総理大臣

アジアにおける平和と繁栄のため戦略的パートナーシップを包括的に推進するための日越共同声明(仮訳)

平成22年10月31日

1 はじめに

 菅直人日本国内閣総理大臣は,グエン・タン・ズン・ベトナム社会主義共和国首相の招待を受け,ハノイで開催されたASEAN関連首脳会議に続いて,2010年10月30日から31日までの間,ベトナムを公式訪問した。訪問中,菅直人内閣総理大臣はグエン・タン・ズン首相と日越首脳会談を実施した他,ノン・ドゥック・マイン・ベトナム共産党書記長及びグエン・ミン・チエット国家主席を表敬訪問した。

 10月31日に行われた日越首脳会談においては,両首脳は,近年両国関係が著しく深化したことを歓迎するとともに,アジアの平和と繁栄のために日本とベトナムの間の戦略的パートナーシップを強力かつ更に包括的に一層発展させていくとの強い決意を共有した。

2 交流と対話の強化

 両首脳は,毎年実施している首脳レベルの交流を継続するとともにすべてのレベル及び分野での対話を強化することの重要性を確認した。また両首脳は,ベトナムの新指導層が2011年の早期かつ双方にとって都合の良い日程で訪日することへの期待を表明した。

 両首脳は,両国の関係省庁の閣僚及び関係者の出席の下,二国間協力全般を一層強化することを目的とした第4回日越協力委員会を2011年に開催することを決定した。

 両首脳は,政治,外交,防衛及び安全保障問題について包括的に議論する第1回日越戦略的パートナーシップ対話を本年12月に開催することを決定した。両首脳は,このような両国間の対話が,地域の平和,安定と繁栄に積極的に寄与するとの認識を共有した。

3 ベトナムに対する日本の経済協力

 ベトナム側は,日本がベトナムに対する最大の政府開発援助(ODA)供与国としてベトナムの経済・社会の発展に貢献してきたことを,ベトナム政府とその国民は常に忘れず心から感謝する旨確認するとともに,2009年度の日本のベトナムに対するODA供与額が1,550億円に達し過去最高となったことを歓迎した。

 グエン・タン・ズン首相は,南北高速道路,ホアラックハイテクパーク,南北高速鉄道のうちホーチミン-ニャチャン間及びハノイ-ビン間の二区間のフィージィビリティ・スタディ等,ベトナムの優先インフラ案件に対する日本の支援が進展していることに謝意を表明した。さらに,ベトナム側は,ダナン-クアンガイ間の高速道路及びハノイ-ノイバイ間の鉄道路線の高規格化の重要性について説明し,これらのプロジェクトに対する日本側の関心を喚起した。菅直人内閣総理大臣は,ベトナム側の発言に留意しつつ,日本の優れた技術や知見を活用しつつ,経済成長促進,生活水準の向上,社会的セーフティネットの改善,制度整備やキャパシティ・ビルディング等の優先分野に対する支援を実施することを通じて,ベトナムの経済開発を強く支援することを再確認した。日本側は,ベトナムの経済改革及び日本のODAに関連する汚職対策を推進させる決意を歓迎した。菅直人内閣総理大臣は,複数の日本企業とベトナム企業との合弁企業がバース設備の管理及び整備を実施する予定のラックフェン港建設計画を含む5案件に対し,総額約790億円の円借款を供与する意向を示した。

 グエン・タン・ズン首相は,これらの支援に感謝するとともに,日本側が,ロンタイン国際空港計画,ニンビン-バイボット間及びニャチャン-ファンティエット間の高速道路計画,ハノイ市及びホーチミン市の新たな地下鉄計画に対する支援につき,真剣かつ速やかな検討を決定したことを歓迎した。菅直人内閣総理大臣は,ベトナムの経済発展と国民生活の向上のため同国に対するODAを引き続き拡充していくとの方針を表明した。

 また,菅直人内閣総理大臣は,日本はベトナムにおける人材育成,裾野産業の発展に係る具体的な協力の実施等のソフト・インフラ整備における協力を継続することを再確認した。

