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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日 平成23年1月24日
評価責任者:国別開発協力第三課長 石塚英樹

1.案件概要

1-1.供与国(地域)名

 パレスチナ自治区

1-2.案件名

 ジェリコ市水環境改善・有効活用計画

1-3.本プロジェクトの目的

  本計画は,地溝帯に位置するために汚水の滞留が深刻な環境問題となっているジェリコ・ヨルダン渓谷地域において,主要な水源である地下水の汚染を防ぐとともに地域住民の生活・衛生環境を改善することを目的として,省エネ等に優れた我が国技術を活用した資源循環型の下水処理施設を建設し,併せてその処理水を同地域の灌漑等の水源として有効活用するもの。供与限度額は26億5,000万円であり,下水処理場(計画浄水量9,800立方メートル/日)の建設並びに汚水を収集するための下水管渠及び越流管の敷設を行うとともに,水質試験器具,施設電力供給用の太陽光パネル(系統連系型PVシステム100キロワット)等の必要な機材を供与する。

1-4.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

(1)新規に下水処理施設を建設するものであるため,重大ではないが,汚水・汚泥の処理過程で生じる悪臭,騒音・振動等,環境社会への望ましくない影響は考えられるので,設計に当たっては,その影響を可能な限り最小化するよう慎重を期する。

(2)イスラエルの占領が続くパレスチナ自治区においては,検問所や分離壁によってパレスチナ人の移動・アクセスが大きく制限されているため,治安情勢によっては人や物資の移動に支障が生じ,事業の遅延に繋がる可能性は排除できない。

(3)また,パレスチナ自治政府は,各施設の建設用地を確保するとともに,既存施設および障害物の解体撤去工事を行う必要がある。

2.無償資金協力の必要性

2-1.必要性

(1)ジェリコ・ヨルダン渓谷地域は地溝帯に位置し,その地理的特性から市街地から排出される汚水は流出せず,滞留せざるを得ない状況にある。これまで同地域では適切な汚水処理を行う下水処理場が無かったため,従来から衛生環境の悪化が指摘されるのみならず,汚水による土壌や地下水の汚染の可能性が懸念されていたが,実際に2010年1月にはジェリコ市の地下水脈の汚染が明らかとなるなど,同地域の汚水処理の問題は早急に解決せねばならない課題となっている。

(2)一方,年間降雨量が400~500ミリメートルしかない同地域では,水源となる表流水が極めて少ないため,地下水に多くを依存しているが,地下水脈を共有する隣国イスラエルとの関係上,新規に開発できる地下水資源は非常に限定されている。また,イスラエルは同地域の土壌や地下水汚染が自国に及ぼす影響を強く懸念しているため,同地域の適切な汚水処理は中東和平の文脈においても域内の重要な課題と位置づけられている。

(3)以上の次第により,今般,パレスチナ自治政府より,近年顕在化している当該地域の地下水汚染に適切に対処し,近隣の環境衛生を向上させるための下水処理場を建設するとともに,限られた水資源を有効活用するとの観点から,下水処理水の再利用を新たな水資源開発の一つとして取り組む本計画につき,我が国に支援要請があったものである。

(4)本計画は,我が国の「平和と繁栄の回廊」構想(注)の中心となるヨルダン渓谷地域において,住民の生活・衛生環境を改善し,新たな水資源開発によって同地域の主要産業である農業の生産性を向上させるとともに,地下水汚染対策を通じて隣国イスラエルとの信頼醸成を図ることをも目的としており,同構想の実現にも大きく資するものであることから,右支援実施の意義は非常に高い。

(注)「平和と繁栄の回廊」構想:将来のイスラエルとパレスチナの共存共栄に向けた我が国独自の中長期的取組み。長年の占領によりイスラエルへの経済的依存度を高めてしまったパレスチナを今後可能な限り円滑に自立させるため,近隣国との域内協力を通じて信頼醸成を図りながらヨルダン渓谷の開発を進め,パレスチナの経済社会基盤を強化することを意図するもの。

2-2.効率性

(1)下水処理方式については,パレスチナ側の維持管理能力を慎重に勘案しつつ,種々の方式を検討した結果,運転が容易で安定的な処理が期待でき,かつ,我が国としても技術的な蓄積を有する「高度処理オキシデーションディッチ法(OD法)」の形式を採用することとした。また,維持管理費用を低減するため,現地で極めて豊富な太陽エネルギーを最大限有効活用するとの観点から,太陽光発電設備を導入することとした。

(2)農地の灌漑への処理水の再利用については,処理水の安全な使用のため塩素殺菌を行う。また,発生汚泥の処理については,動力を用いない天日乾燥床方式とし,処理後は近辺の農業用堆肥として再利用を図ることとする。

(3)下水管の敷設については,管網への接続率を可能な限り確保するため,人口密度の高い地区,また,汚水発生量が多い地区を優先して整備するとともに,現地の傾斜勾配を有効に活用して極力ポンプ場を設置しないような設計を行う。

(4)なお,本計画の実施機関であるジェリコ市は,下水道施設の運転・維持管理に関して経験がないため,我が国の技術協力を通じた能力強化を行う予定。

2-3.有効性

 本計画の実施により,以下のような成果が期待される。

(1)適切な汚水処理による環境改善を通じて,ジェリコ市及びその周辺地区の約52,000人の住民が直接裨益する。また,こうしたパレスチナ側による環境及び地下水の保全に向けた取組は隣国イスラエルにも裨益することから,両者間の信頼醸成にも大きく資する。

(2)1日平均6,500立方メートルの処理水を灌漑用水に用いることができるようになり,地域の農業生産の向上にも寄与する。特に,当該地域は水資源が限られているために気候変動の影響を受けやすい地域でもあることから,処理水の再利用は気候変動に対する緩和策としても有効。

(3)我が国で発達してきた省エネルギー型の下水処理技術を導入するとともに,太陽光発電を電源とすることで,通常の下水処理のための電力消費による二酸化炭素排出量800トン/年を約2分の1低減することができる。

(4)ジェリコ市は世界的にも有名な歴史遺産を有する観光都市であり,特に同地域の下水処理の問題は中東和平の促進の点からも域内の環境・水資源保全の観点から非常に重要な課題でもあることから,本計画の成否は国際的にも関心が高く,我が国技術をアピールする機会となる。

3.事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

(1)パレスチナ自治政府からの要請書

(2)JICAによる協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)



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