軍縮・不拡散

国際原子力機関(IAEA)の概要

平成24年9月

1.沿革

(1)ウラン、プルトニウム等の核物質は、原子力発電のような平和的目的のためにも、また、核兵器製造等の軍事利用のためにも使用され得る。このため、原子力の平和的利用の開発は、常に核兵器の拡散を如何に防止するかという問題を伴う。

(2)第2次世界大戦終結後、原子力の商業的利用に対する関心の増大とともに、核兵器の拡散に対する懸念が強まり、原子力は国際的に管理すべきであるとの考えが広まった。

(3)1953年の国連総会におけるアイゼンハワー米国大統領による演説(「Atoms for Peace」演説として知られる。)を直接の契機として、国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)創設の気運が高まり、1954年に、国連においてIAEA憲章草案のための協議が開始された。

(4)1956年、IAEA憲章採択会議においてIAEA憲章草案が採択され、1957年7月29日、IAEA憲章は所要の批准数を得て発効し、IAEAが発足した。

(5)2012年4月現在、加盟国は154ヶ国である。

2.目的と権限

(1)IAEAは、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的とする。

(2)IAEAは、次のような権限を有する。

(イ)全世界における平和的利用のための原子力の研究、開発及び実用化を奨励し、援助する。加盟国間の役務、物質、施設等の供給の仲介や、活動又は役務を行う。

(ロ)平和的目的のための原子力の研究、開発及び実用化の必要を満たすため、開発途上地域における必要を考慮しつつ、物資、役務、施設等を提供する。

(ハ)原子力の平和的利用に関する科学上及び技術上の情報の交換を促進する。

(ニ)原子力の平和的利用の分野における科学者及び専門家の交換及び訓練を奨励する。

(ホ)原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止するための保障措置を設定し、実施する。

(ヘ)国連機関等と協議、協力の上、健康を保護し、人命及び財産に対する危険を最小にするための安全上の基準を設定し又は採用する。

3.組織

(1)総会(General Conference

(イ)総会は、全加盟国の代表で構成され、通常会期は毎年1回9月に本部(ウィーン)にて開催される。理事会の要請又は加盟国の過半数の要請があれば、事務局長は特別会期を招集することが出来る。

(ロ)総会の任務は、総会選出理事国の選出、加盟の承認、加盟国の特権免除の停止、予算の承認、国連に対する報告の承認、財政に関する規則の承認、事務局長任命の承認等である。決定は、出席し投票する加盟国の3分の2の多数を必要とする予算等の重要事項を除き、出席し投票する加盟国の過半数によって行われる。

(2)理事会(Board of Governors

(イ)理事会は、総会に対し責任を負うことを条件として、IAEAの任務を遂行する権限を有しており、IAEAにおける実質的な意思決定機関となっている。理事会の決定は、出席し投票する理事国の3分の2の多数を必要とする予算等の重要事項を除き、出席し投票する理事国の過半数によって行われることになっているが、多くの場合、コンセンサス又は無投票によることが慣行となっている。

(ロ)理事会は、原子力に関する技術(原料物質の生産を含む)の最も進歩した加盟国として毎年6月の理事会によって指定される13ヶ国(我が国を含むG8等の原子力先進国)及び総会で選出する22ヶ国の計35の理事国から構成される。

(ハ)理事会は、理事会が別段の決定を行わない限り本部(ウィーン)において、通例、3月、6月、9月(総会の前及び後の2回)及び11月に開催される。議長の任期は一年。2005年10月から2006年9月まで天野之弥在ウィーン国際機関日本政府代表部大使(当時)が理事会議長を務めた。

(ニ)理事会が設置している主な下部委員会は以下のとおり。

(a)計画予算委員会:通常5月に翌年度予算案等の行財政問題を審議する。

(b)技術協力委員会:通常11月に翌年の技術協力計画等を審議する。

(3)事務局(Secretariat

 IAEAの職員の長は事務局長(任期4年)であり、現在は天野之弥氏が務めている。同事務局長は、2009年7月にIAEA理事会で選出・任命された後、同年9月のIAEA総会での承認を経て、同年12月に就任した。事務局長の下に1名の事務局長補及び6名の事務次長がおり、事務次長はそれぞれ管理運営、原子力エネルギー、保障措置、技術協力、原子力科学・応用及び原子力安全・セキュリティの6局の長として事務局長を補佐している。また、機関の円滑な運営を図るため、事務局長が指名する官房長及び数名の特別補佐官がいる。職員数は約2,300名。

