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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成16年4月9日
評価責任者:有償資金協力課長 石兼公博


1.案件名

1-1.供与国名
 タイ王国

1-2.案件名
 第二バンコク国際空港建設事業(VI)
2.有償資金協力の必要性

2-1.二国間関係

(1) 緊密で友好協力的な二国間関係
 タイとの間では伝統的に政治・経済・文化等の各分野において緊密な友好協力関係が維持されてきている。特に民間経済交流は極めて深く、タイにとって日本は第2の輸出先(2002年のタイの輸出の14.5%、なお、第1位は米国)かつ最大の輸入相手国(2002年のタイの輸入の23.0%)であり、輸出入を合わせた貿易額では最大の相手国(2002年のタイの貿易額の18.6%)である(Bank of Thailand, 「Economic and Financial Statistics 2003」)。
 また、投資においても、在バンコクの日本人商工会議所の加盟企業数は1100社を超え、日本の対タイ直接投資は対タイ外国直接投資総額の約40%を占める。また、タイは対外民間債務の約半分を邦銀から借り入れるなど、両国の経済は緊密な相互依存関係を形成している。さらに、昨年の日・ASEAN特別首脳会議に際して行われた首脳会議においては、今年の早期に経済連携協定交渉を立ち上げるとの共同発表がなされ、今後も両国間の経済関係は更に深化することが期待される。
(2) タイの戦略的重要性
 タイは、人口約6000万人、GDP1146億ドル、1人当たりGDP1880ドルであり、ASEAN諸国中第2位の経済規模を誇る地域の経済大国である(世銀「World Development Indicators」)。
 政治的にも、タイは、80年代以降、国内の政治的安定性を背景にASEAN内でイニシアティブを発揮しており、特に、近隣諸国との格差是正という観点から、経済協力戦略(ECS:Economic Cooperation Strategy)に積極的に取り組んでおり、わが国の重視するメコン地域開発と協調・連携していくことが期待されている。また、アジア諸国の潜在力を引き出し、域内の競争力を強化することにより、アジアの発言力を高めていくとの観点から、アジア協力対話(ACD:Asia Cooperation Dialogue)を推進しており、2002年6月に続き、2003年6月にもタイにおいて第二回会合が開催された。さらに、2003年にはAPEC議長国として首脳会合を成功裡に主催した。
 このようにタイは東南アジア地域において大きな政治的・経済的影響力を有するとともに国際社会においても一定の役割を果たしてきており、今後共通の課題に「パートナー」として取り組む上でも、わが国の対東南アジア外交にとって極めて重要な国となっている。

2-2.対象国の経済状況

(1) 経済成長に伴う「歪み」の是正
(イ) タイ経済はここ30年の間に大きく成長を遂げた。1人当たりの平均年所得は61年に2100バーツであったのが、96年には77,000バーツと約37倍以上となり、現在の1人当たりのGDPは1880ドルとASEAN諸国の中ではシンガポール、ブルネイ、マレーシアに次ぐ水準に達している。
(ロ) 97年の経済危機克服のためタイ政府は経済政策の重点を景気対策におき、3回(98年8月、99年3月、99年8月)にわたり、減税、雇用創出、公共投資、中小企業支援等を内容とする追加予算を含む総合経済対策を打ち出してきた。その結果、97年には-1.8%、98年には-10.2%と大幅に縮小していたGDP成長率は、99年、2000年には年4%台のプラス成長を達成した。
(ハ) 米国経済の減速、米国テロ事件の影響、日本経済の先行き不透明感、金融セクター再建の遅れ等から経済成長は鈍化し、2001年の経済成長率は1.8%となったが、タクシン政権のボトムアップ政策の奏功と見られる個人消費の活性化等により経済の回復傾向が見られ、2002年には5.2%の成長を記録した。2003年は一時SARSの影響があり、経済成長が観光業等を中心に鈍化したが、現在ではその影響から脱却し、6%台の成長が見込まれている。
(ニ) 一方、成長に伴い、所得格差・地域間格差の拡大や都市・環境問題の深刻化といった問題も生じている。このような成長に伴う「歪み」の問題はタイ国内で強く認識されるようになっており、第9次国家経済社会開発計画(02年~06年)においても、プーミポン国王の提唱する「足るを知る経済」を基本哲学として採用し、貧困削減、所得分配が経済回復の加速化とともに重点分野としてあげられている。さらに、タクシン政権は低所得層・農民を支援する農民債務モラトリアム、農村基金、一村一品運動等の政策を実施に移してきている。
(2) タイの債務返済能力
 2001年のタイの中長期公的債務残高は約264億ドル(対前年比約30億ドル減)であり、国民所得に対する債務残高の比率は、98年の151%から2001年には84.2%まで低下した。一方、2001年に元本の償還を自主的に進めたことから債務返済比率(DSR)は2000年の16.3%から2001年には25.1%に上昇しているが、この結果、タイの対外債務残高は大きく減少することになった(世銀「Global Development Finance」)。
 また、タイにおいては、対外借入計画が毎年度閣議決定され(2004年度の対外借入上限は9億ドル)、同計画に基づいた厳格な債務管理が行われている。これは、財政状況、開発上の必要性、プロジェクトの準備状況を勘案し、中長期のDSRを一定範囲内にするべく毎年の借入限度額を設定しているものである。また、過去においてタイが円借款の返済について繰延、延滞等の問題を起こしたことはない。したがって、タイは十分な債務管理能力を有していると考えられる。


