世界の医療事情

令和6年10月1日

1 国名・都市名(国際電話番号)

 イラク共和国(国際電話番号964)

2 公館の住所・電話番号

在イラク日本国大使館(毎週金曜日、土曜日休館)
住所:Embassy of Japan, International Zone, Baghdad, Iraq
電話:+964-770-494-2018(領事)、+870-772-582-564(衛星)
E-mail:embjp.ryoji.iraq@bd.mofa.go.jp
ホームページ:在イラク日本国大使館別ウィンドウで開く
在エルビル領事事務所(毎週金曜日、土曜日休館)
住所:Erbil Rotana Hotel 8F, Gulan Street, Erbil
電話:+964-66-210-5555(内線819、827)
ホームページ:在エルビル領事事務所別ウィンドウで開く

(注)金曜日、土曜日以外の休館日は暦年ごとに各公館のホームページにて案内しています。

4 衛生・医療事情一般

(1)気候・地誌

 首都バグダッドは、国土のほぼ中央の内陸部に位置し、チグリス川の河畔にあります。北緯33度と日本の大分市とほぼ同じ緯度ですが、気候は砂漠気候で快晴の日が多く、夏期には最高気温が50℃を超える日もあります。冬は比較的温暖で過ごしやすいですが、夜間や早朝は冷え込むため暖房が必要です。一年を通じ気温の日較差が大きいのが特徴です。年間降水量は150ミリ程度と少なく降雨は冬期に集中しますが、雪が降ることは殆どありません。例年、春先には砂嵐に見舞われ、眼や喉を痛めることがあります。また砂嵐で航空機の飛行等が妨げられることも少なくありません。常に乾燥しているため、知らない間に発汗し(不感蒸泄)脱水に陥りやすいので、水分の補給を十分に行う必要があります。

 治安情勢等については、外務省海外安全ホームページで最新の情報をご確認ください。

(2)医療水準・医療制度・病院受診時のアドバイス

 外国人が安心して受診、あるいは一時的にも入院できる医療機関は治安上および医療レベルの観点から非常に限られており、緊急時の応急処置や緊急移送対応は非常に困難です。病気になった場合には国外での治療を第一に考慮する必要があります。

 バグダッドのインターナショナルゾーン(International Zone(IZ)/Green Zone)内には、米軍からイラク政府へ移管された公立病院があり、一般診療を行っています。なお、IZ以外の地域、いわゆるバグダッドのレッドゾーンには重症例にも対応可能な公立病院が存在しますが、治安やシステム上の問題からこれらの施設の利用は外国人には現実的ではありません。イラクでは、事故などで警察が介入する場合は、公立病院からの診断書を要求されます。病院での支払いはイラクディナールまたは米ドルの現金のみでクレジットカード決済はできません。外国人の場合、治療費は高額になることもあり、さらにイラク国内で対応できない病状の際には緊急移送が必要となるためイラク国内でも利用可能な医療保険に追加加入しておくことが必須です(通常の海外旅行傷害保険はイラク国内での疾病・事故を担保していません)。バグダッドには外国人の受診に適した私立病院はありません。

(3)水質・食品管理

 水道水は飲用には適しませんので、飲用水を購入して飲むことをお勧めします。通年、食品が腐敗しやすい高温環境ですので、加熱したら直ぐに食べる事をお勧めします。

5 かかり易い病気・怪我

(1)腸チフス

 汚染された食べ物で感染します。潜伏期間は7日から21日。症状は、腹痛、発熱(高熱)、関節痛、下痢、血便です。治療が不適切だと重症化して腸穿孔を起こし腹膜炎を併発します。治療は、補液と抗菌剤です。予防接種があります。

(2)感染性腸炎(下痢)

 食べ物や水から感染します。潜伏期間は病原体により異なりますが、数時間後から7日以内。症状は、腹痛、悪心、嘔吐、激しい下痢、発熱です。治療は、補液および細菌性の場合は抗菌剤です。

(3)A型肝炎

 ウイルスに汚染された食べ物(主に生もの・生野菜)や水から感染します。潜伏期間は2週から6週。症状は、全身倦怠感、発熱、食欲不振等の症状と黄疸です。治療は、臥床安静を中心とした対症療法です。予防接種による防ぐことができます。

(4)熱中症(脱水症)

 春から秋にかけては日差しが強く湿度が低いので、汗をかいても自覚せずに脱水を起こしやすくなります。熱感、悪心、動悸、めまい、ふらつきなどの症状で自覚します。塩分と水分補給に留意してください。

