世界の医療事情
トリニダード・トバゴ
1 国名・都市名(国際電話番号)
トリニダード・トバゴ共和国(国際電話番号1-868)
2 公館の住所・電話番号
- 在トリニダード・トバゴ日本国大使館(毎週土曜日、日曜日休館)
- 住所:Embassy of Japan in Trinidad and Tobago, 5 Hayes Street, St. Clair, Port of Spain, Trinidad and Tobago
- 電話:628-5991
- FAX:622-0858
- ホームページ:在トリニダード・トバゴ日本国大使館
(注)土曜日、日曜日以外の休館日は暦年ごとにホームページにて案内していますので、ご覧ください。
3 医務官駐在公館ではありません
在マイアミ日本国総領事館医務官が担当
4 衛生・医療事情一般
トリニダード・トバゴ共和国は、首都ポート・オブ・スペインの所在するトリニダード島とトバゴ島の2島からなる人口約153.5万人(世銀2023)、面積約5,130平方キロメートル(千葉県よりやや大きい)ほどの国です。カリブ地域の南東部、ベネズエラに流れるオリノコ川河口の、オリノコ・デルタのすぐ北側に位置し、ハリケーン・ベルトからは外れるため、その被害はほとんどありません。しかしながら、デング熱やチクングニア熱などの蚊が媒介する感染症、また下痢、食中毒、肝炎などが比較的高頻度に見られます。特にデング熱に関しては、2023年より感染が拡大傾向にあり、死亡例も発生しており注意が必要です。渡航者は出発の4から8週間前までに専門医(トラベル・クリニックなど)を受診し、必要な予防接種を実施するとともに現地の最新の感染症発生状況などの情報を得ることをお勧めします。水道の質は完全には保証されないため、ペットボトルの濾過水や、煮沸消毒後の水を飲用にご利用ください。当地の医療レベルに関しては、旧宗主国のイギリスと連携している私立病院においては確保されていると思われますが、重症疾患の際には医療先進国への移送も考慮する必要があります。渡航に際しては、移送費を含め高額になりうる医療費を十分補償する海外旅行傷害保険などに、事前加入されることを強くお勧めします。
5 かかりやすい病気・怪我
(1)熱中症、脱水症など
日中は直射日光が強く、夏期は高温多湿となるので熱中症、日焼けに注意が必要です。
皮膚の露出を少なくする、サングラスの使用、帽子をかぶる、日陰に入って時々休む、必要な水分・塩分を十分に取るなどの予防策をとることが重要となります。日常生活の範囲内でも熱中症は発生します。高齢者、基礎疾患のある方は特にご注意ください。
(2)旅行者下痢症、食中毒など
渡航中もしくは渡航後2週間以内に発症する下痢症のことを旅行者下痢症と呼びます。原因菌は細菌やウイルスなど色々ですが、カリブ諸国では料理の香辛料や水の硬度など非感染性の原因の事もあります。原因菌で最も多いとされているのは毒素原性大腸菌で、不衛生な調理環境が感染を誘発します。不衛生な状態で皮がむかれた果実や十分加熱調理されていない野菜などは避け、低温殺菌されていない牛乳やそれを用いた乳製品、アイスクリームなども避けた方が無難です。また、酢漬けの魚も含め未調理や十分加熱調理されていない肉、魚の摂取も控えるようお願いします。生水、氷などの摂取はさけて、濾過されて化学的殺菌処理の行われたものか、一度沸騰させた水、または、ペットボトルの水を飲用にご利用下さい。
(3)蚊の媒介する感染症
近年の地球温暖化の影響による異例なほどの高温多湿な気候を背景に、デング熱を始めとする蚊媒介疾患は、カリブ諸国、中南米で近年爆発的に増加しています。デング熱に関しては、2024年の5月までに、カリブ諸国、中南米で2022年と2023年に報告された件数の合計を上回る症例が報告されています。
トリニダート・トバゴにおける蚊媒介疾患は、デング熱、チクングニア熱、黄熱、マラリアなどがあり、なかでもデング熱は渡航者も罹患するリスクが高く注意が必要です。デング熱は、国内で例年50例前後の症例が報告されていましたが、2023年は126例と増加、2024年は9月末時点で1,579例の症例が確認されており、うち19名が死亡しています。デング熱は、ネッタイシマカ及びヒトスジシマカによって媒介される熱性ウイルス疾患で、ほとんどの人は重症化することなく治りますが、一部で出血傾向を伴うショック状態になる場合があります。有効な治療薬はなく、発病時は対症療法のみです。発熱に対しては、アスピリンやイブプロフェンの利用は好ましくなく(出血を助長するため)、アセトアミノフェン(タイレノールやパナドール)を用います。有効な予防薬はないため、蚊に刺されないようにすることが最も大切です。戸外に出るときは、虫よけスプレーを使用し、できる限り長袖、長ズボンを着用してください。また、蚊の活動が活発な日の出や夕暮れ時の外出を避ける、さらに居住空間近辺の蚊の発生しそうな下水・水回りの清掃(余分な水たまりの排除)をすることなども重要です。
黄熱は1979年以来、ヒトへの感染例は報告されていませんが、それ以降もトリニダード島南部、南東部の森林地域などにおいて、猿の感染や死亡例が報告されています。首都のポート・オブ・スペインでは感染のリスクは少なく、予防接種に関しては、地方への行動が予想される方は接種が推奨されています。黄熱流行地からの入国時には、入国の10日以上前の接種が必要です。なお、トリニダード・トバゴはWHOの黄熱感染地域のリストに入っているため、当国を経由して他国に入国する際、イエローカード(予防接種証明書)の提示を求められる場合がありますので注意してください。
トリニダート・トバゴでは、1965年にマラリア撲滅をWHOが確認していますが、年平均15例程度の輸入例が国内で確認されています。渡航者や一時滞在者がマラリアに感染するリスクは低く、予防薬の服用などは必要ありません。
