評価年月日:平成17年3月29日
評価責任者:有償資金協力課長 相星 孝一
1.案件名等
1-1.供与国名
中華人民共和国
1-2.案件名
「湖南省長沙市水環境整備計画」
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2.有償資金協力の必要性
2-1.二国間関係等
わが国と中国は、地理的に隣接し、政治的、歴史的、文化的に密接な関係にあり、わが国にとって最も重要な二国間関係の一つである。経済関係も1972年の国交正常化以降着実に進展し、相互依存関係が一層発展している。2004年、中国にとってわが国はEU、米国に次いで第3位の貿易相手(EU:1773億ドル、対前年比33.6%増。米国:1696億ドル、34.3%増。日本:1679億ドル、26.7%増。出典:国家統計局発表。)であり、わが国にとって中国(香港を除く)は第2位の貿易相手(米国:20兆4795億円、中国:18兆1933億円(香港を含めると22兆2005億円に上り、日米を上回る。)。)である(ただし、輸入では第1位。出典:財務省発表貿易統計(速報)。)。2003年までのわが国の中国への直接投資累計額は、416.5億ドル(実行ベース)に達している(中国への対外直接投資全体に占めるシェアは8.3%、世界第3位。出典:商務部発表。)。
2-2.対象国の経済状況
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2004年、中国の一人当たり国内総生産(GDP)は約1,268ドル(出典:国家統計局発表のGDPを人口13億人で計算。対前年比16.3%増。)であり、低中所得国である(世銀統計によれば、2003年の中国の一人当たり国民総所得(GNI)は1,100ドル。)。急速な経済発展を遂げる沿海部と内陸部との格差は大きく、一人当たりGDPが最も高い上海(2003年46,718元。出典:中国統計年鑑2004)と最下位の貴州省(2003年3,603元。出典:中国統計年鑑2004)との格差は約13倍に達する。また、2004年の都市住民の平均可処分所得9,422元(7.7%増)に対し、農村住民の一人当たり平均現金収入は2,936元(6.8%増)にとどまっており(出典:国家統計局発表)、農村住民の現金収入の伸びは1997年以来の最も高い伸び率を記録したものの、都市部と農村部の格差は依然として顕著である。
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(2) |
1978年に始まった改革・開放政策は、1992年の鄧小平による「南巡講話」以降加速され、中国経済の「市場経済化路線」が定着し、2001年にはWTOへの加盟を実現している。その結果、経済成長の加速や貿易・対中投資の伸びがもたらされ、国民の生活水準の向上、対外経済関係の拡大が進みつつある。このような流れの中、2003年の中国経済は、一時期重症急性呼吸器症候群(SARS)による影響が懸念されたが、最終的には、実質成長率9.1%と高い水準を記録した(のちに9.3%に上方修正。出典:国家統計局発表(以下のデータも同様))。2004年のGDPは13兆6,515億元に達し、中国政府による引き締め政策の実施にもかかわらず、実質成長率は9.5%となり、1997年以降最も高い伸びを記録(2000年:8%、2001年:7.5%、2002年:8.3%、2003年:9.3%)した。投資(全社会固定資産投資総額)の伸び率は次第に鈍化したものの(第1四半期:43%、第2四半期:28.6%、第3四半期:27.7%)、2004年通年では昨年とほぼ同水準の高い水準(25.8%増)となった。また、対外経済は順調に推移し、2004年の貿易総額は初めて1兆ドルを突破(1兆1547億ドル、35.7%増)した。直接投資受入額も実行ベースで606億ドル(13.3%増。米に次いで第2位の投資受入れ国。)を達成する等依然堅調であり、投資が貿易を牽引するという好循環が維持されている。
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(3) |
他方、市場経済化の進展に伴う課題への対応も急務となっており、中国政府によって、三大改革(国有企業改革、金融体制改革、行政機構改革)を始めとする取組が積極的に進められている。さらに、長期的に社会的な不安定要因となり得る問題(例:地域間格差、雇用問題、農業問題、環境問題、社会保障体制の未整備)も顕在化しつつある。加えて、内陸部を中心とした貧困層・貧困地域への対策は依然として未解決の課題である。(2004年末、中国の国内基準(一人当たり年収668元以下)で見た農村部の貧困人口は2,610万人(出典:国家統計局発表)、世界銀行の基準(一人当たり一日1ドル以下)では約2億人)。2001年から開始された第10次5ヶ年計画においては、東部沿海地域と中西部内陸地域の経済格差を是正し、内陸部における貧困問題を解決するために、「西部大開発戦略」が最重要テーマとして位置付けられている。 |
(4) |
中国の外貨準備高は2004年末時点で6,099億ドル(前年末比51.3%増。出典:国家統計局発表)となり初めて6,000億ドルを突破、わが国(8,445億ドル)に次ぐ世界第2位。昨年比2,067億ドルの増加は、人民元レートの動向が注目を集め、海外からの資金が流入したことも影響したものと思われる。2003年の対外債務残高は1,936億ドル(DSR(債務返済比率)は6.9%。出典:中国統計年鑑2004。)、円借款の返済についても元利ともに期日どおり返済が行われており、中国の対外債務返済能力について問題となるような要素は見出せない。
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2-3.対象国の開発ニーズ
(1) |
