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フィリピン国別評価

1.テーマ: 国別評価

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2.調査対象国:フィリピン
  現地調査国: フィリピン

3.評価チーム:
(1)評価主任:川中 豪
  (アジア経済研究所 地域研究センター 主任研究員)
(2)アドバイザー:鳥飼 行博
   (東海大学教養学部人間環境学科 教授)
(3)コンサルタント:株式会社 野村総合研究所

=現地調査団メンバー
4.調査実施期間:2010年9月~2011年3月

5.評価方針

(1)目的
  本評価の目的は,1954年以来実施されてきた対フィリピンODA政策全般をレビューし,国別援助計画改定を含む今後の対フィリピンODAの政策立案,及び援助の効果的・効率的な実施に資する教訓・提言を作成することである。

(2)時期・対象
  1986年にコラソン・アキノ政権によってフィリピン政治が民主制に移行したことを踏まえ,本評価では,外部環境を統一して評価するために,現行の政治システムが開始された1986年以降のODA実績を中心に分析した。

(3)方法
 本評価調査では,外務省評価ガイドライン(ODA評価ガイドライン,第5版,2009年2月)及びその後のODA評価有識者会議における議論に基づき,主に「政策の妥当性」,「結果の有効性」,「プロセスの適切性」の観点から総合的な評価を実施した。

6.評価結果

(1)「政策の妥当性」に関する評価
  日本がアジアにおいてのプレゼンスを高める上で,人口も多く親日家であるフィリピンは外交上重要な国家であり,こうした相手国に対してODAを実施し,これまで二国間関係の強化を図ってきたことは,日本の外交政策上も意義が大きいと評価出来る。また,対フィリピン国別援助計画はODA大綱や中期政策と整合的である。金額ベースで見ると,日本のODAは経済インフラの整備を重点的に実施してきており,フィリピンの国家中期計画とも整合性があると認められる。また,他ドナーが重視する分野との相互補完性も高い。一方,気候変動問題への取組は始まったばかりであり,具体的な成果が目に見える段階ではない。

(2)「結果の有効性」に関する評価
  日本の有償資金協力はフィリピンの開発予算の相当部分を占め,同国の開発に寄与している。持続的経済成長に資する分野(財政の持続可能性の改善,経済インフラ整備,裾野産業・中小企業振興,経済関連の法制度整備等)については多くの達成があった。
  また,日本は国連のミレニアム目標(MDGs)の推進や災害援助対策,農業援助を通じた貧困削減等にも多大な貢献を行っており,フィリピン政府や地域住民から評価を得ている。ミンダナオ地域は内戦状態にあり和平の達成は途上にあるものの,日本はODAタスクフォースを立ち上げ,中部ミンダナオへの「草の根・人間の安全保障無償資金協力」を集中的に実施してきた。
  一方,フィリピンの1人当たりGDPは他のアセアン主要国より伸び率が低く,日本企業の投資は加速していない。また,貧困削減の指標も周辺諸国と比べれば改善のペースが遅い。こうした現状に鑑みれば,日本のODAが必ずしも直接的にフィリピンの貧困削減に繋がっていないといえるが,これは海外直接投資の不足,国内政治・経済システムの構造的な問題,或いは急速な人口増加といったフィリピン側の事情に起因するところも大きい。ただし,日本のODAにおいても,案件毎の進捗やフィリピン側のプロジェクトとの連携面で不整合などがあり,潜在的な相乗効果が最大限発露することなく,整備インフラの活用が限定的になっている例もある(例:バタンガス港が整備されてもアクセス道路の整備に時間を要したこと等)。

(3)「プロセスの適切性」に関する評価
 フィリピン政府との政策対話が進む中,日本の援助プロセスは現地でも十分に認識されており,フィリピン国民による援助の評価も高い。また,災害等による緊急な援助案件に対しても迅速に対応ができている。ただし援助プロセスの迅速化が更に求められるようになっており,頻度の高い政策対話や,援助に関する権限委譲・分権化の検討も求められている。また,ODAによる施設が一目で日本のものであると分かるようになっていない例(スービック港等)や,地域の施設が日本のODAによるものであることを地域住民が十分に認知していない例もあり,日本の貢献を適切にフィリピン国民にも認知してもらうための一層の広報活動が求められる。

7.提言

(1)「選択と集中」の徹底とより細目の目標設定
  援助の有効性を高めるため,目的やスキームに応じて対象分野・地域を絞り,事業間の連携を強化すべきである。その際,フィリピン側と十分に政策協議を行い,同国施策との連携を図るために,例えば事業の目標(小目標)と最終ゴール(大目標)の間に中間的な目標(中目標)を設定し,フィリピン政府に対して日本の援助をより分かりやすくパッケージとして提供することが望ましい。

(2)無償資金協力事業の長期的な視点での評価
  無償資金協力案件のうち,事業完成後10年以上を経ても現地から感謝され,今日まで丁重に維持管理されている施設がある。このような施設では,わずかな支援(機材の修理や更新)で,高い援助効果がさらに持続するものと思われるので,例えば事業実施後10-15年を経た段階で,提供された施設や機材が有効に使われているかを検証し,将来に向けた追加的なニーズがある場合には,草の根無償等を通じて補完的な支援を行うことも有効であろう。

(3)草の根無償の機能強化
  草の根無償では,基礎保健,初等教育,障害者支援,少数民族,農村開発といった分野で,大型プロジェクト同士の連携強化や地域レベルへの広報に貢献することが期待される。今後も,大型事業と併せて足下の貧困対策や環境関連事業を継続的に実施することが望ましい(洪水対策施設と地域住民へのキャパシティ・ディベロップメントを併せて実施する等)。

(4)ODAの認知度向上と広報活動
 日本の援助マークを貼るといった従来のODA広報は一定の効果をあげているが,より高い効果をあげるために,今後は個別事業のレベルで広報専門家を投入する等の新たな方法を検討すべきである。概して,受益住民が積極的に参画している案件については,案件完成後かなりの年月が経っても維持管理が良好に行われ,日本への感謝が地元に根付く傾向にある。右を踏まえ,今後は地域住民の一層の関与を促進し,WEB情報を充実させる等の新たな広報活動のあり方も検討していくべきである。

注) ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。


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