平和主義や伝統文化・現代文化など、ソフト・パワーの潜在力があり、これを引き出すことで世界における日本の地位を高めようとの議論が行われています。
外務省でもこれらの考え方に基づき、2004年8月に海外広報と文化交流を統合した広報文化交流部を新たに発足させ、より体系的にパブリック・ディプロマシーを実施する体制をとっています。
外務省は、日本に対するより一層の理解や信頼を得るため文化外交を実施しており、従来から伝統から現代までの文化・芸術を取り上げてきました。加えて、近年世界的に若者の間で人気の高いアニメ・マンガ等のポップカルチャーも、日本に対するイメージや親近感を高めるのに大きく寄与すると考えられるため、文化外交の一環として積極的に活用しています。
具体的には以下のような事業を実施しています。
(1)国際漫画賞
海外での漫画普及に貢献する新進の外国人作家を顕彰するために、平成19年に創設されました。第3回の平成21年度実施分では世界55の国と地域から303作品の応募がありました。例年、秋に外務大臣主催の表彰式が行われ、最優秀賞1名、優秀賞3名が選ばれます。
(2)アニメ文化大使事業
日本のアニメ作品を日本そのものへの関心につなげることをねらいとし、2008年3月、「ドラえもん」に高村外務大臣(当時)から「アニメ文化大使」の就任要請書を手渡しました。これに併せ、劇場版映画「ドラえもん のび太の恐竜2006」の字幕を英仏西中露の5か国語で制作し、2009年2月末までに、世界65都市で合計116回上映しました。
(3)ポップカルチャー発信使(カワイイ大使)委嘱
平成21年2月には、ポップカルチャーの中で、特にファッション分野で顕著な活動を行っている若手リーダー3名にポップカルチャー発信使(通称「カワイイ大使」)の名称を付与し、広報関連業務を委嘱しました。カワイイ大使には、国内や海外の在外公館及び国際交流基金が実施する文化事業への協力をお願いしています。
日本と諸外国との記念事業については、2008年の「日インドネシア国交樹立50周年」及び「日伯交流年(ブラジル移住100周年)」のように、特に日本政府と諸外国政府の主導のもと実施されるものを始めとして、多くの交流年事業が行われています。2009年には、「日メコン交流年」、「日本・ドナウ交流年2009」のように日本とある地域との交流を深めるものもあれば、2010年には、「2010年トルコにおける日本年」「日墨交流400周年」などの両国政府の主導での記念事業が予定されているものもあります。
両国政府の主導で実施される「日本と○○○との交流年」記念事業については、国交樹立50周年等の節目の年を契機として、さらなる相互理解・文化交流などを促進するために、首脳会談等における二国間の合意によって開催が決定されます。他方、首脳会談等での合意を経ていないものもありますし、政府が直接関与していないものもあります。「日本における△△△年」についても、二国間合意による決定過程を経ず、相手国が自主的に計画し実施されているものもありますが、いずれにしろ、両国の相互理解促進に寄与するものであることには変わりはありません。
多くの開発途上国では経済・社会インフラ整備だけでなく文化の側面も含めた国づくりの努力がなされています。これらの国々における文化や高等教育の振興をはかるとともに、日本との相互理解及び友好親善を深めるため、外務省はODA(政府開発援助)の一環として文化に関する無償資金協力を行っています。文化に関する無償資金協力は、「一般文化無償資金協力」、「草の根文化無償資金協力」の2つのスキームがあります。
一般文化無償資金協力では、途上国の政府機関に対して、国立劇場等文化施設の音響機材等の購入、大学等高等教育機関の日本語教育機材等の購入、遺跡修復・保存・活用のための機材や博物館・研究施設整備、柔道等日本武道を含むスポーツ器材、楽器等の購入を行うために必要な資金を供与しています。
一方、草の根文化無償資金協力は、地方公共団体、NGO等開発途上国のいわゆる草の根レベルに、機材購入や、施設整備等に必要な資金を供与することにより、よりきめ細やかな援助の実施を目指すものとなっています。
日本は、文化遺産や自然遺産を人類全体のための世界遺産として損傷、破壊等の脅威から保護し、保存していくための枠組みである世界遺産条約(正式名称:世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)を92年に締結しました。世界遺産基金への分担金の支払いはもちろん、世界遺産の新規案件の審議など、世界遺産条約の実際の運用を司る世界遺産委員会委員国を2度務め、98年には世界遺産委員会を京都で開催するなど、世界遺産の保護のために積極的な役割を果たしています。
