2010年10月
ハイチ共和国(ポルトープランス) (国際電話国番号 509)
(1)流動的な医療環境:2010年1月に発生したマグニチュード7.0の大地震で首都ポルトープランスは壊滅的な被害を受けました。復興の途を歩み始めてはいますが、その道のりは長く険しそうです。医療分野でも多くの医療施設や貴重な人材を失うことになり、もともと劣悪であった医療環境は更に厳しい状況となりました。今後の状況は流動的であり、その予測は困難です。可能な限りその時々の医療情報を確認して対応するようにしてください。
(2)地理・気候:ハイチはカリブ海で2番目に大きいイスパニョーラ島の西側3分の1と、ラ・トルチュ島など幾つかの島からなり、東側はドミニカ共和国と国境で接しています。面積は北海道のほぼ3分の1です。気候は熱帯海洋性気候に属し、蒸し暑い気候がほぼ1年を通じてみられ、気温が40℃近くまで上昇することもあります。雨期と乾期があり、雨期は概ね4月から10月で、短時間ながら雷を伴った激しい雨がよく降ります。乾期は11月から3月で、しばしば水不足が問題になっています。なお、6月〜11月はハリケーンシーズンで、2008年9月の大型ハリケーン被害は記憶に新しいところです。
(3)医療水準:世界で最も貧しい国の一つであるハイチの医療水準は劣悪と言わざるをえません。従来から医師や看護師の絶対数が不足しており、医療機器、衛生材料も慢性的に不足していましたが、今回の地震により更に厳しい環境となりました。医療先進国レベルの診断や治療はとても期待できず、われわれが利用できるような医療環境にはありません。2007年に開院した私立病院 Centre Hospitalicer du Sacre-Coeur (CDTI病院)は重症でなければわれわれも利用できると思えた唯一の病院でしたが、震災から間もなくして閉院に追い込まれ、再開の目処は立っていません。そのこともあり、現時点ではハイチで治療を完結することは難しいと考えた方が良い状況なので、常にマイアミなどの医療先進地域への緊急移送を念頭に置きながら対応していく必要があると思われます。
(4)受診:通常はクリニックに予約を入れてから受診します。時間外や救急の場合は病院の救急外来を受診することになりますが、現時点で利用しうる公立病院は Hospital de la Communaute Haitienne [ハイチコミュニティ病院(HCH)]の救急外来のみと言えそうです。私立病院 Hospital du Canape Vert を利用するという選択肢もありますが、病院は単に場所を提供しているだけで常勤医師はいないため、利用するためには患者がこの病院と契約関係にある医師に連絡して来院してもらう必要があります。したがって、依頼できる医師がみつからない場合には極めて利用し辛い病院ということになります。
CT検査などが必要となった場合には、Vasco Imagin Center (Petion-Ville, Dr.Eddy Bastiste)、Dr Reynold Savain (CDTI病院内で検査部門だけ継続)などの施設を利用することになります。いずれも私立の画像検査施設です。
(5)緊急移送(搬送):当地の医療環境は劣悪であり、軽症例を除き可能な限り速やかに医療先進地域(米国)で診断、治療を受けることを念頭に対応していくのが良いと思われるので、日本を出発する前に海外旅行傷害保険に加入し、緊急移送の特約も付加しておくようにしてください。ただし、虫垂炎や子宮外妊娠など、移送の途中で急変する可能性がある場合には当地での対応が優先されることもあります。なお、一般に移送に際しては移送会社が現地の医師に病状を確認して移送の要否を判断することになるので、現地医師に診てもらうことが最初のステップになります。その意味からも日頃から現地の医師と良好な関係を保っておくことは重要です。緊急移送先としてしばしばマイアミが選ばれていますが、米国の医療費は高額となりやすいので、海外旅行傷害保険加入の際には保険金額も十分な補償が受けられるように上乗せ(増額)しておくことをお勧めします。
