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太平洋島嶼国国別評価

1. テーマ:太平洋島嶼国国別評価
写真
2. 調査対象国:
 フィジー諸島共和国(フィジー)、ソロモン諸島(ソロモン)
 現地調査国:
 フィジー、ソロモン
3. 評価チーム:
(1)評価主任:野田 真里
 (特定非営利活動法人 名古屋NGOセンター理事・中部大学 准教授)
(2)アドバイザー:関根 久雄
 (筑波大学大学院人文社会科学研究科 教授)
(3) コンサルタント:財団法人 国際開発センター
4. 調査実施期間: 2008年6月~2009年3月

5. 評価方針

(1) 目的

 本評価は、日本の太平洋島嶼国に対する援助政策を全般的に評価・分析し、これまでの支援の成果を確認すると共に、今後の日本の援助の効果的・効率的な実施に資するための教訓や提言を得ることを目的として行われるものであり、とりわけ2009年5月に開催される第5回太平洋・島サミット(PALM5)へのインプットを念頭においている。本評価では地域全般の評価及びケーススタディ国の国別評価の2本立てとした。ケーススタディ国の選定に当たっては、開発ポテンシャル別に太平洋島嶼国を3つのグループ(グループ1:比較的資源が豊富で経済規模が大きく、地域に政治的影響力のある国々、グループ2:当面援助必要・将来諸制度(土地制度、社会制度等)が整備されて人材育成が進んだ場合自立可能性有、グループ3:脆弱性が高く、継続的援助必要国)に分類し、グループ1からはフィジー(国別評価対象国)、グループ2からはソロモン(国別評価対象国)、グループ3からは環礁国(キリバス共和国(キリバス)、マーシャル諸島共和国(マーシャル)、ツバル:既存資料による分析対象国)を選んだ。また、本評価のもう1つの目的として、評価結果を公表することで国民への説明責任を果たすとともに、関係国政府・機関関係者や他ドナーに評価結果をフィードバックすることで、日本の国際協力の理解促進に役立てることを目指している。

(2) 対象・時期

 2003年度以降の太平洋島嶼国地域への援助政策を対象とする。

(3) 方法

 本評価分析においては、まず支援実績を含む政策目標を整理した上で、「政策の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」の各視点から検証し、教訓を抽出するとともに提言を行った。実施手順としては、評価の実施計画策定、国内情報収集、現地調査を経て、収集情報を分析し報告書を作成した。

6. 評価結果

(1) 政策の妥当性

 太平洋島嶼国地域に対する日本の地域援助政策(沖縄イニシアティブ及び沖縄パートナーシップ)と日本の上位政策(ODA大綱、ODA中期政策)、地域開発政策(パシフィック・プラン)、及び国際的優先課題(MDGs、モーリシャス戦略文書等)との整合性は、おおむね高い。他方、同地域では、食料安全保障、環境・気候変動等の課題が顕在化しており、今後の日本の援助の方向性として、これらの課題への対応を検討する必要がある。フィジー、ソロモンにおける援助重点分野は、日本の地域援助政策を基に各国のニーズを反映した形で策定されており、整合性は担保されている。特に、ソロモンにおいて「地方開発」が現場のニーズに即して加えられたことは高く評価できる。その一方で、上述の地域援助政策は、ややもすると「網羅的」であったが、より効果的な援助を行うために太平洋島嶼国地域の優先課題を特定し、焦点を明確にして、援助の効果を高める必要があることも確認された。また、太平洋島嶼国は多様であり、地域共通の課題に加えて、各国固有の課題もかかえているため、相手国やドナーにビジブルな「国別の援助戦略」の必要性が認められた。

(2) 結果の有効性

フィジー
 フィジーは、太平洋島嶼国地域の広域支援の拠点であり、特に、保健分野での予防接種事業強化、教育分野での南太平洋大学の域内遠隔教育ネットワーク構築への支援が、周辺島嶼国への裨益(ひえき)を含めて効果が高い。今後は、こうした取組の効果を更に高めるため、拠点国としてのフィジーの能力強化を支援するとともに、受け手側の周辺国でのフォローアップ能力の強化や支援を手厚くすることが望まれる。また、JOCV/SV派遣、草の根・人間の安全保障無償資金協力(以下、草の根無償という)は、フィジーにおいて「人々の目線に立った、顔の見える」地域密着型の支援スキームとして高い評価を得ている。今後の方向性として、開発ニーズの高い地方への展開、NGO/市民社会との連携等を通じた援助の効果・効率性の更なる向上を図ることが望まれる。

ソロモン
 民族紛争(「エスニック・テンション」)以降の復興フェーズにおける日本の基幹インフラ整備は、現地ニーズを適格に把握した時宜を得た援助であった。地方開発分野においては、「食と職」の確保について効果が上がっている。すなわち、現地NGOのAPSDソロモンによる定置型有機農業普及の取組のグッド・プラクティスが示すとおり、地方の人々の生活基盤となっている自給経済を強化し食料の安全保障を図る一方、市場へのアクセスを改善し現金収入を得る、伝統部門と近代部門の二重戦略(デュアルトラック)による支援を効果的に行ってきている。また、JOCVの活動は、同国において技術移転の主要なスキームとして高い評価を得ていることのみならず、日本とソロモンの友好関係の構築に大きな役割を果たしてきたことが確認された。

