第6章 邦人の渡航・移住及びその保護

 

第1節 概  要

 

 74年及び75年において緩慢な増加傾向を示していた邦人の海外渡航者数は,76年に至り急激に上昇し,対前年比16%増,約285万人というこれまでにない高い数字を記録した。それに対応して同年の旅券発行数も対前年比約18%の増加となつた。

 他方76年における外国人に対する入国査証の発給数は,前年より11.6%増加し,50万件弱となつた。なお,査証を相互に免除する取極については,76年に新しく締結されたものはなく,77年1月現在締結相手国は43ヵ国である。

 多くの邦人が世界各地を旅行して見聞を広めることは有益なことであるが,他方において環境の変化や言葉の問題から,ノイローゼや精神異常をきたす者も多く,また邦人の不法就労,麻薬犯罪,関税法違反などの事件もあとを絶たない。

 他方,海外在留邦人についてみると,外務省が在外公館を通じて76年10月1日現在で調査した結果による在外邦人数は,長期滞在者(3ヵ月以上外国に滞在する者で,永住者でない者)約15万人,永住者約25万9,000人,日系人約130万人に及んでいる。これら在留邦人数の増加とともに,出生,死亡,婚姻届の受理等戸籍・国籍関係事務及び在留,出生,死亡,署名等の諸証明関係事務といつたいわば伝統的な領事事務が漸増していることはもとよりである。そのほか邦人が各国に在留し,また旅行しているため,戦乱,地震等にまき込まれる場合も多く,76年中には,レバノンの内戦,エジプト航空機の墜落,中国,グァテマラ,北イタリア,フィリピン・ミンダナオ地震等があり,関係公館は全力をあげて援護活動に当つた。

 更に外務省は,これらの従来からの邦人保護業務に加え,積極的に在外邦人の生活基盤の整備に資するべく,海外における邦人子女の教育に関する援助を年々拡充しており,76年度には日本人学校4校の新設にかかる所要経費の計上を行つたほか,日本人学校及び補習授業校に派遣する教員の定数を88名増員して合計448名とするとともに,日本人学校の校舎借料及び補習授業等の講師の謝金等に対する補助についてもその充実を図つている。また外務省は,生活環境の厳しい地域に巡回医師団を派遣し,在外邦人の健康相談に当つている。

 他方,わが国から海外へ移住する者の数は最近では年平均5,000人位に落ち着いている。このうち政府から渡航費の支給を受けて南米に移住する者の数は76年度は414人であつた。米国へは呼び寄せ移住者が大半で76年に約2,700人,カナダへは技術者など約350名が移住した。カナダでは76年11月新移民法案が議会に提出され審議中である。

 このような移住者の送り出し事業とともに重要なのは,既移住者に対する援護活動である。52年以降76年3月末までの中南米を主とする政府による渡航費支給移住者の総数は約6万5,000人弱であり,外務省はこれら移住者を主たる対象に,援護のため,(1)国際協力事業団による医療衛生,教育対策,及び営農指導や営農の機械化,更に融資や移住地の分譲などを通じて移住者の生活及び生産基盤の確立に努め,(2)国庫補助県費留学生制度,国際協力事業団による技術研修生受入れ,あるいは日本海外移住家族会連合会の研修生受入れなどを通じて,移住者子弟の本邦での教育及び研修に努力している。

 なお困窮者援護にも努力している。

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