1. テーマ:保健・医療分野支援 | |
2. 現地調査国:セネガル | |
3. 評価チーム: (1)評価主任:橋本 ヒロ子 (十文字学園女子大学社会情報学部教授) (2)アドバイザー:喜多 悦子 (日本赤十字九州国際看護大学学長) (3)コンサルタント: みずほ情報総研株式会社 |
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4. 調査実施期間:2008年7月~2009年3月 | |
5. 評価方針 (1)目的 2008年は、2000年に国連ミレニアム宣言を経て翌年とりまとめられた「国連ミレニアム開発目標(MDGs: The Millennium Development Goals)」の達成期限である2015年までのちょうど中間年にあたる。また同年は、保健・医療分野を含む開発援助に関して国際的にも大きな動向のあった年である。5月に第四回アフリカ開発会議(TICAD IV: The Fourth Tokyo International Conference on African Development IV)、7月にG8北海道洞爺湖サミットが開催された。これにより、保健・医療分野支援において開発パートナー間や被援助国の間でMDGs達成に向けての取組みや課題等について、改めて共通認識の醸成が図られたところである。この機を捉え、日本の保健・医療分野ODAの妥当性・有効性・適切性を全般的に評価することで、国際保健の情勢に鑑みた今後の日本の保健・医療分野ODA政策の取るべき方向性、ならびに日本の優位性を生かした効果的・効率的な援助の継続に資する教訓や提言を得ることを目的とし、本評価を実施した。 (2)対象・時期 政策面の評価は、2005年に発表された「『保健と開発』に関するイニシアティブ(HDI: Health and Development Initiative)」を対象とした。ODA投入実績の評価は、2000年~2007年に投入された保健・医療分野に対するODA(国際機関への指定拠出や国際機関を通じた無償資金協力を含む)ならびに保健・医療分野への支援を補完する分他横断的な取組の評価として貧困削減に対する各種日本基金への拠出金を対象とした。供与されたODA案件の評価としては、2000年以降に開始された保健・医療分野に対する支援案件(技術協力、無償資金協力、有償資金協力)を対象とした。 (3)方法 政策の妥当性、結果の有効性、プロセスの適切性の3つの視点から評価を行った。評価にあたっては、文献調査、国内でのインタビュー調査に加えセネガルにおける現地調査でインタビュー調査及び資料収集を行った。また、2000年以降に日本が保健・医療分野ODA供与している国(約79か国)の在外公館、JICA現地事務所を対象にアンケート調査を実施した。そのうちスキームを問わず2件以上の保健・医療ODA供与案件のある国で、JICA事務所の設置されている国(41か国)の保健省を対象にアンケート調査を実施した。 |
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6. 評価結果 (1)「政策の妥当性」に関する評価 HDIは、その策定時において踏まえるべきであったMDGsという国際的な上位政策と整合的であり、その後に日本がリーダーシップをとって国際的上位政策(「横浜行動計画」「国際保健に関する洞爺湖行動指針」)を策定する際の基礎ともなったことから、政策として妥当であると評価できる。 (2)「結果の有効性」に関する評価 ODA全体予算の削減に伴い、日本の保健・医療分野の二国間援助(ODA)は、投入金額の推移を他ドナーと比較すると、2005~2006年にかけて順位を落としている。そして、2007年時点では、2004年以前の地位の回復にはまだ至っておらず、今後ともMDGsの保健関連指標の改善が遅れているサブサハラ・アフリカ向け支援を中心に金額を増額させる必要があると考えられた。 (3)「プロセスの適切性」に関する評価 HDIには援助関係機関やNGO等の意見が取り入れられた跡があり、透明性のあるプロセスで策定されたといえる。しかし、イニシアティブは上位政策であるため、JICA現地事務所におけるHDIの基本方針や理念に関する理解度は高いとはいえなかった。イニシアティブ策定に際しては、広報の強化ならびに国別援助計画へのタイムリーな反映、日本の保健・医療分野の援助関係者へのイニシアティブの基本理念や具体的取組内容の浸透を一層徹底する必要があるだろう。 |
