広報・資料 報告書・資料

文化無償協力の評価

1.評価対象: 文化無償協力
2.評価者:
牟田 博光 東京工業大学大学院 教授(ODA評価有識者会議メンバー)
加藤 義彦 (株)三菱総合研究所  海外開発事業部 主任研究員
石里 宏 (株)三菱総合研究所  海外開発事業部 シニアコンサルタント
3.調査実施期間: 2003年11月~2004年3月
4.評価の実施方針:

 本評価は、文化無償協力プログラムの目的、結果、プロセスを検証することにより、援助政策の見直し及びより効果的・効率的な援助実施に向けた教訓・提言を得ること、さらに評価結果を公表することで説明責任を果たすことを目的としている。
 本調査では、文化無償協力というスキームを「目的の妥当性」、「結果の有効性」、「プロセスの適切性」という観点から評価した。機材が十分に活用されているか否かを確認する為には、供与後2~3年経過した案件を調査する必要があることから、2000年度までの実績を中心に体系図にまとめ、評価基準や測定指標を設定し、国内調査にて必要な情報を収集し、評価を行った。
5.評価結果:
(1) 目的の妥当性に関する評価
 文化無償協力の目的は、わが国の上位政策である旧ODA大綱の基本理念、新ODA大綱の目的及び基本方針、ODA中期政策の重点課題と合致しており、また、国際社会における援助の目的であるミレニアム宣言、DAC新開発戦略、その他国際的合意と方向性が一致していることが確認できた。

(2) 結果の有効性に関する評価
 文化無償協力スキームは「開発途上国の文化・教育の発展」及び「我が国と開発途上国との文化交流の促進によるこれら諸国との友好関係及び相互理解の増進」という2つの最終目標を持っている。それぞれの目標ごとの評価結果は以下の通りである。
1) 最終目標1「開発途上国の文化・教育の発展」
 最終目標1は、「文化財・遺産に対する理解の深化」、「文化に係る理解の浸透」、「教育・研究の振興」という3つの中間目標を持つことから、それぞれの中間目標について、その達成状況を検証した。
 中間目標「文化財・遺産に対する理解の深化」については、14億2,620万円の援助で文書等の修復・保存機材、ビデオ撮影・編集機材、マイクロフィルム機材などが供与され、これらの機材を活用して13万3,028部の文書及び40年分の様々な文献がマイクロフィルム化された他、1,770点以上の文化遺産の測定・登録、70万点の展示品のビデオ閲覧化、9箇所の遺跡発掘、120点の文化財の冷凍滅菌処理、230点の紡績品の超音波洗浄が実現したことが判明した。また、例えば、シリアでは文化無償協力による文化財・遺産の展示会に年間12,000人が来訪したが、これは同国における博物館・遺跡1件あたりの平均年間来訪者数を大きく上回っており、文化無償協力が文化財・文化遺産に対する理解を深化させるために相応の成果をもたらしていることが確認された。
 中間目標「文化に係る理解の浸透」については、18億6,580万円の援助で照明機材、音響機材、視聴覚機材、交響楽団用楽器などが供与され、これらの機材を活用して行われた公演は平均週3.7回開催され、年間延べ25万人が鑑賞したことが判明した。例えば、東欧・NIS地域では、文化無償協力が関連する展示会の鑑賞者数は年間約17万人であり、これは同地域における美術館1件あたりの平均年間来訪者数5万4,000人を大きく上回っていることから、同地域では文化無償協力によって成果が得られたと言えることが確認できた。
 中間目標「教育・研究の振興」については、21億7,690万円の援助で球技機材、物理実験機材、化学実験機材などが供与され、これら機材は回数で測定しているものについては週平均14.1回、時間で測定しているものは週平均43.2時間という、概ね適度な頻度で使用されていることが判明した。しかし、教育・研究の振興度合いについては、地域ごとのばらつきがあり、また、これらの数値を比較する材料がないため、一般的な判断は困難であった。

2) 最終目標2「我が国と開発途上国との文化交流の促進によるこれら諸国との友好関係及び相互理解の増進」
 最終目標2は、「日本文化に係る理解の浸透」、「日本文化に係る教育の振興」という2つの中間目標を持つことから、それぞれの中間目標について、その達成状況を検証した。
 中間目標「日本文化に係る理解の浸透」に関しては、2億6,940万円の援助でドキュメンタリー番組や教育番組などが作成され、例えば、バングラデシュでは、総人口の80%にあたる約1億人が日本関連番組ソフトを1回は視聴していることが確認された。
 中間目標「日本文化に係る教育の振興」に関しては、9億5,060万円の援助でLL機材、視聴覚機材などが供与され、これら機材が適度な頻度で使用されていることが確認された。また、日本文化に係る教育が実施されれば、日本語学習者が増加するという想定の下、日本語能力試験受験者数を調査したところ、ベトナム、カザフスタン、モンゴル、ミャンマー、パラグァイでは平成10~14年度における全世界平均の増加率86%を上回っており、間接的ではあるが文化無償協力による効果が現れていることが確認された。


(3) プロセスの適切性に関する評価
 「実施手続きの整備状況」、「関係機関との連携」、「検証メカニズムの有無」を検証した。実施手続きは良好に整備されていること、関係機関との連携は十分行われていること、検証メカニズムは、事前調査、機材活用状況調査、フォローアップ調査、文化無償資金協力のスキーム評価などの実施により機能していることが確認された。
6.提言:
(1) スキームの目標体系の再構築:
 文化無償協力の実施状況を把握し、スキームを効率的に運営するためには、目標の体系化と指標の設定が有益であると考えられる。その際、文化無償協力の目標体系の再構築にあたっては、ODAに期待される役割の変化にも配慮する必要がある。例えば、新しいODA大綱の重点課題に示されている「平和の構築」を文化無償協力の目的の一つとすることも一案である。

(2) 文化無償協力対象の拡大:
 文化無償協力は機材供与を原則としているが、施設の状況など機材を取り巻く環境によっては、その効果が最大限発揮されない恐れもあることから、文化無償協力の対象を柔軟に捉え、機材供与に関連する施設の建設・修復なども対象に入れることを検討すべきである。

(3) 自己評価メカニズムの強化:
 指標を定期的にモニタリング、事後に検証するというメカニズムを導入することができれば、案件の管理能力も更に向上すると考えられる。また、事前評価の実施を被援助国・機関自身の自己評価に任せることは、被援助国・機関のオーナーシップを高め、援助の有効活用に関する意識啓発にも寄与すると考えられるので、これもあわせて検討すべきである。


このページのトップへ戻る
目次へ戻る