本編 > 第I部 > 第2章 > 第3節 > (2)ケース・スタディ
(2)ケース・スタディ
(イ)アフガニスタンにおける「平和の定着構想」
写真 アフガニスタン復興支援国際会議
アフガニスタンは、20年以上におよび内戦が続いた上、タリバン政権の下での抑圧的な政策の結果、国際社会からも孤立した状況にありましたが、2001年9月の米国同時多発テロを機に、重大な転機を迎えました。タリバン政権の崩壊により和平への扉が開かれたのです。アフガニスタン安定への取組は、中東や中央アジアの地域だけでなく、世界全体の平和と安定、さらにはテロの根絶・防止にもつながります。わが国は、2002年1月に米、EU、サウジアラビアとともに、東京においてアフガニスタン復興支援国際会議を主催し、国際社会より45億ドル以上の支援を集めました。わが国自身も向こう2年半で最大5億ドル、うち最初の1年間で最大2.5億ドルまでの支援を表明し、2002年末時点で総額約2億8,200万ドルの復旧・復興支援を実施しています。
アフガニスタンのような紛争を経た国は、民族間、軍閥間、中央政府と地方勢力の関係が紛争状態に後戻りしかねない脆弱性を有しており、復興プロセスと並行して、和平プロセスを促進することが極めて重要です。同時に、復興の大前提として、治安の確保が不可欠であり、中でも元兵士が武装解除し、社会復帰を果たす環境を整えることが重要となっています。さらに、食糧や毛布といった基本的なニーズを満たす人道支援とインフラ整備等の復興支援の間に空白が生じることは地域の安定、そして国民の未来への希望を損なう可能性があることから、人道・復旧・復興の間の継ぎ目のない支援を行うことが重要です。こうした理由から、川口大臣は、2002年5月にアフガニスタンを訪問した際、「和平プロセス」、「治安」、「人道・復興支援」を3本の柱とする「平和の定着構想」を発表しました。
和平プロセスへの支援
2002年6月、平和構築、民主化促進のためメディアが果たし得る大きな役割に注目し、和平プロセスの第一歩として代議員1,650名を集め開催された緊急ロヤ・ジェルガ(国民大会議)の模様を全国の一般家庭にTV中継するための衛星放送支援を行いました。また、緊急ロヤ・ジェルガにおいてカルザイ大統領を首班とする移行政権が成立しましたが、公務員の給料を中心とした行政経費の不足という深刻な問題が発生したため、わが国はアフガニスタン行政府立ち上げ強化のための財政支援として500万ドルの資金拠出を行いました。更に、10月には、移行政権が策定した国家開発枠組みの実施に必要な資機材購入のため60億円の資金供与を発表しています。また、中央政権の行政能力強化のため各省庁に対し、これまでに延べ24名のJICA専門家(政策アドバイザー等)の派遣を行っているほか、研修員(行政、保健・医療、教育、放送他)として2002年度、60名を受け入れます。
治安分野への支援
わが国は、スムーズな復興開発を可能とするため、元兵士の社会復帰と地雷対策に力を注いでいます。わが国は、G8の枠組みにおいて元兵士の社会統合分野の主導国を務めており、川口外務大臣がアフガニスタンを訪問した際、除隊兵士のための職業訓練や雇用促進などの社会復帰支援を行う「平和のための登録(Register for Peace)構想」を提案し、現在、具体的なプロジェクトを策定中です。また、1か月に数百人の被害者が出ると言われるほど深刻な地雷問題に対しては、最大の拠出国となっています。
人道・復興支援
同時テロ以降、急速に増大する人道支援ニーズに対応するため、これまでにわが国は1億ドル近くの緊急人道支援を実施しました。また、難民・避難民向けの雇用創出を目的に、カブール・カンダハルにおいて「復旧及び雇用に係るプログラム」(REAP)を策定・実施したほか、緒方貞子総理特別代表が現地視察を踏まえ提案した内容を具体化する地域総合開発支援策である「緒方イニシアティブ」を実施しています(緒方イニシアティブについては、コラムI-9参照)。さらに、2002年9月、国連総会の場において、小泉総理は、ブッシュ米大統領とサウード・サウジアラビア外相と共に、カブールからカンダハルを経てヘラートに至る幹線道路整備に関する声明を発出し、11月には、この大規模プロジェクトの第一歩として幹線道路の補修工事を開始しました。また、わが国は、アジア開発銀行(ADB)が行うカンダハルからパキスタンへ続く道路の修復計画を支援しています。
なお、日本は、すべての分野の支援実施にあたり、女性の地位向上、NGOとの連携を特に重視しています。女性支援としては、母子保健病院の機材供与や女性センターの建設、女子教育復興のためにお茶の水女子大学を中心とするわが国の5女子大学が行っているアフガニスタン女性教員の研修の支援等を行っています。また、女性の地位向上のために、国連婦人開発基金(UNIFEM)が人間の安全保障基金による事業を実施しています。NGOとの連携については、これまでに50以上のNGOに10億円を越える支援を決定済みです。
