わ が 外 交 の 近 況
上 巻
1977年版(第21号)
外 務 省
昭和52年版「わが外交の近況」の刊行にあたつて
1970年代の国際情勢の最大の特徴は,政治面においても,また,経済面においても,重要な問題の多くが,世界全体の平和と安定に直接的及び間接的に影響を及ぼすに至つており,その解決もまた広い国際的協調なくしては期待しえなくなつているという,いわゆる相互依存性の一層の深まりであります。
すなわち,政治面におきましては,75年にインドシナ半島における戦火が終息したのに続き,76年にはアンゴラ,レバノン等においても内戦に一応の終止符がうたれました。引続き困難な問題をかかえ,あるいは対立要因を内包する諸地域においても,紛争の発生及び拡大を防ごうとする真剣な国際的努力が続けられております。経済面におきましては,73年末の石油危機以来,厳しい試練にさらされている国際経済を回復と安定成長の軌道に乗せるべく,国際的努力が続いてまいりました。3度にわたる主要国首脳会議は,これらの試練に対して先進民主主義諸国が協調して取り組む決意を示した点で重要な意義を有するものであります。また,南北問題に関しましても,76年中に国際経済協力会議等の場において双方の立場を理解し,問題の解決を求める真剣な努力が続けられ,本年に入つて,閣僚会議の開催に至つたことは,南北双方のこの問題に対する真剣な姿勢を象徴するものでありました。
確かに,今日の国際関係においては,なお種々の不安定要因が根強く存在しております。また,これと同時に,景気問題,通商問題,資源・エネルギー問題,南北問題,海洋問題等国際的な対応を迫られている課題が山積していることも認めなければなりません。これら諸問題の解決に当たつては,相互依存を深めるこの国際環境の下においては,各国が自国の利益のみを追求するということではなく,幅広い視野に立つて忍耐強く国際的協調の努力を着実に進めていくことが何よりも要求されているのであります。
このような状況の下で,自由主義世界第2の経済大国であるわが国に対する国際社会の期待はかつてないほどに大きなものがあります。また,平和国家としての道を歩むわが国としても,国際社会全体の平和と発展に尽すことが,自らの平和と安全を確保する所以にほかなりません。以上の認識に立つて,わが国は国際関係の安定化と世界経済の健全な発展のため,わが国にふさわしい国際的役割を果すべく,一層の努力を払つていく必要がありましょう。また,このような外交努力において所期の成果を達成するうえでは,外交政策の基本について広く国内の御理解と御支持を頂くことが不可欠の要請であることはいうまでもありません。
本書におきましては,以上の諸点を念頭におきつつ昭和51年を中心に世界情勢を概観し,併せてその期間中わが国が行つた外交活動の概要について取りまとめました。
国民各位のわが国外交に対する御理解を深める一助となれば幸いてあります。
昭和52年9月
外務大臣 鳩 山 威 一 郎
上 巻 目 次
第1部 総説
序説
第3章 わが国の行つた外交努力
第2部 各説
第1章 各国の情勢及びわが国とこれら諸国との関係
第2章 国際経済関係
第3章 経済協力の現況
第4章 国連における活動とその他の国際協力
第5章 情報文化活動
第6章 邦人の渡航・移住及びその保護
第7章 その他の活動
本 書 の 構 成 と 内 容
本書は,主として1976年1月から12月に至る期間における世界の情勢とわが国が行つた外交活動の概要を取りまとめたものである。但し,重要な出来事については,本年3月頃までの動きも織り込んである。上巻は,第1部総説,第2部各説及び年表からなり,下巻は,資料編として資料及び統計類を収録している。
第1部総説では,第1章において1976年を中心に世界の情勢を概観し,第2章ではこのような環境の中でのわが外交の基本的課題について述べ,さらに第3章ではわが国が行つた主要な外交努力を説明している。
第2部各説では,まず世界の諸地域ないし諸国の情勢及びわが国とこれらの諸地域・諸国との関係について述べ,次にわが国の関係する重要な国際的問題について事項別に具体的に説明している。