広報文化外交

平成25年5月17日

 5月14日、「海外における日本語の普及促進に関する有識者懇談会」(第3回会合)が開催された。概要は以下のとおり。

1.概要
 以下4名の基調報告並びに質疑応答が行われた。

(1)岡田 常之委員(住友商事株式会社人事部長)より,住友商事(株)がCSR事業として実施している「ベトナム・ダナン市における日本語教育及び文化交流活動」について報告があった。同社は、2006年にベトナム・ダナン市に日本語学校を設立し、地元の優秀な中学生100名強を集め日本語教育や日本の文化に触れる機会を提供している。当初は、同社を定年前に退職した社員で日本語教師資格をもつ者が教師を務めていたが、現在は国際交流基金から紹介を受けた日本語教師の資格保有日本人1名と現地アシスタント2名が活動及び学校の運営を行っている。本事業例を踏まえ、岡田氏より提言として,(ア)海外に定住する日本人シニアを日本語教育の補助員として活用すること、(イ)現地進出の日系企業による日本語教育支援(例えば大型店舗内のスペースを活用した日本語教室や日本文化紹介イベントの開催等)について提言がなされた。これに対し、会合出席者より,同社の取組を評価しつつ,同事業は将来的に学習者の日本企業等への就職を想定したものであるかとの質問があり、岡田氏より,対象が中学生であるため,まだ就職支援等はいささか時期尚早な面があるが,優秀なベトナム人の中学生であるので、将来的に日越の架け橋になってくれることを期待しているとの回答があった。また,会合出席者より、官民連携を検討するにあたり、CSRとして日本語教育や文化交流を実施している企業のリストを把握、活用することが有用との指摘がなされた。

(2)神吉 宇一氏(一般財団法人海外産業人材育成協会(HIDA)総合研究所・日本語教育センター上席日本語専門職兼担当チーフ・コンサルタント)より,「HIDA研修事業等から見える人材育成ニーズと日本語教育」について報告があった。神吉氏の説明のポイントは次のとおり;グローバル化における企業の競争力強化とそのための新たな生産拠点と市場の開拓が謳われる中,新たな「フロンティア」を求める企業の海外展開や中小企業の海外展開が活発化している。そうした中,企業のニーズはまずは企業の求める技術、能力を有する現地人材の育成であるが、これに加えて、日本的な考え方を理解し,コミュニケーションの円滑化が図れる相互理解のためのブリッジとなり得る人材の育成が求められている。実際マネージャーが日本人駐在員から現地人材に移行している傾向もある。その際に、コミュニケーション言語として英語/現地語/日本語のいずれを選択するか、ないしこれらを包括的に選択するかは、各企業事情によって異なるが、英語プラスαとして日本語教育・学習ニーズは確かにある。HIDAの来日研修実績から言えることは、日本での実地研修に際し98%が日本語教育が必須または望ましいとしている。ただし、来日する技術研修生に求められる日本語のレベルは多くが初級程度。中級以降は業務を通してOJT的に行われていることが多い。従来は周りの日本人と円滑に話すことができれば、日本語能力として事足りていたものが、昨今はメールのやりとりが業務の遂行のために不可欠になってきており、読み書きの日本語能力を習得する必要性もでてきている。

(3)竹内 みどり氏(前在デトロイト日本国総領事館首席領事)より,ミシガン州・オハイオ州の日本語教育を取り巻く現状と日本語学習支援に係る在デトロイト総の取組みについて報告があった。竹内氏は日本語普及の意義として、パブリック・ディプロマシーの視点、すなわち日本語学習者は,継続的に日本に関心を持ち,深い理解と共感を有し,良好な日米関係の担い手となりうることから、こうした人材を各界で増やしていくことの重要性を強調した。次いで、約2万人の在留邦人、自動車産業を中心に約900社の日系企業が約10万人の米国人を雇用するミシガン、オハイオ両州での日本語教育の現状を説明の上、両州における日本語学習者のキャリアパスとして,日本語教師の他、連邦・州・地方レベルの国際・経済関係の公務員,対米投資の拡大や企業経営の米国化等による日系企業による採用増(幹部職員への道は日本語能力試験N3が目安)等について紹介の上、日本語のアドボカシー活動やネットワ-ク形成など、在デトロイト総領事館による日本語学習支援について説明した。(日系企業調査、日本語教育調査は総領事館HPに掲載)

(4)伊藤 実佐子氏(国際交流基金ロサンゼルス日本文化センター所長)より,「米国における日本語教育の現状と官民による支援状況」について報告があった。伊藤氏の説明のポイントは次のとおり;現在,学習者14万5000人,教師3500人,日本語能力検定試験受験者4000人が存在する。加えて,日本企業による雇用創出は活発であるため(全米でドイツに続き第二位,中西部では一位),企業関連で100万人規模の日本語の潜在的市場が存在すると考えられる。AP(Advanced Placement)日本語受験者は増加傾向にあり,また日本語学習者は他言語選択者に比し,成績が優秀であるとの統計もでている。中学・高校生向けのオンライン日本語試験(NJE)受験者は近年で二倍に増加している。こうした日本語学習の盛り上がりを加速させるためには,官・民・学の連携が必要である。これまで民間企業は、コミュニティサービスの観点からの資金支援が主であったが、最近は日本語教育支援にシフトしつつある(主要都市ワシントン、シカゴ、南カリフォルニアでの日系商工会による日本語教育支援の事例を紹介)。中でも財政的基盤が脆弱な学会AATJ(American Association of Teachers of Japanese)への支援が重要。
 これに対し、会合出席者より、AP日本語受験者は質が高く、今後日本として応援していくべき学生であるので、彼らの情報を把握し日本への留学を支援するなどフォローアップを行うことが重要との指摘がなされた。また、米国での中等教育機関での日本語教師の48%がアメリカ生まれの日本語を母語としない者であることに触れ、その養成の重要性を指摘しつつ、中等教育機関の教師は長期にわたり現場を離れることが困難なことから、これら非母語話者の教師の養成のためにはオンライン教材の開発が必要との指摘があった。

 オブザーバー参加の経済産業省よりビジネス日本語能力テスト(BJT)の紹介があった。

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