広報・資料 報告書・資料

ガーナ教育分野協力評価
(プログラムレベル評価)

1.評価対象テーマ:ガーナ教育分野協力評価
2.国名:ガーナ
3.評価者:
 駒澤 牧子(株)アース アンド ヒューマン コーポレーション主任研究員
 金子 眞知(株)アース アンド ヒューマン コーポレーション研究員
<アドバイザー>
 村松 安子 東京女子大学文理学部教授
 澤村 信英 広島大学教育開発国際協力研究センター助教授
4.評価実施期間:2003年8月~2004年3月
5.評価調査の目的と手順等
 本評価調査は、わが国のガーナ教育分野に対する協力を総合的かつ包括的に評価し、今後の協力をより効果的・効率的に実施していくための教訓・提言を導き出すと同時に、国民に対する説明責任(アカウンタビリティ)を果たすことを目的としている。評価調査は、(1)計画確定、(2)国内調査、(3)現地調査および(4)国内での分析・報告書作成の4段階で行われた。
6.評価調査の手法
 本評価は、プログラムレベルにおける「セクター評価」と位置づけられる。ガーナの教育分野(セクター)におけるわが国のODA事業は、これまでプログラムとして実施されてこなかったが、本評価では当該セクターにおけるわが国の一連の協力が、中期目標1「すべての子どもが質の高い基礎教育を受けられるようになる」と中期目標2「産業に不可欠な人材養成の基盤を拡充する」を目指して実施されたものと捉えた。その上で、「目的」、「プロセス」、「結果」という3つの評価視点から、評価を行った。
 評価対象は、評価対象期間(1998~2003年度上半期)において、ガーナ教育セクターで実施された以下の7案件(参考1件)である。
(1)技術協力プロジェクト「ガーナ小中学校理数科教育改善計画」(2000~2004年度)(技プロ)
(2)研修員受入
(3)アフリカ青年招聘計画
(4)教育省・政策アドバイザー型専門家
(5)青年海外協力隊(JOCV)
(6)開発調査「ガーナ国技術教育計画開発調査」(1999~2001年度)
(7)草の根無償資金協力
 (参考)ノンプロ無償見返り資金
7.評価結果

7-1. 目的
 日本の対ガーナ教育セクター協力の目的は、ODA大綱や中期政策などのODA基本政策、これらの基本政策に基づいて策定されたガーナ国別援助方針(1995~1999年版)およびガーナ国別援助計画、さらに日本政府が新しく策定した教育支援策BEGINともほぼ整合している。他方、ガーナ側の国家開発計画であるVision2020や2003年に策定されたガーナ貧困削減戦略(GPRS)、ガーナの教育セクターにおける開発課題にも対応しており、妥当であると判断される。しかし、ガーナ国別援助計画の策定は2000年であり、2001年以降、ガーナにおいては政権交代、拡大HIPCイニシアティブ申請、GPRS策定、教育SWAP(教育戦略計画:ESP)策定といった政策的変化が生じている。また2004年1月からは、GPRS、中期支出枠組み(MTEF)、ESPおよび一般財政支援方式(MDBS)のすべてがリンクした総合的な体制が始動し、援助コミュニティは大きな転換点にある。

7-2. プロセス
 協力の策定過程は、国際的潮流、日本の戦略、ガーナ側の開発政策に対応しながら、ODAの既存スキームを柔軟に活用し、かつ案件同士が相互に連携と調整を繰り返しながら発展しており、総じて適切であったと判断される。特に1996年DAC新開発戦略でガーナを援助実施重点国に定めたことを受けて、教育省・政策アドバイザー型専門家や援助協調対応の企画調査員を派遣したことは、日本がドナーコミュニティにおいて一定の存在感を確保し、またその後の案件形成をスムーズにした大きな要因となった。ただし、この時期はガーナ援助コミュニティの変容が始まった時期で、派遣専門家のみの対応では援助策定・実施体制に十分な配慮があったとはいえない。計画策定過程においては、日本・ガーナ双方の大学関係者の参加が案件の質の向上に寄与している。また、現場レベルではJOCVが大いに貢献している。ただし、それらは体系的になされているわけではない。
 協力の実施過程については、ガーナ大使館とJICAガーナ事務所がタスクフォースを結成するなど、緊密な連携を図ってきた。また、日本の協力は「教育行政のブロック」、「技プロ実施のブロック」、「草の根のブロック」という3つのブロックに対して包括的に対応し、各ブロックの関係機関のオーナーシップを尊重しながら直接的に働きかけていることが特徴で、協力の効果を高めている。さらに、各ブロックの主要なカウンターパートのほとんどを本邦研修に参加させたことによって、協力実施の効率性が高まった。他ドナーとの連携については、援助協調促進プロセスにおいて、規模はそれほど大きくはないがいくつかの実績があり、協力の効率性を高めるのに貢献している。