(4)海棲生物による外傷など
棘皮動物(イソギンチャク)の幼生、クラゲによる刺傷は激しい痛みを伴った広範な皮膚炎を起こす可能性があります。その他、珊瑚、鮫、ウニなどによる外傷が報告されています。また、決められた遊泳区域外、見張りのいない海岸での海水浴は、水深や潮の流れが不明なため大変危険です。
6 健康上心がけること
- 屋外で活動する際には、十分な水分や塩分を摂取し、直射日光に対する防護策(帽子、長袖、日焼け止めクリーム、サングラスなどを使用する)をとってください。地方や森林、その他の自然環境地域を訪問する際には、虫に刺されないように長袖・長ズボンを着用し、虫除けスプレー・クリーム等の対策を講じてください。
- 野生の小動物に遭遇した場合は狂犬病、また鳥の死骸の場合は鳥インフルエンザなどの感染の恐れがありますので、安易に触ることのないようお願いします。
- 当地への旅行を予定されている方は、事前にトラベルクリニック等を受診し、予防接種に加え、デング熱などの最新の現地感染状況を入手して下さい。基礎疾患のある方は、事前にかかりつけの医師、専門医などを受診し処方箋や病気の状態、経過などを英訳した診断書などを書いてもらい、何かあった場合に備えて旅行中携帯してください。
7 予防接種(ワクチン接種機関含む)
(1)赴任者に必要な予防接種
入国に際して必須とされているワクチンはありません。赴任者には以下の予防接種が推奨されます
- A型肝炎、B型肝炎、腸チフス、破傷風(追加接種)、黄熱
黄熱ワクチンに関して
年齢9か月以上のトリニダード島への渡航者に推奨されています。妊婦、免疫不全者、卵アレルギーのある人は接種の適応外です。接種前に十分医師に相談する必要があります。カリブ海クルーズ航海中の旅客のうち、下船しない場合や、首都ポート・オブ・スペインの都市エリアだけを訪れる場合や、空港での乗り換えだけの場合は、一般的には接種は推奨されていません。またトバゴ島のみへの渡航者には推奨されていません。黄熱流行地からの入国時には1歳以上の全ての渡航者に対し入国の10日以上前の接種が必須です。
(2)現地の小児定期予防接種一覧
接種時期 | 予防接種の種類等 |
---|---|
2か月 | DTwP/Hib/HepB(ジフテリア・破傷風・百日咳・インフルエンザ桿菌b型・B型肝炎の5種混合:1回目) IPV(不活化ポリオ:1回目) PCV13(肺炎球菌:1回目) |
4か月 | DTwP/Hib/HepB(2回目)、IPV(2回目)、PCV13(2回目) |
6か月 | DTwP/Hib/HepB(3回目)、OPV(1回目)、PCV13(3回目) |
1歳 | MMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹:1回目) 黄熱 |
18か月 | DTwP(ジフテリア・破傷風・百日咳:1回目) OPV(2回目)、PCV13(4回目) |
2歳 | MMR(2回目) |
4から5歳 | DTwP(2回目)、OPV(3回目)、VAR(2回目) |
参照:トリニダート・トバゴ保険省ホームページ
(3)小児が現地校に入学・入園する際に必要な予防接種・接種証明
予防接種を受けた際に発行されるImmunization Card(Vaccination Card, Health Passportともいわれている)が現地学校入学の際に要求されます。
(4)乳児健診
妊娠中から、地域の保健センター(国民への公共サービス)などにおいて、健診が無料で行われています。ただし、自主的に登録する必要があります。また、当国人との婚姻関係がない場合(外国人の扱いを受ける場合)はこのサービスは受けられません。その他には、小児科などで乳幼児定期予防接種を受ける際に同時に健診が行われ、必要があれば専門医に紹介されます。なお、上記のように公立病院の小児科を受診する資格を有する場合は、予防接種等の医療費はすべて無料で、各地域の保健センターや本稿8の医療機関(小児科など)で可能です。
8 病気になった場合(医療機関等)
(首都)ポート・オブ・スペイン
- (1)St. Clair Medical Centre
- 所在地:18 Elizabeth Street, St. Clair, Port of Spain
- 電話:628-1451、628-8615
- ホームページ:St. Clair Medical Centre(英語)
- 日本国大使館に隣接する私立総合病院で、いくつかの施設に分かれています。近くのMRI Centreで精密検査も可能。24時間対応の救急外来(ER)あり、心筋梗塞や脳梗塞にも対応可。血液透析可。外国人がかかりやすい市内の私立病院のひとつです。
- (2)West Shore Medical Private Hospital
- 所在地:239 Western Main Road, Cocorite
- 電話:622-9878、285-5019
- ホームページ:West Shore Medical Private Hospital(英語)
- ポート・オブ・スペインからやや離れた郊外に位置する私立総合病院(歯科なし)。24時間対応の救急外来(ER)あり。心筋梗塞や脳梗塞にも対応可。血液透析可。
(注)カリブ諸国の病院においては、緊急で受診した場合や、入院治療を行う条件として、多額の現金による保証金を要求する病院が増えています(例:胃腸炎による4日間の入院、入院保証金日本円で約50万円)。海外旅行保険に加入していても一度は立て替える必要があり、場合によってはクレジットカードの支払限度額以上の保証金が入院時に必要となるケースも想定されますので、渡航前に支払額の上限変更などもご検討下さい。
9 その他の詳細情報入手先
10 一口メモ(もしもの時の医療英語)
「世界の医療事情」冒頭ページの一口メモ(もしもの時の医療英語)を参照願います。