
公開セミナー
国連による平和構築が直面する課題:
現場からの教訓と新しい取組
(概要)
平成20年8月
(英語版概要はこちら)
7月25日(金曜日)、東京の国連大学本部ビル(UNハウス)において、国連平和構築支援事務局(PBSO)
、広島平和構築人材育成センター(HPC)
、国連大学(UNU)
、外務省の共催、国連ボランティア計画(UNV)
、NPO法人ピースビルダーズ(PB)
の後援により、公開セミナー「国連による平和構築が直面する課題:現場からの教訓と新しい取組」が開催された。
【本件セミナーの趣旨・成果】
- 冷戦後、世界各地で内戦が多発し、国際社会の大きな課題となっている。その予防や 解決のためには、和平促進、治安確保から人道支援、復興開発まで包括的に取り組む「平和構築」が必要である。7月21~24日、外務省の平和構築人材育成パイロット事業の実施を担う広島平和構築人材育成センター(HPC)は、国連平和構築支援事務局(PBSO)との共催により、平和構築に携わる国連の専門家のネットワークである平和構築コミュニティ・オブ・プラクティス(PBCoP)
の第1回ワークショップを広島で開催した。同ワークショップ自体は非公開だが、その成果を内外に広く共有するために、外務省と国連大学も共催に加わり、今回の公開セミナーを開催した。
- 本件セミナーでは、PBSOやネパール、レバノン、ブルンジ、ギニアビサウ、エチオピアの現地国連関連事務所関係者から、世界各地での国連の取組について報告が行われた。引き続き、大島賢三国際協力機構(JICA)副理事長(前国連大使・前国連平和構築委員会議長)、長谷川祐弘法政大学教授(前国連事務総長特別代表(東ティモール担当))より、今後の主要課題についてコメントがなされた。最後に、秋元外務省総合外交政策局審議官(国連担当大使)が閉会挨拶を行った。本件セミナーには実務者、研究者、学生など約100名が参加し、国連を中心とした平和構築支援活動の最新状況、日本の貢献や今後の課題等について、理解を深めることができた。
【各セッションの概要】
(1)開会挨拶
セミナーの司会を務める篠田英朗HPC事務局長は、PBCoPのワークショップについて、世界各地から集まった実務家による具体的かつ理論・経験に基づいた活発な議論が展開された旨報告した。また、HPCおよび人材育成パイロット事業を紹介した上で、今回のセミナーにも10名の研修生が参加している旨説明した。その上で、本件セミナーが、専門家と一般の人々との対話の場や、国連平和構築委員会(PBC)等の国連機関で平和構築に関わる人々と日本人との対話の場になることを期待すると述べた。
(2)ワークショップの概要報告
二村まどか国連大学学術研究官は、PBCoPのワークショップの結果を総括し、PBCoPが国連の平和構築にとってフォーラムだけでなくネットワークとしても機能していると述べた。また、そのことが、平和構築に携わる国連の実務家らにとって、経験や現場から汲み取られた知識の交換や平和構築のよりよき理解、そして様々な活動に一貫する政策の形成に役立つと報告した。
(3)国連平和構築支援事務局(PBSO)からの報告
- リチャード・ポンツィオPBSO上級政策分析官は、日本政府がPBCにおいてリーダーシップを発揮していることや、HPCのパイロット事業を通じて人材育成に貢献していることを強調した。また、同氏は、ワークショップおよび本件セミナーの成果が、PBCoPにとって鍵となる3つの要素(「ワークショップ行動計画」、「平和構築の実践的指針覚書」、国連事務総長報告書)に多くの示唆を与えることを期待していると述べた。
- ハレー・ホランPBSO・PBCoP調整官は、現在500名を超える経験豊富な実務家が、様々なコミュニケーションの手段を用いてPBCoPに参加していると述べた。その上で、同氏は、PBCoPが、実務家に議論の場を提供するだけでなく、政策と実践の間に存在するギャップの発見や、国連による平和構築の方向性の検討に役立っていることを説明した。
- ネクラ・チリギPBSO上級政策アドバイザーは、ワークショップの具体的成果の一つとして、その参加者が、概念的および実務的観点から「平和構築の実践的指針覚書」の改良に貢献したことが挙げられる旨説明した。同氏はまた、同覚書は国連システムの中で、平和構築に従事する人々にとって、最初の包括的な手引きとなることが期待されていると述べた。
(4)現場からの報告
- ビンセント・カイジュカ国連ブルンジ統合事務所(BINUB)戦略企画官は、ブルンジ政府とPBCが国内外の重要なステークホルダーの参加を得て2007年に作成したブルンジの平和構築戦略枠組みの概要を報告した。同氏は、和平合意・停戦合意の多くが紛争の根本原因に十分に留意しておらず、他方で、紛争後の開発ツール(貧困削減戦略(PRSP)や国連開発支援枠組み(UNDAF))は政治的な分析枠組みに基づいて作成されていないことを指摘した。これに対して、同氏は、平和構築戦略枠組みは、平和構築における課題に政治的側面からアプローチしており、国内における平和構築の取組と進展について国際社会の注目を維持することに貢献していると述べた。最後に、同氏は、平和構築戦略枠組みを作成・実施する際には、協議プロセスの構築やオーナーシップが重要であることを強調し、進捗状況を評価しつつ解決策を発見するための定期的なモニタリングおよびトラッキングのメカニズムの重要性を訴えた。(資料PDF