(3) プロセスの適切性

フィジー
 対フィジー援助方針の策定プロセスは、政治的な阻害要因があったものの、おおむね関係者間の十分なコミュニケーションのもと策定された。他方、相手国や他ドナーにビジブルな「国別の援助戦略」がないため、日本の援助政策の周知や援助のプログラム化の点で課題も残った。実施体制については、限られたリソースを十分活用するための工夫(広域案件を中心としたプログラム形成等)がなされており高く評価できる。その一方で、広域案件の効果を更に高めるために、フォローアップ体制の強化を図ることを検討する必要がある。また、JOCV/SV派遣、草の根無償案件の地方への戦略的展開を可能にする実施体制を検討することが望まれる。

ソロモン
 対ソロモン援助方針の策定プロセスは、おおむね関係者との十分なコミュニケーションのもと策定されたと結論できる。他方、相手国や他ドナーにビジブルな「国別の援助戦略」がないため、日本の援助政策の周知や援助のプログラム化の点で課題も残った。また、現地ODAタスクフォースの意見具申により「地方開発」が重点分野に加えられたことは、現場のニーズを政策に反映した好事例といえる。さらに、専門家が先方政府援助窓口機関に配置されたことで、日本の援助実施プロセスの周知、他ドナーとの連携が促進された。その一方で、フィジー同様、JOCV/SV派遣、草の根無償案件の地方への戦略的展開を可能にする実施体制を検討することが望まれる。

7. 提言

 本評価の調査結果・教訓をもとに、太平洋島嶼国地域共通の援助への提言、フィジー(グループ1)、ソロモン(グループ2)、環礁国(キリバス、マーシャル、ツバル、グループ3)への援助政策の方向性に対する提言を以下に行う。

太平洋島嶼国地域共通

基本認識:日本と太平洋島嶼国は太平洋の美しい自然と豊かな資源を共有する同じ島国のパートナー
基本方針:経済や環境の脆弱性に焦点を当てた、「人間の安全保障」の実現に向けた支援

(1) 援助の焦点を以下のとおり明確に定めてプログラム化を図る

イ 「食と職」分野:経済の脆弱性への支援

  • 食料安全保障(自給農業振興及び漁業開発)
  • 地域開発(地方における自給経済の安定と現金収入の確保)
  • 基礎教育とスキル教育(現金収入の機会をつかむことができる人材の育成)
  • 保健(これまでの実績を活かしたMDGs サポート、J-PIPS 等の継続)
  • 「食と職」の安定のための市場へのアクセスと地域ネットワークを結ぶインフラ整備

ロ 「環境と防災」分野:環境の脆弱性への支援-「太平洋環境共同体」(仮)を目指した取組

  • 廃棄物対策等、環境への脆弱性軽減(特に環礁国)
  • 水資源確保(島嶼国共通課題)
  • 気候変動に伴う自然災害への対応
  • 防災のためのコミュニティ強化と人づくり
  • 環境・防災のためのインフラ
  • 広域の環境セクター支援のための「日本太平洋環境基金(仮)」の設立

(2)太平洋・島サミット開催の意義を踏まえた、日本の対太平洋島嶼国地域重視姿勢を示すのに見合う割合の援助を実施する

(3)「国別の援助戦略」の策定:民間協力にも配慮した包括的でビジブルな支援戦略を策定し、相手国・他ドナーに明示し、援助の効率化を図る

(4)焦点を明確にしたプログラム化の推進:上記の2つの重点分野に基づき、プロジェクトやスキームの連携によるプログラム化を行い、援助の効率化、効果を高める

(5)ボランティア専門家(仮)の創設とJOCVの戦略的投入:優先分野と地域を選定し、専門性の高いボランティアを中心に集中的に配置するとともに、ボランティアベースでの広域協力を行う

(6)NGO/市民社会との連携強化、及び現地ODAタスクフォースを中心とした迅速で機動的な草の根無償、草の根技術協力の活用を行う

(7)キャパシティ・ディベロップメントを通じて、特に開発政策の基礎となる情報収集・分析能力強化への支援を行う

(8)ビジブルでセクターワイドな広域支援のスケールアップ・プログラム化の促進:マルチ・バイ協力の推進、グッド・プラクティスの広域化、広域の環境セクター支援のための基金の設立

(9)日本の援助政策・案件の更なる認知度の向上のための取組を行う

フィジー(グループ1)

(1)広域協力の拠点としての能力強化(人づくり=教育・保健、防災)と、ニーズの高い課題(「食と職」、観光)への対応

(2)国別の援助戦略策定による日本の援助政策のビジブルな明示-焦点の明確化によるプログラム化、効率化と援助調整の促進

(3)JOCV/SV派遣のプログラムにおける位置付けの明確化-ボランティア専門家(仮)による連携強化とリソースの「選択と集中」

(4)草の根無償の実施体制強化-ニーズの高い地方・離島での現場主導による実施の効率化

ソロモン(グループ2)

(1)「食と職」の確保に資する援助を-伝統的な自給自足の生活をベースとし、近代的な現金収入の手段を得る取組に対する二重戦略の支援

(2)地域開発を通じた紛争要因の除去-都市と地方との格差を是正する取組への支援

(3)NGO/市民社会と連携した「地域開発」と「食料安全保障」-グッド・プラクティスの構築とスケールアップへの支援

(4)JOCVの集中的投入とボランティア専門家(仮)による目に見える成果を目指す

(5)復興・緊急援助から自立的発展につながる焦点を明確にしたインフラ整備支援への展開

キリバス、マーシャル、ツバル(グループ3:環礁国)

(1)環礁国の特徴と支援の方向性:グローバル化による様々な脅威からの保護とエンパワメント

(2)「食と職」における保護とエンパワメント

(3)「環境と防災」における保護とエンパワメント

(4)非ODA部門(レント収入、海外送金、観光等)における支援・配慮

)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。

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