7-3. 結果
 評価対象期間における日本の対ガーナ教育セクター協力の総額は17.4億円(概算)で、これはドナー全体の援助総額の約5%である。日本はガーナの教育セクターを援助重点分野と位置づけているが、それにしては投入規模が少ないと言わざるを得ない。
(1) 有効性
 中期目標1・2における、マクロ指標の進捗と、日本の協力の貢献度合いは以下のとおりである。
<中期目標1:すべての子どもが質の高い基礎教育を受けられるようになる>
 マクロ指標でみると、基礎教育における総就学率の地域格差(特に北部3州が低い)や、公立学校の児童・生徒の学習到達度の低迷(例えば小学生の標準参照テストの合格率が算数4.4%・英語9.6%、中学生の基礎教育認定試験の合格率が社会以外総じて低下傾向にある)など、伸び悩んでいる実態が浮かび上がった。日本の貢献度合いは、主要な裨益エリア(3郡)を中心に、郡や草の根レベルにおいてそのキャパシティの向上に確実に貢献しているが、マクロレベルにインパクトを与えるには至っていない。そのため、現職教員研修の制度化支援や校内研修の拡充など波及効果の拡大を目指した取り組みを開始している。
<中期目標2:産業に不可欠な人材養成の基盤を拡充する>
 マクロ指標でみると、アクセス・質の両面でまだ達成度は低い。アクセスについては、後期中等教育の全国平均総就学率は17.6%であるが14%以下が3州あるなど地域格差が大きい。質については、1998年以降の大学入学資格試験の合格率が、英語は順調に伸びているもの、理科と数学で上昇傾向はみられない。このような状況に対して、日本の協力は、規模は小さいながらも、政策レベルと草の根レベルで効果的に寄与しており、他ドナーの参加が少ないこともありプレゼンスは高い。
(2) インパクト
 日本の協力のインパクトとしては、上位政策への影響として、開発調査のマスタープランの考え方がESPに採用されていることが挙げられる。また、サハラ以南アフリカの理数科教育協力ネットワーク「SMASSE-WECSA」のガーナでの会合開催は、ガーナ側のキャパシティビルディングと、アフリカ域内を対象とする日本の協力の可能性を開くなどの効果があった。他方、ガーナにおける協力経験は、日本国内においてはBEGIN策定過程に影響を与え、また国立大学がODAへ参加する道を提示した。さらに研修員受入を通じて、小学生から自治体まで国内の幅広い関係者に国際理解の場を提供した。
(3) 自立発展性
 ガーナの教育セクターの自立発展については、財源難という根本的な問題が解決しない限り難しいというのが実情であるが、日本の協力は実質的に人造りに寄与しており、自立発展の観点から高く評価される。
8.教訓と提言:

8-1 目的に関する教訓と提言
(1) ガーナ開発体系や援助モダリティの変化に対する適切な対応
 ガーナの開発体系や援助モダリティは、近年急激に変化している。このような情勢を考えると、今後の効果的な教育セクター協力を考えるためには、その前提であるガーナ国別援助計画の見直しを含めた日本の対ガーナ協力方針の根本的な見直しが必要である。

8-2 プロセスに関する教訓と提言
(1) 今後の案件策定について
 今後の教育セクターにおける案件策定についてはESPの枠組みの中で行われるべきである。そのため案件策定において、これまで以上にガーナ政府や他の開発パートナーとの調整と合意形成が求められる。
(2) 今後の案件策定における人員配置の見直し
 対ガーナ支援は新しい局面に入っており、人員の拡充を含めた総合的な人員配置の見直しが必要である。その際、MDBS支援も視野に入れ、またマルチセクター的に調整ができるような包括的な人員配置を考える必要がある。
(3) 案件策定過程における大学関係者・JOCVの活用
 ODAの質と効率性の向上のために、案件策定過程においては、ガーナ・日本双方の大学関係者の積極的な参加とJOCVの現場における知見・情報の組織的活用が望まれる。

8-3 結果に関する教訓と提言
(1) 教育セクターの援助規模について
 ガーナ国別援助計画はわが国がガーナ教育セクターにおいて主導的な役割を果たすよう促しているが、現在の体制で明確な目的もなく援助規模を拡大するのは避けるべきである。当面はMDBSの進展に注視しつつ、さまざまな課題に対する対応策を検討していくのが適切である。
(2) 基礎教育の質的向上への今後の支援に向けて
 現在実施中の技プロ案件は2005年に終了するが、プロジェクトの効果をさらに全国的に波及・定着させるためには何らかのフォローアップが必要と考える。他方、1996年の基礎教育義務化・無償化・普遍化プログラム(fCUBE)以降の開発パートナーの取り組み成果・支援手法について、日本がイニシアティブをとって共同で議論できる場を設定することは意義がある。
(3) 「教育行政のブロック」への支援
 ユニークで自立発展に効果的である「教育行政のブロック」を、日本の協力アプローチとしてさらに体系化し戦略的に活用していくことが考えられる。
(4) アフリカ域内の教育開発に向けて
 ガーナ教育セクターには、今後もSMASSE-WECSAの活動に積極的に関わり、重要な役割を演じることが期待される。また、日本はガーナを拠点として西アフリカ地域における理数科教育協力を展開していくことも考えられる。加えて早急にADEA(アフリカ教育開発連合)へ加盟し、アフリカ域内における教育開発分野における一定の立場を築くことが望まれる。


このページのトップへ戻る
目次へ戻る