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7. 提言 (1) ミレニアム開発目標(MDGs)の達成への貢献に向けた取組の強化 保健・医療分野支援で国際的なリーダーシップを発揮してきた日本は、TICAD IVやG8洞爺湖サミットの成果に沿って今後如何に日本が国際保健に貢献するかを国内外に示すため、HDIの後継イニシアティブを策定すると共に保健・医療分野の二国間援助(ODA)金額についてさらに増額を図り、相応の金額を確保する必要がある。イニシアティブ策定に合わせ、MDGs達成の達成期限である2015年に向けて、2010年からの5か年で一定規模の資金を保健・医療分野に投入することを発表するのが効果的である。また引き続きMDGsの進捗の遅れている対アフリカ支援を強化すべきである。 (2) 世界基金との協調と連携 日本が「生みの親」といわれる世界基金は、多くの資金を集めることに成功しており、目標の達成状況も順調である。日本がその組織の設立を主導し、理事国を務め、組織の改善や評価に貢献し続けていることは、評価に値する。一方でこの世界基金の動向を踏まえ、現地において如何に世界基金の活動と協調・連携していくか各国における方針を定めた上で、然るべき対応を早急に行なう必要がある。 (3) 政策の実行性を担保する行動計画と財政的コミットメント HDIで日本が示した保健・医療分野ODA政策における方針等が「横浜行動計画」や「洞爺湖行動指針」といった国際的な政策文書において、大いに反映された。保健・医療分野支援の新たなイニシアティブは、HDIの理念や基本方針を踏まえつつ、その中でも特定分野を重点的に強化する方向性を打ち出し、そのための具体的な行動計画部分を充実させ、財政的なコミットメント表明を含めて実行性を担保する仕組みを描き出すことが重要である。 (4)保健・医療分野ODA政策の策定プロセスの強化 HDIの要所にはNGOやJICA、JBICの意見が取り入れられた跡も見え、幅広く意見を取り入れられるプロセスが踏まれて策定されている点で評価できる。次期イニシアティブの策定にあたっては、保健・医療分野の有識者や市民団体など多様なアクターを交え、ドラフト策定前の段階からより透明性の高いプロセスでイニシアティブを作り上げることを検討すべきである。 (5)保健・医療分野ODA政策に関する広報及びコミュニケーションの強化 日本のODA政策について対外的な広報活動の強化も必要だが、日本の保健・医療分野ODA関係者に対する理念や基本方針の理解促進と、政策と実際の援助活動の結びつきを一層強化することがまず求められる。また、国際会議の場には保健・医療分野ODAの現場をよく知らない外務省等他省庁の幹部が出席することも多いため、ローカルレベルでのコミュニケーションを通じてTICAD IVやG8サミット等の成果について保健省へ伝達・理解の一層の働きかけをすることが望ましい。 (6)被援助国の保健・医療体制の基盤整備に関する支援プロセスの強化 開発途上国の保健・医療体制の基盤整備には、医療機材供与や医療施設改修による施設の整備機能の強化が不可欠である。機材供与の支援効果の継続性を確保するため、被援助国側の支援体制の継続的な確保について自助努力を促すことが肝要である。ケース・スタディの事例においてみられたように、無償資金協力における機材供与の際には、被援助国政府と協議を重ね、先方の支援体制の確保を確実にし、より一層の支援効果の継続性を今後も図っていくべきである。 (7)支援のプログラム化の推進によるプレゼンス向上 ケース・スタディではJICAプログラムの導入をきっかけに、それまでの「日本は要請に対応して色々支援してくれているが結局何をやってくれているかよく分からない」という保健省の認識が大きく変わったことが確認された。ドナーが多い保健・医療分野支援では可能な限り、スキーム連携の下に特定地域や特定分野へ戦略的な支援を行うプログラム化をより一層推進し、日本の保健・医療ODAのプレゼンス向上を図るべきである。 (8)日本の保健・医療分野援助体制の強化 開発途上国の保健システムの強化には、保健・医療分野を所管する中央政府への保健・医療分野開発政策の支援も必要である。保健・医療分野の重点支援国に対しては、官房アドバイザーや保健省関係部局へのアドバイザーの派遣を今後も積極的に行い、被援助国の保健・医療分野開発政策に積極的に関与し、日本の保健・医療分野支援を円滑に進められるような体制作りを進めるべきである。 |
注)ここに記載されている内容は評価実施者の見解であり、政府の立場や見解を反映するものではありません。