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(2)HIV/AIDSを始めとする感染症対策の強化
国際社会の取組
WHOなどによれば、80年代初頭、HIV/AIDSが初めて確認されてから現在までにおよそ6千万人が感染し、毎年約300万人が死亡しています。また、マラリアは90か国以上の国々や地域で流行しており、毎年約3億人が新たに発症し、結核は毎年800万人が新規感染し、途上国成人の最大の死因となっています。こうした感染症は、単なる個人の健康上の問題に留まらず、国際社会にとって政治・経済・社会上の脅威となっています。さらに、グローバル化の進展により、人の移動がますます容易になる中で途上国の感染症問題は、先進諸国にとっても見過ごすことのできない問題となっています。
このような状況の下、わが国は他のドナーに先駆けて2000年のG8九州・沖縄サミットにおいて感染症の重要性を取り上げ、その流れが2001年の国連エイズ特別総会やG8ジェノバ・サミットに繋がり、2002年1月1日の世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)の設立に至りました。GFATMは、グローバルな感染症対策において中心的役割を果たすことが期待されており、2002年4月の第2回理事会では、第1回目の支援対象案件として、40か国において計58案件、支援総額にして6億1,600万ドルが承認されています。また、わが国は、世界保健機関(WHO)や国連合同エイズ計画(UNAIDS)などの国際機関を通じて、HIV/AIDSをはじめとする感染症対策支援を行っています。
図表I-25 感染症疾病別死亡者数の比較

囲みI-22.世界エイズ・結核・マラリア対策基金
沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)の発表
わが国は94年に「人口・エイズに関する地球的規模問題イニシアティブ(GII)」を発表し、同分野において向こう7年間で30億ドルの協力を行うこととしました。この目標は、結局、当初の予定を大幅に上回る50億ドルの実績を挙げて達成され、感染症対策において主導的役割を果たす国の一つとなりました。さらに、わが国はG8九州・沖縄サミットの際、その後継として今後5年間で30億ドルの貢献を行うという数値目標を含む包括的な感染症対策戦略である沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)を発表し取組を強化しています。IDIでは、[1]感染症対策は開発の中心的課題である、[2]地球的規模の連携と地域の特性に沿った対応が必要、[3]公衆衛生活動と連携させた感染症対策といったわが国の経験を活用することを感染症対策の基本理念として掲げています。なお、2002年3月時点でIDIに沿ってわが国が実施した支援は、約18億ドルに達しています。
図表I-26 沖縄感染症対策イニシアティブの主な取組

国際社会との連携にも力を入れており、例えば、2002年6月、わが国は、米国と共同で「日米保健パートナーシップ」を発表しました(日米保健パートナーシップについては、囲みI-26も参照)。
地域レベルでの取組の強化
感染症の状況は、地域によって大きく異なるため、地域レベルでの取組を被援助国を始めとした多様なパートナーとの緊密な対話を通じて推進していくことが大切です。
特に直接わが国に与える影響が大きいアジアについては、2001年11月のASEAN+3会合においてわが国はHIV/AIDS、結核、マラリア、寄生虫を対象とする「ASEAN感染症情報・人材ネットワーク構想」を発表しました。今後、同構想に基づき、これまでにわが国が支援してきた施設を拠点として、ASEAN域内における感染症対策を強化していく予定です。
一方、アフリカは全世界のHIV/AIDS感染者の7割以上にあたる2,900万人が集中し、HIV/AIDSによる死亡の結果、平均寿命が著しく短縮するなど社会構造が崩壊の危機に瀕している国もあり、国際社会による緊急の対策が求められています。わが国は、同地域において特にHIV/AIDS対策を重点的に取り組んでおり、具体的には、2002年3月にザンビアにおいて南部アフリカHIV/AIDS対策ワークショップを開催しました。現在わが国の取組は、南部アフリカが中心ですが、今後、同様の取組を東部及び西部アフリカ地域についても行っていく予定です。
わが国の経験の活用
わが国は、戦後、保健所制度の確立、保健婦の育成、母子保健の普及、学校保健の徹底などの公衆衛生活動と連携して感染症・寄生虫症対策を進めることにより、大きな成果を挙げました。ODAを行う際、わが国は、このような自身の経験を途上国支援に活かしています。具体的には、例えば戦後日本で母子保健が普及していく上で、母子健康手帳は大きな役割を果たしてきました。この経験は、わが国のODAを通じて、インドネシアにおいてもモデル・プロジェクトとして導入され、多くの州に普及しています。また、住民が栄養改善等の目に見える効果を感じることが可能な寄生虫対策を国民的活動として実施し、それを通じて衛生概念の普及や環境整備につなげた戦後の経験もアジア、アフリカ、中南米で活かされています。さらに、ネパール、タイなどには学校を通じた保健活動により子どもから子どもへ、さらに子どもから大人へ、そして地域に感染症対策、栄養改善などを広げるプロジェクトが展開され、日本の学校保健の知識が活かされています。これらのプロジェクトを行う際、政府は、結核予防会結核研究所、家族計画国際協力財団など、戦後、日本の結核対策、母子保健活動の知見と人材を蓄積している組織との連携により、効果的な国際協力を推進しています。