2-3.対象国の開発ニーズ

 タイは、堅調な経済成長を背景に、これまでの経済インフラ基盤の拡張整備・高度化を図りつつあるとともに、次第に地域における経済・社会開発の機関車的役割を担いつつある。加えて、援助ニーズも従来のベーシックヒューマンニーズ(BHN)的なものから次第に高度なソフト的分野や地域協力・南南協力の重視等に移行しつつあり、経済・技術協力の実施に際しては共同で業務に取り組もうとするパートナーシップが強調されるに至っている。なかでも、2003年11月にタクシン首相によって提唱された地域開発戦略(ECS)は、タイと直接国境を接するカンボジア、ラオス、ミャンマーとの経済格差の是正を主要な目標としており、その中では、運輸インフラの整備、人と物の移動の自由化を積極的に図ること等が重要な開発課題とされている。

2-4.わが国の基本政策との関係

 対タイ国別援助計画では、5分野((1)社会セクター、(2)環境保全、(3)地方・農村開発、(4)経済基盤整備、(5)地域協力支援)を重点分野として位置付け、さらに、各分野における人材育成を強化していくこととしている。「第2バンコク国際空港建設計画(VI)」は上記の経済基盤整備に資するものである。また、新空港はメコン地域の国際ハブ空港として機能することが想定されるところ、本件はメコン地域開発として地域協力支援にも資するものである。

2-5.タイに対して有償資金協力を実施する理由

(1) タイ経済の回復傾向及び好調さを確実なものとするため中・長期的な支援を行っていく必要がある。そのためには、成長に伴う歪みや成長の阻害要因の解消のためのタイ側の自助努力を支援していくことが適切であり、経済基盤整備等に有償資金協力を活用していくことが重要である。
(2) 近年のタイの経済発展を反映して、バンコクの航空需要は増加傾向にある(年間旅客数(2002年):3200万人、前年比5.1%増)。今後も、東南アジアにおける国際ハブ空港としての役割の増大から旅客数の増加が予想されており、タイ空港公社(AOT)は2010年の旅客数は5000万人を超えると予測している。
(3) 本事業は、増大するタイの航空需要を満たし円滑な輸送を確保するために、バンコク地区に新空港を建設するものである。空港セクターのインフラ整備は通貨危機後も第9次国家経済社会開発計画(2002-2006年)の中で「国家の競争力強化に対する戦略」の一つとして位置付けられており、本事業はタイの中長期的な開発に資するものである。
 
3.案件概要

3-1.目的(アウトプット)

 バンコク都心部から東方約30kmに位置するノングーハオ(サムットプラカン県)に、第2バンコク国際空港を建設する事業。

3-2.実施内容

 供与限度額:448億5200万円
 金   利:年1.05%
 償還期間(据置期間):20(6)年
 調達条件:一般アンタイド
 借入人:新バンコク国際空港公社(タイ王国政府保証)
 実施機関:新バンコク国際空港公社

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

 環境に対する影響は特段の問題なし。タイの航空需要の伸び悩み、同等の空港が周辺国に新たに建設されるおそれ等の外部要因リスクが考えられるが、現時点においてこれらの問題は認められない。

3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)

 空港セクターのインフラ整備を行うことで増大する航空需要を満たし、円滑な輸送の確保がなされ、タイの中長期的な経済発展に貢献する。また、本事業への協力を通じ、日・タイ間の経済関係が強化され、二国間関係が増進されることとなる。
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用

 要請書、国際協力銀行から提出された資料等


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