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第5節 ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けた努力
Point
1. MDGs達成のため、わが国は、経済成長を促す支援を行うと同時に、社会セクターへの直接的な支援を強化。
2. 具体的には、教育、感染症、環境、水と衛生についての支援策や共同イニシアティブを発表。
国際的な開発課題がMDGsという形で集約され、一連の国際会議において国際社会共通の目標となったことはすでに述べました。MDGsは、教育、保健(特に感染症)、環境といった分野の目標で構成されています。最近では、開発に関連した大きな国際会議のみならず、援助国・機関間の協力や途上国の現場における援助協調についても分野別に議論されることが非常に多くなっています。こうした流れの中で、MDGsは、経済協力の重要な柱の一つとなっています。
図表I-22 90年以降に開催された主な国際会議

既に第1章第1節(2)(ニ)で説明したとおり、わが国は、貧困削減を始めとしたMDGsの達成のためには、貿易・投資の促進、経済インフラ整備、制度構築、人づくり支援等を通じて、途上国の持続的な経済成長のために積極的に協力する必要があると考えています。同時にわが国は、教育、感染症、環境、水と衛生といったMDGsに直接係わる各分野について取組を強化しており、以下に、それらに関するわが国の具体的な取組を説明します。
(1)教育分野の新たな援助方針
世界には依然として1億1,500万人の未就学児童と、8億6千万人の非識字者がおり、その3分の2が女性という深刻な状況が続いています。教育は、一人ひとりが自らの手で自らの未来を選び取るために必要な知恵と能力を身につける「人間開発」の観点のみならず、人づくりが国づくりの基本であるという点でわが国ODAの重点課題のひとつとなっています。また、教育は、成長と雇用の重要な基盤であり経済成長のためにも重要です。
図表I-23 就学率と未就学児童の数

国際社会の取組
教育分野の中でも、特に最低限の読み、書き、計算の基礎を身につけること、すなわち基礎教育の普及がMDGsにおける主要な目標となっています。2000年4月には、セネガルのダカールにおいて「世界教育フォーラム」が開催され、以来、国連教育科学文化機関(UNESCO)を中心として、万人のための教育(EFA : Education for All)プロセスと呼ばれる世界的な取組が進められています。これに基づき、UNESCOは、2001年から閣僚級会合と作業部会を開催して教育分野における国際社会の取組を主導しており、また、G8諸国は、2001年末に途上国の教育支援に関する専門家の作業部会を設置し、2002年のカナナスキス・サミットにおいてG8としての提言を発表しました。さらに、世界銀行は特に資金面でEFAを推進するため「ファスト・トラック・イニシアティブ(FTI)」を開始しました。こうした中、2002年の第57回国連総会においては、わが国の働きかけにより2005年から10年間を「国連持続可能な開発のための教育の10年」として教育分野における国際的な取組を強化することを提唱した国連総会決議が全会一致で採択されました。
わが国の新たな教育支援策の発表
歴史的に教育を国づくりの根幹としてきたわが国は、これまで教育機会の改善を目的とした小・中学校の建設、理数科教育支援や青年海外協力隊員を通じた支援を重点的に行ってきました。特に理数科教育は途上国の職業訓練も視野に入れた協力として積極的に実施されてきています。2000年、セネガルのダカールで行われた「世界教育フォーラム」を契機に教育支援への大きな流れがでてきたことを受け、わが国は2002年6月のG8カナナスキス・サミットの機会に、教育分野における新たな援助方針を策定・発表しました。具体的には、ダカール行動枠組みの目標達成に困難を抱えている低所得国を支援するため、向こう5年間で教育分野への支援を2,500億円以上行うとともに、基礎教育分野において支援を実施する際の重点項目をまとめた「成長のための基礎教育イニシアティブ」(BEGIN: Basic Education for Growth Initiative)を発表しました。
囲みI-21.成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)(概要)
これらの支援策は8月にヨハネスブルグ・サミットに向けてわが国が発表した持続可能な開発のための種々の取組策である「小泉構想」の中にも盛り込まれ、今後の具体的な支援について、途上国から高い期待が寄せられています。今後は、この支援策に沿って、また、国際社会の流れも踏まえつつ、教育の「機会」、「質」の改善、教育に関する行政や管理といった点を重視して教育分野に対する支援を行っていく考えです。
図表I-24 基礎教育分野の主要案件

教育協力強化のための国内体制整備
文部科学省は、2001年10月より、「国際教育協力懇談会」(座長:中根千枝東京大学名誉教授)を開催し、途上国への初等中等教育分野における教育協力などにつき検討を行いました。2002年7月に提出された同懇談会最終報告の提言を受け、今後、わが国の知的資源を効果的に活用しながら国内体制の抜本的な整備(知的インフラ構築)を推進していくこととしています。具体的には、初等中等教育分野における協力経験の共有化及び途上国へ派遣される現職教員の支援体制の強化などを図るために、中核大学(広島大学及び筑波大学)の下、「拠点システム」を構築し、また、わが国の大学が有する知的資源を広く国際開発協力に活用するために、「サポート・センター」を整備することとしています。
コラムI-10 アフガニスタンにおける初等教育支援(バック・トゥ・スクール・キャンペーン)