1. テーマ:パキスタン国別評価 |
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2. 国名:パキスタン |
3.評価者等
(評価者)
田中 浩一郎 財団法人 国際開発センター主任研究員
木村 友香 財団法人 国際開発センター研究員
奥村 一郎 (株)アイ・シー・ネット マネージャー
(監修者)
川上 照男 あずさ監査法人 公認会計士(ODA政策評価)
黒崎 卓 一橋大学 経済研究所 助教授(経済・開発政策全般)
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4.評価実施期間:2003年8月~2004年3月 |
5.評価の目的
パキスタン国別援助計画の策定及び今後のより効果的・効率的な援助の実施の参考とするための提言を示すこと、また、評価結果を公表することで説明責任を果たすこと。
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6.評価結果
「対パキスタン国別援助方針」(1997年策定)を主な評価対象とし、外務省経済協力局のODA評価ガイドラインに従い、「対パキスタン国別援助方針」を「目的」、「プロセス」、「結果」の3つの視点からレビューした。本評価の対象期間は、原則として「対パキスタン国別援助方針」の策定が進行していた1996年から2003年6月までを対象期間とした。ただし、結果の「有効性」の検証では、1997年度から2002年度を対象とし、1996年以前に実施が決定された案件であっても、対象期間内に実施されたものは本評価調査で取り上げた。なお、本評価の制約としては、援助政策の策定段階において、重点分野の成果指標、すなわち目標値の設定を行っていないため、目標達成度の測定が不可能であった点が挙げられる。また、パキスタンの地下核実験(1998年5月)を受けた経済措置の発動により、2001年10月まで緊急・人道的性格の援助、技術協力及び草の根無償資金協力を除く我が国による新規ODAプロジェクトの実施が停止されたことから、評価対象期間中の援助実施が限られたことに留意する必要があった。
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7.評価結果:
1) |
目的の妥当性
(1) |
上位政策との整合性に関して
国別援助方針が揚げている重点分野及び留意点は、旧ODA大綱の基本理念及びODA中期政策の重点課題と整合している。 |
(2) |
パキスタン国家開発計画との整合性に関して
国別援助方針の4重点分野(社会セクター、経済基盤整備、農業、環境保全)は、策定時のパキスタン側の国家開発計画である第8次5ヶ年計画及び社会行動計画に示された開発ニーズと十分に整合していたことが判明した。一方、2003年5月に発表された暫定版貧困削減戦略文書(I-PRSP)には国別援助方針の4重点分野が全て含まれているが、I-PRSPが重視する中小企業振興に対する支援は国別援助方針では取り上げられていない。また、最近パキスタン側において重視されている水分野の開発を統合的に支援していくアプローチが国別援助方針には欠けている。 |
(3) |
主要ドナーの対パキスタン援助政策との比較
主要ドナー(国際機関を含む)は、我が国と同様に、「教育」及び「保健」の両分野を重点分野として掲げているが、国別援助方針の重点分野である「経済基盤整備」や「農業」を重点分野としているドナーは多くない。一方、国別援助方針が対応していない「ガバナンス強化」、「村落開発」を重点分野に取り上げているドナーが多く見られる。 |
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2) |
策定・実施プロセスの適切性・効率性に関する評価
(1) |
策定プロセスの適切性に関して
国別援助方針の策定時から8年間が経過して資料が保管されていないため、外務省関係各課間の協議を経て策定され、経済協力総合調査団の派遣を通じてパキスタン側と重点分野等について協議が行われた以上に国別援助方針策定に関する詳細を確認することはできなかった。
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(2) |
実施過程の適切性に関して
評価対象期間中に採択・実施された案件の殆どが国別援助方針の重点分野における案件であり、JICAの国別事業実施計画は国別援助方針の重点分野と合致していることから、我が国としては国別援助方針の重点分野を反映して案件の形成・選定を行ってきたことが明らかとなった。また、国別援助方針を適切に実施する上での留意点に十分に配慮してきたことも確認できた。なお、本評価調査において、見直しを含む国別援助方針の検証システムの有無は確認されなかった。 |
(3) |
実施過程の効率性について
パキスタン側実施機関の案件実施能力の向上に関しては、技術協力による人材育成が案件実施能力の向上に繋がる事例が保健分野及び教育分野で確認された。援助スキーム間の連携に関して、保健や教育分野で、資金協力と技術協力の連携が確認された。以上から、パキスタン側実施機関の案件実施能力の向上支援や援助スキーム間の連携を通じて、効率的な援助の実施へ向けた努力が行われてきたと言える。技術協力の活用に関しては、分野に偏りが見られるものの、総じて技術協力を活用する努力が行われてきたと判断できる。ドナー間の連携については、分野別、テーマ別、プロジェクト別に会合が開かれており、我が国も現地ODAタスクフォースが対応しており、具体的な連携案件も確認された。ただし、我が国の中期的な対パキスタン援助政策が明確化されていれば、他ドナーの連携がより推進されるとの見方があった。他方、世銀やADBの日本特別基金については、世銀/ADB側から日本側への協議が行われてこなかったことから、我が国の対パキスタン援助政策との連携を図ることは困難であった。NGOとの連携については可能な範囲で図られてきたと言える。パキスタンでは地方分権化が進められているが、特に地方において援助受入れ体制の整備が十分でないことが判明した。なお、日本側の現地実施体制については、現地ODAタスクフォースを基にした効率的な体制が整備されてきており、総合的には、国別援助方針の実施過程における効率化を図る積極的な努力がなされてきたと判断できる。 |