4.財政

(1)IAEAの会計年度は、1月1日~12月31日。

(2)IAEAの予算は、通常予算、技術協力基金及び特別拠出金によるものに大別される。

(イ)通常予算は、2011年で約3億3千万ユーロとなっており、主に人件費、会議費、情報配布費、保障措置実施費等として用いられる。主な財源は、加盟国の義務的経費である分担金である。各加盟国の分担金は、国連の通常予算に対する国連加盟国の分担率に準じて策定される基本分担率に基づき、保障措置予算に対する負担額の調整を行った上で毎年の総会決議により定められる。

(ロ)技術協力基金(Technical Assistance and Cooperation Fund)は、IAEAの技術協力活動のために用いられる義務的経費であり、上記(イ)の基本分担率に基づき、各加盟国の拠出目標額が毎年の総会決議により定められる。2011年の予算額は、8600万ドル。

(ハ)特別拠出金(voluntary contribution in support of extrabudgetary activities)は、「原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定」(RCA)等、技術協力、原子力安全、原子力広報等、個別プロジェクトのために加盟国等が任意に拠出する。

5.事業内容

 IAEAの事業は、原子力の平和的利用に関する分野と、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止するための保障措置の分野に大別される。2005年10月、両分野におけるIAEAの貢献が認められ、IAEA及び同エルバラダイ事務局長(当時)はノーベル平和賞を受賞した。

(1)原子力の平和的利用

 原子力の平和的利用に関するIAEAの事業は、原子力発電、非原子力発電(環境、保健、水資源、鉱工業、食品、農業等における放射線の利用)及びこれらの利用の安全・セキュリティに係る分野に大別される。また、これらの全ての分野において開発途上国に対する技術協力活動が実施されている。

(イ)原子力発電分野

 原子力発電の分野では、技術的な観点からの情報交換、コスト及び環境への影響等に関する水力・火力等他の電力生産技術と原子力の比較検討を通じて、各国がエネルギー政策の企画、決定、評価を行うための技術的な観点からの支援、原子力発電の新規導入を決定した加盟国に対する支援、拡散抵抗性の高い次世代原子力炉に関する研究、開発等を行っている。

(ロ)非原子力発電分野

 非原子力発電分野では、保健、水資源、鉱工業、食品、農業、環境等の分野における放射線の応用・利用の促進、海洋環境調査、放射性核種の分野等を中心にした活動が行われている。この分野では、先進国と途上国間の研究者の相互交流を促進するため、加盟国からの協力を得て調整研究プログラム(Coordination Research Programme)が推進されており、情報交換、人材育成、技術協力プログラムへの応用に役立っている。2006年よりガン治療アクション・プログラム(PACT)の積極的広報を開始し、主要国に対し協力要請(技術的・資金的)を行ってきており、優先的な課題として取り組んでいる。

(ハ)原子力安全分野

 安全対策の分野では、原子炉施設に関する安全基準をはじめとする各種の国際的な安全基準・指針の作成及び普及に貢献している。特にチェルノブイリ事故以降、原子力発電の安全確保の重要性は国境を越えた問題として再認識され、旧ソ連・東欧の発電所の安全性向上、アジア地域の原子力安全性向上をはじめとして原子力安全分野でのIAEAの一層の活動が期待されている。また、IAEA 事務局長は1996年に発効した「原子力の安全に関する条約」や2001年に発効した「使用済燃料管理の安全及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約」の寄託者となっており、IAEAがこれら条約の締約国会合の事務局を務めている。また、東電福島原発事故を受け、2011年6月に原子力安全に関するIAEA閣僚会議が開催され、同年9月のIAEA総会において、原子力安全に関するIAEA行動計画が確定する等、同事故以降、IAEAは、国際的な原子力安全の強化において一層主導的な役割を果たしてきている。

(ニ)核セキュリティ分野

(a)IAEAでは、核セキュリティ活動の一環として、現在、「核セキュリティ・シリーズ文書」の作成を進めている。2011年1月に、改訂第5版となる「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告(別称INFCIRC/225/Rev.5)」「放射性物質及び関連施設に関する核セキュリティ勧告」(米国同時多発テロ事件以降、放射線源が「汚い爆弾」に使用され得るとの国際的な懸念を踏まえて作成されたもの)及び「規制上の管理を外れた核物質その他の放射性物質に関する核セキュリティ勧告」(旧ソ連邦の消滅時の混乱に伴い流出した核物質のテロ以降、核物質の不法な移転が世界的な懸念事項となっていることを踏まえて作成されたもの)の3つの勧告文書を発行するとともに、その下位文書となる実施指針及び技術指針等の作成を進めている。