(5)コレラ

 数年周期で流行します。感染の主な原因はチグリス・ユーフラテス川の歴史的な水位の低下とこれらの汚染された水源からの配水システムと言われています。2022年、2023年とも千人を超える感染者と数十名の死亡が報告されています。発生時には、発生地域での滞在、飲食に十分注意してください。コレラは汚染された食べ物や水で感染します。潜伏期間は1日以内が多く主な症状は、嘔吐と下痢です。重症の場合、米のとぎ汁のような水様下痢となります。不適切な治療を受けた場合には極度の脱水となって、命に関わることもあります。治療は、補液と抗菌剤が中心となります。

(6)麻疹

 毎年のように患者の発生を認めています。イラクでは2024年4月末の時点で25,429人の症例が報告され世界第三位の数となっています。ウイルス性の全身感染症で非常に感染力が強く、感染すると肺炎や脳炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。潜伏期間は10日から12日。症状は、発熱、鼻水、眼の充血などの風邪様症状の後に、高熱と全身発疹が出現します。治療は、特効薬がなく安静を中心とした対症療法です。予防接種を受けることで防ぐことが可能です。過去に感染の既往がなく、ワクチン2回接種(1歳時および学童期以降)を完了していない方は、感染のリスクがありますので予防接種をお勧めします。

(7)リーシュマニア症

 イラクでは広範囲にサシチョウバエによって媒介されるリーシュマニア症が存在します。サシチョウバエに刺されて数週間から数か月後に、皮膚に潰瘍や結節が生じます。治療は抗寄生虫剤です。治癒しても醜い瘢痕が残る場合もあります。稀に内臓リーシュマニア症に罹患する場合もあります。長袖・長ズボンを着用し防虫対策を心がけるようにしてください。

(8)住血吸虫症

 池や湖等の淡水浴中に皮膚から感染する感染症です。潜伏期間は一か月。症状は、発熱、発疹、咳、下痢などの呼吸器や消化器症状が出た後、肝臓と脾臓が腫れてきます。治療は抗寄生虫剤です。プール等の塩素消毒を施行している場所以外の淡水に入ることは避けてください。

(9)狂犬病

 バグダッドやバスラで度々発生しています。狂犬病に罹患した動物からの咬傷で感染します。潜伏期間は一か月から二か月程度。症状は、発熱、頭痛、筋痛などの感冒様症状と咬傷部位の痛みで始まります。進行すると、興奮や不安狂躁の脳症状と筋痙攣から死に至ります。適切な時期に狂犬病ワクチンや免疫グロブリン投与を受けず発症した際の死亡率はほぼ100%です。予防としてはまず野生動物や家畜に近づかない様にお願いします。動物に咬まれたりひっかかれた場合には傷の深さに関係なく公立病院を受診して適切な処置を受けてください。イラクでは狂犬病ワクチンおよび免疫グロブリンの入手が困難な場合があります。

(10)刺咬傷(ダニ、シラミ、サソリ、毒蜘蛛、蛇、蚊など)

 宿泊施設などでダニ、シラミの大量発生、サソリの出現をみる事があります。

(11)クリミア・コンゴ出血熱

 イラクでは1979年に報告されて以降、バグダッド県を含め毎年散発的に報告されています。動物に寄生するダニが媒介するウイルス性出血熱です。潜伏期は2から9日。主な症状は、発熱、頭痛、筋痛、腰痛、関節痛です。重症化すると種々の全身の出血がみられます。死亡率は15%から40%といわれています。2022年には過去最大の380人の感染を認め、以降、2023年も数百人の感染が報告されました。現在有効な治療薬はありません。野生動物や家畜に近づかないようにお願いします。2024年も6月までに40人以上の感染者が報告され、このうち6人が死亡しています。

(12)鳥インフルエンザ

 2006年に鳥インフルエンザA(H5N1)のヒト感染が、イラクで初めて報告されました。以降、家禽においては感染が散見され、2021年、2022年に発生しています。潜伏期は2日から8日。主な症状は、発熱、咳・痰の呼吸器症状です。野生動物や家畜に近づかないようにお願いします。

6 健康上心がける事

  1. 手洗い(石鹸・清潔なタオルを使用)、うがいを励行してください。
  2. 生水は絶対に飲まないようにしてください。
  3. 火が通っていない食物(外食では特にサラダに注意)は食べないようにしてください。ミンチ類は中心部まで火が通っているのを確認してから食べるようにしてください。火が通った食物でも、冷たくなった食物は再加熱してから食べてください。
  4. 屋外の活動では、水分(水、スポーツドリンク等)を多く摂取して脱水・熱中症に注意してください。
  5. 夏期は紫外線が強く、UVカットレンズ(サングラス)、日焼け止めクリーム、帽子を使用してください。
  6. 冬期は皮膚の乾燥でかゆくなることがあるので、乾燥防止にワセリン等の保湿クリームの使用をお勧めします。

7 予防接種(ワクチン接種機関を含む)

