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政策評価法に基づく事前評価書

評価年月日:平成17年3月29日
評価責任者:有償資金協力課長 相星 孝一


1.案件名

1-1.供与国名
 インドネシア共和国

1-2.案件名
 「メラピ山・プロゴ川流域及びバワカラエン山緊急防災計画」
2.有償資金協力の必要性

2-1.二国間関係等

 インドネシアはわが国にとって政治的、経済的、地理的に極めて重要性が高い。わが国の外交手段の1つであるODAを活用し、同国の安定・発展を支援するとともに、強固な両国関係を構築することは、わが国にとって極めて有意義であり、わが国は同国をODAの最重点供与国の1つと位置付けている。

(1) 東南アジアにおける重要性
 わが国の平和と繁栄にとって東南アジア諸国連合(ASEAN)を含む東アジアの政治的安定と経済的発展は不可欠である。インドネシアは、ASEANの中で国土・人口・資源の全てにおいて最大規模の国であり、ASEANの中核国の1つとして東南アジアの安定と発展のために重要な役割を担う国である。また、同国はわが国の対東南アジア外交上も極めて重要なパートナーの1つである。
(2) 経済関係
 インドネシアは、貿易・投資等の面でわが国と密接な相互依存関係を有している。貿易の面では、わが国にとってインドネシアは輸入額では第4位、輸出額では第15位の貿易相手国である(2002年経済産業省貿易動向データ)。特に同国は、わが国にとって石油、液化天然ガス、石炭等エネルギー資源の供給国であり、わが国のエネルギー安全保障の観点からも重要性が高い。一方、インドネシアにとってわが国は輸出入両面で最大の貿易相手国である。投資面では、1967年から2002年までの対インドネシア民間直接投資累積額では、わが国は全体の14.4%と第1位を占めている。これらの直接投資により設立された日系企業は約1,000社、投資額(承認ベース)約350億ドルに達する。
(3) 地理的重要性
 インドネシアは中東の石油、豪州の食料品等、わが国にとって極めて重要な輸入品を運ぶ重要な海上輸送路上に位置する。特に、わが国の石油輸入の8割以上がマラッカ海峡、ロンボック海峡、スンダ海峡を通過しており、海上交通の要衝である。


2-2.対象国の経済状況

(1) 所得水準(1人当たりGDP)は810ドル(2003年)。
(2) インドネシアは、1997年7月のアジア通貨危機によりASEAN及び韓国の中で最大の経済的影響を受け、1998年のGDP成長率は-13.1%という大幅なマイナス成長となった。しかし、2000年以降は好調な国内消費に支えられて3~4%台を堅調に推移し、2004年は5.13%に達した(速報値)。
(3) 財政面では、IMFプログラムに沿った経済構造改革を進め、2003年末のIMFプログラム卒業後は経済政策プログラム(EPP)を着実に実施し、財政赤字は2004年には-1.3%まで低下した。2005年予算では更に-0.8%まで削減するとしており、財政の健全化に向けた政府の積極的な取組みの姿勢が見られる。また、対外債務は1998年には対GDP比146%まで上昇したが、2003年末には70%台まで低下し、外貨準備高も363億米ドル(2003年末)まで上昇し、2004年以降償還期限を迎える公的対外債務を返済することが可能な水準となった。
(4) インドネシアにおける外国投資は、1997年には337.9億ドルであったが、通貨危機後の1998年には136.5億ドルに激減し、さらに治安の不安定性やガバナンスの確立の遅れなどから回復しておらず(2004年は102.8億ドル)、市場の信認の低迷等状況は依然として厳しい。インドネシアが深刻な失業問題や貧困削減などの課題を解決し、力強い経済発展を遂げるには、税制改革、通関・関税制度の改善、労働法制度の整備、インフラ整備など投資環境整備ともに、金融改革の推進、持続可能な財政の構築が極めて重要である。