(6)救急車の依頼:公的な救急車(118)は対応が悪くて利用できる状況にはないので、民間の救急車サービス Sam Ambulanceを利用するのが良いと思われます。状況によっては知人等に依頼して自家用車で運ぶのが最も迅速で確実な方法かも知れません。
Sam Ambulance 3802-1111
(7)医療保険制度:われわれ日本人が加入できるような医療保険はありません。
(8)水質:水道水の水質は劣悪なのでそのまま飲用することはできません。飲用水としては水道水を十分に煮沸させたものか、ミネラルウォーター・ボトルウォーターを利用してください。
(9)食品衛生:一般に食品衛生の知識が乏しく、食品の取り扱いや保存などにも問題が多いと思われるので、信用できる場所以外では生野菜、カットフルーツ、アイスクリームなどは食べない、コップや水差しで出された水、氷などを避けるといった注意が必要です。
(1)呼吸器感染症:当地において最もありふれた病気の一つで、一年を通じてみられます。季節性インフルエンザの流行がみられることもあるようです。
(2)急性腸炎・食中毒、寄生虫症:ほぼ全ての食中毒、寄生虫症がみられるようです。ジアルジア症、アメーバ赤痢、腸チフスなどもまれな病気ではありません。高温多湿の環境、上下水道などのライフラインの不備、衛生観念の欠如、不十分な生鮮食料品の管理(頻繁にみられる停電も影響)といったことも関係しているようです。外で食事をする場合には信頼できるレストランを選び、生ものは避けて、よく火の通った料理を選んでください。当地では寄生虫の感染リスクが高いため、定期的に駆虫薬を服用することを勧めている専門医も少なくありません。なお、その場合にはAlbendazole、Tinidazoleといった駆虫薬がよく処方されるようです。
(3)デング熱:「近年流行はみられていない」というのが政府の公式見解のようですが、実際はほぼ全土で感染がみられているようです。体調を崩してポルトープランスからサントドミンゴに搬送された邦人がデング熱と診断されたこともあります。特に5月〜6月と9月〜11月の雨期に感染のリスクが高くなります。デング熱の媒介蚊に刺されないことが唯一の予防策となるので、長袖の服や長ズボンを着用してできる限り皮膚を露出しない、虫よけクリームや虫よけスプレーを適切に使用するといった注意が大切です。また、蚊の発生源となる水たまりを作らない、窓や戸を開けっ放しにしない、網戸を使用するといったことも併せて行ってください。なお、デング熱の媒介蚊の吸血活動は明るいとき(とりわけ朝方と夕方)に活発となるので、デング熱に関してはこの時間帯がとくに要注意です。
(4)マラリア:南県(Chantal)、中央県(Maissade、Hinche)、アルティボニット県(Gros Morne)などの森林地帯や南東県(Jacmel)などでは毎年感染者がみられていますが、現在のところはポルトープランスの感染リスクはあまり高くないと考えられています。感染リスクが高いと思われる上記の地域に出かける場合にはマラリア予防内服が必要となる場合もあるので、事前に現地の流行状況を確認して予防内服の要否を検討してください。マラリア媒介蚊に刺されないことが重要ですが、夜間に活発な吸血活動を示すので、マラリア予防に対してはとくに夜間の時間帯に力を入れて対応してください。
(5)麻疹(はしか)・風疹:いずれも従来から散発的な流行がみられていましたが、震災後は流行が拡大しているようです。これらの予防接種が完了していない場合には日本を出発する前に追加接種を受けておくことをお勧めします。
(6)A型肝炎:A型肝炎ウイルスに汚染された水や野菜、魚介類などを摂取にすることにより感染します。当国の感染リスクは高いと考えられているので、不衛生なレストランは避け、生ものは口にしないようにして、氷や飲料水も安全が確認できるものにしてください。上下水道の完備されていない地方ではより慎重な対応が望まれます。予防接種で予防が可能なので、日本を出発する前に予防接種を済ませておくことをお勧めします。
(7)B型肝炎:B型肝炎ウイルスを含む血液や体液を介して感染します。ハイチ国民のB型肝炎ウイルスキャリアの割合は定かではありませんが高率(3.8%:2〜7%)であるとの報告もあるので、偶発的な感染の機会をも考慮して、日本を出発する前に予防接種を受けておいた方が良いと思われます。