(1)赴任者に必要な予防接種

成人

  • A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン:過去に接種済みでも免疫(抗体)が形成されていない場合は再接種してください。
  • 破傷風ワクチン:過去5年以内にブースター接種(追加接種)を受けていない場合は、必ず接種してください。特に土壌に接する機会が多い方にはお勧めします。
  • 腸チフス:特に地方に行く機会がある方にはお勧めします。
  • 狂犬病ワクチン:動物と接する機会が多い場合は暴露前接種をお勧めします。
  • 麻疹・風疹ワクチン:過去に接種済みでも免疫(抗体)が形成されていない場合は再接種してください。
  • ポリオワクチン:2014年に14年ぶりにイラクでポリオ(急性灰白髄炎)の患者が発生しました。その後感染者の発生はありませんが、世界保健機関(WHO)がポリオワクチンの投与または追加接種を勧奨する国の一つですので、これまでワクチン未接種の場合には渡航前に予防接種をご検討ください。

小児

 定期予防接種(DPT、MMR、水痘等)は全て接種することをお勧めします。また、成人と同様にA・B型肝炎ワクチン、及び必要に応じて腸チフスワクン、狂犬病ワクチンをお勧めします。

(2)現地の小児定期予防接種一覧

イラクの小児定期予防接種一覧
予防接種 初回 2回目 3回目 4回目 5回目 6回目
BCG 生後1週間以内          
DPT(ジフテリア・百日咳・破傷風) 2か月 4か月 6か月 18か月 4から6歳  
B型肝炎 出生時 2か月 4か月 6か月    
OPV/(経口ポリオ生ワクチン) 生後24時間以内 2か月 4か月 6か月 18か月 4から6歳
IPV(筋注ポリオ不活化ワクチン) 4か月 6か月      
麻疹 9か月          
MMR(麻疹・おたふく・風疹) 12か月 18か月        
Hib(ヘモフィルスインフルエンザ) 2か月 4か月 6か月      
肺炎球菌 2か月 4か月 6か月      
ロタウイルス 2か月 4か月 6か月      
ビタミンA 9か月 18か月 4から6歳      

(注)おたふく、風疹の個別接種は行われていません。

(注)DPT、B型肝炎、Hibは5種混合ワクチンとして接種されています。

8 病気になった場合(医療機関等)

(首都)バグダッド

(1)Ibn Sina Hospital(イブン・シーナ・ホスピタル)
所在地:International Zone(IZ)内、在イラク・オーストラリア大使館の隣
電話:078-0380-9000
ホームページ:Ibn Sina Hospital(アラビア語のみ)別ウィンドウで開く
概要:2009年9月まではイラク駐留米軍管理下で外傷専門病院として機能していましたが、その後、イラク政府に管理が移管され、改装と医療設備の整備の後に2012年4月より再びオープンした公立病院です。64スライスCT室、1.5テスラMRI室、カテーテル検査治療室と手術室を備え、入院病棟があります。外来診療科には、内科、外科、整形外科、産婦人科、小児科、耳鼻咽喉科、救急外来、及び歯科があります。外来診療時間は金曜日と土曜日をのぞく8時から14時までですが、24時間救急対応可能で、救急車が常時配置されています。英語で会話可能な医師が数名います。支払いはイラクディナール現金又は米ドル現金のみです。今まで日本人の外来受診はありますが、入院はありません(注意:International Zone内へ入る事が必要です)。
(2)Baghdad Teaching Hospital
所在地:Medical City, Rusafa, Baghdad
概要:Medical Cityは、バグダッド市内の保健省に隣接する病床総数3,000床以上の中東でも有数の規模を誇る公立病院群で、バグダッド大学医学部の教育病院でもあります。専門病院では、脳外科手術、経皮的冠動脈形成術、心臓バイパス手術、血液透析も行われており、64スライスCT、1.5テスラMRI等の最新の医療機器も配備されています。
Medical Cityで最も古いBaghdad Teaching Hospitalは、約1000床の病院で、一般外科、内科(一般内科、血液内科、呼吸器内科、神経内科、腎臓内科、リウマチ内科)、産婦人科(一般産科、婦人腫瘍科、周産期科、胎児科、人工授精科)、精神科、救急部があります。救急外来は24時間対応で受付後、一般救急外来か外傷用外科救急外来に振り分けられます。外来診療時間は9時から12時までですが、24時間救急対応可能で、救急車が常時配置されています。英語がかろうじて通じます。支払いはイラクディナール現金のみです。今まで日本人の外来受診および入院はありません。レッドゾーンに位置するため受診にあたっては十分注意が必要です。

9 その他の詳細情報入手先

10 一口メモ

 医師・看護師は英語を話す場合が多いですが、アラビア語が出来るとよりスムーズに受診できます。英語に関しては、「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモ(もしもの時の医療英語)を参照願います。

