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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成16年8月24日
評価責任者:有償資金協力課長 相星孝一


1.案件名

1-1.供与国名
 ウズベキスタン共和国

1-2.案件名
 タシグザール - クムクルガン鉄道新線建設計画(VI)
2.有償資金協力の必要性

2-1.二国間関係

 わが国は1992年にウズベキスタンとの外交関係を開設し、それ以来両国関係は非常に良好である。カリモフ大統領の二度の来日(1994年、2002年)もあって、両国関係は基本的に満足のいく形で進展・緊密化してきている。
 ウズベキスタンは、わが国の安全保障理事国入りを含め、国際場裡においてわが国の立場を支持し、国際社会における我が国の役割への期待を表明している。
 直行便の開設により(2003年12月両国外相間で航空協定に署名)渡航者数も増加しており、首都タシケントにおいては近年、文化交流、日本語教育も盛んである。
 ウズベキスタンは最大の援助国であるわが国を米国とともに戦略パートナーと位置付けており、9.11以降中央アジア地域の戦略環境が大きく変化していることを踏まえ、わが国としても、中央アジアの要衝国であるウズベキスタン(域内において最大の人口を有し交通・運輸・通信網の中心)との関係を更に強化・拡大していく必要がある。同国国民および政府の我が国支援に対する強い期待と評価にかんがみれば、支援を継続する外交上の意義は極めて大きい。

2-2.対象国の経済状況

(1) 所得水準(一人あたりGNI)は、460ドル(2002年:世銀)であり、ウズベキスタンは円借款供与対象国の貧困開発途上国に位置付けられる。
(2) 経済成長率は1996年から2002年まで概ね4%台のプラス成長を維持してきており、ウズベキスタン政府は、今後も継続的な成長を見込んでいる。また、漸進的な改革により、独立以降の生産の落ち込みは他のCIS諸国に比べ軽微であった(GDP、工業生産とも2001年時点で独立前の水準を超えるに至っている。)。
(3) 物価上昇率は2002年の21.6%から2003年には3.8%へと低下した。
(4) 2003年10月には複数あった為替を統一し、経常取引における通貨の交換性を回復することで、IMFの8条国入りを果たした。農業、銀行改革、更なる民営化、貿易の自由化等が今後の長期的発展の課題。
(5) 政府債務及び政府保証債務の合計はGDP比45%以下にとどまっており、債務返済比率(DSR)については、過去3年間は22%~25%程度と安定している。外貨準備高は2002年には輸入の6.4ヶ月分であった。こうしたことから、債務負担能力に大きな問題はない。


2-3.対象国の開発ニーズ

 ウズベキスタンは、1991年の旧ソ連からの独立以来、市場経済化と民主化を最大の課題として改革に取り組んできている。経済改革については、急激な変化によるショックを避け、漸進主義的なアプローチをとっており、独立直後の急激な生産の落ち込みやインフレ等は回避できたが、同国の潜在力にかんがみれば経済成長は未だ低調である。今後、社会保障の確保に努めつつ、旧ソ連時代に老朽化したインフラのリハビリや市場経済化を担う人材育成、産業の多角化等を行っていくことが、経済社会開発上の中心的な課題である。
 インフラ整備については、経済活動の根幹を支える運輸、通信、エネルギー分野を始め、農業、上水、教育関連施設など、ニーズは多岐にわたる。
 運輸セクターについては、旧ソ連時代にはモスクワを中心としたネットワークが整備されてきたが、独立後、ロシア以外の周辺国との様々な交流に対するニーズの高まりを受け、既存インフラのリハビリとともに、新規インフラ整備を含むネットワークの再構築が求められている。

2-4.わが国の基本政策との関係

 わが国は、ウズベキスタンに対しては、(1)市場経済化の促進、(2)インフラの整備、(3)社会セクターの再構築を重点的に支援していく方針である。
 また、有償資金協力では、これまで運輸・通信インフラ整備への協力を中心として実施している。
 本案件は、上記のうち有償資金協力を重点的に実施してきた運輸インフラ整備に該当する。
 なお、インフラ整備については、産業活性化の観点から緊急性の高い既存インフラ修復に重点を置きつつ、経済開発を図る上で重要な経済的・技術的に妥当性の高い新規インフラ整備についても協力を検討することとしている。

