1.案件名等
1-1.供与国名 アゼルバイジャン共和国 1-2.案件名 シマル・ガス火力複合発電所第2号機建設計画 |
2.有償資金協力の必要性
2-1.二国間関係等 アゼルバイジャンは、欧州と中央アジアを結ぶ回廊地帯に位置し、かつ露、イスラム諸国と隣接するコーカサス諸国の一か国として、米・露のみならず、わが国にとっても安全保障及びエネルギー戦略上の要衝である。 コーカサス地域は、複雑な民族構成を背景として、チェチェン、ナゴルノ・カラバフ問題等多くの不安定要因を抱えている。とりわけ、アルメニアとの間の民族紛争であるナゴルノ・カラバフ問題は、アゼルバイジャンにとって最大の懸案であり、1994年に停戦合意が成立し、合意は遵守されているが、最終和平に向けた交渉は決着しておらず、約100万人のアゼルバイジャン人避難民が発生している。この問題によりアゼルバイジャンの国情が更に不安定化することは、コーカサス地域の不安定化につながり、ひいては国際社会全体にも波及する可能性があるため、アゼルバイジャンに支援を行いコーカサス地域の安定化に貢献することはわが国のみならず、国際社会全体にとって意義がある。 アゼルバイジャンは、未開発のものとしては世界最大級の油田をカスピ海に有することから、同国における石油パイプライン(BTCパイプライン)の開発及びその安定的な運営は、国際的なエネルギー安全保障のみならず、わが国のエネルギー確保のためにも少なからぬ意義がある。また、エネルギー資源調達先の多角化を重視しているわが国にとって、中東情勢の潜在的な不安定さが排除されない中で、非中東地域からのエネルギー資源の供給を安定化させる観点から、アゼルバイジャンへ支援を行いコーカサス地域の安定に寄与することには重要な意義がある。 こうした地政学的重要性にかんがみ、わが国とアゼルバイジャンとの関係を緊密化させ、わが国からの支援を通じてアゼルバイジャンの改革を促進し、同国の安定的発展を確保することが、コーカサス地域ひいてはわが国を含む国際社会の平和と安定を確保する上での喫緊の課題である。 わが国は米、独とともにアゼルバイジャンに対する主要な支援国の一つである。アゼルバイジャンは、これまでのわが国の支援に対して度々謝意を表明し、わが国からの今後の経済援助、投資に対しても大きな期待を有している。 わが国はアゼルバイジャンに対し、対「シルクロード地域」外交の考え方の下、(イ)信頼と相互理解の強化のための政治対話、(ロ)繁栄に資するための経済協力と資源開発協力、(ハ)核不拡散や民主化、安定化による平和のための協力、という3つの方向性を柱に積極的な外交を展開しており、アゼルバイジャンへの協力・支援強化は、かかるわが国外交政策の具現化という意義を持つ。 わが国とアゼルバイジャンとの交流は、2001年1月の在アゼルバイシャン大使館開設やODAによる積極的な国造り支援の影響もあり、石油・ガス開発を軸に拡大方向にある。また、要人の往来も盛んであるほか、日本アゼルバイジャン経済合同会議の開催等に見られるとおり、民間での交流も活発である。 こうしたことから、二国間関係は様々な分野で発展している。 2-2.対象国の経済状況 所得水準(一人あたりGNI)は、810ドル(2003年:世銀)であり、アゼルバイジャンは円借款供与対象国の低所得開発途上国(Lower-Middle-Income Countries)に位置付けられる。 アゼルバイジャンの経済については、ナゴルノ・カラバフ紛争の停戦合意後、政情の安定化に伴い、国際機関やドナー諸国による経済協力が活発化し、1994年9月のアゼリ・チラグ・ギュネシリ鉱床開発プロジェクトを皮切りに次々と外国資本による石油開発が立ち上がり、それらの影響もあり、1996年以降経済成長に転じた。 アゼルバイジャンは1995年に入りIMFとも協議の上、インフレや生産低下の抑制などを内容とするマクロ経済安定化プログラムを作成し、既に為替レートの一本化、外貨予算や国家発注の廃止、国営企業の民営化などの措置を実施している。2002年2月にはADBに加盟した。カスピ海の石油資源には西側の関心が高まっており、投資がもたらす経済効果に寄せる期待が大きい。 経済成長率は、2001年9.6%、2002年9.7%、2003年10.8%と高成長を記録しており、今後も継続的な成長を見込んでいる。 DSR(債務返済比率)は、2001年4.9%、2002年4.4%、2003年5.2%と安定している。外貨準備高は、2002年には輸入の4.7ヶ月分であった。こうしたことから、債務負担能力に大きな問題はない。 2-3.対象国の開発ニーズ アゼルバイジャン政府は、「燃料・エネルギー分野における国家開発計画(2005~2015年)」(大統領令)において、将来の電力需要を満たすために老朽化した設備を高効率の複合発電所に転換すること等により、有効発電容量を2015年までに6,500~7,000MWレベルまで増加させる計画を立てている。 この中で、電力需要の中心である首都バクー近郊への安定的な電力供給を確保するため、特に重要な既設のシマル火力発電所におけるガス火力複合発電設備第2号機及び関連送電線建設は優先度の高い事業と位置付けられている。 2-4.