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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成17年 3月29日
評価責任者:有償資金協力課長 相星孝一


1.案件名等

1-1.供与国名
 ルーマニア

1-2.案件名
 「トゥルチェニ火力発電所環境対策計画」
2.有償資金協力の必要性

2-1.二国間関係等

 わが国との関係は従来良好であり、2002年、両国は交流百周年を迎え、イリエスク大統領来日時に小泉首相との間で両国間の「友好、協力、パートナーシップに関する共同声明」が署名され、21世紀の新しい両国関係の基礎が確立した。
 わが国は1991年からルーマニアの民主化及び市場経済への移行に対する経済協力を実施しており、わが国の対ルーマニア経済援助額は、独、米に次ぐ規模である。一般無償卒業国であるルーマニアにとって、わが国の有償資金協力は同国におけるインフラ整備の有効な手段の一つとなっており、同国の経済社会開発に資するとともに、日・ルーマニア両国の経済関係の強化にも貢献している。
 現在、ルーマニア外交の最大の重点は2007年を目標としたEU加盟であり、わが国も同国のEU加盟を長年にわたり支持してきている。また、ルーマニアは、欧州の不安定地域であり国際社会も注目するバルカンにおける安定勢力であるため、南東欧地域の中でも重要な地位を占めている。こうした状況にかんがみ、ルーマニアへの経済協力は、同国の市場経済化・民主化に資する支援であるほか、バルカン地域の安定に資すること、EU加盟に対する側面支援を通じた欧州地域におけるわが国のプレゼンスの維持に貢献すること等を念頭に実施する必要がある。

2-2.対象国の経済状況

(1) 所得水準(一人当たりGNI)は、2,310ドル(2003年:世銀)であり、ルーマニアは円借款供与対象国の中所得開発途上国に位置付けられる。
(2) 経済成長率は、実質的な市場主義経済体制への移行を始めた1997年からマイナス成長となったが、2000年以降プラス成長を続け、2002年は4.9%、2003年も4.7%の経済成長を果たした。
(3) 物価上昇率は2000年に40.7%、2001年に30.3%という高い状況から、2002年に17.8%、2003年には14.0%へと低下した。
(4) 2004年7月、IMFとの間で新規スタンドバイアレンジメント(24ヶ月、約3億6,700万ドル)の合意に至った。但し、現状の比較的好調な経済状況に鑑み、同プログラムからの資金引出しは行われず、予防的アレンジメントとされている。
(5) 長期対外債務はGDP比30%以下にとどまっており、債務返済比率については、2002年で20.2%、2003年で18.5%と安定している。こうしたことから、債務負担能力に大きな問題はない。


2-3.対象国の開発ニーズ

 ルーマニアは、1989年の革命以降、政治体制の民主化及び経済体制の市場経済化を目標に様々な経済・社会改革を進めてきており、現在2007年を目標とするEU加盟を最大の政治懸案事項として国内体制の整備に努めている。このために、市場経済化を進めるための社会・経済インフラの整備等欧州諸国内における立ち後れを取り戻すことが最重要事項となっている。
 特にEU加盟交渉において、国内法制をアキ・コミュノテール(欧州共同体法の集大成)に適合させることが求められているが、中でもルーマニアでは急速な市場経済化を進める中で環境への対応が遅れており、アキ交渉が最も難航しているため、社会主義時代の老朽化したインフラのリハビリによる環境対策面での開発ニーズは依然として高い。

2-4.わが国の基本政策との関係

 わが国は、ODA中期政策において中・東欧地域に対する支援の重点分野を「市場経済移行、環境保全対策及びインフラ復旧・開発への支援」としているが、特にルーマニアに対しては、今後、(1)市場経済化のための産業振興、貿易・投資促進支援、(2)環境保全の2分野を重点分野として協力を実施する方針であり、現地政策協議を通じて先方に伝達済である。本案件はルーマニアの二酸化硫黄(SO2)排出基準を達成し、環境保全に資するものであり、上記の重点分野と合致するものである。

2-5.有償資金協力を実施する理由

 ルーマニアは、EU加盟に向け、環境政策についてもEU基準に準拠した排出基準を採用しつつあるが、2003年5月の閣議決定により、既存の火力発電所については2012年1月1日までに基準値を満たさなければ、操業を停止しなければならないこととされた。
 トゥルチェニ火力発電所は、現在の同国内の全発電設備容量(17,358MW)の約11%を占めるルーマニア最大の石炭火力発電所であり、電力の安定供給に欠かせない重要な発電所である。本案件は、2010年中の完成が見込まれており、2007年のEU加盟に向けた排出基準の達成目標に関する上記閣議決定を考慮すると、同排出基準に適合するために必要な計画であるとともに緊急性は極めて高い。  
3.案件概要

3-1.目的(アウトプット)

 本案件は、ルーマニア最大の石炭火力発電所であるトゥルチェニ火力発電所に新たに排煙脱硫装置等を設置し、EU基準に準拠したルーマニアのSO2排出基準に適合するためのものである。本事業によりSO2の排出濃度が現在3,230~4,764mg/ノルマル立方メートルから排出基準に適合する400mg/ノルマル立方メートル以下に低減する。なお、同発電所には現在7基の発電設備があるが、順次リハビリを行っており、リハビリ計画完了後は出力330MW×4基で操業する予定である。

3-2.実施内容

 供与限度額:287億4,600万円
 金利:年0.75%
 償還(据置)期間:40(10)年
 調達条件:一般アンタイド
 実施機関:トゥルチェニコンプレックス

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

(1) 環境社会配慮
 用地取得・住民移転は不要である。
(2) 外部要因リスク
 電力需要動向等


3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)

 本案件を実施することにより、トゥルチェニ火力発電所がSO2排出基準を達成することができ、基準達成期限後も操業可能となることで、環境政策及びエネルギー政策の両面でルーマニアの発展に寄与し、大気汚染の緩和とともに、電力の安定供給に貢献する。これにより、ルーマニアとの二国間関係の緊密化に加え、環境問題への国際協力の好例とする等、外交政策上大きな効果を得ることを目指す。
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用

 要請書、F/S、国際協力銀行より提出された資料等


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