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3) |
結果の有効性
「教育」、「保健」、「居住環境改善」、「電力」、「運輸」の各重点分野については、プロジェクトベースで我が国援助の一定の成果が認められた。特に、教育では北西辺境州における協力、保健では全国的なポリオ対策における協力、電力では農村電化における協力が大きな成果を上げたと見られる。「農業」については、無償資金協力案件「パンジャーブ州地下水開発計画」が灌漑農業に多大な貢献を果たしたとされるが、その成果は旱魃の影響により、全国レベルでの灌漑農地総面積や農業生産の推移には反映されていない。「環境保全」では、パキスタンの当該分野に係る指標を入手することができなかったことから、我が国支援の成果を定量的に測定することはできなかった。各重点分野とも評価対象期間中の実施案件が限られていること、重点分野毎の成果指標、すなわち目標値が設定されていないため、我が国援助の有効性を総体的に測ることは困難であった。
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8.提言:
<「対パキスタン国別援助計画」の構成・重点分野に関する提言>
(1) |
新ODA大綱の理念に沿った国別援助計画の策定
近く策定される国別援助計画には、上位政策である新ODA大綱、特に基本方針である「開発途上国の自助努力支援」、「公平性の確保」及び「『人間の安全保障』の視点」、重点課題の各項目(貧困削減、持続的成長、地球規模の問題への取り組み、平和の構築)が十分に反映されることが望ましい。 |
(2) |
体系化された国別援助計画の策定
近く策定される国別援助計画においては、我が国援助によって達成を目指す中期的な目標を「主柱」(pillar)として明確にし、この目標達成のために「主柱」を周囲から支える関連性の高い分野を「重点分野」または「重点課題」と位置づけ、さらには分野間にまたがる「横断的テーマ」を設定し、これらを目標体系図として整理した上で、目標の達成状況を測る指標(定性的な指標を含む)を導入することが望ましい。 |
(3) |
重点分野(課題)と横断的テーマの設定
国別援助方針の重点分野は現在もパキスタンの開発ニーズに適合しているが、環境は横断的テーマとして捉える方が適当であろう。パキスタンでは、全国的に水分野全般に対する取り組みが課題となっていることから、「水分野」を独立した重点分野の一つとすることも検討に値する。また、経済成長促進の観点から、中小企業振興を重点分野とすることも一案であるが、我が国のアプローチとパキスタン側の期待に乖離が認められることから、二国間でさらなる調整が必要と考えられる。横断的なテーマについては、環境に加え、ジェンダー及び地方分権化に対応したガバナンスの向上と能力開発を掲げることが適当と考える。 |
(4) |
国別援助計画のモニタリング・評価システムの構築
国別援助計画に基づき効果的かつ効率的な援助を実施するためには、同援助計画のモニタリング・評価システムを構築することが重要であり、近く策定予定の国別援助計画の中に、モニタリング・評価システムの実施が明記されることが望ましい。
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<対パキスタン援助実施上の提言>
(5) |
地方行政のキャパシティー・ビルディング支援
パキスタンで地方分権化が進行する中、我が国の有償・無償資金協力は規模的に2県以上に跨がることが多いため州レベルを中心として、必要に応じて特に行政能力が不十分である県以下のレベルにおいても、案件形成・実施能力の向上を支援することが肝要となっている。なお、能力向上支援を行う上で、パキスタン側が予算措置を講じた案件実施能力の向上を目指すプロジェクト運営ユニット(PMU)の活用も検討に値する。 |
(6) |
世銀及びADBとの連携強化
世銀及びADBに設けられた日本特別基金に関し、今後は我が国からの拠出であることを世銀及びADBを通じてパキスタン関係者に周知させるとともに、我が国の援助政策との整合性を確保する上で、両国際金融機関に対し、日本側(現地ODAタスクフォース)との連携を案件形成の段階から執り行うように求めることが望ましい。
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(7) |
援助手続きの調和化の促進
我が国のODAの仕組みや手続きに関して、現地ODAタスクフォースと外国援助の折衝窓口である経済関係省経済関係局(EAD)との共催によるワークショップの開催等を通じて、パキスタン側での情報共有を図ることが望ましい。こうしたワークショップ開催に際しては、他ドナーの関与も得て、ドナー間における援助手続きの調和化に向けた取り組みを進める機会とすることも一案である。また、地方展開という新たな課題に対応するためにも、日本側における援助手続きの一層の調和化等、現地ODAタスクフォースの体制強化が必要となっている。
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