(b)2001年米国同時多発テロを受け、2002年3月のIAEA理事会において、核テロ対策を支援するためにIAEAにおいて実施すべき事業として、核物質及び原子力施設の防護等8つの活動分野から構成される第1次活動計画(2002年~2005年)が承認されるとともに、この計画の実施のために「核セキュリティ基金」(Nuclear Security Fund)が設立された。その後、活動分野の再整理( 1)ニーズ評価、分析・調整、2)予防、3)検知と対応)が行われ、第2次活動計画(2006年~2009年)が2005年9月の理事会で、さらに第3次活動計画(2010年~2013年)が2009年9月の理事会で承認された。

(c)近年の核テロ対策に対する国際社会の関心の高まりを受け、2005年4月、IAEAの活動と密接に関係する「核によるテロリズムの防止に関する条約」が国連で採択され、2007年7月に同条約は発効した。また、2005年7月、既存の「核物質の防護に関する条約」を強化するための改正がIAEAの場で採択されている。

(ホ)技術協力

(a)IAEAの技術協力の主要な活動は、加盟国が分担金に準じて拠出する技術協力基金で賄われている。その使途は、技術協力を必要とする各加盟国とIAEA事務局との調整を経てプログラムとして作成され、理事会(通常11月)が承認する。プログラムの太宗は上記(ロ)の分野のプロジェクトが占めている。技術協力分野では、増加する途上国からの要請に応えるため、モデルプロジェクト(Model Project:プロジェクトの実施により社会的、経済的に影響を与えると考えられる重点プロジェクト)を中心に、研修生の受け入れ、トレーニングコースの開催、専門家の派遣等の事業を年々拡大している。

(b)また、2010年に米国が提案した平和利用イニシアティブ(PUI)により、2011年から原子力の平和的利用分野(原子力発電、環境、水資源、農業、健康等)における途上国支援のためのIAEA事業が実施されている。

(2)保障措置の実施

(イ)包括的保障措置協定

(a)IAEA憲章では、IAEAを通じて核物質等が提供された場合には、これらの核物質等がいずれかの軍事目的を助長するような方法で利用されないことを確保するために保障措置を設定し、かつ実施すること、また二国間若しくは多国間の原子力協定の当事国が要請した場合及び何れかの国が自発的に要請した場合に保障措置を適用することが定められており、これに基づいてIAEAと関係国との間に保障措置協定が締結されている。

(b)また、1970年3月に発効した核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)が、締約国である非核兵器国に対し、IAEAとの間で、平和的原子力活動に係るすべての核物質を対象とする包括的保障措置協定を締結するよう義務付けたことで、IAEAの保障措置システムは更に強化された。NPT締約国は現在我が国を含めて190ケ国であり、包括的保障措置協定締結国は2012年6月現在、我が国を含めて171ケ国である(我が国については1977年12月に包括的保障措置協定が発効)。

(ロ)追加議定書

(a)イラクがIAEAとの包括的保障措置協定に違反し、未申告で核分裂性物質の製造を実施していたことが判明し、更に、北朝鮮による包括的保障措置協定違反が認定されたことを契機に、1993年、IAEAは、保障措置制度を強化及び効率化するための諸方策に関する検討を2年間で実施する「93+2計画」に着手した。1997年5月、現行の包括的保障措置協定の範囲内で実施することが不可能な諸方策を実施するため、IAEAに新たな権限を付与するためのモデル議定書がIAEA理事会で採択された。

(b)この議定書は「追加議定書」と呼ばれ、2012年6月現在、138カ国が署名を行い、このうち我が国を含む116カ国において発効している(我が国については1999年12月に追加議定書が発効)。

(ハ)統合保障措置

(a)その一方で、このように追加議定書の発効に伴う新たな保障措置業務の追加や年々増加する世界の原子力施設への保障措置財源を如何に確保するかが重要な課題となり、これらの保障措置を合理化・効率化するための統合保障措置(Integrated Safeguards)のあり方につき、活発な議論が行われるようになった。その結果、2002年3月、理事会において統合保障措置の適用方法に関する基本概念が採択された。

(b)ある加盟国が統合保障措置の適用を受けるためには、IAEAが毎年6月理事会に提出する保障措置実施報告書において、IAEAがその加盟国で保障措置下におかれた核物質の転用を示す兆候も未申告の核物質および原子力活動を示す兆候もないとの「拡大結論」を導出する必要がある。我が国については、2004年6月のIAEA理事会において右「拡大結論」が出され、2004年9月より統合保障措置の適用が始まった(大規模な原子力活動を行う国に対する統合保障措置の適用は我が国が初のケース)。

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