(参考)もしもの時の医療アラビア語(イラク・バグダッド編)

  • 日本語:EnglishArabic (pronunciation)/カタカナ
  • 医師:DoctorDectoor/ドクトール
  • 飲み薬:MedicineDuwaa/ドゥワー
  • 注射:InjectionUbra/ウブラ
  • 頭痛:HeadacheSudaa’a/スダー
  • 胸痛:Chest PainAlam Sader/アラム・サドゥル
  • 腹痛:Abdominal PainAlam Baten or Maaghss/アラム・バタンまたはマガス
  • 下痢:DiarrheaEshaal/イスハール
  • 発熱:FeverSakhuna/スフーナ
  • 嘔気:NauseaLa’aban Nafsu/ラアバーン・ナフス
  • 傷:WoundJareh ジャラハ
  • 具合が悪い。:I don’t feel well.Malihorqu/マーリーホルク
  • 病院へ連れて行って欲しい。:Would you take me to the hospital?Mumken Ta’akhuthny Lilu Mustashfa/ムンケン・タアホズニー・リル・ムスタシュファ
  • 頭:HeadRa’as/ラアス
  • 首:NeckRaguba/ルグバ
  • 背中:Upper BackDhahr/ザハル
  • 胸:ChestSader/サデル
  • 腹:AbdomenBaten/バテン
  • 肩:ShoulderKitef/キティフ、または、Chetef/チェティフ
  • 二の腕:Upper armZened/ゼネドゥ(腕全体:Eidu/イイドゥ)
  • 肘:Elbow’Akis/アキス
  • 前腕:ForearmSaa’ad/サーアド
  • 手首:WristMua’asem/ムアーセム
  • 手:HandKaf/カフ、または、Chaf/チャフ
  • 指:FingerUsba’a/ウスバア(単数)、Asaabiu’/アサービウ(複数)
  • 腰:Lower BackAsfel Al Daher/アスフェル・アル・ダハル
  • 股:HipWilik/ワリク
  • 大腿(太もも):ThighFufud/フフォドー(脚全体:Rijul/リジュル)
  • 膝:KneeRukba/ルカバ
  • 下腿(すね):LegSaak/サアク
  • 足関節:AnkleKahel/カーへル
  • 足:FootKadem/カデム
  • 趾(あしゆび):ToeUsba’a Kadem/ウスバア・カデム(単数)、Asaabiu’ Kadem/アサービウ・カデム(複数)
  • 苦しいです。:I feel oppressed.Mutdhaiqu/ムットダーイク
  • 寒気がします。:I feel chilly.Bardan/バルダーン
  • 発熱であついです。:I have hot flashes.Bawba/バゥハ
  • だるいです。:I feel weary.Ta’aban/タァバーン
  • めまいがします。:I feel dizzy.:Daikhu/ダーイフ
  • 耳鳴りがします。:My ears are ringing.Utheny Biha Wanna/ウズニー・ビーハ・ワンナ
  • (足が)痛いです。:My (foot) hurts.Qadamy Tuwjaani/カダミ・トゥジァアニー
  • しびれます。:I become numb.Munanmer/ムナンメル
  • 手(足)に力が入りません。:My hand (foot) feels weak.Eidi (Rijuli) Ta’abaana/イーディー(リジュリー)・タアバーナ
  • かゆいです。:I feel itchy.Indi/インディー
  • 眠いです。:I feel asleep.Na’asaan/ナァサーン
  • 咳:CoughGaha/ガッハ
  • 痰:SputumBalghem/バルガム
  • 鼻水:Nasal DischargeNashura/ナシュラ
  • 鼻血:NosebleedNazeef/ナズィーフ
  • 息切れ:Shortness of BreathNafsi Dhaiiq/ナファス・ダイイク
  • 便秘:ConstipationEmsaak/エムサーク
  • 尿が出ない。(尿閉):I can’t discharge urine. (Urinary retention)Ma Akudar Aboul/マー・アクダル・アブール
  • 手(足)を捻りました。:I twisted the hand (foot).Luweitu Eidi(Qadami)/ルウェイトゥ・イーディー(カダミー)
  • 手(足)をぶつけました。:I bumped the hand (foot).Dharabutu Eidi(Qadami)/ダラブトゥ・イーディー(カダミー)
  • 手(足)を切りました。:I cut the hand (foot).Jarahit Eidi(Qadami)/ジャラシットゥ・イーディー(カダミー)
  • 手(足)をやけどしました。:I got burned.Ehtaraqit/エフタラクト
  • ダニに刺されました。:I was bitten by a tick.Gaasa’atny Hashara/ガアサトニ・ハシャラ
世界の医療事情へ戻る