4 貿易・投資

 両首脳は,「経済上の連携に関する日本国とベトナム社会主義共和国との間の協定」及び「投資の自由化,促進及び保護に関する日本国とベトナム社会主義共和国との間の協定」が,二国間の経済関係を新たな段階に発展させるとともに,両協定が物品,サービス及び投資の一層の自由化を促進することにより,両国間の互恵的な経済面の協力を強化することを再確認した。両首脳は,両国間の経済関係の強化は,両国の経済界の機会と利益を拡大し,両国の更なる経済発展と,両国民の福祉の増進に貢献するという認識を共有した。また,そのような観点から,両首脳は,両協定が世界貿易機関(WTO)の多角的貿易体制の目的達成に積極的に貢献することを確認した。両首脳は,日越経済連携協定に基づき,自然人の移動に関する交渉を加速する必要性を確認した。

 日本政府が可能な限り早期にベトナムの市場経済地位を認定することについてのグエン・タン・ズン首相の強い希望に応えて, 両首脳は,本件に係る検討プロセスの加速化にコミットするとともに,2010年12月にベトナムの市場経済地位・経済構造に関する協議フォーラムを開催することを決定した。

 両首脳は,日越共同イニシアティブが,ベトナムの競争力を強化するため及びベトナムにおける日本の投資を拡大する上で,効果的な役割を果たしているという認識を共有した。両首脳は,日本企業のためのベトナムの投資環境を一層改善させる必要性を再確認するとともに,日越共同イニシアティブ第4フェーズを実施するという関係者の意思を歓迎した。

5 エネルギー,天然資源及び気候変動

 両首脳は,エネルギー安全保障及び地球環境保全の観点から,原子力の平和的利用の分野における協力の重要性を確認した。両首脳は,核不拡散・保障措置,原子力安全や核セキュリティを,両国が締結している関連国際条約に従って確保する必要性を認識しつつ,原子力の平和的利用のための必要なインフラ整備を含む原子力分野の二国間協力を強化し,この分野での協力関係を新たな次元に高めることとした。両首脳は,日越間の原子力協定に関する交渉が実質的に妥結したことを歓迎し,同協定の可能な限り早期の署名への期待を表明した。

 ベトナム側は,原子力の平和利用分野におけるベトナムに対する日本の継続的な支援を高く評価した。ベトナム側は,日本からの提案を検討した結果,ベトナム政府がニントゥアン省の原子力発電所第2サイトにおける2基の建設の協力パートナーに日本を選ぶことを決定した旨確認した。菅直人内閣総理大臣は,このベトナム政府の決定を歓迎し,この計画のフィージィビリティ・スタディの実施,同プロジェクトへの低金利の優遇的な貸付け,高い安全基準の下での最先端技術の利用,技術移転と人材育成,プロジェクトの全期間にわたる廃棄物処理における協力及び安定的な燃料供給等ベトナムが示した条件を充たすことを保証した。両首脳は,本プロジェクトの関連文書への早期署名に向け,両国の関連諸組織が協力して作業を続けるよう指示することで合意した。

 ベトナム側は,鉱物資源,石炭,石油,天然ガス,石油備蓄,電力,省エネルギー,クリーン・エネルギー及び情報通信技術(ICT)分野における日本の協力を高く評価した。両首脳は,ベトナムにおけるレアアース資源産業の発展のため,日越共同での探査,人材育成,環境と両立する持続可能な資源開発のための技術協力及び共同研究開発を政府間ベースで促進することを確認した。グエン・タン・ズン首相は,ベトナムが同国におけるレアアースの探査,探鉱,開発及び分離・精製につき,日本をパートナーとすることを決定した旨表明した。菅直人内閣総理大臣は,この決定を歓迎し,両国によるレアアース開発が日本側の資金的・技術的支援等を通じて円滑に進展することを期待した。

 両首脳は,森林分野の協力,海面上昇に対応するためのインフラ整備等,これまで気候変動分野において進められてきている二国間の協力を再確認した。また,両首脳は,この分野における協力を更に促進させるとの意思決定を確認した。両首脳は,省エネルギー,クリーン・エネルギー開発及び環境保全に関する先端技術が,環境と経済を両立させ,持続可能な成長を実現しながら気候変動問題に取り組む上で,極めて重要であることを確認した。両首脳は,二国間オフセット・クレジット制度の構築の可能性を含め,こうした目標の実現に向け,両国の関係機関に意見交換を行うことを指示することで一致した。

 両首脳は,気候変動問題を解決する喫緊の必要性を認識するとともに,すべての主要国が参加する公平かつ実効性のある国際的枠組みを構築するため,両国が国際交渉において協力することを確認した。