(8)狂犬病:ヒト狂犬病患者の多くはポルトープランスからの報告例ですが、全土で感染のリスクがあると考えられます。イヌ以外にネコ、コウモリ、マングースなどからも感染すると言われているので、これらの動物に咬まれたら直ちに傷口をよく洗い、速やかに信頼できる医師にその後の対処の仕方について相談する必要があります。咬傷後24時間以内に暴露後免疫を開始して、破傷風トキソイドの接種や状況によっては狂犬病免疫グロブリン注射も必要となりますが、国内では適切な処置が受けられない可能性が高く、そのような場合には至急国外でこれらの治療を受けることを検討する必要があります。長期滞在の場合や動物との接触が多くなる場合には可能な限り渡航前に予防接種(暴露前免疫)を受けておくことをお勧めします。なお、暴露前免疫を受けていても暴露後免疫は必ず受けなければなりませんが、接種回数が少なくて済み、感染リスクも低くなることが期待できます。なお、暴露前免疫に使用したワクチンの種類や国によって暴露後免疫の回数は異なるので、接種回数については医師によく確認して必ず決められた回数を接種するようにしてください。
(9)結核:結核罹患率は日本の10倍以上と極めて高率です(WHO 2007)。地震後の罹患率の信頼できる統計はまだありませんが、感染の拡大が危惧されています。使用人を雇う場合には使用人の健康状態(結核感染の有無)についても注意しておく必要があるでしょう。
(10)HIV感染・エイズ:成人(15-49歳)のHIV陽性率はここ数年2%強で推移しています。増加傾向はないものの減少傾向もみられていません。
(11)ジフテリア:2009年から2010年にかけてポルトープランスの一部の地域で小流行がみられましたが、その後の予防接種キャンペーンなどが功を奏して沈静化したようです。しかし、もし再び流行の兆しが見られたら、速やかにジフテリア(単独あるいは二種混合[dT])の予防接種を検討してください。
(1)メンタルヘルス:生活必需品の入手もままならず、停電や断水の問題があり、治安も良好とは言い難いので、極めてストレスの溜まりやすい生活環境といえます。十分な休養を取る、意識的に気分転換の工夫をする、家族や友人との団らんの機会を持つといったことを積極的に取り入れて、精神面のリフレッシュに心がけてください。
(2)熱中症・脱水症:高温多湿の環境なので、屋外で身体を動かすと汗をかきやすく、熱がこもりやすくなります。通気性・吸水性の良い服装にする、涼しい場所で休憩をはさむ、こまめに水分補給をするといった点に心がけてください。
(3)犯罪被害:ハイチ全土で誘拐事件、殺人事件、強盗事件などの凶悪事件がしばしば発生しています。日頃より防犯の意識をしっかり持って対応してください。震災後は国連ハイチ安定化ミッションおよび国家警察による治安維持活動により比較的落ち着いているようですが不安定化の懸念は拭えません。夜間の外出は控える、日中も外出は極力控え、必要な場合には武装したガードマンの警護を手配するといった対応が求められます。
(4)交通事故:未整備の道路が多い上に運転マナーが悪いので、交通事故が多発しています。偶発的に遭遇する可能性もありうるので日頃から注意を怠らないようにしてください。
(1)赴任者に必要な予防接種:日本から入国する際に求められる予防接種はありませんが、以下の予防接種は可能な限り受けておくのがよいと思われます。
成人:A型肝炎、破傷風。可能であればB型肝炎、腸チフス。
麻疹・風疹・ポリオ(追加免疫が不十分な場合)。生活環境によっては狂犬病。
流行がみられるような場合にはジフテリア(単独あるいは二種混合[dT]として)。
小児:わが国の定期接種(勧奨接種)である三種混合(DTP)、BCG、ポリオ、麻疹、風疹。
可能であればB型肝炎、水痘、おたふくかぜ。生活環境によっては狂犬病。
ハイチでは停電などの問題もありワクチンの保管状態は必ずしも良いとは言い難いので、現地での予防接種はお勧めできません。可能な限り日本で、できなかった場合は医療先進地域に出向いて受けるようにしてください。