2-5.ウズベキスタンに対して有償資金協力を実施する理由

 ウズベキスタンは、中央アジア諸国中最大の人口を有し、歴史的にも経済的にも中央アジア諸国の中で重要な地位を占める国であり、同国が安定的に発展することは中央アジア地域全体の平和と安定にとってきわめて重要である。特に同国周辺には、タジキスタン、アフガニスタンという内戦のあった不安定な地域があり、これらの諸国には多数のウズベキスタン人が居住している。周辺諸国に影響力を有する同国の情勢の安定は中央アジアの安全保障の観点からも極めて重要である。
 ウズベキスタンの独立以降各種の改革については、上述のとおり一定の成果を挙げている。今回の我が国からの支援は、同国のこうした努力を評価し、更に一層の経済改革を推進する努力を促す上で意義あるものと考えられる。
 ウズベキスタンの鉄道網は旧ソ連時代に建設されたものであり、同国の各地方を結ぶ基幹路線のいくつかの路線は隣国を経由している。今回の円借款の対象分については、現在トルクメニスタン領(Talimarjan - Kelif区間)を経由している路線が国境通過や機関車付替え等のために地域の鉄道輸送にとり障害となっている。
 ウズベキスタンは、同国から外海へ出るためには2つ以上の国境を通らなければならないため外海へ出ることが悲願となっており、南への出口の開拓を優先課題として取り組んできている。
 本案件については、より効果的・効率的な円借款の実施を目指し、わが国が有する優れた技術・ノウハウを活用し、途上国への技術移転を通じて「顔の見える援助」を推進するとの観点で、2002年7月から導入されている本邦技術活用条件(STEP)を適用する。なお、本案件は、STEPの対象分野である橋梁に該当する。
 2002年7月以降、カリモフ大統領、複数の副首相、外相はじめウズベキスタン政府要人から累次に亘り本案件を最優先案件として要請が行われていることから、本案件を実施することはわが国の対ウズベキスタン外交上極めて重要であると考えられる。  
3.案件概要

3-1.目的(アウトプット)

 本案件は、ウズベキスタン南部のカシカダリア州タシグザールとスルハンダリア州クムクルガンを結ぶ鉄道新線(222km)を建設し、あわせて既存区間のリハビリ(31km)を行うことにより、同国南部とその他をつなぐ鉄道路線の輸送コストの低減や、輸送時間及び国境通過時の税関手続や機関車付け替えに要する時間の短縮を図るもの。

3-2.実施内容

 供与限度額:163億5,900万円
 (円借款を供与する対象は、軌道(新設区間222km、既設区間リハビリ31km)、橋梁5橋、信号・通信設備、建設機械調達(タンパー、四輪駆動車)の各部分)
〔供与条件〕
 本案件については、本邦技術活用条件(STEP)を適用。
 金  利:年0.40%
 償還(据置)期間:40(10)年
 調達条件:日本タイド
〔実施機関〕
 ウズベキスタン鉄道(Uzbekistan Temir Yullari)

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

(1) 環境社会配慮
 現時点において、合計で1,246haの用地取得(約1/3は取得済み)と52世帯の住民移転が必要となる見込みであるが、移転住民等の関係者に対し、本案件の実施並びに用地取得計画および住民移転計画について説明済であり、事業実施に当たって支障となるような反対をしている者がいない旨確認済。
(2) 外部要因リスク
 山岳地帯を通る路線であるため、自然災害に対応できる適切な保守体制が整備される必要がある。また、近隣諸国との間の輸送需要にも対応する事業であることから、近隣諸国の政治経済情勢により、将来の輸送量が影響を受ける可能性がある。


3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)

 ウズベキスタン南部における鉄道路線は、現在隣国トルクメニスタンを経由しているが、本件鉄道路線は、トルクメニスタンを経由することなく、ウズベキスタン国内において同国南部の鉄道輸送を可能にする新規路線である。本案件の実施により、ウズベキスタンおよび近隣諸国の周辺諸国からの物資輸送の効率化が見込まれ、同国における物資の流通が促進されると同時に輸送の信頼性が向上する。
 ウズベキスタンでは鉱業が基幹産業となっており、本件鉄道敷設予定区域付近の同国南部地域では、金、鉄鉱石等の鉱物資源の今後の開発が見込まれるところ、本案件の実施により、同国南部の地域開発、地域住民の生活水準の向上、ひいては同国の安定的発展の確保を通じてわが国をとりまく国際環境の安定化および同国との関係緊密化に貢献することが期待される。
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用

 要請書、F/S、国際協力銀行より提出された資料等


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