評価年月日:平成17年3月29日
評価責任者:有償資金協力課長 相星孝一
1.案件名
1-1.供与国名
ベトナム社会主義共和国
1-2.案件名
「カイメップ・チーバイ国際港開発計画」
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2.有償資金協力の必要性
2-1.二国間関係
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政治的等重要性
(イ)東南アジアではインドネシアに次ぐ第2の人口規模を有している(インドネシア2億人、ベトナム8千万人)ほか、地政学的にも重要な位置を占めており、その政治的安定と経済的発展の達成は、わが国を含むアジア全体の安定と発展にとって極めて重要。
(ロ)ベトナムは、1995年のASEAN加盟後、ASEAN内における相対的な地位を高めつつあり、同国との関係の緊密化は、わが国の対ASEAN外交にとっても極めて重要。また、ASEANの中の後発加盟国であるベトナムへの支援は、ASEANにとっても重要な課題となっているASEAN内の格差是正に資する。 |
(2) |
経済関係
(イ)わが国による対ベトナム投資は1990年代後半はアジア通貨危機の影響等の要因によって大幅に減少したものの(1995年約11.3億ドル、1999年約0.62億ドル)、2001年の米越通商協定の発効、2003年11月の日越投資協定の締結、同年12月の「日越共同イニシアティブ」の最終報告書提出等、投資環境の改善を含めたベトナム経済の開放・改革が今後益々進んでいくことが見込まれていることから、投資先としての越に対するわが国企業の期待は高まりつつある。
(ロ)わが国による対ベトナム投資累積額は、2003年まで約44億ドルで国・地域別の認可額でシンガポール、台湾に次いで第3位である(実行ベースでは第一位)。また、貿易面についても近年着実に拡大傾向にあり、わが国はベトナムにとって最大の貿易相手国となっている(2003年)。
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2-2.対象国の経済状況
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1986年のドイモイ政策導入以降、輸出・外国投資の伸びを原動力に経済発展が軌道に乗り、1992年から1997年にかけてベトナムは年間8~9%の経済成長を続けた。1997年のアジア通貨危機の影響により、一時期外国直接投資が急減し経済成長も鈍化したが、1999年半ば以降、経済は回復基調となっている。2003年には、石油や鉄鋼等の国際価格等により年末から消費者物価が上昇に転じ、また、経済成長に伴う機械類・原材料の輸入増加により経常赤字が悪化していることが懸念材料となっているものの、活発な消費及び投資が牽引力となり7.2%の成長率を達成し、外貨準備水準も財サービス輸入月数で2002年の2.4か月分から2.9ヶ月分に増加しているなどマクロ経済状況は概ね良好な状況にある。WTO加盟を目指すなど国際経済への統合が進展している中、ベトナムが持続的な経済成長を遂げるためには、引き続き、現在進捗が遅れている国営企業改革、金融部門改革等を進めるとともに、民間部門振興、投資環境整備促進等、市場経済化意向のための諸改革を進めることが重要である。 |
(2) |
ベトナムの援助吸収能力について、2000年9月にロシアとの間で旧ソ連債権の約85%削減を含む合意が締結されたことにより、ベトナムの債務状況は相当程度改善された。ベトナムはHIPCs(重債務貧困国)に分類されているもIMFはベトナムのマクロ経済に対しては総じて好評価を与えており債務負担能力は「持続可能」と分析し、世銀も債務救済措置を必要としない国に位置付けている。わが国円借款との関係では、2002年度に円借款再開後の本格返済が始まったが、元本返済額(2002年度19億円、2003年度42億円)及び利息入金(2002年度57億円、2003年度60億円)は期日どおりに支払われている等、これまでのところ債務負担能力に特段問題は見受けられない。また、ベトナムにおけるプロジェクト型円借款執行率(期首パイプラインベース)は、2002年度には7.2%であったが、2003年度には11.5%まで改善しているが、依然各国の平均値14.8%を下回っており、今後ともベトナム側の改善努力が必要である。
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2-3.対象国の開発ニーズ
ホーチミン市、ビンズオン省、ドンナイ省及びバリア・ブンタオ省から構成される南部経済重点地域(SFEZ)は人口、GDP、対外貿易額が、それぞれ全国の11%、31%、58%(2000年)を占めており、ベトナム経済の中心地域となっている。ベトナム南部の港湾貨物取扱量(2000年、石油等の液状貨物を除く)は年平均8%から9%の伸びで増加、2000年時点で1,750万トン/年の一般貨物が取り扱われており、本地域における四大港群(サイゴン港、ベンゲ港、タンカン港およびVICT)の港湾貨物取扱いは限界(2,530万トン/年)に近づきつつある。また、サイゴン港群は、3万トン級の船舶しか入港できないが、船舶の大型化に伴い、より大型の船舶の入港が可能な港湾整備の必要性が高まっている。こうした増加する需要に対応するために、将来的にはカイメップ及びチーバイ地区に計12バース(岸壁)、取扱容量約3,000万トンの港湾建設が予定されており、当面特に緊急性の高い本事業につき第一段階(貨物取扱容量約700万トン、5万トン級船舶が入港可能)として実施することが急務とされている。カイメップ・チーバイ港はホーチミン市域の港湾整備の一環を担うことのみならず、さらにはメコン地域開発において港湾の東のゲートウェイとしての役割も期待される。