6 科学技術協力

 両首脳は,2009年6月19日,ハノイで開催された日本ベトナム科学技術合同委員会における達成された成果を想起し,歓迎した。ベトナム側は,二国間宇宙協力の促進に向けた日本の努力を歓迎した。

 グエン・タン・ズン首相は,長期的な日越間の協力に特別な意義がある重要な協力となると考えながら,ベトナムにおける高度の大学の設立について日本が検討する作業をするよう提案した。菅直人内閣総理大臣は,ベトナムによるこの提案を検討する旨述べた。

7 両国国民間の相互理解,文化交流

 両首脳は,人と人との交流,特に青少年交流を推進することの重要性を再確認し,文化交流活動が両国国民の相互理解を深めるものであると確信した。菅直人内閣総理大臣は,「21世紀東アジア青少年大交流計画(JENESYS)」や我が国のODAスキームによる事業を含む様々な招聘事業の下,ベトナム人学生の受け入れやベトナムからの青少年招聘を継続することを確認した。

 両首脳は,タンロン遺跡保存に関する日越協力合同専門委員会の枠組み,及び,ユネスコ日本信託基金の活用による協力の進展を高く評価した。両首脳は,タンロンーハノイ遷都1000年記念,及び平城京建都1300年記念を機に,両国間で強化された文化協力について歓迎した。グエン・タン・ズン首相は,菅直人内閣総理大臣に対し,ベトナム政府は,日本におけるベトナム観光・文化フェスティバルを毎年開催することを決定した旨伝えた。

8 地域及び国際場裏における協力

 両首脳は,近年,政治,経済等の様々な分野において,日本とメコン地域諸国との関係及び協力が大きく進展し,実際に地域の平和,安定,協力及び開発に貢献していることを,深い謝意とともに留意した。

 両首脳は,10月29日に開催された第2回日本・メコン地域諸国首脳会議の成果を歓迎し,また,「日メコン行動計画63」及びメコン地域諸国によって表明された他のイニシアティブの進捗に留意した。また,グエン・タン・ズン首相は,「緑あふれるメコン(グリーン・メコン)に向けた10年」イニシアティブ及び「日メコン経済産業協力イニシアティブ(MJ-CI)」を高く評価し,それらのイニシアティブが効果的に実施されることを期待した。

 両首脳は,地域及び国際社会の諸問題に係る協力を進めることの重要性について認識を共有した。菅直人内閣総理大臣は,2010年ASEAN議長としてのベトナムの建設的な役割を称賛した。グエン・タン・ズン首相は,2010年APEC議長国としての日本の役割を評価し,本年11月の第18回APEC首脳会議の成功に向けて日本と更に協力していく意思を表明した。

 両首脳は,日ASEAN,ASEAN+3及び東アジア首脳会議(EAS)等の既存の地域枠組みの促進において緊密に協力することの重要性を強調し,相互に関心を有する分野の協力を幅広く推進していく決意を再確認し,東アジア包括的経済連携(CEPEA)の研究や東アジアASEAN経済研究センター(ERIA)による効果的な貢献を含む,東アジアにおける地域統合に向けた取組を支援することを表明した。

 両首脳は,安全保障理事会をより代表性,正統性及び実効性が備わったものにし,21世紀の国際社会の現実により適したものとなるよう,常任理事国及び非常任理事国枠の拡大を含む安全保障理事会の早期改革に向けた協力を進める決意を再確認した。グエン・タン・ズン首相は,日本が国連安全保障理事会常任理事国となることに対するベトナムの支持を再確認した。

 両首脳は,2005年9月の六者会合共同声明及び関連の国連安保理決議に従った朝鮮半島の完全かつ検証可能な非核化に対する支持を再確認した。また,両首脳は,国際社会が有する人道上の懸念を解決することの重要性を強調した。

 両首脳は,菅直人内閣総理大臣の初のベトナム公式訪問の成果につき,満足の意を表明するとともに,今回の公式訪問が日本とベトナム間の友好的かつ多面的な協力関係の新たな段階をひらいたとの認識で一致した。。


ハノイ,2010年10月31日

  • 菅直人
    日本国内閣総理大臣
  • グエン・タン・ズン
    ベトナム社会主義共和国首相
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