以上のように、わが国を始めとした国際社会によるアフガニスタン復興開発支援は着実に行われていますが、今後の成り行きは決して楽観視できるものではありません。カルザイ大統領を首班とするアフガニスタン移行政権は、依然として権力基盤が十分とは言えない状態にありますし、今後、2004年の正式政権の発足に向けて必要な段階を一つ一つ越えていく必要があります。また、地方では今も軍閥勢力同士による小競り合いが続いており、治安が十分に確保されているとは言い難い状況にある点にも留意する必要があります。
移行政権を支え、和平プロセスを順調に進展させるためには、引き続き国際社会による政治的、財政的支援が必要不可欠です。わが国は、アフガニスタン復興に貢献していきたいと考えています。
コラムI-9 緒方イニシアティブ
囲みI-17.アフガニスタン復興プロセスとわが国の貢献
(ロ)スリランカ和平支援
スリランカでは、2002年2月の停戦合意を踏まえて同年9月から始まったスリランカ和平交渉を通じ、同国は本格的な紛争解決に向かいつつあります。和平プロセスが端緒についた今、国際社会による復旧・復興支援とスリランカ国民の努力によって、国民一人一人が「平和の配当」を目に見える形で享受できれば、和平プロセスは大きく進展する可能性があります。わが国は、平和の定着を具体化するため、同国における和平・復興プロセスを積極的に支援していく考えです。
2002年10月にスリランカの平和構築および復旧・復興に関する日本政府代表に任命された元国連事務次長の明石康氏は、11月にスリランカを訪問し、スリランカ政府首脳およびタミル・イーラム解放の虎(LTTE)指導者等との意見交換や、紛争地域の北・東部の視察を行ったほか、11月末にノルウェーのオスロで開催されたスリランカ和平プロセス支援会合に出席し、わが国がスリランカ和平・復興プロセスに積極的に関わっていくことを強調しました。また、2002年12月にウィクラマシンハ首相が訪日した際、小泉総理は、同首相との間でスリランカ復興のための会合を東京で2003年6月に開催することで合意しました。さらに、2003年1月には、川口外務大臣がスリランカを訪問し、スリランカ和平に対するわが国の貢献についての考え方を説明するとともに、内外のNGOへの支援等を表明しました。
わが国は、東京会合で紛争地域であった北・東部のみでなくスリランカ全体の中・長期的な国づくりについて議論することを目指し、スリランカ政府を中心に、関係国、国際金融機関などと緊密に連携しつつ準備を進めています。
(ハ)アチェ和平プロセスの促進
わが国は、インドネシアのアチェにおいても平和の定着に向けODAを活用した取組を始めています。アチェは、マルクやパプアなどとともに長年紛争状態が続き、インドネシアの不安定化の要因になっていましたが、2002年12月9日、インドネシア政府と独立アチェ運動(GAM)との間で「敵対行為の停止」に関する合意が成立しました。これに先駆けて、2002年12月3日、わが国は東京において、国際社会として和平合意を勧奨し、わが国の和平達成後のアチェにおける復興・開発に対する支援の姿勢を明らかにするため、「アチェにおける和平・復興に関する準備会合」を開催し、アチェ問題の平和的解決への強い期待と和平達成後の同地域への復興・開発支援を積極的に行う用意があることを表明しました。政府としては、このような外交的努力が合意の実現に対するひとつの弾みになったと考えています。
2003年1月に行われた第12回インドネシア支援国会合においては、アチェにおける和平プロセスを促進・支援するため総額620万ドル以上の協力を行うことを表明しました。アチェにおける和平プロセスは、今後本格化することになりますが、わが国は引き続き同地域における平和の定着のために、インドネシア政府のみならず他のドナーや国際機関と協力しつつ、積極的に協力していく考えです。
(ニ)平和と安定のためのミンダナオ支援
わが国は、フィリピンにおいてもミンダナオにおける平和の定着のためODAを活用しています。ミンダナオ地域は、様々な反政府勢力により長きにわたり紛争が続き、貧困問題が深刻化するとともに、テロの温床を生み出してきました。そのことが、フィリピン全体の投資先としてのイメージの悪化を招くなど、フィリピン全体の経済発展の妨げになるとともに、アジア地域の安定と発展にとって重要な問題となっています。
現在、フィリピン政府は、ミンダナオ地域に拠点を置く過激派組織アブ・サヤフ・グループの掃討作戦を展開する一方で、モロ・イスラム解放戦線(MILF)との最終和平に向けた交渉を進めています。その間にも、テロ事件や局地的な紛争、誘拐事件などが発生している状況です。
このような状況の中、わが国は、ミンダナオ地域の貧困の脱却と和平交渉や平和の定着に貢献するため「平和と安定のためのミンダナオ支援パッケージ」に基づき、中長期的な視野に立って持続的な支援を行っていくこととし、2002年12月、アロヨ大統領が来日した際に小泉総理が発表しました。
囲みI-18.国際平和協力懇談会