1.案件名等 1-1.供与国名 アルメニア共和国 1-2.案件名 「エレバン・コジェネレーション火力複合発電所建設計画」 | ||||
2.有償資金協力の必要性
2-1.二国間関係等 アルメニアは、欧州と中央アジアを結ぶ回廊地帯に位置し、かつ露、イスラム諸国と隣接するコーカサス諸国の一か国として、米・露のみならず、わが国にとっても安全保障及びエネルギー戦略上の要衝である。 コーカサス地域は、複雑な民族構成を背景として、チェチェン、ナゴルノ・カラバフ問題等多くの不安定要因を抱えている。とりわけ、アルメニアとアゼルバイジャンとの間の民族紛争であるナゴルノ・カラバフ問題は、アルメニアにとって最大の懸案であり、1994年に停戦合意が成立し、合意は遵守されているが、最終和平に向けた交渉は決着しておらず、約34万5千人のアルメニア人避難民が発生している。この問題によりアルメニアの国情が更に不安定化することは、コーカサス地域の不安定化につながり、ひいては国際社会全体にも波及する可能性があるため、アルメニアに支援を行いコーカサス地域の安定化に貢献することは、わが国のみならず、国際社会全体にとって意義がある。 わが国は米、独とともにアルメニアに対する主要な支援国の一つである。アルメニアは、わが国からの今後の経済援助、投資に対しても大きな期待を有している。 わが国はコーカサス地域に対し、対「シルクロード地域」外交を標榜し、(イ)信頼と相互理解の強化のための政治対話、(ロ)繁栄に資するための経済協力と資源開発協力、(ハ)核不拡散や民主化、安定化による平和のための協力、という3つの方向性を柱に、積極的な外交を展開しており、アルメニアへの協力・支援強化は、かかる我が国外交政策の具現化という意義を持つ。 アルメニアはソ連崩壊後独立した。アルメニアは極めて親日的な国で、日本語教育、日本研究は大変活発である。アルメニアはわが国との関係を重視する姿勢を一貫しており、2001年12月にはコチャリャン大統領がアルメニアの元首として初めて我が国を訪問し、その際に両国間の友好とパートナーシップに関する共同声明が発出されている。また、最近では、2004年3月にマルカリアン外務次官が来日した際、外務省との間で次官級協議を実施し、今後ハイレベルでの対話を含め様々な分野において両国関係を深化させることで一致している。 こうしたことから、二国間関係は様々な分野で発展している。 2-2.対象国の経済状況 所得水準(一人当たりGNI)は、790ドル(2002年:世銀)であり、アルメニアは円借款供与対象国の低所得開発途上国(Lower - Middle - Income Countries)に位置付けられる。 アルメニアの経済については、ナゴルノ・カラバフ紛争の停戦合意後、政情の安定化に伴い、国際機関やドナー諸国による経済協力が活発化したこと等により、1994年以降経済成長に転じた。アルメニアは独立当初の早い段階から価格の自由化や国営企業の民営化等の改革を進め、CIS諸国の中で最も民営化の進んだ国としてドナー諸国から高く評価されている。 経済成長率は、2001年9.6%、2002年12.9%、2003年13.9%と高成長を記録しており、今後も継続的な成長を見込んでいる。 債務返済比率(DSR)は、2000年8.2%、2001年8.4%、2002年8.8%と安定している。外貨準備高は、2003年には輸入の4.8ヶ月分であった。こうしたことから、債務負担能力に大きな問題はない。 2-3.対象国の開発ニーズ アルメニア政府は、中期支出計画(2004~2006年)の公共投資計画の中で、エネルギーセクターを重点分野の一つとしており、発電所のリハビリ、送配電網の整備に加え、世銀の主導の下、電力セクターの民営化に取り組んでいる。アルメニア政府の電源開発計画(2003~2007年)においては、本案件が緊急性の高い事業として位置付けられている。 2003年に策定されたアルメニアの貧困削減戦略ペーパー(PRSP)では、送配電部門のリハビリ、エネルギー部門の財務健全化、電源開発等が必要である旨記述されている。アルメニアは、PRSPに沿った形で中期支出計画(2004~2006年)、電源開発計画(2003~2007年)等を策定し、エネルギーセクター開発を実施している。 2-4.