また、日本は、このような条約の枠組みを通じた協力だけでなく、世界遺産を含め、世界各地で保護が十分に行き届かない文化遺産を幅広く保護するため、ユネスコに信託基金を設置し、ユネスコと協力しながら、日本の専門知識を活用し、各国の遺跡や建造物などの文化遺産を保護する支援を行っています。
日本は193のユネスコ加盟国のうち、米国に次いで第2位の分担金拠出国としてユネスコ財政を支え、ユネスコ執行委員国としてユネスコ事業の管理運営に直接関与しています。
また、日本は、文化遺産の保存、開発途上国における識字教育等の教育の普及及び人材育成、海洋学、生態学等の科学的知識の増進・共有等の分野において、ユネスコが行う諸事業のための拠出金を支出するなど、事業実施に直接貢献するかたちでの支援を積極的に進めています。
とりわけ文化の面では、日本は世界の文化遺産の保存協力に積極的に取り組んでおり、ユネスコに設置した文化遺産保存日本信託基金及び無形文化遺産保護・振興日本信託基金を通じて開発途上国への協力を行っています。また、ユネスコを通じた開発途上国の人材育成への協力のため、2000年度には人的資源開発日本信託基金を設立しました。
なお、1999年にアジア出身者として初めてユネスコ事務局長に就任した松浦晃一郎氏は、2005年10月に再選されました(任期は2009年11月まで)が、日本は、機構改革、分権化及びプログラム改革など、松浦事務局長のユネスコにおける取組を高く評価し、同事務局長が推進するユネスコ改革を積極的に支援しています。
また、ユネスコは、地理的配分における日本人の職員数が望ましい水準に達している数少ない国際機関です。パリのユネスコ本部や世界各国にあるユネスコの地域事務所では68名の邦人職員(2009年1月現在。全ての財源による全レベルの職員)が活躍し、ユネスコの活動を支えています。
日本に在籍する留学生数は毎年増加しており、123,829人(平成20年5月現在、独立行政法人日本学生支援機構調べ)に上っています。出身地域別では、アジア(中国、韓国、台湾等)からの留学生が全体の92.2%を占めています。
外務省では、大使館推薦国費留学生の募集・選考や、帰国留学生会の活動支援等を実施しています。今後とも、日本と諸外国との相互理解・友好親善の促進(親日家・知日家の育成)、途上国の将来を担う人材の育成といった観点から、優秀な留学生の受け入れやフォローアップの充実に努めていきます。
外務省が制作しているホームページ「日本留学総合ガイド
」で基本的な情報が手に入ります。また、各国にある日本大使館・総領事館でも日本留学に関する各種照会に応じています。
海外における日本語教育は、日本との交流の担い手を育てるものであり、日本理解を深め、諸外国との友好関係の基盤をつくるものとして重要です。現在、海外では133の国と地域において、298万人余りが日本語を学習しており(平成18年国際交流基金調べ)、学習者数は30年間で20倍以上増加しています。近年では学習目的も多様化し、従来の就職・留学のような実利志向の強い目的だけでなく、異文化理解やアニメ・マンガなどポップカルチャーへの関心を動機とする学習者が増えています。
外務省は、国際交流基金を通じて、日本語教育専門家の海外派遣、海外の日本語教師及び学習者の訪日研修、日本語教材の開発・寄贈等を行っているほか、各国にある在外公館においては文化事業を通じて日本語弁論大会を開催する等、日本語普及に努めています。また、全世界51の国と地域、144都市で日本語能力試験を実施(平成20年は約56万人が受験)しているほか、NHK教育テレビや海外のテレビ局を通じ、若者向けの映像教材「エリンが挑戦!にほんごできます。」を放映しており、今後更に放映枠を拡充していく方針です。
さらに外務省は、各国での日本語普及をより効果的に行うために、国際交流基金を通じて同基金海外事務所及び日本語教育専門家が派遣されている大学を中心に、「JFにほんごネットワーク(通称:さくらネットワーク)」を世界に展開し、日本語教育の支援に努めています。
正式には「語学指導等を行う外国青年招致事業」(The Japan Exchange and Teaching Programme)と呼ばれ、外国青年が日本全国の学校等で外国語を教えたり、各自治体における国際交流活動に従事することを通じて、日本と諸外国との相互理解を促進することを目的とした事業です。詳しくはJETプログラムのホームページをご参照ください。