(1) | 核兵器や生物・化学兵器といった大量破壊兵器については、その製造・保有や移転を厳しく制限する国際条約があるのに対し、ミサイルについてはそのような普遍的な国際約束は存在していない。弾道ミサイルは大量破壊兵器の運搬手段であり、その拡散問題は、地域の安定のみならず国際社会全体の平和に対して深刻な脅威をもたらすものであることから、この問題に取り組まなければ大量破壊兵器の拡散問題に包括的に対処したことにはならない。 |
(2) | 冷戦中は、弾道ミサイル不拡散への取組は、基本的に米露二国間の核兵器制限・削減交渉と表裏一体とみなされ、これらの交渉のみに委ねられていた観がある。しかし、冷戦後、国際社会では秘密裏に核兵器やその他の大量破壊兵器の開発を行う国に対する懸念が高まり、これと同時に、これら兵器の運搬手段である弾道ミサイルを開発し保有する国が増加したことにより、国際的に大きな脅威認識が持たれるようになってきた。 |
(3) | このような中で、ミサイル不拡散を目的とする多国間の枠組みの創設の必要性が認識されるにいたり、1987年にミサイル技術管理レジーム(MTCR)が発足した。発足当時は7ヶ国(G7)のみだった参加国も現在33ヶ国が参加するにいたり、ミサイル不拡散を目的とする唯一の多国間の輸出管理協調の枠組みとして、重要な役割を果たしてきている。
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(4) | 一方、MTCRを中心とする輸出管理の取組にも拘わらず、近年、98年に北朝鮮がミサイル発射、99年にインド、パキスタンが、98年、2000年にイランがミサイル発射実験を行うなど、世界的なミサイル拡散傾向は一段と明白なものとなっている。このような弾道ミサイルの拡散は、地域の安定や国際社会全体の平和に対して深刻な脅威をもたらし、北東アジア地域を含む国際的な安全保障環境にも影響を与えている。 |
(5) |
このような状況に直面し、MTCRでは、輸出管理を中心とする取組のみでは弾道ミサイルの拡散を効果的に抑制できないとの問題意識から、国際的な規範作りを進めていく気運が高まり、2000年10月のヘルシンキ総会で、「弾道ミサイルの拡散に立ち向かうための国際行動規範(ICOC)」を作っていくとの方向性及びそのための草案が合意された。2001年9月のオタワ総会では同規範の草案を一部修正することが合意され、更に、今後はICOCについての議論をMTCR内部で継続するのではなく、平等の原則の下全ての国を対象とする交渉を開始し、草案の内容及び署名のための国際会議開催までの道筋についても検討することが合意された。こうした合意に基づき、2002年2月のパリ会合(フランス政府主催、78カ国参加)、6月のマドリッド会合(スペイン政府主催、97カ国参加)でICOCの草案につき議論された後、同年11月、オランダのハーグで、ICOCが採択された。ICOCは、弾道ミサイルの拡散を防止・抑制する上で尊重されるべき原則とそのために必要な措置を示す政治的文書であり法的拘束力を持つ国際約束ではないが、幅広い国々の支持を得て、ミサイル不拡散のための国際的ルールが初めて創設されたことは大きな成果であり、今後、事前発射通報を含む信頼醸成措置等の具体的取組の実施が期待されている(2003年4月現在のICOC参加国は102カ国(中国、インド、パキスタン、北朝鮮、イラン、イラク等は不参加)。 |
(6) | 他方、弾道ミサイルの拡散問題については、このMTCRでの取組の他にも、米露のミサイル発射相互通報制度や、ロシアが提案するグローバル監視システム(Global Control System)、国連におけるミサイル専門家パネルの設置など様々なイニシアティブがある。
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