わが国の基本政策との関係 アルメニアはソ連崩壊後誕生した新たな自由主義国家であり、また、同国の積極的な民主化、市場経済導入の動きはODA大綱の観点からも望ましいものである。わが国は、この考えに基づき、人材不足や経済インフラの老朽化、環境悪化等の問題に効果的に対処し、経済的な困難を克服して国づくりを行えるよう、積極的に支援を行う方針である。 わが国は、1996年7月にアルメニアとの政策協議を行い、その際、同国の開発重点分野が、経済構造の基礎固め、エネルギーセクター、運輸インフラの整備、灌漑・給水システムの改善、社会セクター(保険、医療、失業者・貧困対策)であることを確認している。また、2004年7月には円借款協議を行い、エネルギーセクター支援の重要性を確認している。 また、わが国は2003年8月に新ODA大綱を策定し、援助実施の原則として援助の戦略性、効率性をより高めていくことが求められるようになっており、有償資金協力の実施に際しては、技術協力等の各スキームを組み合わせ、より一層系統だった支援を行う必要がある。 わが国は、アルメニアに対する有償資金協力については、同国の経済状況、治安状況、要請案件の内容等を勘案しつつ、国際収支改善に資する運輸・通信インフラ・エネルギー分野を重点的に、優良なプロジェクト案件を中心に実施していくこととしており、これまでエネルギーセクターへの協力を実施している。 本案件は、上記基本政策に合致するものである。 2-5.アルメニアに対して有償資金協力を実施する理由 アルメニアの発電所の多くは操業開始後30年が経過しており、老朽化の進行に伴い、電力供給能力及び設備の信頼性が著しく低下している。現在のピーク電力需要は1,177メガワット(MW)であるが、近年、アルメニア経済が好調であるため、2008年のピーク需要が1,350MWに達する見込みであり、現在の電力供給能力の1,266MWを大きく上回る深刻な電力不足が懸念されている。 また、旧ソ連型原発の運転が再開されたが、その安全性が問題視されている(同原発の電力供給量は、同国消費量の約4割を占めている)。 こうした状況にかんがみ、アルメニア政府は、電力部門の国家開発計画(2003~2007年)において、最大需要地に近く、かつ、建設期間が比較的短いエレバン・コジェネレーション火力複合発電所の新設を緊急性の高い事業と位置付け、2003年2月、我が国に対し本案件への円借款供与を要請した。アルメニア政府は本案件を最優先案件として位置付けており、本案件に対し有償資金協力を実施する意義が認められる。 |
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3.案件概要
3-1.目的(アウトプット) アルメニアの首都エレバン市近郊にコジェネレーション火力複合発電所(発電量205MW、熱供給量103ギガ・カロリー/時)を新設し、アルメニアの電力供給能力の増大及びエレバン市南部への熱エネルギーの供給を行うもの。 3-2.実施内容 供与限度額:159億1,800万円 (円借款を供与する対象は、コジェネレーション火力複合発電所の新設、既存施設の改修の各部分) 金利:年0.75%(優先条件) 償還(据置)期間:40(10)年 調達条件:一般アンタイド 実施機関:エレバン火力発電公社(Yerevan Thermal Power Plant CJSC) 3-3.環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
3-4.有償資金協力の成果の目標(アウトカム) アルメニアにおいて予見される深刻な電力不足を緩和し、同国における安定的な電力供給を通じ同国経済の持続的成長を促進するとともに、首都エレバン市南部の産業地域や一般市民の地域暖房設備への熱供給を行う。 また、天然ガスを効率的に使用することで、地球温暖化の原因となる二酸化炭素、大気汚染物質である窒素、硫黄酸化物の排出量を抑制しつつ単位燃料あたりの発電電力量を増加することが可能となる。 本案件の実施により、経済成長に伴う同国国民の生活水準向上、ひいては、同国の安定的発展を通じてわが国をとりまく国際環境の安定化及び同国との関係緊密化に貢献することが期待される。 |
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4.事前評価に用いた資料等及び有識者の知見の活用
要請書、F/S、国際協力銀行より提出された資料等 |