(2)現地の小児定期予防接種一覧:
| 初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | |
|---|---|---|---|---|---|
| BCG | 出生時 | ||||
| ポリオ(OPV) | 出生時 | 1.5ヵ月 | 2.5ヵ月 | 3.5ヵ月 | 1歳3ヵ月 |
| 三種混合(DTP) | 1.5ヵ月 | 2.5ヵ月 | 3.5ヵ月 | 1歳3ヵ月 | |
| 麻疹 | 9ヵ月 | ||||
| 風疹 | 9ヵ月 | ||||
| 二種混合(dT) | 15歳 |
公的に生後1ヵ月から5歳の誕生日まで毎月無料で健康診断が受けられることになっています。しかし、実際にはほとんど機能していないので、乳児健診を希望する場合には産科医や小児科医のクリニックで個別に受けることになります。有料です。
震災により医療環境は更に悪化し、極めて流動的な状況になっているのでご注意ください。なお、現地医療施設に日本語を話す医師はいません。
所在地:83 Route de Canape Vert, Port au Prince
電話・ファックス:2245-0984/0985
概要:ベッド数32床の私立総合病院です。設備はそれなりに整っていますが、この病院と契約・登録している医師に診療の場を提供しているだけの施設です。登録医師は自分のクリニックで対応できない場合などにこの病院施設を利用しています。24時間体制の救急外来もありますが登録医師でないと使用できないので、まず登録医師を探すことから始めなければなりません。その意味では利用し辛い病院といえます。
病院の敷地内に現地で最も信頼されている私立の検査施設MEDLABがあります。
所在地:Rue Audant, Route de Frere; Petion-Ville
電話・ファックス:2513-0983, 2257-6808/7509/4505
概要:ベッド数63床、24時間体制の救急外来・薬局を有する公立病院です。
公立ですが公的な区画とは別の場所にプライベート部門があり、救急外来も設置されています。設備等は決して十分とは言えませんが、カナペベール病院が利用できない場合にはこの病院のプライベート部門を利用するのが良いと思われます。
(1)在ハイチ共和国日本大使館(仮事務所)3456-0867, 3456-0866
(2)在ハイチ共和国米国大使館が紹介している「英語が話せる現地医師のリスト」
それなりの医師が選ばれているようです。
http://haiti.usembassy.gov/medical_information.html![]()
| 日本語 | クレオール語 | フランス語 |
|---|---|---|
| 医者 | docte(ドクテ) | docteur(ドクトゥー) |
| 飲み薬 | konprime(コンプリメ) | medicamentinterne(メディカモン アンテルヌ) |
| 注射 | piki(ピキ) | piqure(ピキュール) |
| 頭痛 | tetfemal(テット フェ マル) | malalatete(マル アラ テット) |
| 腹痛 | vantfemal(ヴァント フェ マル) | malauventre(マル オゥ ヴァントル) |
| 下痢 | dyare(ディアレ) | diarrhee(ディアレ) |
| 発熱 | lafiev(ラ フィエヴ) | fievre(フィエーヴル) |
| 吐き気 | anvivomi/keplen(アンヴィ ヴォミ/ケ プラン) | nausee(ノウゼ) |
| 傷 | blesse(ブレッセ) | blessure(ブレシュール) |
| 具合が悪い | Mwensanti'mmal.(ムウェン サンティム マル) | Jemesensmal.(ジュ ム サン マル) |
| 病院へ連れて行って欲しい | Mennenmwenlopital.(メンネン ムウェン ロピタル) | Emmenez-moial'hopital.(アンムネ モワ ア ロピタル) |