2010年を目標としたベトナム政府の港湾建設計画では、ベトナムの産業化、近代化に伴う貨物需要を満たすため、効率的かつ競争力のある港湾を整備していく必要があるとされている。
2-4.わが国の基本政策との関係
対ベトナム国別援助計画における以下の3つの重点分野のうち、以下(1)、(2)に該当する。また、事業内容の一部はセクター改革に寄与するものであり、以下(3)に該当するものである。
(1) |
成長促進(投資環境整備、中小企業・民間セクター振興、経済インフラ整備(運輸交通、電力、情報通信)、成長を支える人材育成、国営企業改革などの経済分野の諸改革)
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(2) |
生活・社会面での改善(教育、保健・医療、農業農村開発/地方開発、都市開発、環境) |
(3) |
制度整備(法制度整備、行政改革(公務員制度改革、財政改革))
また、本案件への協力は、2003年12月の日ASEAN特別首脳会議において、小泉総理が打ち出したメコン地域支援策に関する、わが国としての具体的な行動と位置づけられるものである。 |
2-5.有償資金協力を実施する理由
(1) |
(イ)社会主義体制を標榜しつつも経済の改革・開放を進めるベトナムの安定的発展の確保(今後のソフトランディングの実現)は地域の平和と安定上不可欠。ASEAN後発国たる越の発展はASEAN内格差是正を通じてASEAN全体の安定化に資する。メコン地域開発においても重要な位置を占める。
(ロ)また、中国の急速な経済発展、日ASEAN包括的経済連携構想等を背景に、わが国の製造拠点、輸出市場、エネルギー供給拠点としての将来性大。
(ハ)さらに、ベトナムは開発援助の新戦略の実験場として注目されており、日本にとっても新しい援助手法への取組を進める格好の場を提供。
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(2) |
わが国は、上記(1)の基本的な考え方を踏まえ、2004年4月に改訂された国別援助計画の三つの重点分野である「成長促進」「生活・社会面での改善」「制度整備」に基づき、円借款供与を検討する。具体的には、「成長促進」においては、経済活動の基盤強化、成長の牽引役である民間セクター及び外国投資の活発化の観点から、引き続き経済インフラ整備(主に運輸・電力セクター)への支援を行うとともに、かかる支援の中で、投資環境整備にもつながる制度・政策改善への支援・提言を行う。また、わが国としてバランスのとれた援助を行うとの観点から、「生活・社会面での改善」についても、無償資金協力・技術協力との役割分担に配慮しつつ引き続き円借款で支援し、「制度整備」についても、越側の関連分野の動向をみつつ、効果的な支援の方途につき検討する。
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3.案件概要
3-1.目的(アウトプット)
ベトナム南部(バリア・ブンタオ省)のカイメップ・チーバイ地区においてコンテナ、一般貨物ターミナル及び関連施設を建設することにより、同国において増大する貨物需要に対応し、同国南部のみならず同国全体の経済発展促進を図るもの。
3-2.実施内容
供与限度額:363億6,400万円
金利:年0.4%
償還期間(据置期間):40(10)年
調達条件:日本タイド
借入人:ベトナム社会主義共和国
実施機関:運輸省
3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
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EIA:2003年11月に天然資源環境省(MONRE)の承認済。
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(2) |
経済停滞による貨物量の伸び悩みや周辺国における新たな港湾整備による貨物の取り合いなどの外部要因リスクが考えられる。
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3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
取扱貨物量の増加、入港可能船型の大型化、入港船舶数の増加、平均滞船時間の減少、背後市街地の交通渋滞の緩和等を通じたベトナムの経済発展の促進、二国間関係の緊密化。 |
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用
要請書、F/S、国際協力銀行から提出された資料等
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