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第2節 開発に関する一連の国際会議
Point
1. 2002年に相次いで開催された国際会議では、開発が主要議題の一つになった。
2. これらの会議では、あらゆる手段を通じた開発資金の確保、援助の効率化、良い統治(グッド・ガバナンス)の確保、選択的な援助の実施、NGOや民間部門との連携強化などを議論。
3. わが国は、アフリカ、教育、持続可能な開発について「小泉構想」をはじめ、各種のイニシアティブを発表。
2002年に相次いで行われた国際会議では、第1節で述べた状況から、開発問題に焦点が当たり、開発を巡る種々の論点について繰り返し議論が行われました。以下では、開発資金国際会議(3月、モンテレイ、メキシコ)、G8カナナスキス・サミット(6月、カナナスキス、カナダ)、持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット)(8月から9月、ヨハネスブルグ、南アフリカ)の3つの国際会議の成果を概観することにより、それらの会議を通じて繰り返し議論された開発上の主な論点を紹介し、また、わが国の対応振りについて説明します。
(1) 主要な国際会議の成果
一連の会議では、開発問題を包括的に捉えて国際社会が協調して目指すべき21世紀の開発のあり方が精力的に議論されました。その結果、21世紀の開発問題への国際社会の取組について一定の方向性が与えられたと考えられます。以下では、3つの主な会議の概要と成果を順を追って解説することで、一連の会議で示された今後の開発の方向性について説明します。
開発資金国際会議
2002年3月18日から22日にかけてメキシコのモンテレイで行われた開発資金国際会議には、ブッシュ米国大統領やシラク仏大統領など50か国より首脳が参加し、開発のための資金の確保をテーマに様々な形で議論が行われ、合意文書として「モンテレイ合意」が採択されました。
この合意では、第1に、国内資金、ODA、債務救済、投資、貿易等あらゆる手段を通じた開発資金の確保の必要性が確認され、また、それらの様々な政策の一貫性を高めることの重要性が指摘されました。第2に、援助の効率化や被援助国側の良い統治の促進といった開発のための方策が盛り込まれています。モンテレイ合意は、途上国の開発問題について包括的な処方箋を示しており、2001年11月のWTOドーハ閣僚宣言とともにその後の一連の国際会議における議論の基礎を提供しました。なお、会議に先立ち米国及びEUより、ODA増大イニシアティブの発表がなされことは先ほど紹介した通りです(第1節(2)参照)。
わが国は、植竹外務副大臣(当時)より途上国のオーナーシップと国際社会のパートナーシップの重要性を強調しつつ、わが国が引き続き世界最大級の援助国として開発援助に真剣に取り組んでいく決意を表明しました。
囲みI-3.モンテレイ合意の主な内容
G8カナナスキス・サミット
6月26、27日にカナダのカナナスキスで行われたG8サミットでも開発問題が主要議題の一つとなり、特にアフリカ、教育等について真剣な議論が行われました。
アフリカの貧困問題は、国際社会にとって最も深刻な問題の一つです。そのため、ジェノバ・サミット以降、G8諸国は数次にわたり会合を重ねてG8としていかにアフリカ諸問題に取り組んでいくべきか議論を行いました。その結果、サミットにおいては、「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」に対する支援と協力の基礎となるG8としての対応策である「G8アフリカ行動計画」が採択されました。この行動計画の中では、(2)以下で詳しく解説する「援助の選択的実施」の考え方が盛り込まれたほか、3月の開発資金国際会議の際に表明された新たな援助のうち、アフリカ諸国が良い統治の実現などに努力する場合には、総額で50%以上がアフリカに振り向けられ得ること、拡大HIPCイニシアティブにおいて予想される最大10億ドルの資金不足を補うためG8の負担分の追加拠出を行うことといった資金的措置が含まれています(援助の選択的実施については、本節(2)参照)。
また、教育については、特に初等教育の世界レベルでの普及と女子教育についてジェノバ・サミット以降、約1年にわたり専門家レベルでの作業部会(G8教育タスクフォース)を行い、基礎教育普及のために途上国、先進国の双方が取るべき対応を示した報告書として「万人のための教育への新たな焦点」がG8首脳に提出されました。
わが国は、会議に先立ちアフリカ問題に関する新たな支援策を発表し、その中で向こう5年間で低所得国に対し教育分野で2,500億円以上(約20億ドル)の協力を行うことなどを表明しました(アフリカに対する新たな支援策の詳細は、第2章第2節(2)、教育支援については第2章第5節(1)参照)。
囲みI-4.G8アフリカ行動計画(概要)
囲みI-5.万人のための教育への新たな焦点(概要)
持続可能な開発に関する世界首脳会議
一連の開発関連会議の最後には2002年8月26日から9月4日にかけて南アフリカのヨハネスブルグにおいて持続可能な開発に関する世界首脳会議が開催されました。同会議にはわが国からも小泉総理、川口外務大臣、大木環境大臣(当時)ほかが出席しましたが、世界各国の首脳や国際機関の長が多数参加した過去最大規模の会議となりました。
5月にインドネシアのバリで行われた閣僚級準備会合の段階では、ODAや債務救済、貿易などの途上国の開発問題に関連する事項に関して先進国と途上国が鋭く対立し、ヨハネスブルグ・サミットの成功が危ぶまれました。しかし、本会合に先立ちニューヨークで行われた「議長フレンズ会合」において参加国間の一般的な合意が成立したことにより、本会合では開発問題についてWTOドーハ閣僚宣言及びモンテレイ合意に沿った形での合意が比較的早期にまとまった一方で、衛生や再生可能エネルギーに関する数値目標の設定を巡り激しい交渉が行われました。その結果、衛生についてはミレニアム開発目標(MDGs)の一つである安全な飲み水の確保に付随する新たな目標として「2015年までに基本的な衛生施設を利用できない人々の割合を半減する」といった新たな目標が設定された「実施計画」が採択されました。
囲みI-6.実施計画(概要)
また、ヨハネスブルグ・サミットでは、各国が自発的に、国際機関やNGO等と協力して持続可能な開発に資するプロジェクトを発表し、それが「約束文書」としてとりまとめられ、会議の公式成果物として採択されました(タイプII文書とも呼ばれる)。わが国は、10分野で29のプロジェクトを登録しました。わが国がプロジェクトを登録した分野は、教育・保健、貿易・投資、農業・食糧、エネルギー、環境、気候変動、森林、生物多様性、水、科学技術と多岐にわたります。
さらに、会議場の周辺では、各国、国際機関、NGO、民間企業等が様々な展示やセミナー、シンポジウムを行い、持続可能な開発に向けたそれぞれの取組をアピールし、取組の成功例を示すなどの活動を幅広く行いました。わが国も、官民合同で「日本パビリオン」と称する特設テントを設け、様々な展示や催し物を展開し、日本の政策や主張、貢献策を国際社会に訴えました。日本パビリオンでは、期間中の一日を「開発の日」として、「東アジア型開発アプローチの発信~東アジア開発イニシアティブ(IDEA)閣僚会合の成果報告」、「貿易・投資・経済協力を通じた経済成長~東アジアの経済開発・協力経験」、「貿易投資促進に関する多元的アプローチ」といったテーマでセミナーが行われ、多くの参加者を得ました(IDEAの詳細については、第2章第2節(1)(ハ)参照)。
これらに加え、わが国は、会議に先立ち、独自の取組として持続可能な開発に向けた具体的な包括的協力策である「小泉構想」を発表しました。
写真 ヨハネスブルグ・サミットで演説する小泉総理
コラムI-2.日本パビリオン
囲みI-7.小泉構想(概要)