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国際緊急援助隊評価

1.評価対象
(1) 対象分野
国際緊急援助隊制度
(「救助チーム」「医療チーム」「専門家チーム」「自衛隊」の4種類を単独または組み合わせで派遣する制度。本評価から「自衛隊」は除外した。)
(2) 参考にした主な案件
アルジェリア地震災害に対する国際緊急援助隊
(2003年5月~6月、「救助チーム」「医療チーム」「専門家チーム」)
ベトナムSARS集団発生に対する国際緊急援助隊
(2003年3月~4月、「専門家チーム」)
トルコ西部地震災害に対する国際緊急援助隊
(1999年8月、「救助チーム」「医療チーム」「専門家チーム」)
台湾地震災害に対する国際緊急援助隊
(1999年9月、「救助チーム」「医療チーム」「専門家チーム」)
2.評価調査団
杉下 恒夫 茨城大学人文学部教授(JICA外部評価委員会委員)
正木 朋也 東京大学大学院医学系研究科国際保健計画学客員研究員
(外務省ODA評価有識者会議メンバー)
渡辺 鋼一郎 社団法人セーブ・ザ・チルドレン海外事業部職員
(オブザーバーとしてベトナム現地調査のみ参加)
宮崎 慶司 オーバーシーズ・プロジェクト・マネージメント・コンサルタンツ株式会社 企画部次長
三島 光恵 同上 企画部課長
斉藤 幸子 同上 企画部課長
3.調査期間 2003年10月から2004年3月
4.評価目的
 国際緊急援助隊制度を、総合的かつ包括的に評価し、今後のより効果的な実施の参考とするための教訓・提言を得るとともに、評価結果を公表することで説明責任を果たすことを目的とする。
5. 評価フレームワーク
 外務省「ODA評価ガイドライン」に従って、評価の枠組みを策定し、制度の「目的」、「結果」、「実施体制」の3つの観点から、総合的、包括的に評価を行った。まず、目的および実施体制を以下の通り整理した。そして、目的の「妥当性」を、結果の「有効性」を、実施体制の手続きやマニュアルの遵守度合いを見ることにより「適切性」を検証することとした。実際の調査は文献調査および質問票調査、およびインタビュー調査にて実施し、評価結果から抽出された課題や問題点、過去の国際緊急援助隊派遣事例より得られたスキームレベルの教訓を参考に、提言をまとめた。