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- ローラ・ボローニャ事務総長副特別代表特別補佐官(国連ネパール政治ミッション(UNMIN))は、ネパールにおける紛争の背景と平和構築の課題について説明した。選挙の実施や戦闘員の武装解除等に進展がみられる一方で、平和構築に関しては依然として多くの課題が残っていると述べ、その事例として、憲法制定、和平プロセスに対する国際社会からの持続的な支援、軍の統合、国家機関の強化、ローカル・ガバナンス、社会統合、移行期における正義、社会・経済復興、若者の雇用、元兵士の社会再統合、土地問題等を列挙した。その上で、同氏は、平和と発展を不可逆なものとするには、紛争の根本原因に処する国際支援が極めて重要であると強調した。(資料PDF
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- ニック・ハートマン国連開発計画(UNDP)レバノン事務所副代表は、レバノンにおける紛争の歴史的経緯や原因について報告を行った。同氏は、政治権力配分が憲法に明記されたことが、宗派に基づく統治システムを可能とし、1989年にレバノン内戦を終結させたと解説した。また、同氏は、そのような統治システムが国連による平和構築に与える影響について説明を行った。
- ジャネット・マードック国連ギニアビサウ平和構築事務所(UNOGBIS)平和・ガバナンス・アドバイザーは、平和構築における女性の役割の重要性を指摘した。同氏は、ギニアビサウは、後発発展途上国177か国中175番目に位置し(UNDPデータ)、麻薬密売の地域的ハブとなっているが、今般、平和構築委員会の議題にはなった旨指摘した。また、同氏は、平和構築戦略枠組みの準備過程においては女性が重要な役割を果たしたと述べた。(資料PDF
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- ベフェカドゥ・ベルハヌ国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)アフリカ・リエゾン事務所(エチオピア)副代表は、平和構築において地域的多様性を考慮する必要性が益々高まっていることを強調した。その上で、アフリカにおいて持続的な平和を構築するためには、アフリカの状況に即した包括的な方策が必要である旨指摘した。同氏はまた、コンゴ民主共和国、ダルフール、北ウガンダ、中央アフリカ共和国等、アフリカ諸国の紛争の多くは類似した特徴や原因を有する旨指摘した。更に、紛争終結に引き続き選挙で選ばれた新政権は、希少な資源しかないにもかかわらず、平和の配当を国民に行きわたらせつつ国家再建にも取り組まなければならないという困難な選択に直面していると指摘した。加えて、現在進行中のアフリカ連合による紛争予防と平和構築の取組みは、国際社会からの一層の支援を必要としていると述べた。(資料PDF
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(5)コメント
- 大島賢三JICA副理事長は、自らの経験を基に、今後の国連による平和構築で鍵となる点を以下のとおり列挙した。
1)全ての紛争は一回性であるが、そこに類似の根本原因が存在したことも確か。紛争時から復興期への移行過程には深刻な政治・財政的ギャップが存在する。
2)PBCは単なるスタートであり、ゴールではない。この視点こそ、移行期におけるナショナルキャパシティー強化の鍵を握る。
3)治安部門改革(SSR)は実効的な平和構築の主要構成要素。
4)国連以外の主体(とりわけ市民社会)が正式にPBCに参画すべき。
5)平和構築における人間の安全保障の重要性を確保すべき。
- 大島氏は、平和構築の重要な課題として、一つのモデルを全ての事例に当てはめるような解決策を避け、紛争から脱した諸国家に多様な選択肢を提供すること(そのような選択肢には地雷除去や社会復帰の取組を通じた、ベーシックヒューマンニーズへの配慮も含む。)、社会・経済的弱者を対象とした国際社会の関与を確保すること、地方の利益を保証すること、そして、現場の国際要員の安全を確保することを挙げた。
- 長谷川祐弘法政大学教授は、自らの経験を基に、平和構築に対する国連の主要課題を要約し、以下のとおり列挙した。
1)SSRへの積極的な貢献
2)警察機能の構築(統一された指揮・統制)と、国連文民警察官の能力強化
3)紛争後における土地・財産権に関する政策・ノウハウの確立
4)司法制度・機構の構築に関する、国連の統一した指針・ドクトリン
5)平和構築分野における世界銀行をはじめとする国際金融機関の業務統合
6)雇用創出と初期からの国家機能構築の重点化
7)国連ミッションへの現地職員(専門職)の雇用
(6)秋元義孝外務省総合外交政策局審議官による閉会挨拶
秋元義孝審議官は、本件セミナーの参加者に謝辞を述べ、我が国は福田首相提唱の「平和協力国家」として、国際社会の平和と発展に責任ある役割を果たしていくことを強調した。この点で、同氏は、我が国が、国連平和構築基金(PBF)への財政支援だけでなく、PBCにおける議長、国連スーダンミッション(UNMIS)司令部への自衛隊員派遣の決定、平和構築分野の人材育成事業など多くの貢献を行っている旨述べた。また、同氏は、G8の平和構築に対する取組みが謳われた北海道洞爺湖サミット首脳宣言に言及し、それが議長国・日本のイニシアティブを反映したものであると述べた。(資料PDF
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