2001年3月、2005年までを対象期間とした「国民経済と社会発展の第10次5ヶ年計画綱要」が報告・採択された。同計画は、今後5年間の中国の国民経済と社会発展のあり方について、成長、構造調整、改革・開放、科学技術の発展、国民の生活水準の向上、経済と社会の協調的発展などを主題に課題を述べ、それぞれについて達成目標(例:経済成長率年平均7%など)を掲げている。また、2002年11月の第16回党大会においては、「2020年のGDPを2000年の4倍増、一人当たりのGDPを3000ドルとする」との目標が提示された。同目標を達成するためには、今後も平均7%を超す成長率の維持が必要。2003年10月の第16期三中全会以降、胡錦濤指導部は、経済成長のみを追求せず、科学的な観点から社会全体の持続的な均衡発展を目指す「科学的発展観」を提起しており、本年3月の全人代政府活動報告では「科学的発展観」に基づく「調和のとれた社会」の実現が唱われた。
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(2) |
上記2-2.(3)で述べたとおり、市場経済化の進展に伴う課題や長期的に社会的な不安定要因となりうる問題等も顕在化しており、第10次5ヶ年計画などを踏まえた中国における社会・経済分野における開発上の主要課題は以下のとおり。
(a)市場経済システムの形成と成長の持続
(b)持続可能な発展の実現
(c)地域間格差の是正
(d)教育振興と人材育成
(e)雇用・社会保障制度の拡充
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2-4.わが国の基本政策との関係
(1) |
対中国経済協力計画との関係
2001年に策定された対中国経済協力計画は、以下の分野を重点分野としている。
(a)環境問題など地球的規模の問題に対処するための協力
(b)改革・開放支援
(c)相互理解の増進
(d)貧困克服のための支援
(e)民間活動への支援
(f)多国間協力の推進 |
(2) |
対中国円借款の重点分野
上記(1)を受けて、2004年度の対中国円借款では以下の分野を重点分野としている。
(a)環境保全等地球的規模の問題に対処するための協力
水質汚濁防止、大気汚染防止、植林など環境保全への協力は、わが国にも影響を与え得る負の影響(海洋汚染、酸性雨、黄砂等)を抑える点で有益である。
(b)人材育成
市場ルールに関する分野及び環境問題等に対処するための人材育成は、わが国企業の投資環境整備やわが国にも影響を与え得る環境問題の解決に資する。
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2-5.中国に対して有償資金協力を実施する理由
(1) |
わが国の対中国円借款は、1970年代末、中国が改革開放政策に転換し、わが国に対して経済支援の協力を要請してきたことに対し、中国の改革開放政策支持の一環として実施されてきたものである。以来、対中円借款による経済インフラ整備等を通じた中国の安定的発展は、投資環境の改善を通じ日中の民間経済関係の発展に大きく寄与したのみならず、わが国を含むアジア太平洋地域の安定と発展にも貢献してきた。 |
(2) |
近年、中国は経済的に目覚ましく成長しているが、様々な開発課題を抱える開発途上国としての側面も有し、依然として深刻な貧困や格差の問題に対する中国自身の自助努力において、なお不足の部分が存在する。また、隣国であるわが国にも直接影響を及ぼしうる環境問題などの深刻な問題を抱えている。中国が直面するこのような問題を解決し、中国が更に開かれ、安定した社会となり、国際社会の一員としての責任を一層果たしていくよう引き続き支援していくことは、ODA大綱に掲げるODAの目的「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じてわが国の安全と繁栄の確保に資すること」に適うものである。 |
(3) |
以上を踏まえ、今年度の案件については環境問題や人材育成といった相互にとって利益となる分野への絞り込みを行っている。すなわち、その実施が中国の経済社会開発に役立つと同時に、日本国民も利益を実感できる案件、実施を通じて日中間の人的交流が促進されるような案件を積み上げることとしている。
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(4) |
なお、中国の経済発展が進む中で、中国自身の資金調達能力が大幅に増大してきていることに伴い、円借款を中心とする大規模資金協力の必要性は、以前に比し相対的に低下してきていることから、北京オリンピック前までに円借款の新規供与を終了する方向で、日中両国はすでに協議を行っている。
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3.案件概要
3-1.目的(アウトプット)
湖南省長沙市において下水処理施設の整備を行い、市内河川の水質汚染改善を図るとともに、安全な水源を新たに開発し上水供給能力を増強させ、同市内を流れる湘江のみからの取水に頼る状況を解消させることにより、汚染が著しい湘江の水質を改善させ、同市の総合的な水環境を改善する。
3-2.実施内容
供与限度額:199.64億円
供与条件(1)下水、研修部分
金利:年0.75%(優先条件)
償還期間(据置期間):40(10)年
調達条件:一般アンタイド
(2)上水部分
金利:年1.5%(一般条件)
償還期間(据置期間):30(10)年
調達条件:一般アンタイド
借入人:中華人民共和国政府
実施機関:湖南省長沙市人民政府
3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
中国側が内貨で実施する部分の進展状況、天候不順による工事の遅延といった外部要因が考えられる。
3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム)
湖南省長沙市における下水処理率の向上、湘江等市内河川の水質汚濁改善。
新たな水源開発による安全な飲用水の確保、水に由来する感染症、伝染病の防止、上水道普及率の向上。
長沙市住民の衛生・生活環境の改善。
福岡市、鹿児島市との自治体間協力を通じた二国間相互理解の増進。日中間の人的交流の促進。 |
4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用
要請書、国際協力銀行から提出された資料等
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