目的
◆最終目標: 「国際協力の推進に寄与すること」
◆中間目標1: 「人的(肉体的・精神的)被害の軽減」
◆中間目標2: 「国際緊急援助隊の活動を積極的に情報公開し、日本の実施した活動が国際社会・相手国および日本において広く認識される」
実施体制
・通常時の体制: 1)通常時の準備体制、2)マニュアルの整備、3)派遣要員登録体制、4)研修・訓練の実施状況、5)携行機材の整備状況、6)情報公開、7)派遣終了後
・派遣時の体制: 1)要請から派遣まで、2)被災国における活動
6.評価結果
(1) 制度の目的の評価
 中間目標に関しては、1)上位政策との整合性、2)被災国および被災者のニーズとの整合性、3)国際社会の動向との整合性、の3つについて検証を行った。いずれにおいても、整合性が見られ、妥当であった。
(2) 制度の結果の評価
中間目標1の評価
「救助チーム」
 1996年以降の5件の結果をみると、271名の隊員派遣に対し、56名を救出・収容し、そのうち2名は生存者の救出であった。この成果の達成度については、一概に救出・収容数の多寡を判断・比較し、結果に結びついた要因の特定を行うことは容易でない。しかし、いずれのケースにおいても一定の成果を出したと評価できよう。
「医療チーム」
 1996年以降の派遣14件については、13カ国に対し、247名派遣し、16,572名の被災者の診療を行った。その実績を平均すると、1件あたり約1,100名の患者の診療を行い、従来「医療チーム」マニュアルの想定している診療者数の目安を概して達成している。
「専門家チーム」
 成果は、チームの専門性等によって異なるが、先方政府および実施機関に対して技術的助言、指導を行うとともに、多くの場合、報告書の提出を行った。場合によっては、帰国後に詳細な報告書や分析結果を先方政府に提出することも行っている。
中間目標2の評価
 過去の派遣事例毎の活動報告書の文献調査によると、国際緊急援助隊についての新聞掲載記事が添付されており、国際緊急援助隊が被災国において注目を集めたことや、一定の報道がなされたことが確認できるものもあった。詳細についてはアルジェリアとベトナムの個別のケースについて検証した。その結果、いずれもプレスリリースを積極的に行う等、情報公開の努力がうかがえ、またメディア報道もされており、一定の達成は認められるが、中には情報公開の方法を一層充実すべき課題も見受けられた。
(3) 制度の実施体制の評価
通常時
 実施体制の7項目について、国内体制、国外体制ともに質問票の回答を検証した結果、すべて定められたガイドライン等に従って体制が整備されていた。その上で良い点と課題についての整理を行った。
派遣時
 派遣体制のガイドライン等との適切性に関して、アルジェリアとベトナムの事例について検証した結果、ほぼガイドライン等のとおりに実施されていた。また、制度の「結果」の達成との関係から、実施体制の良い点と課題について1)発災から現地到着までの迅速性、2)活動体制、3)ロジ面、4)情報公開、5)現地対策本部・国際機関等との関係、6)チームの能力、の6つの観点で検証した結果、改善すべき点や留意点が見られた。
(4) 総合評価
中間目標の達成度
「中間目標1」
 「救助チーム」と「医療チーム」に関しては、1996年以降の事例において被災者の救出・収容、診療を通じて「中間目標1」を達成していることが定量的に明らかになった。しかし、定量的な把握に加え、それだけでは拾いきれない被災国民の精神的不安の軽減等の効果が大きいことが、現地調査を通じて明らかになった。また、国際緊急援助隊が地震の際に派遣される場合、被災国側は、日本の地震対策技術に対しても高い信頼を抱いており、その期待に応えるためにも日本が国際緊急援助隊制度を通じて、「専門家チーム」の人員を派遣することの意義はとても大きかった。
「中間目標2」
「情報公開」に関しては、情報公開を重視する形で活動が実施されていること、また、国際社会、相手国、日本における「認識度」に関しては、世界各地において日本の国際貢献の姿が報道され、認識されていることが、確認された。
 また、現地調査を通じ、災害時にマスメディアは、災害関連報道を必ず大きく取り上げていることにさらに注目する必要が高いことが判明した。「救助チーム」の到着については、「迅速性」と「遠い国からの到着」に関して驚きをもって迎えられること、「医療チーム」については、活動期間が長く広報を長期に亘り行うことができること、日本の医療技術への信頼が厚いこと、「専門家チーム」についても、日本の専門技術に対する期待が高い等の点から、被災国にて注目を受けることが判明した。したがって、情報公開を効果的に行えば、確実に日本のプレゼンスを向上することが出来ることが確認された。
最終目標の達成度
 「中間目標」の達成を通じてというより、むしろ、国際緊急援助隊制度の実施実績自体が「国際協力の推進」の第一歩の表れであると考えられる。海外の主要な災害に対し、国際緊急援助隊を派遣し、「中間目標」が一定の割合で達成されていることが本評価調査で確認されたことにより、日本と被災国の接触を通じ、日本のイメージの向上、被災国、国際社会との良好な関係構築に寄与しているといえよう。この機会に効果的に情報公開を行えば、日本の被災国におけるプレゼンスの向上に大いに役立つことが判明した。したがって、本制度は、日本の国際協力の推進に貢献し、日本のイメージの向上を図るには、極めて効果が高い制度であることが判明した。
実施体制改善への課題
 結果の有効性をさらに高める上で、実施体制について以下の課題があることが判明した。
・通常時の体制
 7項目について検証した結果、3項目について課題が見られた。第一に国内体制において、4)研修・訓練の実施状況について、第二に国外体制(在外公館、JICA事務所における体制)においては、1)通常時の準備体制、と7)の派遣終了後について課題が見られた。
・派遣時の体制
 6つの観点から分析し、1)発災から現地到着までの迅速性2)活動体制3)ロジ面4)情報公開5)現地対策本部・国際機関等との連携6)チーム能力、の全てについて課題ないし留意点が見られた。
7.提言
(1) 通常時の体制
国内体制
4)研修・訓練の実施状況
提言1: ■研修・訓練への参加枠を拡大する。
国外体制
1)通常時の準備体制
提言2: ■在外公館およびJICA事務所による、マスコミとの連携を、通常時からの強化する。
■在外公館およびJICA事務所における、国際緊急救助隊業務の引継ぎを、通常時から徹底する。

(2) 派遣時の体制
1) 発災から現地到着までの迅速性
提言3: ■迅速な移動手段を確保する。
2) 活動体制
提言4: ■「医療チーム」の場合は先発の「救助チーム」ないし先遣隊等を通じた情報収集により、被災国における活動の効率性の向上を図る。
■「専門家チーム」の場合の成果は、先方関係機関のニーズを確認し、それに見合った報告書の内容を充実させるとともに迅速に報告書を提出する。
■国際緊急援助隊チームの負うべきリスクと国際貢献の基準を確認する。
3) ロジ面および6)チームの能力
提言5: ■引き続き、被災国および経由地・近隣国の在外公館およびJICA事務所の協力を取り付ける。
■引き続き、被災国のニーズにあったチーム能力(携行機材も含む)を見直す。
4) 情報公開
提言6: ■チーム活動の情報公開体制を強化する。
5) 現地対策本部、国際機関等との連携
提言7: ■引き続き、現地対策本部、国際機関等との連携を強化する。


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