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第4節 人間の安全保障の推進
Point
1. わが国は人間の安全保障の考え方に基づいて、難民・避難民、地雷、教育、保健医療、ジェンダーといった分野におけるODAを積極的に推進。
2. そのため、従来の取組に加えて、「人間の安全保障基金」を通じた支援や草の根・人間の安全保障無償(2003年度より導入)を実施。
グローバル化が進展し、人、物、資金、情報がますます大量かつ迅速に移動する中、人や武器、薬物の密輸をはじめとする国際組織犯罪やHIV/AIDS等の感染症といった国境を越える問題が深刻化し、経済活動の高度化・拡大は、地球温暖化、オゾン層の破壊等の地球環境問題やエネルギー問題を加速させています。また、冷戦構造の崩壊を契機として、宗教的、人種的、民族的その他の歴史的、文化的要因を背景とする紛争が頻発し、人権侵害や難民・国内避難民の発生、対人地雷や小型武器を巡る問題等が各地で顕在化しています。
こうした中で、人間が人間らしく尊厳をもって生きるために、国が国民の生命と財産を守るという伝統的な国家の安全保障の考え方に加えて、人間一人一人に着目した取組を強化する、いわゆる「人間の安全保障」の考え方が、ますます重要となっています。人間に対する直接的な脅威から各個人を守り、かつ人間個人が持つ可能性を花開かせるために「コミュニティづくり」を重視する「人間の安全保障」という考え方の推進がグローバル化された世界にとっての課題となっています。
わが国は、21世紀を人間中心の世紀とすることが重要と考え、この人間の安全保障の考え方を外交の重要な視点の一つとしています。2000年9月の国連ミレニアム・サミットにおける森総理(当時)の呼びかけに応じて設立された、緒方貞子アフガン支援担当総理特別代表(前国連難民高等弁務官)及びノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・セン・ケンブリッジ大学トリニティーカレッジ学長を共同議長とする人間の安全保障委員会は、2003年2月に報告書に合意しました。この報告書では、人間の安全保障とは何か、また国際社会がそれをどう活用し、どの方向に進むべきかについて貴重な提言が提出されました。この報告書は、小泉総理に提出され、またその後アナン国連事務総長に提出されることになっています。
この報告書においては、「人づくり」と「国づくり」に加え、両者の間に位置するとも言うべき「コミュニティーづくり」を推進する重要性が指摘されています。それはまた、人間の安全保障を実現する上で紛争及び開発・貧困に到る様々な課題を包括的に捉え、人々やコミュニティーに焦点をあて、上からの「保護」の観点に加え、下からの「自立」をはかっていくことが重要であるとの指摘でもあります。これは従来、わが国が行っている経済協力の考え方とも軌を一にするものです。また、報告書は、人間の安全保障を推進するにあたって国際社会がとるべき方策について、次のような提言を行っています。[1]武器の拡散から人々を保護するため、武装解除を雇用や教育などの開発問題と組み合わせて、紛争の原因を取り除く工夫をしつつ進めること、また、国際組織犯罪へ対処すること。[2]人の移動を総合的に扱う国際的な枠組みをつくること。[3]戦争終結から復興開始までの移行期では、各国、国際機関、NGOの活動を統合、また、移行期基金を創設すべきこと。[4]経済成長は貧困の削減に不可決であり、そのために貿易や市場を支援し、市場を有効活用すべきこと。[5]万人が基礎保健を受けることを優先し、そのために予防可能な病気を防ぎ、コミュニティーに根ざした保健システムの構築に重点を置くべきこと。[6]製薬特許の問題を解決すること。[7]国際的・国内的措置を強化し、普遍的基礎教育を与え、能力の向上を図ること。[8]多様性を尊重する教育を推進すること。
わが国は、人間の安全保障分野における協力を強化すべく、99年3月、国連に「人間の安全保障基金」を設置し、2002年度までに国連に設置された信託基金の中で最大規模の累計約229億円を拠出してきています。同基金による支援実績は、2003年1月末現在で72プロジェクトに上り、総額9,263万ドルとなっており、分野別では、健康・医療分野(25件、1,503万ドル)や貧困分野(16件、1,263万ドル)、それに紛争分野(11件、5,155万ドル)のプロジェクトの数が多く、また、実施地域の内訳は、アジア29件(2,315万ドル)、アフリカ11件(982万ドル)等となっています。
これからも、わが国は人間の安全保障の考え方に基づいて教育、保健医療、環境、ジェンダー、平和の定着と国づくりといった分野に係わるODAを積極的に推進していく考えです。この観点から、2003年度より、従来の草の根無償を拡充し、草の根・人間の安全保障無償とすることにしています。
囲みI-19.人間の安全保障委員会
図表I-21 人間の安全保障基金の分野別・地域別実績

囲みI-20.人間の安全保障基金