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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成17年4月22日
評価責任者:無償資金協力課長 鈴木秀生


1.案件名

1-1.供与国名
 カンボジア王国

1-2.案件名
 「カンダルスタン灌漑施設改修計画」
2.無償資金協力の必要性

2-1.二国間関係
(1) 我が国とカンボジアの交流は古く、17世紀初めには日本人が同国のアンコール・ワット寺院に参詣している。内戦中は両国の交流は途絶えたものの、カンボジア国内和平達成以降、両国関係は政府・民間双方のレベルにおいて全般的に拡大した。
(2) 1970年以降内戦が続いたカンボジアにおいては、91年10月のパリ和平協定署名を経て、93年5月に制憲議会選挙が実施され、同年9月に新生カンボジア王国が誕生した。その後2度の総選挙を巡って二大政党であるフンシンペック党と人民党の確執も見られたが、2004年7月には両党による第三次連立政権が発足して今日に至っている。この間、99年4月にASEAN正式加盟が実現する等、国際社会との関係が正常化するとともに、反政府組織クメール・ルージュの完全な崩壊もあって内政の安定度は高まっており、現在、国の復興と開発を進める上でこれまでにない良好な環境が生まれている。
(3) 我が国は、カンボジアの和平プロセス、選挙監視及び復興・開発に積極的に人材面・資金面の両面で貢献してきたところであり、92年から2001年までの支援累計は約1,013億円とドナー国中最大である。

2-2.対象国の経済状況
(1) 所得水準(1人当たりGNI)は280米ドル(02年・世銀資料)であり、後発開発途上国(LDC)の一つ。
(2) カンボジア政府は99年10月より世銀・国際通貨基金との合意の下で経済構造改革を推進しており、司法改革、公務員改革と地方分権、財政改革、汚職追放等の諸課題に取り組んでいる。
(3) 主要産業は農林水産業であり、就労人口の77.5%、GDPの約43%を占めている。
(4) 60年代には食糧自給を達成し、米やゴムの輸出を行っていたが、70年代以降の長期にわたる内戦と混乱、とりわけポル・ポト(クメール・ルージュ)政権下における恐怖政治により国土は大きく荒廃した。91年の和平達成以降、国際社会の支援を得て国の再建が本格化し、94年から96年にかけて平均6.3%のGDP成長率を達成した。しかし、その後の政変やアジア経済危機によって外国からの援助や投資が減少した結果、97年及び98年のGDP成長率はそれぞれ3.7%、1.8%に落ち込んだ。98年の第2回総選挙後に内政が安定化するに伴って、同国経済は再び回復基調を示している(GDP成長率:6.3%/01年、4.5%/02年)が、2000年の大規模な洪水被害、恒常的な貿易赤字等により依然厳しい状況にある。

2-3.対象国の開発ニーズII
(1) カンボジアの農業セクターはGDPの36%、就業人口の70%を占めており、稲作がその中心であるが、全国の水田(225万ha)のうち灌漑施設が整備されているのは約18%(40万ha)に過ぎず、これらの施設も維持管理の不足や老朽化により所定の機能を果たしていないのが現状である。この結果、同国は自然条件に恵まれているにも拘わらず、水稲の単位収量(籾)は全国平均で1.7トン/haと低く、農村部における貧困の原因の一つとなっている。
(2) 首都プノンペンの南西20kmに位置するカンダール州カンダルスタン地区は、このような背景の下、カンボジア政府の要請を受けて我が国が実施した開発調査「プノンペン周辺地域農村総合開発計画」(平成6年~平成7年)の結果、灌漑開発の優先地区として選定された区域である。同地区にはポル・ポト時代に建設されて30年を経過した灌漑施設(取水堰、調整水門、水路等)があるが、施設の老朽化が激しく、幹線水路は方面の浸食や土砂堆積が進行している他、水路勾配の設計が不適切なため、末端まで水が十分に行き渡らない状況にある。また、調整水門等の構造物についても、構造上の欠陥や損傷等により適切な水管理ができない状態にある。
(3) このような状況を受けてカンボジア政府は、カンダルスタン地区の灌漑施設の改修を通じて灌漑用水を安定的かつ効率的に供給することによって、在来種の米の収穫量を増加させるとともに早稲の雨期二期作を可能とし、もって同地区における農業生産性の向上を図る計画を策定し、我が国の無償資金協力を要請してきたものである。

2-4.わが国の基本政策との関係
 2002年に策定・公表した対カンボジア国別援助計画の重点分野の一つである「持続的な経済成長と安定した社会の実現(農村開発等貧困支援)」に合致している。

2-5.無償資金協力を実施する理由
 内戦、貧困等困難な政治・経済社会問題に直面しながらも、積極的に経済発展のための諸改革に取り組んでおり、無償資金協力の必要性が高い。
3.案件概要

3-1.目的
 本計画は、プノンペン近郊のカンダルスタン地区における農業生産の向上のために灌漑施設の改修を行うことを目的としている。

3-2.案件内容
 供与限度額は17億4,000万円(国庫債務負担行為。平成17年:5億1,100万円。平成18年:9億7,400万円。平成19年:2億5,500万円。)。調整水門1箇所の撤去と可動堰1箇所の建設、既存の堰及び調整水門3箇所の改修、幹線用水路(5.3km)及びその付帯構造物の改修等を行うもの。

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
 以下の事項がカンボジア政府により実施される必要がある。
(1)本計画により改修される基幹施設の維持管理を適切かつ継続的に実施すること。
(2)二次・三次水路の整備及び水利組合の設立を確保すること。
(3)農民に対して営農普及、水利組合強化等の技術支援を行うこと。

3-4.無償資金協力の成果の目標(アウトカム)
(1) 1,950haの農地へ灌漑用水の安定的供給が確保され、水稲の単位収量が在来種については現行の1.8トン/haから3.0トン/haへ増加するとともに、早稲の二期作が可能となる(計画単位収量4.0トン/ha)。
(2) 灌漑用水の安定的供給によって13,400人(2,800戸)の農業人口が直接裨益する とともに、裨益農民の間で二次・三次水路の建設、水利組合の設立、灌漑施設の維 持管理等への参加意欲が高まって、当該農村部の経済社会開発が促進される。
(3) カンボジア王国との二国間関係を増進させる。
4.事前評価に用いた資料、有識者の知見等

(1) 先方政府からの要請書
(2) JICAの開発調査報告書、基本設計調査報告書。
(3) 第19回無償資金協力実施適正会議にて検討。

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