海洋

国際海洋法裁判所
International Tribunal for the Law of the Sea:ITLOS)

2011年10月

1.裁判所の概要

(1)組織

 国連海洋法条約に基づき,同条約の解釈・適用に関する紛争の司法的解決を任務として,1996年に設立された。所在地は,ドイツ・ハンブルク。現在の裁判所所長は我が国の柳井俊二裁判官(裁判所長としての任期は2011年10月1日~2014年9月30日)であり,書記局(職員数:37名)が関連事務を遂行している。

(2)裁判官

  1. ア 国際海洋法裁判所は,公平であり及び誠実であることについて最高水準の評価を得ており,かつ,海洋法の分野において有能の名のある者のうちから選挙される全21名の独立の裁判官の一団で構成される(ITLOS規程第2条1)。
  2. イ 裁判官の任期は9年であり,国連海洋法条約締約国会議において,3年に一度改選選挙を実施(ITLOS規程第4条及び第5条)。
  3. ウ 裁判官の構成(2011年10月現在)については,別添参照。

(3)主要会議

  1. ア 国連海洋法条約締約国会議(年1回,於:ニューヨーク)

     裁判所の予算を含む行財政事項等につき協議し,また,裁判官の改選選挙(3年に1回)を実施している(2011年6月に第6回裁判官選挙を実施。)。なお,第21回締約国会議は,2011年6月13日~17日に開催された。

  2. イ 裁判官会合(年2回,3月と9月頃。於:ハンブルク。)

     裁判所の組織に関連する事項等を定期的に協議する場として,年2回開催されている。

2.裁判所の権限

(1)当事者能力

 裁判所は,締約国に開放されているほか(ITLOS規程第20条1),国連海洋法条約第11部(深海底)に明示的に規定する事件について又は裁判所に管轄権を与える他の取決めに従って付託され,かつ,当該裁判所が管轄権を有することを事件のすべての当事者が受け入れている事件について,締約国以外の主体に開放されている(同規程第20条2)。

(2)管轄権の範囲

 裁判所は,国連海洋法条約の解釈又は適用に関する紛争であって,同条約第15部(紛争の解決)の規定に従って付託されるものについて管轄権を有する(国連海洋法条約第288条1)。また,同条約の目的に関係のある国際協定の解釈又は適用に関する紛争であって当該協定に従って付託されるものについて管轄権を有する(同条約第288条2)。

(3)付託事件(別添

 これまでに19の事案が付託され,そのうち,9つの判決と5つの暫定措置命令,1件の勧告的意見が下されている。

3.我が国との関係

(1)財政面での貢献

 我が国が分担金の最大拠出国(米国は国連海洋法条約について未締結)であり,2011年予算における我が国分担額は約167万ユーロ(約2億円)となる。これは全体予算の約16.5%を占める額である。

(2)我が国が当事者となった事件

  1. ア みなみまぐろ事件(1999年)

     「みなみまぐろの保存のための条約」により設置された「みなみまぐろ保存委員会」において調査漁獲計画の導入に合意が得られない状況で我が国が調査漁獲を実施したことにつき,豪州及びニュージーランドは国連海洋法条約第64条等に違反するとして,1999年8月,国連海洋法条約に基づく仲裁手続を開始するとともに,調査漁獲の即時中止等の暫定措置を国際海洋法裁判所に要請した。国際海洋法裁判所は,当事国は合意がなされるか又は国別割当て量の範囲内でない限り調査漁獲を慎むべき等の暫定措置命令を下した。(ただし,その後の2000年8月,仲裁裁判所は,「みなみまぐろの保存のための条約」は国連海洋法条約に規定する紛争解決手続の可能性を排除しているため,国連海洋法条約に基づき設置された仲裁裁判所は本件紛争の本案を審理する管轄権を有さないこと及び国際海洋法裁判所が発出した暫定措置命令を無効とする旨の判断を下した。)

  2. イ 第88豊進丸事件,第53富丸事件(2007年)

     カムチャッカ半島沖のロシア200海里水域で,ロシア当局により,2007年6月初めに拿捕された「第88豊進丸」の乗組員及び船体,並びに,2006年11月初めに拿捕された「第53富丸」の船体が釈放されていなかったところ,ロシアによる国連海洋法条約上の義務の履行を求めて(※),これら事案を国際海洋法裁判所に付託した事件。これに対し国際海洋法裁判所は,「第88豊進丸」については,合理的な保証金の額として1000万ルーブル(約4600万円:ロシア当初提示額の4割)を認定するとともに,ロシアに対し,その支払いにより船体を早期に釈放すること,並びに,船長及び乗組員の無条件での帰国を認めることを命じる判決を下した。また,「第53富丸」については,口頭弁論後にロシアの国内裁判手続が終了し船体没収が確定したため,もはや日本側の請求の目的が失われたとして,「早期釈放」の請求について決定を行えないと判示した。