わが国の基本政策との関係 アゼルバイジャンはソ連崩壊後誕生した新たな自由主義国家であり、また、同国の積極的な民主化、市場経済導入の動きはODA大綱の観点からも望ましいものである。わが国は、この考え方に基づき、市場経済化に対応する人材不足や経済インフラの老朽化、環境悪化等の問題に効果的に対処し、経済的な困難を克服して国づくりを行えるよう、積極的に支援を行う方針である。 わが国は、2002年11月に行った政策協議を踏まえ、アゼルバイジャンに対するODAによる協力の重点分野を経済インフラの整備(特にエネルギー、運輸・通信)、社会セクター、人造りの3分野としている。また、2004年11月には円借款協議を行い、エネルギーセクター支援の重要性を確認している。 わが国は、2003年8月に新ODA大綱を策定し、援助実施の原則として援助の戦略性、効率性をより高めていくことが求められるようになっており、有償資金協力の実施に際しては、技術協力等の各スキームを組み合わせ、より一層系統だった支援を行う必要がある。 有償資金協力については、アゼルバイジャンを含むコーカサス地域に対しては、経済状況、治安状況、要請案件の内容等を勘案しつつ、インフラ分野を重点的に、優良なプロジェクト案件を中心に実施していくこととしており、これまでエネルギーセクターへの協力を実施しており、本案件は上記基本政策に合致するものである。 2-5.アゼルバイジャンに対して有償資金協力を実施する理由 アゼルバイジャンの総発電定格容量は、5,556MW(火力:4,624MW、水力:932MW)を有するが、設備の老朽化により2003年の有効発電容量は4,240MWに低下している。この結果、2003年の有効発電容量は最大需要(4,500MW)を下回っており、供給力不足をロシアとの系統連系によって補っている。また、アゼルバイジャン国内人口の約50%が一日平均8時間以上の停電を被るという厳しい環境にある。 アゼルバイジャンの電力需要は、1991年独立後、経済の低迷により一時期減少したものの、1995年を境に増大に転じ、2000年以降は年間平均約6.5%のペースで上昇している。このため、新規電源の開発が進まない場合、今後更に計画停電等による強制的な電力供給の停止が余儀なくされる状況にある。 アゼルバイジャンの発電設備の80%は国土の西部に位置する一方、電力需要の60%は東部のアプシェロン半島に集中している。このため、国土の東西間約300kmの送電を行う必要があり、また、西部発電所の燃料である重油はアプシェロン半島から輸送されるため、送電ロスおよび燃料輸送コストにより同国の電力供給は非効率となっている。また、このような長距離の送電は、電力系統の不安定性の要因ともなっている。 したがって、電力需要の中心であるアプシェロン半島における新規電源の開発による需要への対応、送電ロス、燃料輸送コストの削減、電力供給の効率性の向上が必要である。 |
3.案件概要
3-1.目的(アウトプット) アゼルバイジャンの首都バクーのある東部のアプシェロン半島地域(アゼルバイジャン人口の4分の1を占め、同国の電力需要の60%が集中する最大の電力需要地)において、ガス火力複合発電設備(定格出力400MW)及び関連送電施設を建設するものである。 3-2.実施内容 供与限度額:292億8,000万円 (円借款を供与する対象は、ガス火力複合発電設備(定格出力400MW、1機)の建設、220kV送電線の新設(30km×2回線、46km×2回線、31km×2回線)、変電所(1機)の新設、変電所(2機)の改修の各部分) 〔供与条件〕 金 利:年0.75%(優先条件) 償還(据置)期間:40(10)年 調達条件:一般アンタイド 〔実施機関〕 アゼルエナジー(国有電力公社、Joint Stock Company Azerenerji) 3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点 (1)環境社会配慮
アゼルバイジャンは、燃料となる天然ガスの一部をロシアから輸入しているところ、将来の近隣諸国の政治・経済情勢が天然ガスの安定的な供給に影響を及ぼす可能性がある。 3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム) アゼルバイジャンにおける電力の安定的供給の実現に寄与し、もって同国における電力不足の緩和、同国経済の持続的成長及びそれによる同国国民の生活水準向上に寄与し、ひいては、同国の安定的発展を通じ、我が国をとりまく国際環境の安定化及び同国との関係緊密化に貢献することが期待される。 また、天然ガスを効率的に使用することで、地球温暖化の原因となる二酸化炭素、大気汚染物質である窒素、硫黄酸化物の排出量を抑制しつつ単位燃料あたりの発電電力量を増加することが可能となる。 |
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用
要請書、F/S、国際協力銀行より提出された資料等(環境社会配慮に関する情報は http://www.jica.go.jp/environment/information/index.html を参照。)。 |