評価年月日 平成22年1月18日
評価責任者:国別開発協力第三課長 石塚英樹
1.案件名1-1.供与国名パレスチナ自治区 1-2.案件名「ヨルダン渓谷コミュニティのための公共サービス活動支援計画」 1-3.目的・事業内容本計画は、貧困農村を主体とする零細コミュニティが散在しているために開発が遅れているヨルダン渓谷地域を対象に、住民の生活基盤を支える各種社会・公共施設を総合的に整備するものである。本事業により、住民の生活環境をコミュニティ・レベルで改善し、その経済的自立を促進させることを目的とする。供与額は11億7,600万円であり、一次医療施設の改修(4件)、学校の増改築(5件)、各種コミュニティ施設の建設(6件)、道路の改修(4件)、配電網の整備(3件)を行うとともに、救急車(1台)、移動診療車(2台)、スクールバス(2台)、給水車(2台)、家畜診療車(2台)の他、各種施設に付随する機材等を供与する。 1-4.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点(1)事業内容はいずれも医療施設や学校等に係る小規模案件であり、環境・社会への望ましくない影響はほとんどないと考えられる。 (2)イスラエルの占領が続くパレスチナ自治区においては、検問所や分離壁によってパレスチナ人の移動・アクセスが大きく制限されているため、治安情勢によっては人や物資の移動に支障が生じ、事業の遅延に繋がる可能性は排除できない。 (3)また、パレスチナ自治政府は、各施設の建設用地を確保するとともに、既存施設および障害物の解体撤去工事を行う必要がある。 |
2.無償資金協力の必要性2-1.必要性(1) イスラエルによる占領が続くパレスチナ自治区においては、経済・社会的な開発課題に加えて、1)土地利用制限のために集会場等のコミュニティ活動に必要な施設が十分整備できない、2)移動制限のために学校・病院等への通学・通院や基礎的な社会福祉の受給が困難、3)村落内道路や村落内配電網などの整備が非常に遅れている、等の占領地特有の課題が存在する。また、一部の集落では水や電力の不足による生活困難のために集団離村を余儀なくされる事例も発生しており、各地における社会(公共)福祉拡充の必要性が増大している。 (2) 特に本計画が対象とするヨルダン渓谷地域は、貧困農村を主体とする脆弱な零細コミュニティが散在しているために他の西岸地区と比較しても開発が大きく遅れ、具体的には、1)基礎的医療の欠如、2)女子校不足のために社会・宗教上の理由で女子生徒の中途退学が絶えない、3)住民活動の場がないために零細コミュニティの住民が益々孤立化する、といった種々の問題が顕在化している。このため、住民の生活基盤を支える各種社会施設を総合的に整備し、住民の生活環境をコミュニティ・レベルで改善することが急務となっている。 (3)こうした事情を背景として、パレスチナ自治政府は、2008年に「パレスチナ復興開発計画(2008-2010)」を策定し、保健・教育などの社会開発や電力・運輸などの公共インフラ開発等を重点開発分野として掲げるとともに、特に開発の遅れているヨルダン渓谷地域を対象として公共・社会インフラ整備を行うことにつき、我が国に対して支援要請を行ってきたものである。 2-2.効率性(1)ヨルダン渓谷には計16の自治体が存在するが、各自治体の規摸は非常に小さく、個々に行政サービスを提供するのは非効率であると判断されたため、これらの16自治体を4つの自治体連合(クラスター)に分け、各クラスターごとに、個々の事情に基づき必要性及び緊急性の高いセクターの施設および機材を選定した。 (2)医療施設については、4クラスターから各々1カ所ずつ既存診療所を選定し、これらを改修及び機材整備することにより、対象地域内の住民全てがこれらの診療所で少なくともレントゲン検査、臨床検査、歯科診療等の基礎的医療サービスを受けられるよう設計した。 (3)教育施設の一部はコミュニティ活動の利用にも開放できるような設計を行うとともに、1教室当たりの生徒数が少ない学校については、教室面積を標準設計の2/3(24人収容)として効率化を図った。 (4)各種コミュニティ施設の多目的スペースについては、1階に設けたピロティ(柱のみで壁のないスペース)を使用して材料費の効率化を図った。また、道路インフラの整備は、改修案件のみに限ることとした。 2-3.有効性本件の実施により、以下のような成果が期待される。 (1)初歩的な診療所しか存在しないヨルダン渓谷において、4カ所の既存診療所を改修・機材整備することにより、住民約27,000人がこれまで域内で受けられなかったレントゲン検査、臨床検査、歯科診療等の基本的医療サービスを受けることができるようになる。 (2)学校の増改築により、村役場等の他の転用施設や複式学級で授業を受けている生徒数が現状の2,135名から1,500名減少するとともに、女子校建設によって現在の572名から1,172名の女子生徒の通学が可能になる。 (3)ヨルダン渓谷全域の主な15自治体にコミュニティ活動のできる専用施設を整備し、社会活動等の活性化が図られる。 (4)その他の各種基礎インフラ整備を通じて、南部地域の住民約8,600名に安全な水が供給され、中部地域住民約6,800名に安定的な電力が供給される。 (5)なお、本計画は、我が国の「平和と繁栄の回廊」構想(注)の中心となるヨルダン渓谷地域において、住民の生活環境を改善し、その経済的自立を促進させるものであることから、同「回廊」構想の実現にも大きく資することが期待される。 (注)「平和と繁栄の回廊」構想:将来のイスラエルとパレスチナの共存共栄に向けた我が国独自の中長期的取り組み。長年の占領によりイスラエルへの経済的依存度を高めてしまったパレスチナを今後可能な限り円滑に自立させるため、近隣国との域内協力を通じて信頼醸成を図りながらヨルダン渓谷の開発を進め、パレスチナの経済社会基盤を強化することを意図するもの。 |
3.事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等(1)パレスチナ自治政府からの要請書 (2)JICAによる協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能) (2)第48回無償資金協力適正会議(同会議の概要については外務省ODAホームページ参照。 |