 国連海洋法条約は,排他的経済水域において拿捕された船舶及び乗組員を「合理的な保証金の支払い」により「速やかに釈放する義務」を定めている(第73条2)。

(3)裁判官の輩出

 我が国より,山本草二裁判官(任期:1996年10月1日から9年間),柳井俊二裁判官(任期:2005年10月1日から9年間)が選出されてきている。


国際海洋法裁判所裁判官の構成(2011年7月現在)
地域 (国籍) 裁判官名 任期
アジア(5) 中国 高(Z.GAO) 9年(2020年まで)
レバノン アクル(J.AKL) 9年(2017年まで)
インド ラオ(P.C.RAO) 9年(2017年まで)
日本 柳井俊二(裁判所長) 9年(2014年まで)
韓国 白(J.H.PAIK) 6年(2014年まで)(注1)
アフリカ(5) セネガル ンディアエ(T.M.NDIAYE) 9年(2020年まで)
アルジェリア ブゲッタヤ(B.BOUGUETAIA) 9年(2017年まで)
カーボ・ヴェルデ ジーザス(J.L.JESUS) 9年(2017年まで)
タンザニア カテカ(J.L.KATEKA) 9年(2014年まで)
南アフリカ ホフマン(A.J.HOFFMAN)(裁判所次長) 9年(2014年まで)
西欧その他(4) フランス コット(J.P.COT) 9年(2020年まで)
マルタ アタード(D.J.ATTARD) 9年(2020年まで)
ドイツ ヴォルフルム(R.WOLFRUM) 9年(2017年まで)
オーストリア テュルク(H.TUERK) 9年(2014年まで)
ラ米・カリブ(4) アルゼンチン ケリー(E.KELLY) 9年(2020年まで)
トリニダード・トバゴ ラッキー(A.A.LUCKEY) 9年(2020年まで)
ブラジル マロッタ・ランジェル(V.MAROTTA RANGEL) 9年(2017年まで)
グレナダ ネルソン(L.D.M.NELSON) 9年(2014年まで)
東欧(3) ウクライナ クリューク(M.Z.KULYK) 9年(2020年まで)
ロシア ゴリツィン(V.V.GOLITSYN) 9年(2017年まで)
ポーランド パウラク(S.PAWLAK) 9年(2014年まで)
  1. (注1) 国際海洋法裁判所裁判官の任期は9年であるが,白裁判官(韓国)は前任裁判官の任期中の退任に伴い実施された空席補充選挙にて選出され,前任の残りの任期のみを務めるため,任期は9年よりも短い。
  2. (注2) 次回の国際海洋法裁判所裁判官選挙は2014年の国連海洋法条約締約国会議において実施される見込み。

国際海洋法裁判所に付託された事案一覧

2011年10月現在

  1. サイガ号事件(早期釈放事案)(事案番号1)

    (セント・ヴィンセント対ギニア)
    1997年11月13日 付託
    1997年12月 4日 判決

  2. サイガ号事件(暫定措置)(事案番号2)

    (セント・ヴィンセント対ギニア)
    1998年 1月13日 要請
    1998年 3月11日 暫定措置命令

  3. サイガ号事件(本案)(事案番号2)

    (セント・ヴィンセント対ギニア)
    1997年12月22日 付託
    1999年 7月 1日 判決

  4. みなみまぐろ事件(暫定措置)(事案番号3及び4)

    (ニュージーランド対日本,豪州対日本)
    1999年 7月30日 要請
    1999年 8月27日 暫定措置命令

  5. カモウコ号事件(早期釈放事案)(事案番号5)

    (パナマ対仏)
    2000年 1月17日 付託
    2000年 2月 7日 判決

  6. モンテ・コンフルコ号事件(早期釈放事案)(事案番号6)

    (セイシェル対仏)
    2000年11月27日 付託
    2000年12月18日 判決

  7. 南東太平洋めかじき資源保存事件(本案)(事案番号7)

    (チリ対EC)
    2000年12月20日 特別裁判部設置命令
    2001年 3月15日 先決的抗弁の期限延長の命令
    2003年12月16日 先決的抗弁の期限再延長の命令
    2005年12月29日 先決的抗弁の期限再々延長の命令
    2009年12月16日 両当事者の合意により取り下げ

  8. グランド・プリンス号事件(早期釈放事案)(事案番号8)

    (ベリーズ対仏)
    2001年 3月21日 付託
    2001年 4月20日 判決

  9. チャイシリ・リーファー2号事件(早期釈放事案)(事案番号9)

    (パナマ対イエメン)
    2001年 7月 3日 付託
    2001年 7月12日 両当事者の合意により取り下げ

  10. MOX製造工場事件(暫定措置)(事案番号10)

    (アイルランド対英)
    2001年11月 9日 付託
    2001年12月 3日 暫定措置命令

  11. ヴォルガ号事件(早期釈放事案)(事案番号11)

    (ロシア対豪州)
    2002年12月 2日 付託
    2002年12月23日 判決

  12. ジョホール海峡事件(暫定措置)(事案番号12)

    (マレーシア対シンガポール)
    2003年 9月 5日 付託
    2003年10月 8日 暫定措置命令

  13. ジューノトラダー号事件(早期釈放事案)(事案番号13)

    (セント・ヴィンセント対ギニアビサウ)
    2004年11月18日  付託
    2004年12月18日判決

  14. 豊進丸事件(早期釈放事案)(事案番号14)

    (日本対ロシア)
    2007年7月6日 付託
    2007年8月6日 判決

  15. 富丸事件(早期釈放事案)(事案番号15)

    (日本対ロシア)
    2007年7月6日 付託
    2007年8月6日 判決

  16. バングラデシュ・ミャンマー間海洋境界画定に関する紛争(本案)(事案番号16)

    2009年12月14日 付託

  17. 深海底における探査活動を行う個人及び団体を保証する国家の責任及び義務(国際海底機構による勧告的意見の要請)(事案番号17)

    2010年5月14日 要請
    2011年2月1日 勧告的意見発出

  18. M/Vルイザ号事件(暫定措置及び本案)(事案番号18)

    2010年11月24日 付託
    2010年12月23日 暫定措置命令
    (本案は継続中)

  19. ヴァージニアG号事件(本案)(事案番号19)

    (パナマ対ギニアビサウ)
    2011年7月4日 付託

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