2-3.対象国の開発ニーズ

(1) インドネシアには全世界の約20%にあたる約130の活火山がある。インドネシアの火山はジャワ島、バリ島などの人口密集地域に存在しているため、その火山活動により生ずる火砕流や土砂流等が与える周辺住民へ影響は極めて大きい。ジョグジャカルタの北北西に30㎞に位置するメラピ火山は1992年以降2-3年に1回の噴火を繰り返し、火砕流の危険性を増すとともに、大量の不安定土砂が追加的に堆積しており、土石流の発生可能性も高まっている。
(2) また、2004年3月、スラウェシ島南部に位置するバワカラエン山のカルデラ壁が大規模に崩壊した。現在カルデラ内外に堆積している崩壊土砂量は2-3億立法メートル と推定され、周辺地域のみならず、ジェネベラン川周辺やマカッサル市等への影響も危惧されている。
(3) インドネシア開発5ヵ年計画(2000年―2004年)に掲げられた開発課題のうちの1つである経済再建・持続的かつ公正な開発基盤の強化のためには、防災対策を行うことがきわめて重要である。


2-4.わが国の基本政策との関係

 2004年11月に策定された対インドネシア国別援助計画では、「民間主導の持続的な成長」、「民主的で公正な社会造り」、「平和と安定」のための支援の3分野を重点分野として、インドネシア政府の自助努力に対し、わが国としてもできる限りの支援を行っていくこととしている。本事業は、対インドネシア国別援助方針に定められた3つの重点分野のうち、「民主的で公正な社会造り」の基礎的公共サービスの向上の中に掲げられている頻発する洪水・土砂災害等の自然災害対策等の支援に該当する。

2-5.有償資金協力を実施する理由

(1) メラピ山及びプロゴ川流域:メラピ火山は土石流の発生可能性も高まるとともに、過剰な土砂採掘等により砂防施設や橋梁が転倒する危険性が増大している。ジョグジャカルタは人口約270万人を擁し、年間約550万人が訪れる観光地でもあり、同地域の経済発展を妨げる要因を排除するために、火山災害・土砂災害防止対策は不可欠である。
(2) バワカラエン山:バワカラエン山のカルデラ内外に大量に崩壊土砂量が堆積しており、降雨時の土石流により流域の農地の埋没や河川を横断する交通の障害となっている。また、降雨によって流出した土砂は、35km下流のビリビリ多目的ダムにも達しダムの湖水は茶褐色に変色している。ダムに流入する土砂がこのまま増加していくと、マカッサル市の上水、電力供給、マカッサル周辺地域への灌漑用水供給などの同ダムの機能を著しく低下させるおそれがあり、緊急に対策を講じる必要がある。
3.案件概要

3-1.目的(アウトプット)

(1) メラピ山及びプロゴ川流域:本事業はジョグジャカルタの北約30kmに位置するメラピ火山周辺の火山砂防対策、河床低下対策及び土砂採掘管理の改善等を実施し、メラピ山麓・プロゴ川下流部における土石流による住民被害の軽減、土砂採掘の適切な管理を図るもの。
(2) バワカラエン山:本事業は2004年3月に南スラウェシ州のバワカラエン山の大規模崩壊による土石流による住民被害の軽減、被災地域からの土砂流出の防止を図るため、砂防ダム建設、土砂浚渫、既存砂防ダムの修復工事等の土砂流出対策等を行うもの。


3-2.実施内容

 供与限度額:164億3,600万円
 金利:年1.3%
 償還期間(据置期間):30年(10年)
 調達条件:一般アンタイド
 借 入 人:インドネシア政府
 実施機関:公共事業省水資源総局

3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

(1) 環境社会配慮
(イ)メラピ山及びプロゴ川流域:環境影響評価(EIA)は不要。
(ロ)バワカラエン山:EIAは2004年10月に承認済み。住民移転は発生しない。
(2) 外部要因リスク
(イ)メラピ山及びプロゴ川流域:大規模噴火や予見されない地帯からの噴火。
(ロ)バワカラエン山:更なる大規模崩壊。


3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)

 メラピ山及びプロゴ川流域における持続的経済活動の維持及びバワカラエン山における被災地域からの土砂流出の防止並びにマカッサル市及びその周辺地域の持続的経済活動の維持への寄与。これらの案件の実施により、インドネシアの安定的発展を通じてわが国をとりまく国際環境の安定化及び同国との関係緊密化に貢献することが期待される。
4.事前評価に用いた資料、有識者の知見等

 要請書、F/S、国際協力銀行から提供された資料、年次協議結果等


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